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魔王アトライアスー2

「やれやれ、ようやく解放されたか」

 二―ベルン城、アトライアスの執務室。アトライアスの自室と二―ベルン城の中核に直結する唯一の場所であり、アトライアスしか入ることを許されない場所である。

 執務室入り口にある、いわゆる秘書室のような場所で部下やメイドたちのあいさつを抜けてドアを閉めると愚痴をこぼすアトライアス。

「全く、カエリウスめ。最近ずいぶんと小言が多くなったな。まあ、私に代わり軍を動かしているのだ。それなりにプレッシャーなどもあるだろう。多少口うるさくなるのは仕方のないことかもしれんが……」

 昔から何かと小うるさいのは知っていたが、それでも最近は半端ではない。

 何かにつけて、“魔王とは何か”を振りかざし、やる事成すこと文句を言われる。働いて何が悪いというのか?

 魔王アトライアス、それは人間たちにとっては恐怖の対象。100年前、城に攻め込んだ勇者の一団をたった一人で制し、人間世界を支配した存在だ。悪魔たちから見てもそれは変わらず、地上を支配した偉大な魔王とされている。

 だが、実際の人物像はそのイメージとややかけ離れていた。何がかと言うと、とにかく勤勉なのだ。

 自分の仕事が終わったのなら部下の仕事を手伝う。それが当たり前の性格で、一般的な魔王のイメージである、余興や趣味に走り仕事がおざなり、ということはない。むしろ、部下に仕事を押し付けるなど、もっての他だった。情に深く部下想いという一面を持つゆえでもあるのだろう、彼は誰よりも優秀で、誰よりも働き者だった。

 だが、魔王と名乗っている以上、それでは困る点も出てくる。

 例えば今日のようなことがいい例だろう。魔王が、毎朝、自分の城の前で掃き掃除をしていたのでは支配者として示しがつかない。魔王はこの城の王であって管理人ではない。

 ――魔の王である彼は間違ってもボランティア精神あふれる有識者ではいけないのだ。

 カエリウスはそう言う部分をいたって自然に注意しているだけなのだが、これが普通と思っているアトライアスはどうにも納得がいかない。

 言っていることは解らないわけではないのだが……

 結果として、そういうアトライアスの性格が今の魔王軍の結束を生んでいるともいえるため、カエリウスもまたそこまで強くは言えず、結果このようないたちごっこの状況になっている。

「仕事はしなくてもいいと言われてもな、仕事をしていないと何をしていいのか解らんのだ……ふう――」

 結局、今日の業務を終えてしまったアトライアスは、カエリウスに新たな仕事をもらうことが出来ず、また、仕事をすることも禁じられ、部屋でおとなしくしているように言われてしまった。それで仕方なく戻ってきたはいいが――

 暇だ……

 暇を持て余した魔王は何をすればいいのかも解らず、執務用の椅子に腰かけてため息を吐く。

 寝るには早い、明日の仕事もあってないようなものだ。アトライアスが征服してから100年、人間はすっかりおとなしくなり、魔王に反旗を翻す素振りは微塵もない。結果、アトライアスの仕事は皆無となっていた。勤勉な彼にとってこれほどの脅威はないだろう。

 これが打つ手のなくなった人間の最後の反撃なのではないかと、最近は本気でそう思い始めている。

 確かに、この方法ならいずれは暇を持て余して、精神をやられてしまうかもしれない。

「そろそろ本格的に私の仕事がなくなって来たな、何か趣味でも見つけなければ……」

 そう思い机の上の本を手に取った。すでに何度も読み返した本だが、何もしないよりはいい適当にページをめくる。ふと、違和感を覚えた。

「ん? 妙だな……」

 本を閉じ立ち上がる。何者かの気配を感じた。

(誰かいる? いや、この部屋は魔法による転移は防止されている。入って来るには入り口を使うしかないが……)

 それなら、部屋に入るときに常駐しているメイドたちの目に留まってしまう。迷彩化や壁のすり抜け等の魔法もロックしてあるのだから。

 結論から言うと、城の警備状況を考えても、誰の目にも止まらずここに入ることはアトライアスのような強大な力を持つ魔王でも不可能なのだ。

「……この部屋に誰の目にも止まらず入ることが出来、バレバレではあるもののここまで気配を消せるもの――お前か、ヴァルヴェロ」

 アトライアスは執務室のソファーに向かい冷たく呟いた。直後、「ほっほほほ」という独特な笑い声と共に、ソファーの上に人型の悪魔が現れる。

 カエリウスや翁姫のような人型そのままの悪魔ではなく、また、アトライアスやガウルのように人の1.5倍から2倍ほどの大きさがあるタイプでもない。

 それは人の半分程度の背丈の悪魔だった。――いや、正確ではないか。正しくは背中が大きく曲がり人の半分ほどの背丈になった老悪魔だった。

「ほっほほほ、こんなにも早くワシの存在に気づくとは流石は我が弟子じゃな。アトライアス」

 「やはりお前か」呆れた様に息を吐き、アトライアスはヴァルヴェロの前のソファーに移動する。

「何故分かった? お前さんの目を盗めるほど気配は消すことができてはいなかったじゃろうが、判別までは出来んかったじゃろう?」

「簡単なことだ、以前、お前が、この部屋に自在に出入りすることが出来る様にする魔具を作るとか言っていたのを覚えていたのでな。……それにそんなことをする輩はお前ぐらいしか思いつかんと言うのもある」

 アトライアスのサイズに合わせに用意された、大き目のソファーの上で一際小さく見える老悪魔に言い放つ魔王アトライアス。「なるほどのう」とヴァルヴェロは頷き、独特な笑い声をあげる。

「いつからいた?」

「お前さんが返って来る、すぅこぉし前からじゃな」

「……聞いてていたのか?」

「ほっほほほ、魔王業に難儀しておる様じゃのぉ」

「……悪趣味な奴め」

「すぐに気付かなんだお主にも非はあるじゃろうて」

「……」

「師として言わせてもらえば、『言わんこっちゃない』ってとこかの?

ワシはかねてから言っておったじゃろう、お主に魔王は向かんと。お主は真面目すぎるからのぉ」

 「ほっほほほ」と笑い、さりげなく師としての威厳を示してくる。相変わらずの面倒くささだ。アトライアスは疲れた様に息を吐くと、さっさと話を進めていく。

「で、何の用だ?」

「これこれ、師がわざわざ訪ねて来たというのに、その対応はないじゃろう。まずはお茶でも出してじゃのお……」

「そうだな。不法侵入者相手にまともに取り合う道理はないな。兵を読んでとっととお引き取り願うとしよう」

「ま、待て、待たぬか!!」

 兵を呼ぼうとアトライアスが手を叩こうとすると、全力で止めに入るヴァルヴェロ。

 アトライアスはしてやったり顔で手を止める。

「全く、師をからかうなどと、えらくなったもんじゃのう。アトライアス様よ」

「おかげさまでな。今や人間界を支配する王だ。お前も師としてさぞ誇らしいことだろう?」

 皮肉を皮肉で返してやる。もっとも、この程度のことで自らの師が気分を害するほど小物ではないことはアトライアス自身が一番解っている。

 もったいぶらずに、用件を話せ、アトライアスが言いたかったのはこれだけだった。

「……ふむ、ずいぶんせっかちになったのう? 以前はもっと余裕があったはずだが?」

「お前は話が長くなったな。特に前置きがな。恐らくは老化の所為なのだろうが――」

「解った解った。全く、相当に溜まっておるのう。よほど暇なんじゃなぁ……」

 アトライアスの性格を熟知している師ヴァルヴェロは少し話をしただけで、アトライアスの近況を察したようだった。

 心を読み取られたようで少し、気まずい気分になる。そんなアトライアスの心境を知ってか知らずか、ようやく本題に入るヴァルヴェロ。

「今日ここに来たのはのう、お前さんに少し頼みごとが出来たからじゃよ」

 頼み事? 師の思いがけない一言に出鼻をくじかれた気分になった。

「お前が頼み事とは珍しいこともあったものだな。一体、私に何を頼みたいと」

 なんだかおもしろい話になってきた気がした。少し期待してヴァルヴェロの言葉を待つ。

「うむ、実はのう――」

 言いながらヴァルヴェロは懐から指輪を取り出した。見たこともない鉱石のついた銀細工施された指輪。

「なんだこれは?」

 アトライアスが指輪を持つと、ヴァルヴェロは身に着ける様に促した。

 なんだかそこはかとない不安を感じながらもしつこさに負け指にはめる。

「……何?」

 途端に光に包まれたアトライアス。光は数秒とせず晴れ――

 アトライアスがいたそこには人間の青年の姿があった。

 灰色のマントをはじめ、アトライアスの所持していたものによく似た数多くの魔法装備、背中にはアトライアスが腰に装備していた大剣を装備し、左右色の違う瞳で、褐色の左目にアトライアスに付いていたものとよく似た傷がある青年だった。

「……これは」

 青年は自分の姿を鏡で見て、目を丸くする。ヴァルヴェロはそれを見て、成功と言いたげに独特な笑い声を上げていた。

「……なんだこれはヴァルヴェロ、説明しろ?」

 青年が睨むと、ヴァルヴェロは「そんな怖い顔で睨む出ない。ちゃんと説明する」と落ち着く様に青年を促した。

「見ての通りじゃ、この指輪は悪魔を人に変えることが出来る魔具じゃ」

「悪魔を人に変える……」

 ヴァルヴェロの言葉に、青年――指輪の力で人間の青年となったアトライアスは手を口元に運んだ。

「左様! この指輪を突ければ、どんな悪魔もたちまち、人に変わる。それこそ人型でない異様種であろうともたちどころに人に変わることが出来るのじゃ!!」

 立ち上がり、力説するヴァルヴェロ。

 ヴァルヴェロはアトライアスの師であり、かつて魔王を務めた大悪魔である。それなりに偉大な功績を持っているのだが、現在は老体となり隠居。趣味で魔具と呼ばれる魔法道具の作成に精を出している。

 そしてたまに、その研究成果をこうして弟子のアトライアスに見せに来るのだが。

「…………」

勢いづくヴァルヴェロと対照的にアトライアスは冷静。むしろ、半ば呆れた様子で尋ねた。

「――で、元に戻るにはどうすればいい?」

 興味なさげにささっと元に戻ろうとしていた。あまりの冷たい反応に、驚くヴァルヴェロ。

「な、なんじゃ、その興味のなさは!! どれだけ苦労して作ったと思っておる! 『流石はお師匠様、すごい!!』とか『尊敬してます!』とか、もっと言うことはないのか!!」

 ムキになって詰め寄るヴァルヴェロを人となったアトライアスは一蹴し、大きく息を吐く。

「どれだけ頑張ったのかは知らんが、実用性が皆無だ。これがなんの役に立つ? 悪魔が人に化ける意味などさしてないだろう?」

「な、なにを言う」そういきり立つヴァルヴェロだが、アトライアスはそんな彼に止めを刺すべく続ける。

「そもそも人に化けるなどと言う芸当、魔法で何とでもなるだろう。わざわざこんなものを作って化ける必要性がない」

 「ぐさ」と何かが突き刺さる音がアトライアスには聞こえた。

 やれやれだ。ヴァルヴェロは確かに優秀で、数多くの魔具を作っていた。しかし、そのどれも、実用性がイマイチで何に使うのかよく解らない。また、実用性があるものは魔法で代用できるのがほとんどで、彼の作品はわざわざ気の遠くなるような研究までして開発するようなものではないものばかりだった。

 せっかくやってきた師だ。弟子として毎度毎度付き合ってはいるのだが、いい加減やめてほしいというのがアトライアスの本音だった。

(ヴァルヴェロの作品だ。おそらく、外せばもとに戻るのだろう。なんだかんだ言って、技術力はあるのだ。そういうところはしっかりしている)

 もう少し方向性をどうにか出来れば格段に良くなると思うのだが……

アトライアスがそんなことを考えながら指輪を外そうとすると――

「ほ、ほっほほほ、バカめ!! そんなことだから、お前は爪が甘いというのじゃ、アトライアス!!」

 何かに突き刺され、倒れていたヴァルヴェロがおもむろに起き上がった。ゆっくりと少しづつ起き上がって来るその様子はどこか自信に満ち溢れている。

「なんだと、どういうことだ?」

 罵られ否定されたアトライアスはどこが間違っているのかと、問いただす。

起き上がったヴァルヴェロは不敵に笑った。

「お主、今、自分を悪魔として認識できるかの?」

 何を言い出すかと思えば……

 悪魔と言うものはどんなに身を偽っても悪魔である以上、その傾向が必ずどこかに出るものだ。早い話が、どれだけ姿形を変えても、見る者が見れば目の前にいるのが悪魔の化けた人間かそうでないかが解ってしまう。これはどんなに高い能力を持つ悪魔でも同じだ。魔王がどれだけ精工に人や天使に化けても、見る者が見ればすぐに悪魔だとバレてしまう。

 いくら人が悪魔に比べ劣っているとしても目の前の者が悪魔の化けた者か、そうでないかを判断する技術を持っている以上、そのうち正体を見抜かれてしまうのだ。――変化の魔法がそれほど実用性がないのもこの点に大きく起因する。

「往生際の悪い……」と思いながらも仕方なく、ヴァルヴェロに付き合うアトライアス。

自分自身で自分の悪魔の力を探る

「…………ん?」

 ふと疑問を持った。悪魔の力が見当たらない。あるのは純粋な魔力のみ。悪魔の力を発動しようとしても使えない。これはどういうことか?

 ヴァルヴェロが笑みを浮かべたのに気が付いた。

「ほっほほほ、気付いたか、我が弟子よ? ワシは言ったじゃろう、その指輪は、『悪魔を人に変える』指輪じゃと」

 『悪魔を人に変える』、それは悪魔を人に化けさせるわけでも、悪魔を人の姿にするわけでもない。

「ば、馬鹿な。まさか、今私は――」

 驚くアトライアスに、ヴァルヴェロは告げる。

「そうじゃ、我が弟子よ。お前は今純粋な人間になっておる。魔力は人間の身体が耐えられる様に多くを封印され、悪魔の力も引き離され、完全なる人間となっておるのじゃ――!!」

 再び力説するヴァルヴェロ。今度はアトライアスも目を丸くし、驚いていた。

 何故か、それは今まで種族の壁は絶対的で決して乗り越えられないものであっからだ。

 先にも言ったようにどんなに偽っても偽りきれないもの、それが種族の壁だった。見た目を変化させ、力を隠しても隠し通すことは出来ず、いずれは悪魔とバレ、すべてがご破算となるのが常識だった。しかし、アトライアスの師の発明はその常識を乗り越えた。今まで誰もなし得なかったことを成し遂げたのだ。

「…………」

「どうじゃ、見直したか、我が弟子よ?」

 あっけに取られるアトライアスにヴァルヴェロは得意げな笑みを浮かべた。

 いつかはやるのではないかとは思っていたが、まさか本当にそんな日が来るとは……

 アトライアスは世紀の大発明に立ち会ってしまったようだ。

 流石は師と仰いだ人物だと思う一方で、これが出来たことによるって大きな問題が生まれたことに気が付いた。

「ま、待てヴァルヴェロ、こんなものが出来たら――」

 アトライアスの言葉に、ヴァルヴェロは深く頷いいた。

「うむ、これの発明によって、今後は大きく情勢が変わるじゃろうな。

 今、人は悪魔に支配されている、とはいえ、心の底から慕っているわけではない。反悪魔の精神は人に根付いておるよ。いずれは勇者とかいうのが現れ、100年前のようなことが起こるかもしれん。

 だが、これによってワシらは人に気づかれることなく、人の情勢を探ることも出来ることになる。それどころか、人の中に入り込み、反悪魔の考え方の根本を変えていくこともやりようによっては可能じゃ」

 ヴァルヴェロは不敵な笑いを浮かべた。

「つまりは人を自らの意思で、悪魔の傀儡にすることも自由自在と言う訳じゃて」

「…………」

 ヴァルヴェロのいやらしい笑みに、アトライアスは危機感を覚える。

 確かにその通りだ、悪魔を人の中に紛れ込ませ、指導者とし、長い年月をかけて人間を洗脳していく。それは決して夢物語ではないだろう。そうすれば、人よりも悪魔が優れているのが常識に根付くこととなり、いつしか悪魔への反抗心はなくなり、天使に対し抱いているように、無条件の忠誠と信仰の精神を持つかもしれない。当然、現在も小規模に起きている魔王軍と人の衝突もなくなる。反抗心など根本から掻き消えるのだから。

 ひいては人への悪魔の完全なる支配体制の完成と言っていい。

 しかし――

 アトライアスはそれを聞いて、奥歯を噛み締めた。それはアトライアスの望む未来ではないからだ。だが、おそらく、魔界の者たちはそれを望むはず。

 地上を魔界の植民地、いや、もっとえげつなく、農場や牧場とすることが魔界の総意なのだから。

「……なるほど、で、お前はこの指輪をどうするつもりだ?」

 地上を魔界の植民地とすべく魔界より派遣された魔王アトライアスは、師に対し尋ねた。

 ヴァルヴェロは不敵な笑みを浮かべると黙り込み、笑みを浮かべたままアトライアスを見つめる。

「…………」

「…………」

 しばらくの睨み合いが続き――

「――なんてのう」

 不敵な笑みを崩すヴァルヴェロ。「!?」あまりの表情の変化にアトライアスは言葉を失った。

 ヴァルヴェロは独特な笑い声を上げた。

「ほっほほほ、お前さん、まさか、ワシがこれを魔界の連中のところにもっていくとでも思ったのか? そんな事するわけないじゃろう? お前さんの考えを知っておるんじゃ、そのつもりならここによらず、直接魔界深部へ持っていくわい」

 そういうと、近寄るように指示し、人になったアトライアスに耳打ちした。

「これがあることはワシと、お前さんとの秘密じゃ。で、この指輪もお前さんにやろう。代わりに頼みがあるんじゃが――」

 意外な申し出に目を丸くする。確かに頼みがあるとは言っていたが――

 一体、こんなものまで作って何を考えているのか、アトライアスはヴァルヴェロの言葉に強い興味を向けた。

「ワシが、この指輪を使って地上で好き勝手やるのを見逃してほしいんじゃ」

「地上で好き勝手?」

 アトライアスはヴァルヴェロの言葉に難色を示す。

 好き勝手とは穏やかではない。何をするつもりなのかを問いただす。ヴァルヴェロは嫌らしい笑みを浮かべた。先ほどの陰謀的ではなく、生理的ないやらしさに嫌な予感が走る。

「少しばかり、性行に勤しもうとおもってのう。

悪魔の女子との行為には萎えた、と言うより身体がついて行かん。逝ってしまう。しかし、悪魔よりはるかに軟な人間の女子おなご相手でであれば――ワシはまだまだ現役じゃ!!」

 力説するヴァルヴェロに一気に肩の力が抜けたのを感じた。

 つまりはこういうことだ。アトライアスの師は、人間の女性と性的な欲求を満たしたいがために、この世紀の発明をした。そして、この世界の常識を揺るがしかねない発明を使い、女遊びをするから、それを見逃せと地上の支配者に断りを入れに来たのだ。

「…………」

「のうのう、頼むぞい。ここは恩師を助けると思って、のう!」

 くねくねと、頭の中をピンク色に染めてねだって来る師にアトライアスは完全に拍子抜けしていた。

(好きにしてくれ………………)

 もはやそんな気分だった。


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