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賢者を求めて−2

 今の肉体でも人間界の魔獣はどうにかなるだろう。

 シュヴェリアの予想通り、それは間違いなかった。人の肉体となったとしても魔王アトライアスは人間界の魔獣程度には引けを取ることはない。

 しかし、相手が悪魔となれば話は変わって来る。相手によっては手も足も出ないだろう。

 今回の相手も決して弱い相手ではなかった。しかし、仲間と連携することでどうにか相手が出来るレベルだと判断した。そして、それは間違ってはいなかった。事実、いい線までいっていたのだ。だが――

「はぁ、はぁ……シュヴェリア様」

「なんだ?」

 息を整えながらシュヴェリアはステラの言葉に答える。数ある石柱――石となった人間――の影からはクレハの荒い息遣いが聞こえてくる。

「これ、いつまで続くんですか?」

 戦闘開始から数時間、ステラの前にはいまだに――

「ぐるぉぉぉ」

 ゴーゴンが健在だった。

「……だいぶダメージを与えたはずなんだがな」

 シュヴェリアは攻撃を避けながらステラの問いに答えを返した。

「ぐるぉぉ」ゴーゴンは一向に怯む気配もなく攻撃を繰り出して来る。

ステラとクレハが疲れた身体に鞭を打って動くのが見えた。

(まずいな、流石にそろそろ限界か)

 敵の攻撃をよけ、一撃を入れながらシュヴェリアは状況を確認する。

 攻撃は入っている。回復している気配はない。なのになぜか倒れない。これはどういうことか。

相手との実力差も考慮した上で倒せると判断したのだがそれが間違っていたのか。

 どうもそうではない気がする。この個体どうにもおかしな点が多い。

 自我がなく短調な攻撃ばかりしてくる割には強いのだ。そもそも自我が無い状態なのも妙だ。暴走状態という訳でもない。ならば、一体どういう状態なのか

 敵の攻撃を切り払いながら様子を伺っているが未だに答えが見えないでいた。

(アクティムを使うか? しかし――)

 背中に手を伸ばしそうになりながら敵との距離を測る。

 魔装アクティムを使うのは最後の手段だ。魔王の代名詞ともいえる装備品をめったやたらと使う訳にはいかない。

 ゴーゴンの視線光を無効化しながら突き進むシュヴェリア。

「紅蓮!!」

 振りかぶったシュヴェリアの一撃はゴーゴンに直撃する。

 爆炎が舞、辺りを包んだ。

「今なら――行ける!!」

 ゴーゴンの視界が遮られたのを見てステラが駆けだした。

 ステラの槍が素早く、ゴーゴンの胸を射抜く。

「ぐるぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 悲鳴を上げ暴れるゴーゴン。

「え、うわぁあ!!」

 槍を握ったステラの身体が宙を舞う。

「ステラ槍を離せ!!」

 槍が突き刺さったまま暴れるゴーゴンを見てシュヴェリアが叫んだが、その時にはすでに遅かった。ゴーゴンが暴れるままにその身体に刺さった槍、それを握るステラの身体が振り回される。

「うわ! わわわ!!」

「ステラさん!!」

 この状況ではさすがにクレハも敵を狙えない。ステラを心配して声を上げることしか出来ないようだった。

「ステラ、手を離せ、どうにか受け止める!!」

 ゴーゴンに振り回されるステラにシュヴェリアは叫ぶが――

「そ、そんなこといわれましても――」

 振り回されているステラはなかなか手を離す決意が出来ない。

 その間もゴーゴンは暴れまわり――

「ギリ――」

「あっ!」

 ゴーゴンは奥歯を噛み締め突如動きを止める。槍にぶら下がったままのステラを睨んだ。

「ステラー!!」

 ゴーゴンの視線光がステラを石化させる。

 ゴトンという音が響き、石と化したステラの身体が地に落ちる。

「!! ステラさん!!」

 両手で口を塞ぎ目を丸くしたクレハが叫ぶ。

「くっ、おのれ!!」

 シュヴェリアは奥歯を噛み締めると剣をゴーゴンへと向けた。

「クレハ、援護を頼む、奴を討つ!!」

 「はい」クレハの返事を聞くなり飛び出すシュヴェリア。

ゴーゴンも先ほどのステラの一撃が効いたらしく。後方にある坑道へと逃げようとしていた。

「逃がすか!!」

坑道へと逃げようとするゴーゴンとそれを追うシュヴェリア。

ゴーゴンは苦し紛れに視線光を放つ。シュヴェリアはそれを弾きゴーゴンの懐へ飛び込む。

「紅蓮!!」

 再び爆発が辺りを包み、その衝撃でゴーゴンは坑道内へ。シュヴェリアも後を追う。

「シュヴェリアさん!!」

 坑道内に入っていくシュヴェリアに叫ぶクレハ。シュヴェリアはその叫びを振り切り坑道内へ。

 ――入った瞬間、シュヴェリアの空気が変わる

「!!」

 本能的にそれを悟ったゴーゴンは身構える。

「終わりだ――アクティム!!」

 坑道内から大爆発が響きわたった。




「くっ、シュヴェリアさん」

 突然爆発した坑道、そこから飛んでくる瓦礫から身を守りながらクレハはシュヴェリアの身を案じた。

 急いで後を追おうとするが、長時間の戦いで疲弊した足はいうことを聞かない。

「何が起こったの? シュヴェリアさんは? 悪魔はどうなったの?」

 クレハは這いずるようにして坑道に向かった。すると――

「!! ステラさん!」 

 途中で石化したステラを見つける。すっかり石と化してしまった彼女の姿に涙を流すクレハ。

「ステラさん、そんな……」

 石化したステラを前にクレハは言葉を失う。

「せっかく友達になれたのに――まだまだ話したいことがたくさんあったのに……」

ステラさん――

 ステラが石になってしまったことを悲しみ彼女だった石柱にしがみつくクレハ。

 やがて足音が近づいて来るのに気づき顔を上げる。

「クレハ、泣いているのか?」

 シュヴェリアは落ち着いた様子でクレハに尋ねた。

「シュヴェリアさん、ステラさんが、ステラさんが!」

 泣きじゃくるクレハを見てシュヴェリアは苦笑いを浮かべる。

「大丈夫だ、多分、彼女はまだ戻せる」

「へ?」

 クレハは素っ頓狂な声を上げた。




「石化とは特殊な状態だ。長時間この状態が続けば、元に戻すことは出来ない。しかし、石化してからそれほど時間が経過していないのならば元に戻す手段はある」

 シュヴェリアはそう言いながら懐から薬瓶を取り出した。栓を抜き、中の液体をステラだった石柱にかけていく。石化していたステラの身体が徐々に元に戻っていく。

「うう~ん、あれ、ここは~」

「ステラさん!!」

 ステラが起き上がると同時に抱き着くクレハ。ステラはわけもわからず混乱している様子だった。

「ステラ、調子はどうだ?」

「あ、シュヴェリア様、え~と……大丈夫です、多分……」

 引きつった表情を浮かべる彼女を見て大丈夫そうだと判断するシュヴェリア。

「良かった、ステラさん、心配したんですよ?」

「あはは~、ごめんね、クレハちゃん」

 元気そうに振舞うステラを見て安心したのかクレハに笑顔が戻っていた。

「まさかあんなものが住み着いていようとはな、驚いた」

「はい、すさまじい力でしたね」

 シュヴェリアとクレハの話、そして自分が助けられた状況から「ああ、あれ倒したんだ」と理解するステラ。シュヴェリアの小脇に抱えられたものに視線を集中させる。

「シュヴェリア様その子は?」

ステラの言葉で初めてその存在に気付いたクレハも視線を向ける。

そこには幼い少女がいた。気を失っているのかぐったりとしている。

「ああ、これは――」

 言葉を濁すシュヴェリア。クレハとステラは首を傾げた。

「……坑道内にとらわれていたのを見つけたので助けたのだ」

 歯切れが悪そうにいうシュヴェリア。クレハとステラは少し疑問に思いながらも衰弱している少女を心配する。

「大丈夫なんですか?」

「命に別状はないだろうがどこかで休ませた方がいいだろうな」

「そうですね、私たちもこの状態ですし一度麓の村まで戻った方がいいですね」

 シュヴェリアたちは一度下山し村まで引き返すことにした。



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