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エルフの少女ー4

 夜の闇の中、その声は怪しく木霊した。

「サダムスト帝国第1王女フェルティナの情報を問う」

 シュヴェリアの問いに答える、虚ろな目をした男、その様子は傀儡であり、意思というものを感じない。

「……これで全員か」

 傀儡となった男から情報を引き出したシュヴェリアは不要となった情報屋を帰しながら息を吐く。

 流石に一晩に何人もから情報を引き出すのには苦労する。

 やれやれ、とばかりに肩を回すシュヴェリア。

 ――後は拠点としている宿に帰るだけ……なのだが……

「フム……」

 浮かない顔で息を吐くシュヴェリア。

 本日は少しばかり帰りずらい理由があり、二の足を踏む。

 何があったかというと、事は夕食の時間までさかのぼる。


 ――交易都市ハーペン、宿屋

「暇なのです」

 昼間老人から『賢者』の話を聞き出すことに成功したシュヴェリアたちは宿に戻ると、ステラにそう詰め寄られた。

「暇です、暇です、暇なんでーっす!!」

 ベッドの上で駄々をこねる様に両腕を振り回すステラにシュヴェリアとクレハは後ずさる。

「二人とも帰って来るの遅いです。どんだけ暇だと思ってるんですか!? なに考えてるんですか? 私を駄目な人にするつもりですか?」

 喚き散らすステラになだめる様に近づくクレハ。

「す、すみません。ステラさん情報収集していたらつい遅くなってしまい――」

「ついって何ですか、ついって――!!  私はもう一週間もずっとこうなんですよ!!」

 限界が来たらしい。シュヴェリアはそう悟った。

 確かに助けられた恩もあるだろう。外に出られないのも自分の所為、そう思い今まで暇でも我慢していたステラだったのだが、流石にもう限界だったのだろう。それがついに爆破してしまったのだ。

 今まで魔王として100年近く退屈を味あわされてきたシュヴェリアだからこそ、この狂気は理解できる。暇というのは人を、悪魔すらも狂わすものだと――

「もう無理です、もう限界です! 私も外に出るんです――」

 どうしましょうシュヴェリアさん。ベッドの上で暴れるステラを尻目に視線を送ってくるクレハにシュヴェリアは何も返すことが出来ない。

「……取り合えず、食事にしようか」

 そう言って話を誤魔化すことしか出来なかった。


 その後、「食べたら寝ろと? 私は家畜さんですか……」そう涙を流すステラをクレハに任せ、用事があると宿を出て来た。

 故に、実に帰りづらい。これがシュヴェリアの本音だった。

 とはいえ、一晩外で過ごすのも……

 こんなことで野宿をするのも情けない。適度に夜回りをして帰ることにしよう。そう考えていた時だった。

「……何者だ?」

 人気のない路地を歩いていたシュヴェリアは背後に気配を感じて剣を向ける。

「……おいおい、マジかよ」

 驚いた様子で一人の男が姿を現す。

 ひょうひょうとした様子の男は、両手を上げて物陰から出て来た。

「気配は完全に消してたはずなんだが――なんでわかったんだ??」

 腰から下げた剣、身にまとった鎧。おそらくその風貌からして傭兵と思われる男は剣を向けたシュヴェリアに恐れる様子無く尋ねて来た。

「……フム、潜伏関連の『スキル』を使っていたのか確かに見つけにくかったが……」

「『スキル』? なんだそりゃ? 『特性』のこと言ってんのか」

 男の言葉に眉を顰める《ひそめる》シュヴェリア。

(『特性』? そういえば前のアレンとかいう男は自分の技を『刃技』と呼んでいたな『スキル』の呼称に違いがあるのか……気を付けねば……)

 シュヴェリアはあくまで平静を装い続ける。

「それは失礼した。私にはそういった潜伏関連の『特性』を無効化する『特性』があってな」

 男はその言葉に驚きを見せた。

「潜伏の特性の無効化? おいおい、とんだレア特性持ちじゃねぇかよ。

 ……やべーやべー、俺がこっち来て正解だったわ」

 男は安堵したように息を吐くと、上げていた手を下ろし、シュヴェリアに向き合う。

「俺は見ての通り傭兵だ。依頼主の命に従いここに来た。あんたかなりの腕利きなんだろ? ああ、言わなくてもいい。見りゃ何となく解る。――かなりヤバイレベルの奴だってな」

 男のへらへらした視線に光が宿ったのをシュヴェリアは見逃さなかった。

 この傭兵はシュヴェリアとして会った人間の中では今のところ一番の腕利きだろう。

「あんたがこの街で何してんのか知らねえが、あんたみたいな胡散臭いのをいつまでも放置しておくわけにもいかなくてね」

 男は嫌そうに自分の剣に手をかけた。

「それは大変失礼した。――それで、実力行使に出ようということでいいのか?」

 シュヴェリアが剣先を向けたまま笑みを投げかけると、男はうんざりしたように「だって素直には帰ってくれいないだろ?」と呟いた。正解だ。

 シュヴェリアはすでに抜いた剣を持つ手に力を入れなおす。

 しばしの静寂が流れ――

 ――キンという甲高い音が夜の街に響く。




「おいおい、マジかよあんた!!」

 傭兵の男が剣を引き抜いたのを確認し、一気に距離を詰めるシュヴェリア、瞬時に甲高い金属音が周囲に響いた。あまりの速さに男が怯む。

「はえぇって、尋常じゃなく早え!!」

 男はシュヴェリアの検速にどうにか自分の剣を追いつかせると、何度か切り結び、体制を整える。

 シュヴェリアの剣を大きく弾き、今度は大降りになったその剣をどうにか受け止める。

 男の剣は男の身体ごと吹き飛ばされ、男の両足は砂煙を上げてどうにか止まる。

「じょ、冗談だろ? 何ちゅう実力してんだよあんた!!」

 男の言葉にシュヴェリアは顔色を変えず構えなおす。

(この男、思ったよりも出来る――)

 シュヴェリアは隙を与えず、再び切り込む、警戒した男は今度は切り結ぶのではなく、回避に専念した。

(下手に切り結ぶのはダメージが大きいと判断したか。いい判断だ)

 男の剣は魔力のこもったいい太刀筋の剣だった。だが、シュヴェリアの剣筋と比べれば威力は落ちる。

 威力の低い剣と高い剣ぶつかり合えば自然と弱い方に負担がかかる。あえて受け止めず、流すことで自分のダメージを減らすのは彼が戦い馴れている証拠だ。

「無論、私相手にそんな戦術を選べるのもな――!!」

 シュヴェリアは隙を突き、男の腹部めがけて蹴りを入れる。剣に集中していた男はよけきれず蹴り飛ばされた。

「ぐへぇ!!」

 嫌な音と共に飛び去る男の身体。魔力のこもった蹴りはかなりの威力がある。蹴り飛ばされた男は数メートルを飛び、転倒し、砂煙を上げて止まる。

 おそらく防御はしただろう。派手に喰らったように見えるが致命傷にはなっていないはずだ。

 数秒時間をおいて、男が起き上がる。

「げほ、げほ、やべ、マジでやべぇ、こりゃ相手出来んわ」

 男は何とか立ち上がると、何かの詠唱を始める。 

 撤退のためのモノかと一瞬慌てたが――

「……ほう、これは――」

 男の剣には氷が張りつき大きく形状を変え変化する。

 ――エンチャント、魔法と剣技の一体化である。

「なるほど――、これが貴様の奥の手か」

「ああ、あんた相手に出し惜しみとかできる立場じゃないんでな」

 男は頷き剣を構える。

 ――ならば、シュヴェリアはスキル『紅蓮』の発動準備にかかる。

 男との間に間合いを図り、そして――

「行くぞ!!」

 2つの剣がぶつかり合った。




 ――やられたな。

 水蒸気が周囲を包む中で、シュヴェリアは立ち尽くす。

 シュヴェリアの剣と傭兵の男の剣がぶつかり合い、激しく双方のスキルと魔法がぶつかり合った。火属性を持つ紅蓮と相手の氷属性の魔法がぶつかり合えば起きるのは大量の蒸気の発生。視界の悪くなる中、男には逃げられてしまった。

(あそこで紅蓮を使ったのは失態だったな。まさか、そこまで計算して……いや、向こうとは初対面私が過去に使ったスキルから計算ということはないだろう。ということは、氷系の魔法を使えば火系の何かを使ってくることに賭けたのか)

 もしそうだとすれば、氷のエンチャントを行った時点で向こうは逃げる気満々だったということになる。逃亡系の魔法をあえて使わずこういう方法で逃亡を図るとは何とも手が込んでいる。

「だが、まあ、確かに有効だな。そうでなければ逃がしはしなかった……」

 敵が逃亡ではなく戦闘の続行を選んだあの瞬間、面白いと思ってしまった。故に生んだ隙だった。

 もし、単純な逃走魔法ならそのまま追尾していただろう。

(いい手だな、覚えておこう)

 シュヴェリアは剣を鞘に納め、帰路に就いた。

 ――しかし、シュヴェリアはそこで知ることになる――

(さて、戻ったはいいがクレハたちはもう寝ているのだろうか)

 静かにドアを開け、中に入ると――

(!? 鍵が開いている? というか、気配がない?)

 急いで明かりをつけるがやはり誰もいなかった。

 これは――

 一体何が起きているのか、すぐに直前の戦闘のことが思い出された。

 そういえば、先ほどの戦闘の最中のあの男は自分がこちらに来てよかったといった。

 こちら、つまり、あの男には別動隊がいたということになる。

 まさか――

(クッ――やられた!!)

 あの男はシュヴェリアが宿に戻るのを遅らせるための時間稼ぎだったのだ。

 そう、シュヴェリアはあの男に2重ではめられていたのだった……

 



 































 

 

 

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