エルフの少女ー6
「な、何これ!!」
目の前に現れた巨大な見たこともない存在にクレハは言葉を失った。
クレハだけではない、シュヴェリアもイルナスもそうだ。得体のしれない存在に3人が戸惑う中――
「くっくっ、はーはっはっは」
カ―ウェリックだけが高笑いを上げていた。
「やったぞ、ついにやった。私はついに成功させたのだ!!」
興奮気味に高笑いをする。
「おい、カ―ウェリック、なんだこれは!!」
イルナスが問いかけるとカ―ウェリックは気色の悪い笑顔を浮かべて叫んだ。
「魔族だよ!! 私はついに魔族を召喚することに成功したのだ!!」
「な、魔族だと!!」
イルナスが驚きの声を上げる。
「おいおい、まさかお前、魔族を召喚するためにあのエルフが必要だったのかよ!!」
イルナスの叫びに頷くカ―ウェリック。
「その通りだ。長年の研究がついに叶ったのだよ!!」
狂乱気味な笑みを浮かべるカ―ウェリック。
シュヴェリアはそのやり取りを見て言葉を失う。
(馬鹿な、人間が魔族を召喚したというのか?)
何かの間違いだろうと再度状況を確認する。ステラを取り込み形を成していく奇妙な物体、そこからは確かに魔族の気配がしていた。
――魔族とは魔界に住まう存在で魔獣の各上の存在と言ってしまえばいいだろうか、ドラゴンをはじめとする高度な知性を持つ存在が数多く存在し、悪魔とも対等に渡り合える存在だ。強大な力を持ち、簡単に他者から介入されない存在である。
そんな存在を人間が召喚したとはにわかには信じがたかったが――
「しかし、状況がそれを許さんか――」
シュヴェリアは剣を構え魔族に向き合う。もし、これが敵として立ちはだかるのなら少々まずい展開だ。
「フハハハハ、いくら君が強くても、魔族が相手では手に余るのではないかね??」
カ―ウェリックは不敵に笑うと召喚されてそれに駆け寄り、現れたばかりのそれに語りかけた。
「やあ、盟約に従いよくぞ現れてくれた。私はカ―ウェリック、君の召喚主だ!」
顔のないそれはかろうじて頭とわかるそれを傾けて応えた。
「私は君の力を借りたい、君の力で私の敵を葬ってくれ!」
カ―ウェリックはそう言うと、シュヴェリアの方を指差す。
なるほどそう言う魂胆か! シュヴェリアは自分がここまで招かれた意味を理解した。
カ―ウェリック、彼はシュヴェリアが自分や配下たちの手に負える相手ではないと理解すると始末するため召喚した魔族に対処を依頼することを選択した。だからわざわざ案内役までつけてこの屋敷の深部まで招き入れたのだろう。余計な被害を出さない良い方法ではある、ただしーー
「さあ、やつを葬るのだ!」
「!! シュヴェリアさん!!」
意気揚々に魔族に指示を出すカ―ウェリック。シュヴェリアの危機を感じたクレハが声を上げた。
魔族は指さされた先とカ―ウェリックを交互に見るよう頭を動かしたあとーー
「ーー!!」
腕のような部分を振り上げーー
「がっー!!」
カ―ウェリックを吹き飛ばす。
「なっ!!」
驚くイルナスをよそに、シュヴェリアは「やはり」と息を飲む。
「く、うう、……何を……!」
吹き飛ばされたカ―ウェリックが苦痛に声を歪めた。
何を、も何も無い、当然の結果だろう。召喚されたからと言って召喚主に必ずしも従う通りはない。知能の低い魔獣ならまだしも相手は魔族、如何に下級だろうとそれなりのプライドは持ちわせているはずだ。それを屈服させる器量が無ければこうなるのは必然だ。
「キュオオオオオオ――」
魔族は叫びを響かせると体を不気味に光らせ戦闘態勢を執る。
「おいおい、これは不味いじゃねぇのか!?」
イルナスが慌てる。その通りだ。安易な考えて魔族など呼び出すからこうなるのだ。
シュヴェリアは剣を鞘にしまい、即座にクレハの元にかけよると彼女を抱え魔族から距離を取る。
瞬間、辺り一致に雷撃が走り抜けた。
「チィ――」
「うお、あぶねぇ!!」
カ―ウェリックとイルナスも回避に成功したらしい、2人の状況を確認しながらクレハを最も魔族から離れた場所へと移動させるシュヴェリア。
「クレハ、君はここで待っていてくれ」
「シュヴェリアさんは!?」
「私は奴を――」
クレハを降ろすとシュヴェリアは剣を握りなおし魔族へと向かう。
「何故だ、何故召喚主の私の言うことを聞かない!」
「言ってる場合か!!」
取り乱すカ―ウェリックを諫める《いさめる》イルナス。
魔族の近くにいた彼らはその攻撃を避けるので精一杯だ。
混乱する彼らに向かい攻撃を繰り出す魔族、その背後からシュベリアの斬撃が入る。
「はぁぁぁ!」
「キュオオオオオオ――」
直撃、頭部を攻撃された魔族は勢いそのままにイルナスたちの方に倒れ込む。
「おお!?」
目の前に倒れて来た魔族に対してイルナスが驚きの声を上げた。
「なんという奴だ、魔族に一撃を入れたのか」
倒れて来た魔族を見てカ―ウェリックはシュヴェリアの実力を再確認していた。
「マジか、いや、この際なんでもいい。シュヴェリアさんよ、ここは共闘しないか!!」
イルナスが叫ぶ。
「こっちとしてもこんなもんこのままにしておけない、こいつをどうにかするにはあんたの力が必要だ」
「おい、馬鹿なことを言うな、この魔族を召喚するためにどれだけの労力を注いだと――」
「だから、そんなこと言ってる場合か!」イルナスが再びカ―ウェリックを諫めた。
「キュオオオオオオ――」
魔族が叫び起き上がる、目の前にいたカ―ウェリックを認識すると――
「こいつの主人は私のはずだ、私が言うことを聞かせれば済む話――」
――叫ぶカ―ウェリックを吹き飛ばす。
「……が!!」
壁に叩きつけられ、絶命したように倒れ込むカ―ウェリック。
「……これで問題はなくなったか?」
皮肉ったようにシュヴェリアが言うと、イルナスは苦笑いを浮かべた。
「いいだろうその話乗ってやる、ただし、こいつを倒したらクレハだけではなくステラもつれて帰らせてもらうぞ!!」
「いいぜ、交渉成立だ!!」
シュヴェリアはイルナスと共に魔族へと向かい合った。
――交易都市ハーペン、領主邸(地上)
「カ―ウェリック殿はどちらに?」
深夜の領主邸を歩く女性、金の首輪をつけドレスに身を包み、護衛を付けて歩いているその様子から高貴な身分であるということがうかがえる。
女性は領主邸を歩き、屋敷の主人を探しているようだった。
「申し訳ありません、王女殿下、カ―ウェリック様は今、席を外されているようでして……」
声をかけられた使用人が深々と頭を下げて答えた。
「こんな深夜に外出ですか? 一体どちらに?」
更なる追及に首を振る使用人。
「申し訳ありません、緊急の用ということで私共も行き先を聞いておりません」
使用人に言葉に「そうですか」と呟きその場を後にする王女と呼ばれた女性。
「このような夜更けに領主がどちらに行ったというのでしょう?」
その側に立つ側近とみられる女性が呟いた。
「解りません、ですが何か胸騒ぎがします。今夜、何かが起きるのではないでしょうか?」
「やめてくださいよ、王女の勘はよく当たるんですから……」
護衛の騎士が嫌そうに顔を引きつらせた。
「カ―ウェリック殿には色々と怪しい点があります。姫様の管轄する領地内で何かを企んでいるのならば明らかにしなければ」
「はい、大事にならぬように尽くさねばなりません――」
――交易都市ハーペン、領主邸(地下)
「うおりゃあ!!」
イルナスが迫る魔族の腕を切り払う。魔族の腕は硬質ではないものの剣で切っても切りきれず、切ったとしてもすぐに再生してしまう。厄介な仕様だ。
「はぁあ!!」
シュベリアの剣が魔族の頭部を集中的に狙うが、そちらも腕と同様の状況、一進一退の攻防戦が続いていた。
幸いなことに完全な状態ではないためか知性はそれほど高くはなく、アタッカーであるシュヴェリアが攻撃後、スキルを使い潜伏すると狙いは近くにいるイルナスへと移る。これをうまく利用し、善戦できている。
「すごい……」
2人の共闘する様子を見て遠くに潜むクレハは声を零した。
イルナスも人間にとしてはかなり腕の立つ存在、それが人間を逸脱した能力を持つシュヴェリアと共闘しているのだ、即席の連携でもある程度の戦闘が出来、その見ごたえはかなりのものだろう。
「シュヴェリアさんよ、本当にこんなやり方で倒せんのかよ!」
イルナスが魔族の攻撃を切り払い尋ねる。
「そのはずだ、いかにエルフを触媒にしているとはいえ、人間ごときに魔族の完全な召喚など出来るはずがない。このまま戦闘を続ければ、必ず力を使い切るはずだ!」
実際、魔族の力は召喚されたときと比べるとかなり落ちている。召喚されたときはアクティムを使うべきかとも考えたが今はそれほどだ。知性が低いのもその証明だろう。
(どちらにしろ、この狭さではアクティムは使えない。下手をするれば屋根が崩れて全員生き埋めだ。
だが、できるだけ早く倒さなければ、おそらく触媒となっているステラの力を吸収しているはずだ、早く処理してしまわないと彼女の身が危ない)
背中の大剣に手を伸ばしそうになりながら、シュヴェリアは堅実に魔族の体力を削っていく選択を取る。
「うっしゃ、それならもうひと頑張りしますかね!!」
イルナスが気合を入れなおした時だった、魔族が今までにない動きを見せる。
(なんだ、奴め、何を始めた?)
シュヴェリアが疑問を抱いた瞬間――
「キュオオオオオオ――」
雄たけびを上げた魔族は天に目がけて収束させた魔力を放つ――
「な!!」
「なんだ!?」
魔族が天井を破壊した。崩れる地下空間。
「不味い、クレハ!?」
「野郎、めちゃくちゃやりやがる」
崩れる瓦礫を避けながら2人は叫んだ。




