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村狩りー6

「おばあちゃん!」

「クレハ!」

 兵士たち多くが沈黙したことにより、クレハは戦場を移動。無事に祖母たちリーゼ村の者たちと合流した。

「大丈夫か、クレハ!」

 クレハのボロボロの姿を見て心配するゲン。クレハは笑顔で頷いた。

「大丈夫だよ。……本当言うと、ちょっと危なかったんだけど……」

 クレハは敵指揮官3人相手と戦う剣士に視線を向ける。

「――シュヴェリアさんに助けてもらったから」

 少し熱のこもった視線がしっかりとシュヴェリアに向けられていた。

「旦那にか、ああ、そうだよな。やっぱ、すげぇぜ、あの人は!」

 シュヴェリアは敵指揮官3人相手に一向に引けを取らずに戦っていた。とても割って入れるような動きの戦いではないため、村人たちは応援に徹していた。――もうはやボロボロで動けるような状態でなかったというのもあったのだが。

「旦那なら勝てる、あいつらにも! 村を守れる!!」

「そうだ、剣士様なら――」

「いけぇぇぇぇ、剣士様、そんな奴らやっちまえ――!!」

 しかし、この状況でも誰一人逃げようとしない。そこは評価するべきだろう。やはり、この村の人間は誰もかれもがこの村を愛しているのだ。

 この村を壊させてはいけない。クレハの中でこの思いがより強くなっていく。

「あ、おい、あいつ!!」

 不意に、村人の一人がシュヴェリアとは全く関係のない方を指さした。帝国の兵が武器を構え立ち上がっていた。

「あいつ、自分の隊長を援護するつもりだ!!」

「くそ、そうはさせねぇぞ!!」

「剣士様は俺たちが護るんだ!!」

 何人かの村人が立ち上がり、兵士に向かって行く。

「…………みんな」

 この村は何があっても守らなければいけない。この村が大好きだから。クレハは強く、強く思った。

「おばあちゃん、私も行ってくるよ!」

 銃を構え、クレハは兵に向かった。




「む?」

 シュヴェリアはギメルたち3人と戦いながら、周囲の様子を伺った。

 何かあったようだ。それまでいたって変化のなかった周囲の状況があわただしくなってきたのを感じる。

 よく見てみると、村人が兵士たちと戦いを始めていた。

(これはどういう状況だ……?)

「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 よそ見をしている場合じゃないとばかりにシュヴェリアに迫る剣。しかし、シュヴェリアはそれを苦も無く弾き、吹き飛ばす。何事もなかったかのように周囲の状況に注意を払った。

 どうやら戦線に復帰しようとしている兵を村人が止めているようだった。理由は恐らく、シュヴェリアを助ける為だろう。シュヴェリアが相手にする人数がこれ以上増えないように、彼らは命を張っているようだ。

(馬鹿なことを……)

 正直、ここに居る全ての敵兵がシュヴェリアに襲い掛かったとしても、シュヴェリアは切り抜けることが出来る。シュヴェリアと帝国兵の間にはそれだけの戦力差があるのだ。

 別に村人の助けなど必要とはしていないだというのに……

 こんな無駄なことに命を張るなど馬鹿馬鹿しい。シュヴェリアにはそう思えてならなかった。それを理解できていない無知さも流石は人間というものだろう。…………だが。

(それがこの村の住人か……)

 その愚直さは愛すべきところがある。いかに自分が無力でも、愛する者のため、護りたい仲間のためには命を張るのも惜しまない。人間が持つ、愛すべき力だ。

 だからこそ、今、シュヴェリアはここに居る。

「……フン、全く、面白い奴らだな」

「何?」

 シュヴェリアのつぶやきを聞き逃さなかったギメルはその声を自分への者だと思い、声を荒げた。

 アレンとエインもギメルの声でシュヴェリアに注意を向ける。ほほ笑むシュヴェリアが視界に入り、気分を害したとばかりに3人は斬撃に力を入れる。

 しかし、そんなことはシュヴェリアの知ったことではない。軽く受け流し、距離を取った。

そして――

「……もう少し遊んでやるつもりだったが、気が変わった」

「なんだと!?」

 声を荒げるギメル。シュヴェリアは冷静さを保ったまま続ける。

「お前たちのようなグズをからかっているうちに、奴らに死者が出たのでは笑えないのでな」

 何を言っているのか解らない3人。しかし、馬鹿にされたことだけは解る。

 ボルテージを上げる帝国軍の指揮官3人にシュヴェリアは言い放つ。

「次で、終わりにする。覚悟を決めろ!」

 シュヴェリアの言葉に怒り、同時に戦慄する3人。

 剣を構えなおしたシュヴェリア。

 ――そして、飛び出す。次の瞬間。

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 アレンの叫びが響いた。

 シュヴェリアとほぼ同時にこちらに向かい飛び出した帝国の3人。瞬く間に彼らに接近したシュヴェリアは接触するやいなや、ギメルを切り飛ばし、エインを蹴り飛ばす。そして最後の一人アレンの斬撃を躱すと――その片方の刀を腕ごと切り落とした。

 流れるような鮮やかな動作。ギメルたちは何が起きたのか解らなかったことだろう。

「アレン!!」

 大量の鮮血を左肩から噴き出す部下を見てギメルが声を上げた。

「貴様ぁぁぁぁぁ!!」

 次は自分のやられる番とでも思い錯乱したのか、目の色を変えて迫って来るエインを文字どおり一蹴するシュヴェリア。ボールのように蹴り飛ばされた頭が、跳ねる様に大地を数回はずみそのたびに肉体が力なく大地に叩きつけられる。

「な、なんという……何なのだ、奴は!!」

 ギメルが狂ったように叫んでいた。

「言っただろう? 強者だよ。お前たちが野放しにしておけない反逆の意思を持つ、な」

 シュヴェリアはゆっくり剣を振り、刀身に付いた血液を払うと、とギメルに向かい告げた。

「さて――」

 シュヴェリアは不敵に笑うとギメルに尋ねた。

「お前の部下は皆手負いのようだがどうする? ――ああ、そうか。反逆者は例外なく処刑するように言われているんだったな? では続けるとするか、お前の命が尽きるまではつき合ってやろう!!」

 シュヴェリアは短刀を取り出すと左手に構えた。今までは決して本気ではなかったということを知らせるため、2本の剣で新たな構えをとる。

「ぐ、ぐぅ……」

 シュヴェリアの威圧に顔面を蒼白させたギメルが怯む。

 彼はシュヴェリアが一歩、また一歩と近づくたびに、後ろに引き下がっていく。

 不敵に笑うシュヴェリア。

「どうした? かかってこないのか?」

 シュヴェリアが問うと、ギメルは奥歯を食いしばり、身を震わせた。汗の粒が滝のように頬を流れていく。

 流石にここまで来れば、狩る側だったはずの自分が既に狩られる側に立ってしまっているのも解るというものだ。

 シュヴェリアは今一度前に出ると、殺気を込めて呟いた。

「助かる方法を考えているのならあきらめろ。お前はすでに死神に見られた身だ。今更、逃げ場などない。――己の行いに後悔し、苦しみ、死にゆくのみだ」

 シュヴェリアの恫喝に声を上げて怯えたギメル。直後放たれたシュヴェリアの斬撃を死に物狂いで躱すと、シュヴェリアをすり抜け、自分の馬まで走る。

「た、隊長!!」

 ギメルの突然の行動に驚く部下たち。急いでその後を追う。

 もはや勝ち目はないと悟ったらしいギメルは部下を待つことなく、馬を走らせた。

 堂々と歩んできたリーゼ村の橋を無様に逃げ戻る。生き残った兵の中でなおかつ、逃走を邪魔しようとした村人の妨害をくぐり抜けることが出来た数人がその後に続いた。

「何とも往生際の悪い…………」

 シュヴェリアはその行動にため息を吐いた。追撃を考えていると。

「む、奴は?」

 切り捨てたはずのアレンの姿がなかった。よく見ればエインの姿もない。あるのは切り落としたアレンの左腕と刀のみだ。

(なんとまあ、逃げ足の速い……)

 剣の腕は口ほどにもなかったが、どうやら、逃げ足の速さだけは一級品らしい。

シュヴェリアは落ちていた左腕から刀をはぎとると、振り返った。

「忘れ物は返してやらねばな――」




「あの野郎、殺してやる、絶対に殺してやる!!」

 どうにかギメルの後に続くことが出来たアレンは、傷口から鮮血を噴出しながらも右手で馬を操縦し、リーゼ村を後にする。続くことが出来た兵は数名、中にはエインの姿もあった。

「エイン、アレン、無事だったか!!」

 村を離れ、安心したのか戦闘を駆けていたギメルが部下の元まで馬を下げてきた。

「ギメル……」

 部下を置き去りにし逃走したギメルにエインは何か言いたげだったが、あの状況では下手なことは出来ない。ギメルの「解っている」という苦悶の表情に言葉を切った。

「殺す、あのスカシは絶対にこの俺が殺す!!」

 片腕を奪われ半ば狂乱するアレンをなだめるエイン。

「解っているこのままにはせん!! 体制を整えて必ず――」

 ギメルも再戦を約束して押さえようとした。しかし――

「あのスカシ野郎――!!」

 アレンの興奮は収まりそうになかった。

 腕を奪われ頭に来るのは解らなくはない。しかし、今のアレンはかなりの重傷者だ。変に興奮して、出血をひどくしては助かるものも助からない。

「ギメル、早めにどこかで馬を止めてアレンの治療を――」

「ああ、解っている。十分に距離は取った。もう少し離れたらすぐに――」

 ギメルやエインがアレンの容態について心配するのもかまわず、暴走したように叫ぶアレン。

「殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すー」

 狂ったように殺すを連呼していた。アレンの凶暴性を知る他の部下たちからすると、それだけで恐怖だったことだろう。

「殺す殺す殺――」

「落ち着け、アレ――」

 恨みを募らせるアレンをエインが再び落ち着けようとした時だった。

「忘れ物だ、受け取れー!!」という言葉がどこかから聞こえた気がした。

 振り返ると、遥か背後で何者かがこちらに向かい叫んでいるのに気づく。エインはすぐにそれが例の剣士だと気付いたが――

「は、流石にこの距離では何も出来まい」

 自分と相手の距離を確認し、そう、馬鹿にしたように呟いた。

 しかし、直後に何かが自分のすぐ隣をすり抜けた様に感じ、大きな不安が押し寄せる。気のせいかと思ったが――

「…………」

 急にアレンが静かになったことに異変を感じた。まさか――、嫌な予感が走り。

「ア、アレン!!」

 ギメルの声で振り返り、エインは自分の認識の甘さを知る。

「馬鹿な! こ、この刀はアレンの!!」

 馬にゆすられるアレンを見てエインは驚きの声を上げた。

 アレンは背後から刀によって胸を射抜かれていた。――彼の左腕と共に置き去りにしてきた彼の刀で。

 崩れ落ちるアレンの身体。馬から力なく落ちたその肉体はたちまち逃げる一団の後方、彼方へと消える。

「アレンがやられた!? どうして? ……まさか、この距離で!!」

 錯乱したように叫ぶエイン。この姿もろくに見えないこの距離で刀を投げ、対象を射抜くなど信じられなかった。――だが状況を考える限りそれしか答えがない。

「な、なんなんだ! なんなんだ、あいつは!!」

 エインの声は、事態に焦り更に距離を取ろうと急ぐギメルの指示と共に、すさまじい速度で村から離れて行った。


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