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エルフの少女ー7

 ――交易都市ハーペン、領主邸(地上)

「な、なんだあれは――!!」

 巨大な閃光が領主邸の庭園の地中から天に向かって立ち上る。

 崩れる庭園、そのすさまじい音に、邸内のあらゆるものがその場に駆けつけた。

「な、何が起こっているんだ!?」

 ざわつく兵や使用人たち。やがてその中から巨大な化け物が姿を現す。

「キュオオオオオオ――」

「あ、あれは一体」

 その場に集まった王女と呼ばれた女性はそれを見て驚愕した。

「不味い、王女を護れ!!」

 そばにいた騎士が叫びを上げた。

 不気味な光が周囲を包む。

「キュオオオオオオ――」

「うおおおお――」

「きゃぁぁぁ――」

 放たれた雷撃、その一撃に集まった者たちが悲鳴を上げる。

「くっ、前衛前に、奴を王女に近づけるな!!」

 雷撃を凌ぎきると騎士が叫びを上げる。

 指示に従い、一部の兵士が動いた。装備からして王女の護衛といったところだろう。

 すぐさま陣形を整え兵たちが攻撃姿勢に移る。

「後衛、奴に攻撃を――」

 弓矢、魔法といった攻撃が盾を有した前衛の後ろから魔族に向かい放たれた。

「キュオオオオオオ――」

 魔族が嫌がるように悲鳴を上げた。

 「よし」騎士はその様子を確認すると、周囲を見回した。

 「奴を退けるお前たちも協力しろ」騎士の男は続いてうろたえているこの都市の兵士たちに命令を下す。烏合の衆となっていた兵士たちがまとまりを見せ始めた。

「前衛、突撃!」

 騎士の指示に従い剣と盾をかざした兵たちが魔族に突撃していく。魔族と前衛部隊が接近戦を始めた。

「アルバートあれは一体」

 その様子を見て王女と呼ばれた女性が声を上げた。

 騎士の男は女性を護るように立ちながら首を振る。

「解りません。ですが、魔獣かそのたぐいのものでしょう」

 危険なものであることは間違いない。女性を近づけないようにしながら騎士は目の前の敵に注意を払う。

「中に女の子のような姿を確認したのですが?」

 女性がアルバートに問うと彼は頷いた。

「はい、私も確認しました。恐らく取り込まれてしまっているのだと思います」

「助けられますか?」

 女性の問いにアルバートはゆっくりと目を閉じた。

「解りません、外角の存在を倒して解放されると良いのですが……」

 「そうですか」女性が視線を落とした時だった。

「キュオオオオオオ――」

 再び魔族が雷撃を放つ。

「先ほどよりも強い、いかん、総員防御を――」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 収束した雷撃により近くにいた前衛が全て吹き飛ばされた。

 邪魔な前衛が吹き飛んだ隙を狙い、魔族は後衛の兵たちに攻撃を仕掛ける。

 悲鳴を上げ次々と吹き飛んで行く兵士たち。

 「こいつ、まさかこちらの戦力を伺っていたのか?」

 急に動きの良くなった魔族を見てアルバートは叫ぶ。兵を蹴散らしながらこちらに向かってくる魔族。

 アルバートは剣を抜き、後方の女性に向かい叫んだ。

「王女お逃げください、奴は私が!!」

 一度は押していた兵士たちだが今はあっけなく陣形を崩され、再び烏合の衆となってしまっている。彼女を護ることの出来るものはもはや彼しかいなかっただろう。

「行くぞ化け物!!」

 アルバートの一撃は全身する魔族を止めることに成功する。

「『刃技』――」

 続いて放った一撃は魔族を後退させるに至った。しかし――

「キュオオオオオオ――」

 再び叫んだ魔族の一撃はその剣に重くのしかかる。

「こいつ、なんて力だ――」

 防いでいる間に、もう一撃が彼に迫る。

「ぐっ――」

 気付いて一撃目を弾いたがその剣は二撃目に間に合わず、直撃してしまう。吹き飛ぶアルバート。

「アルバート!!」

 すぐに女性も吹き飛んだ彼の後を追ったが、どうすることも出来ない。叩きつけられた彼の安否を心配することしか。

「くっ、化け物め…...」

 口惜しそうなアルバートの言葉が響く。

「王女、お逃げください……」

「でも、それでは――」

 押し問答をしている間に、魔族はすぐ目の前まで迫っていた。

 無論、王女を護るためその前に立ちはだかった者もいるが魔族の力の前には成すすべもなかった。

 このままでは駄目だ、アルバートは奥歯を噛み締め立ち上がり、魔族の前に立ちはだかる――

「――やれやれ、やってくれたな、中々痛かったぞ」

 その時、どこかからそんな声が響きわたった。

 先ほど魔族が上がって来た場所から黒い光が沸き上がる。

 そこから現れた人影、そこにはぐったりとした少女を抱えた黒い剣士がいた。



 地下空間を潰し、地上に逃げた魔族。

 シュヴェリアは地下の崩壊からクレハを護ったが、その際にクレハは気を失い、シュヴェリアもダメージを負うことになった。自分とクレハの傷の回復、脱出経路の確保、結果的に魔族を追って地上に上がって来るのが遅くなってしまった。

(この都市の兵士か、あれの足止めをしてくれていたようだな)

 地上に上がり、周囲の状況を確認したシュヴェリアは獲物を逃がさず済んだことに胸をなでおろす。

 ここから先は私が引き継ごう――

 わけも解らないまま戦ったであろう兵士たちにせめてもの感謝を示し、シュヴェリアは剣を抜く。

「さあ、仕切り直しと行こうか」 

「キュオオオオオオ――」

 シュヴェリアの言葉に呼応するように魔族は叫びを上げ、シュヴェリアに向かう。

 気を失ったクレハを抱えたままシュヴェリアは剣を振り、魔族を切り上げる。

 『――紅蓮』爆炎が魔族を包む。

「キュオオオオオオ――」

 怯んだすきを狙い、連続で斬撃を叩き込むシュヴェリア。

「残念だったな、ここなら地下のように倒壊を恐れて加減をする必要がない、物量で押し切らせてもらう!!」

 ある程度斬撃を叩き込んだ後、持っていた剣を鞘に戻し、背中の大剣に手を伸ばしたシュヴェリア。布のような魔具を纏ったままの大剣に魔力を込める。

「起きよ、アクティム」

 感覚で大剣アクティムの鼓動を感じた。

「今度は先ほどのものとはケタがが違うぞ!!」

『紅蓮!!』

 布を被ったままの大剣から放たれた黒炎は、先ほどまで使っていた剣から出されたそれと同じものとは思えない威力で魔族を包み込む。

「キュオオオオオオ――」

 爆発と炎にもだえ苦しむ魔族、その背後を取ったシュヴェリア。

「これで終わりだ」

 トドメの一撃とばかりに大剣を振り下ろ、魔族を両断する。

「キュオオオオオオ――」

 叫びを上げて倒れる魔族、その間際その身体に手を伸ばすシュヴェリア。

「ステラは返してもらうぞ!」

 取り込まれているステラの腕に手を伸ばし、魔族の中から引きずり出す。まるで水の中から引きずり出されるかようにエルフの少女が魔族の中から抜け出した。

「キュオオオオオオ――」

 力なく叫び消えていく魔族の体。それはまるで月に上っていくように静かに消滅していく。



「ってて……」

 穴をよじ登りようやくのこと地上に生還したイルナスは地上に寝そべると、天の月を仰いだ。

「あ―、マジ死ぬかと思った。今回ばかりはマジで死んだかと思った……」

 彼特有の軽口も今回ばかりは覇気がない。

 だが、それも仕方ない。やたら強い剣士と戦うことになったかと思えば、訳の解らない化け物と戦わされ、挙句生き埋めにされた。誰でも死を覚悟するだろう。

「あれ、あの化け物はどうなったんだ? ここにはいないみたいだが……」

 イルナスは身体を起こすと周囲を確認する。周りはずいぶんな被害が出ているがあの化け物の姿はない。すでにどこかに移動した後なのだろうか? それはそれで問題だが……

「イルナス!!」

 呆けていると誰かに名を呼ばれ振り返る。

 近衛の誰かがこちらに近づいてきていた。

「おお、アルバート生きてたか」

「こちらの台詞だ姿が見えないからもしかしたらと冷や冷やしたぞ」

 王女の騎士に対しても相変わらずの態度で接するイルナス。よっこらせと腰を上げると、目の前の騎士にハイタッチを要求する。

「どういう状況だ?」

「どうもこうもない、地下からとんでもない化け物が現れて暴れまわた」

 おかげで死にそうになったと付け加えるアルバート。

 やっぱりそうか、と頷きながら話を聞くイルナス。

「あれは何だ? なんであんなものが領主の屋敷の地下から――」

「あー、聞きたいことは色々あるだろうがまずはあいつの処理からだろう。あんなの放置しといたらとんでもないことになる」

 イルナスの言葉に応える様に凛とした声が響く。

「それなら心配いりません、あの存在はすでに倒されています」

 その声に姿勢を伸ばすイルナス。

「お、王女殿下」

 慌てて敬礼を返すイルナス。王女はそれに軽く会釈を返す。

「た、倒されたって、お前らがやったのか?」

 イルナスがアルバートに問うと、アルバートは首を振った。

「とてもじゃないが私たちの手に負える相手ではなかった」

「じゃあ……」

「あの存在を追う様に地下から現れた黒い剣士が倒しました」

 シュヴェリアか、イルナスの頭の中で即座に答えが出た。

「その剣士はどうしたんだ?」

「あの化け物の中から少女を救い出してそのままどこかに消えて行ったよ」

「……」

(マジか、単騎であれを倒したのかマジ半端ねぇのな、シュヴェリアさんよぉ)

 イルナスは沈黙し、脱帽する。

「我が国の近衛部隊でも手に負えない異形の存在をたった一人で倒してしまうとは一体何者なのでしょうか?」

「はは、本当に何者なんでしょうね」

 イルナスは引きつった笑いを見せる。

(後始末はとんでもなく大変そうだな。まあ、何はともあれ生き残れてよかったが……あいつとは二度と敵として会うことが無いことを願うばかりだな)

 気付けばイルナスは再び月を仰いでいた。

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