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エルフの少女ー1

「本当に相部屋でよかったのか?」

 シュヴェリアの問いにクレハは頷く。

「はい、問題ありません。今後のことを考えたらお金も無駄にできませんし――」

 宿に着き部屋を見回す。それほど豪華ではないシンプルな、しかし、少し広めな部屋で2人は会話を交わす。

 あの後、再び情報を集めて回った二人は時間を見て宿に入った。元々数日滞在の予定で来ていたので予定通りではあるのだが――

(まさか、相部屋でいいと言い出すとは思わなかったな。信用されていると思うべきなのだろうか……)

 流石に、どうせあなたのモノになるんだから――、と投げやりになってはいないだろう。

 ……自分の中にこんな邪な感情が眠っていたとは思わなかった。

 眠っていた黒い感情が大きくなっていくのを感じたシュヴェリアは、そこから派生した馬鹿な考えと共にその感情を理性で流した。

平静を装いベッドに腰を掛けるシュヴェリア。切り替える様に息を吐く。

 隣ではクレハがベッドに寝ころび疲れた身体を伸ばしていた。

(何だろうな、密室に2人きりになったとたんこんなことを考えるとは)

 男の性と言ってしまえばそこまでなのだろうが、自分にもそんなものがあったことに少し驚きがあった。まあ、考えてみれば、異性と個室で2人きりになる状況など今までほとんどなかったのだから、無いと錯覚していてもおかしくはないのかもしれないが。

 どちらにしても自分の新たな一面が見えたことには間違いがない。しかし――

(……これではヴァルヴェロたちのことを笑えんな……)

 クレハに気づかれないよう頭を抱えるシュヴェリア。

 まあ、それはそれとして、今日得た情報の整理を始める。

「――何か役に立ちそうな情報はありましたか?」

 その様子を見て、ベッドの上で伸びていたクレハが近寄って来た。

 無防備な姿に黒い感情が再び揺れたのを感じたが、そこは理性でねじ伏せる。

「そこまで大した情報はないな。メイア殿から聞いていた通りの情報ばかりだ」

 シュヴェリアの言葉に残念そうにするクレハだが、まあ、それは仕方がない。普段見かけない男が話を聞いて来たところでそれほど深い情報を流してくれる者もいないだろう。ましてや聞いている多くは一般人、それほど重要な情報を知っているはずもない。大した情報が集まらなくて当然だ。

「そうがっかりするな、情報収集というものはそういうものだ」

 情報を収集するにも時間がかかる、ゆえに数日の滞在を予定している。滞期間中に有益な情報につながる糸口を見つけることが出来ればいいのだ。

(――まあ、その糸口についてはすでに目星はつけているのだが)

 シュヴェリアは手帳を閉じると怪しく口元を緩めた。

 今日の取集活動中に運よく情報屋に関する話を聞くことが出来ていた。情報屋の存在、それさえ聞ければ後はどうとでもなる。悪魔――それも魔王であるシュヴェリアには並みの人間を傀儡と化すことなど容易、会うことさえ出来れば相手の持っている有益な情報をすべて引き出すことが出来るのだ。

 最も、それをクレハの前で行うことは出来ない。彼女の目を盗み、今夜にでも会いに行こうと考えている。

「情報収取なんてしたことなかったですけど、案外大変なんですね。知ってる人に聞くだけだからもっと楽なのだと思ってました」

 ベッドの上で崩した足をさすりながらクレハが呟く。今日一日歩き通したことを思い返しているのだろう。あれだけ歩いて成果無しというのは割に合わないと考えているのだろう。

シュヴェリアは頬を緩めると「まあな」と返す。

「だから、情報屋という職業がある。重要な情報には対価を払う価値が出てくるわけだ。

 逆を言えば、対価を払えばすぐにいい情報を得ることもできるということだがな」

 問題はその対価が『リーゼ村』にはないということだが。

「むむぅ……情報収集も少しずつ、コツコツやっていくしかないんですねぇ……」

 難色を示すクレハをみて頷くシュヴェリアは心の中で「人間の場合はな」と付け加える。

「――さて、そろそろ食事にしよう」

 シュヴェリアはすっかり暗くなった窓の外を見ると、立ち上がりクレハに声をかける。

 クレハは頷きそれに付き従った。




「……第三王位継承権をもつフェルティナ王女は『村狩り』に反対していると聞きました……」

 深夜、交易都市ハーペン、その路地裏で虚ろな目をした男が感情のこもっていない言葉で呟く。その目の前に立つ大剣を背負った剣士は怪しげな気配を纏い、男の言葉に耳を傾けている。

「――他に何か役に立ちそうな情報は持っているか? 出来れば、対サダムストの意思を掲げる組織の情報などあるとうれしいのだが」

「……対サダムスト……反乱軍のようなものでしょうか?」

「そうだ」

「……でしたら一つ聞いたことがあります。対帝国を掲げたレジスタンス組織が存在すると、あくまで噂で正確な情報ではありませんが……」

「構わないその組織に関する情報を教えてくれ」

「……すみません、噂程度なのでろくな情報はありません、ただ『ウンブラ』とかいう敬称で呼ばれていたかとお思います……」

「『ウンブラ』……影か――」

 剣士は呟くと、男に指示を出す。

「ご苦労だった、もう行っていい。今夜あったことは他言無用、可能なら忘れろ、いいな」

「……はい、解りました……」

 男はそれだけ言い残すとフラフラとその場を後にする。

 剣士は聞いた情報をメモに残すとその場を離れる。

「中々の収穫だな、肝心の反目組織についてはイマイチだったが――」

 闇夜を歩く剣士、路地から出てきたことでその姿が月明かりに照らされ明らかになる。先ほどの怪しげな気配はもう目にはなく、怪しい容姿以外はいたって至って普通な様子だった。

「――ふむ、思ったよりも魔力を消費してしまったな。慣れない魔法を使ったせいだろな。普段から悪魔としてのスキルに頼りすぎているツケが回って来たか」

 シュヴェリアはそんなことを呟き、自身の中の魔力量を確認する。

 悪魔が他者をコントロールするには大きく2つの方法がある。一つは魔法による洗脳、これは術を使えれば人間等の他種族でも可能だ。もう一つは悪魔としての魅了、洗脳能力こちらは悪魔特有の能力で全ての悪魔が使えるわけでもないが使い勝手は魔法より上だ。

 そのため、この能力がある悪魔は普段は魔法ではなくこちらでの洗脳を行いがちなのだが、現在のシュヴェリアは悪魔の力が使えない。よって仕方なく魔法で洗脳を行ったのだが、慣れない魔法と言うのは使用に負担がかかる。余計に魔力を消費してしまった。

 悪魔のスキル、特性が全て使えないというのは案外不便なものだと実感する。

「予定よりも時間がかかってしまった。早く戻らないとクレハに抜け出したことがバレてしまう」

 シュヴェリアは急ぎ足で宿を目指した。余計な説明をするのは何とも面倒だ。気付かれずに済むならそれに越したことはない。

 ――おかげで飛び出して来る影をよけ損ねてしまった。

「キャッ!!」

「しまった」と思ったときには遅かった。

 突然わき道から飛び出してきた何かにぶつかるシュヴェリア。自身は体制を崩すようなことはなかったが、ぶつかった何かはその衝撃で体制を崩し倒れてしまう。

「……失礼、大丈夫か?」

 突き飛ばしてしまった相手に手を伸ばすシュヴェリア。ボロボロの布を頭からかぶったその人物はどこか怯えたような反応を示した。

「ご、ごめんなさい、もう逃げません、逃げませんから許してくださいぃぃぃ!!」

 慌てた様子で頭を抱え縮こまる少女。

 何やら勘違いを受けているらしいが――

 ふと、頭を抱えた手に視線が行く。

(拘束具?)

 その両手は拘束具によって繋がれていた。よく見れば首元にも拘束具がはめられており、そこから鎖が伸びている。

 ……どうやらあまり関わってはいけない部類の存在のようだ。

 シュヴェリアは一歩引き、どうすべきか思考を始める。

「――探せ!! まだ遠くには行っていないはずだ」

 どこかからそんな声が聞こえた。

 少女はハッとしてすぐさま立ち上がり走り出すが――

「ひゃぁ!!」

 慌てて走り出した所為か足をもつらせてずっこける。

 頭からかぶっていたボロ布が滑り落ちた。少女の美しい金髪が振り乱れ――

「!?」

 驚き言葉を失うシュヴェリア。その少女の耳に視線が釘付けになる。

 人のものとはまるで違う長い耳、先のとがったそれは間違いなく――

「エルフか!?」

 シュヴェリアの言葉に「いたた……」と倒れていた少女が起き上り振り返った。涙目のその蒼い瞳には恐怖が宿っていた。

(こんなところに何故エルフが――)

 よく見ればずいぶん奇妙な格好だった。彼女は手と首に拘束具を付けて、足は裸足、しかし、その服はというと、ドレスとまではいかないが仕立てのいい高級品、先ほどまで被っていいたボロ布とは似ても似つかない。

 一体どういう状況なんだ??

 関わらない方がいいことは間違いないが、このまま放置していいものかも判断しかねる。

 そうこうするうちにエルフの少女は震える足に力を入れて立ち上がり駆けだした。だが、どうにも力がはいっていない。あんな歩みではすぐに追跡者に捕まってしまうだろう。

「……うーむ……」

 シュヴェリアは悩んだ末、その後を追跡することにした。




「はぁ、はぁ……」

「いたぞ、捕まえろ!!」

 夜の街を駆けるエルフの少女、その背後を4人の人間の男たちが追う。

「あの野郎、捕まえたらただじゃおかねぇ!!」

「やめとけ、領主様への貢ぎ物だぞ!?」

 怒鳴りながら走る4人組を尻目にエルフの少女は走る。しかし、足は思う様に動かない。力が入っていないのは百も承知、しかし、それでも走るしかない。ここで捕まればもはや逃げるチャンスなど皆無なのだ。必死に走る。

 ――しかし、相手との距離は徐々に近づいていく。

 もうだめだ――、そんな考えが何度も頭を過ぎった。

「え!?」

 そんな少女の前に更なる絶望が現れた。――行き止まりだ。

 嘘――、慌てて振り返るとそこにはいやらしい顔をした4人組がいた。

「残念だったな」

「行き止まりだ」

「たく、手こずらせやがって……」

 じりじりと迫って来る4人組に後ずさる少女。

「おい、こいつ処女だったか」一人が呟くと、「そのはずだ」と一人が頷いた。問いかけた一人が舌打ちをする。

 「じゃぁしょうがねぇ、他で頑張ってもらうか」

「おい、さっき言っただろ、領主様への貢ぎ物だって」

「いいじゃねぇか、いらん手間をかけてくれたんだそのぐらいしてもらわんと割に合わん」

「黙ってたら解らねぇって」

 否定的だった男も、「そういうことなら」と頷く。

 下品な男たちの視線が少女の豊満な胸部に集中していた。その視線に恐怖を感じ怯える少女。

「……ところで一つ聞きたいのだが、あの少女は何をしたのだ?」

「ああ? 何言ってんだ何もしてねぇよ。ただ捕まって人売りに出されてだけだろ? それが俺たちの客に買われただけだ」

「――つまりは奴隷、奴隷ビジネスの被害者という訳か」

「奴隷ビジネスの被害者って……なんだよ今さ――」

 途端に会話をしていた男たちの一人の首が飛ぶ。まさかの事態に他の3人が奇声を上げた。

「うわ!!」

「なんだよ、これ!!」

慌てて飛びのくと、切られた男の背後に一人の剣士がいた。

「そうか、素直に答えてくれて感謝する。これは礼だ、受取っておけ」

 シュヴェリアはそういうと剣を振り、その刃に付いた血を払う。

「中々の褒美だろう? 奴隷商人として幾人もの同族を苦しめて来た者がこんなにもあっさりと死ねるのだから」

 残った3人の男たちに問う様に言うと、男たちからは「誰だお前は!!」と当然の質問が投げかけられる。

 シュヴェリアは無視して、後方に回り込もうとした男の頭に短剣を投げる。スイッチが切れた様に倒れる男。

「私は無駄なことはあまり好きではなくてな、これから死ぬ奴らにわざわざ名乗るようなことなどはしていないのだ」

 すぐさま手にしている剣で目の前のもう一人に切りかかる。瞬く間に、首と胴体が切断され物言わぬ骸に変わる。

「ひ、ひぃ!!」

 一番威勢の良かった男が情けない悲鳴を上げた。

「やれやれ、解ってはいたがこの手の連中はお前たちのような奴しかいないのか? 弱い相手には平気で剣を向け調子に乗ったことを言うくせに、強い相手には悲鳴を上げるしかない。お決まりのパターンもいいところだぞ?」

 腰を抜かした男ににじり寄るシュヴェリア。男は腰を抜かしたまま後ずさり続け、やがては追い詰めていたはずの少女すら追い越していく。

――そして

「あ!?」

「残念、行き止まりだ!!」

 袋小路の先の先まで追いつめられたところでシュヴェリアの剣の餌食となる。


「…………」

 シュベリアは剣に付いた血を払うと静かに鞘に納める。その後投げ放った短剣を回収するとエルフの少女の元に向かった。

「……さっきの剣士さん?」

 何故こんなことになったのか理解が追い付いていない少女の前に立つと少女はシュヴェリアに問いかけた。

「そうだ」と答えるシュヴェリア。「どうして」と続ける少女に、「なんとなくだ」と答える。

「……な、なんとなくって……」

 途端にスイッチが切れた様に崩れ落ちる少女を抱きとめる。

「――さて、クレハには何というのがいいかな?」

 シュヴェリアはエルフの少女を抱きとめたまま天を見上げた。



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