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開戦ー1

 ――リーゼ村近郊森林地帯

「ついに来たな」

 木々の中に身を潜め、シュヴェリアは敵陣の様子を伺う。

 森林地帯の先にある平野には帝国の兵士が集まり、野営の準備を行っていた。その数およそ250、村1つ潰すには過剰すぎる戦力といえる。

(まあ、想定の範囲内だがな)

 シュヴェリアが潰したこの地方の領主の館には100人以上の兵士がいた。そこを潰した以上その数倍の戦力を送って来るのは目に見えている。

(そもそもあんな小さな館に何故あれ程の兵力があったのか……今思えば疑問だな。運悪く客人でもいたのだろうか……)

 どうでもいいことに思考を割きながら効果が消えかけていた観測用魔法を再度自身にかけなおす。――これによりシュベリアは肉眼で数キロ先を確認できるようになっていた。

「リーゼ村まではおよそ5キロ、今夜はこの地点に停泊し、明日の朝、一気に森を抜けリーゼ村に突入するつもりか」

 おそらく、帝国ではリーゼ村は完全な反逆者扱いになっているだろう。それはそうだ、地方を収める領主の館を襲撃し、物資の略奪、兵士や主要人物を全員殺害したことになっているのだ第一級犯罪組織に部類されているのが普通だろう。どうやってやったかは疑問だろうがこの事実は消えることはない。

 あんな無茶苦茶な御触れを出して、抵抗したら反逆罪などと小さなことを言ってる連中だ。もっと大事になっていてもおかしくはない。そう考えれば送られてきた兵士の数250というのも少ないくらいかもしれない。

(重罪犯相手にわざわざ戦線布告をしてくれるとも思えない。暗闇に乗じて暗殺にかかる可能性もあるだろう、村の近くに現れた時点で、呑気なことを言ってはいられない)

 木の枝にしゃがんでいたシュヴェリアは奥歯を噛み締めると立ち上がった。帝国の兵たちを見渡し――そして口元を緩める。

「まあ、それはお互い様の話だがな」

 突如シュベリアの付近に2つの魔法陣が発生した。

「魔獣召喚サラマンダー、ワイバーン」

 瞬時に2体の魔獣が召喚される。

「行け、奴等を半壊させろ」

 険しい瞳で敵を見据えたシュヴェリアは手をかざし、魔獣達に進行方向を示す。

 けたたましい叫び声を上げ、2体の魔獣が帝国兵のキャンプへ向かう。

「戦争とは思い通りにいかぬもの、大人数で動けば魔獣の興味を引くことも、その襲撃を受けるリスクも多いはず、貴殿らには不運にもその犠牲になってもらう」

 ほどなくして、帝国のキャンプから兵士たちの悲鳴が響きわたった。



  ――翌朝、リーゼ村

「来たぞ、旦那の言った通りだ」

 リューテ川の対岸に現れた敵兵を見つけて見張りの村人達は声を上げた。

 村の入り口には巨大な門が2重で作られ要塞のような姿になっていた。それを見て帝国兵たちは誰もがギョっとしている。

 帝国兵はそのまま突撃してくるものかと思いきや、隊列を整え、全員揃うのを待っているようだった。

 ほどなくして――

「我々はサダムスト帝国本国より派遣された調査部隊である地方領主邸の殺害について調査を行っている。話を聞きたい、門を開け我らを招きいれられよ」

 ――そうきたか。

 村の入り口に建てられた門上部へと続く階段を登りながらシュヴェリアは口元を緩めた。

 昨日の魔獣の襲撃で半分程度の戦力を失った帝国、帰るか、このまま進軍するかの選択に迫られた彼らは後者を選択したようだった。まあ、戦力を半分も失った上、村がこの装いだ。いきなり突撃はないと確信していたがまさか調査員を名乗ってこようとは、あの手この手を考えるものだと感心するシュヴェリア。

「お待たせしました。私がこの村の村長です」

 敵の交渉に応じるために門の上に上がった村の重役たちが叫んだ。

 シュヴェリアは目立たぬよう物陰に隠れ指示を出すタイミングを計る。

「貴殿がこの村の村長か、私は調査団団長のクレイモアである。この門を開け、兵を招きいれられよ」

 1人の兵士が馬を降り、橋を渡り村の門まで歩いてきた。村人たちに緊張が走る。

 村長は一度息を呑むと、ハッキリと言い放つ。「出来ません」と。

「なんだと?」

 明らかに機嫌を害した調査団団長は村長を睨みつけた。

 村長は一瞬怯えたが、すぐに打ち合わせしてあった通りに言い返す。

「扉を開けることは出来ません。貴方たちを村に入れること拒否させていただく」

「…...それが何を意味しているのか解っているのか?」

 ドスを聞かせて脅して来るクレイモアに怯える村長、今度はゲンが代わりに答える。

「は、お得意の反逆罪か? 聞き飽きたぜあんたらの言い分はよ!」

 「何?」クレイモアの威嚇にも怯えることなくゲンは続ける。

「知ってんだろ、この村は一度『村狩り』にあってんだ奇跡的に助かったが、ここの村人すでに全員反逆者なんだよ!!」

 ゲンがはっきり言い放つと、クレイモアはやや困ったように引き下がった。

 ――やはりな。シュヴェリアは物陰で再び口元を緩めた。

 相手が交渉で村に入ろうとするならば恐らく、村人が自ら'自分達が反逆者である'と認めてはこないと思っているだろうと考えていた。故にそこを突けば相手の交渉の柱を折れるとも。

 昨日、敵がそのまま侵攻して来た場合に備えてあらかじめ打ち合わせしていたことが役に立っている。

「そ、そうかそれは知らなかった。我々は調査専門ゆえにそのような情報は流れて来ないのだ」

 苦虫を嚙み潰したような顔で言うクレイモア。苦しい言い訳である。何せリーゼ村が反旗を翻してからまる2月は経っている門の出来を見てもらえば解るだろう。たっぷりと時間があったのだ。いくら関係ない部署に居たって噂ぐらいは耳に入って来る。ましてや前例のないことならなおさらに。

「そうかい、だが、悪いがそういうことだ。あんたらを中に入れることは出来ねぇ」

 外壁部分に脚をかけ満足そうに言い放つゲン。シュヴェリアの作戦通りに喋っているだけだがそれでも自分の思う様に話が進むのは面白いのだろう。

 だが、その態度は流石に相手の反感を買うことになる。

「なるほど……話は解った。しかし、だとすればお前たちは国の敵だ。我々が力づくで村に入り、その際に何人命を落とそうと誰も攻める者はいないということになるがいいな!」

 すごむクレイモアに威圧されるゲン。流石は今回の盗伐の任を受けた団長だそこらの村人の言葉遊びなどには有無を言わせない。彼の言葉はゲンだけではなく村人全員を怯えさせていた。

「……その通りじゃ」

 ふと、どこかから声が上がった。

 村長とゲンの間から老婆が顔を出す。メイアだった。

「ワシらはお前さんたちが国から派遣された盗伐軍だと思っておった。故に村には入れんとあらかじめ決めておる。それは戦いになったとしても同じじゃ、死者を出すことになろうとも止まるつもりはない。ワシらの戦いは疾うに始まっておる」

 メイアの言葉で我を取り戻す村人たち、場を支配していた武力による恐怖が緩和されていくのを感じた。

(流石はメイア殿だ)

 今の言葉は予定にはなかった言葉だ。正直、相手方があそこまで威圧を行えるとは思わなかった。計算外の一手、しかし、話の終局的にはこれでいいだろう。

「……解った」

 クレイモアは静かにそういうと背中を見せて去っていく。何人かの村人がその背中に弓を引こうとしたが止めた。こちらから手を出すのはあまりいい回答ではない。

 クレイモアが部隊に戻ると、兵たちは隊列を組みなおした。言葉はない。メイアの言葉で小細工は不要と解ったのだろう。

「全軍突撃!!」

 クレイモアの言葉で部隊が動いた。







 

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