村狩りー5
「げほ、げほ……」
急に投げ飛ばされたクレハは一人、その場に座り込みせき込む。
拘束していた3人はすでにいない。どこに行ったのか? 意識が途切れかけていた所為もあり、投げ飛ばされたときの記憶があいまいでよく覚えていない……
周囲を見てみると、砂煙が立ち込め、視界はほぼなくなっていた。
一体何が起こったのか。砂煙が晴れるのを待った。
やがて、砂煙が晴れ、自分が投げ飛ばされたのではないと気付く。
何かが爆発した形跡があった。そこを中心にすべてが吹き飛び、自分も拘束していた敵兵ごと吹き飛んだのだ。
「一体何が――あ!!」
クレハは爆破の中心に視線を向けた。爆破の中心には誰かがいる。その誰かが誰なのか解ったとき、クレハの瞳は涙をこぼした。
「…………」
そのマントを纏った人物は剣を携え、その場に静かに佇んでいた。
布に包まれた大きな剣を背負い、フードを深くかぶったその人物はクレハの視線に気づくと静かにほほ笑む。
「…………シュヴェリア……さん……」
そこにはクレハが知る限り最強の剣士がいた。
その最強の剣士は剣を一振りすると天に向かい叫んだ。
「下らん――本当に下らん戦いだ。
この戦いには誇りも、威信も何もない。あるのは狩る者と狩られる者の存在だけだ、反吐が出る!」
剣士は続けた。
「このような戦いが――狩る側の身勝手が、好き勝手に通るというのならば、私も戦うとしよう。お前たちのように身勝手に、な!!」
剣士は振り上げた剣を振った。空間が引き裂かれるかのように突風が起り、爆炎を吹き飛ばしていく。
――新たな戦いの幕が開いた瞬間だった。
「シュヴェリア殿!?」
「旦那!!」
去ったはずの剣士の出現にメイアやゲンをはじめとしたリーゼ村の面々が驚きの声を上げた。歓声こそは上がらなかったが、皆、目を丸くし、こちらを見つめている。
シュヴェリアは爆煙を切った剣を右手に、メイアたちの方へと歩み寄った。
「今の爆発は……貴様は一体――!?」
何者だ? そう視線で尋ねてくる敵指揮官ギメル。シュヴェリアは鼻で「フン」と笑うと剣の切っ先でギメルを指し答えてやる。
「お前の部下が待ち望んでいた強者という奴だ。お前の言うところの反逆者でもいいぞ?」
馬鹿にするように答えてやる。「貴様……!」と奥歯を噛み締める音が聞こえた。
口元を緩め、嘲笑してやる。
「シュヴェリア殿、何故!!」
ギメルをあざ笑っていると、メイアが後ろから問いかけて来た。シュヴェリアは振り返り、メイアの問いに答える。
「何故? 決まっている。
ドンだの、バンだの、うるさいものだから外に出てみたら、この騒ぎだ。うるさくておちおち寝てもいられん。静かにしろ! とばかりにたまらず加勢したという次第だ」
コミカルに説明すると、メイアはそれこそ顎が外れたかのように口を開けて固まった。何をいているのか理解できない。そう言っているようにも思える。
しばらくしてシュヴェリアの言っていることを理解すると、メイアは戸惑いながらも口を開いた。
「シュ、シュヴェリア殿、今朝早く旅立つようにと言ったはずですが!」
「ああ、そうだったな。聞いている。しかし、今日に限って寝坊をしてしまってな。起きたらすでにこの騒ぎだったのだ。私は寝起きが悪い方でな。支度を整えるなり、つい、騒音の元凶に切りかかってしまった」
「私としたことがいかん、いかん」とわざとらしく頭をかく。メイアはこれでもかと言うほどに呆けた顔でシュヴェリアを見つめていた。
わざとらしい棒読みの笑いで話を誤魔化していると、敵側に動きがあった。
シュヴェリアは馬鹿な演技をやめ、すぐに敵の方に向き直る。
「ハン、強者で反逆者……ね。俺の前でよくそんなことが言えたもんだ」
見ると、目つきの悪い二刀流の男が、こちらに睨みを効かせ威嚇している。
あのギメルの部下のアレンとか言う男だ。
「強者と聞いてさっそく出て来たか。なるほど、どこまでもハイエナのような奴だな。
――で、だとしたらどうする?」
シュヴェリアは挑発するようにアレンに問いかける。
挑発に乗ったアレンは怒りをあらわにするように目を見開いた。
「ふん、決まってる…………殺すだけだ!!」
瞬間、地面を踏み切ったアレン。シュヴェリアも後ろのメイアたちを巻き込まないように数歩前に出る。
「へやぁ」
独特の掛け声と共に刀で切りつけてくるアレン。その刃を手に持っていた剣で止めるシュヴェリア。すぐに弾き、2本目の斬撃も同じ剣で弾く。
「はっ、初撃は止めたか、だがな!!」
アレンはそのまま2本の刀を乱舞し連続公攻撃に入った。
シュヴェリアは剣を素早く動かし、刀による攻撃を防ぐ。2本の刀の連続攻撃を1本の剣で防ぎ続けた。
しばらくの間、そうして切り結ぶ2人。
ふと、アレンが次の行動に出た。2本の刀による同時攻撃。速度からパワーに切り替えて来たのだ。
シュヴェリアは素早く剣を走らせ、足に力を入れて踏ん張った。2本の刀を受け止める。
「ほう、どうやら、強者と言うのはただのハッタリではないようだな。そこそこ腕に覚えはあるようだ」
「解ってもらえたようで何よりだ」
受けた剣越しに、挑発するようにこちらに顔を近づけるアレンにシュヴェリアはクールに返した。
「スカシた野郎だな、ならこれはどうだ?」
アレンはいけ好かない相手を見るような目つきでシュヴェリアを睨むと一旦刀を引き、再び切りかかって来た。
「何度やろうと――」
「『刃技』――」
「む!?」
シュヴェリアは攻撃に異変を感じ、アレンの一撃を防御した。
先ほどのようにシュヴェリアの剣にぶつかり止まるアレンの刀。
「――何!?」
しかし、その後先ほどとは違う展開が起り、シュヴェリアは驚きの声を上げる。
剣で刀は確かに止まった。しかし、止めた途端に刀が破裂をしたかのように剣先で爆破が起ったのだ。
「……これは……!?」
爆破に少し吹き飛ばされたシュヴェリアは、体制を整えながらアレンの動きに注意を払う。
「俺の『刃技』の味はどうだ? スカシ野郎!!」
再び切りかかるアレン。シュヴェリアは一旦引き下がろうとして考え直す。
先ほどの斬撃だけならともかくこの爆破では後ろのメイアたちを巻き込む可能性がある。
シュヴェリアは無理に前に出て、アレンの攻撃を止める選択を取った。同時に爆破が起こる。
すぐに連続攻撃に入るアレン。爆破の連鎖がシュヴェリアを襲う。
「……決まったな」
2人の戦いの様子を見ていたギメルは呟いた。
「ああ、アレンの連撃を止めたときはまさかと思ったが――」
一度は吹き飛ばされたエインもいつの間にか、ギメルの隣に戻り、その行く末を見ていた。
「アレンの『刃技』-ボムスラッシュは斬撃そのものを爆破させ、強力にする。あれを先の連撃のように連続で受け続ければ、そのダメージですぐに立つことも出来なくなる。
防ぐには斬撃事態を回避して爆破を起こさないようにするしかないが……」
「後ろに村人がいたのではあの剣士は回避は出来まい」
「ああ、現にあいつはあの瞬間わざわざ前に出て攻撃を受けに来た。……あのままでは村人が巻き込まれると読んだのだろう」
少し残念そうに言うエインを見てギメルは頬を緩めた。
「随分残念そうだな。戦いたかったか?」
「当然だ」と頷くエイン。
「奴はアレンとまともにやり合える。ここ最近ではめったに見ない強者だ。あそこであえて前に出る選択を取ったということは、あの一瞬で爆破を回避する方法に気づいていいてもおかしくはない。こんな不意打ちじみた方法でなければ、アレンなどにはやられはしない」
「だろうな。だが、そんな者がいたのでは私たちの仕事にならない。今回はアレンに花を持たせてやろう」
戦いの進行を見てすっかり勝った気でいたギメルとエインだった。恐らく配下の兵たちもそうであり、村の者たちも敗北を感じていただろう。だが――
「――そうか、では次はお前に相手を願おうか?」
「「!?」」
どこかから聞こえて来た言葉にその意思が揺らいだ。
「これで終わりだ!!」
アレンの連続攻撃は最後の大爆発で幕を閉じた。
多量の爆煙が上がり、視界は限りなくゼロに近かった。――爆破の多さを物語る。
「ちっ、ちょいと張り切り過ぎたか……」
真っ白に染まった視界にアレンは少し反省したように頭をかいた。
「だが、これだけ打ちゃぁ……」
普通に考えれば何発も直撃しているはずだ。もしかしたら原型が解らないぐらいはじけ飛んでいるかもしれない。そんなことを考えながら、不気味な笑みを浮かべる。
「ハン、粋がった割にはあっけなかったなスカシ野郎」
アレンがそう言い放った時だった。
「あが……」
何かがものすごい勢いで顔に命中した。何が――、思考する間もなく
「――ぐおぉぉぉ!!」
その勢いに足が浮、彼方へと吹き飛ばされる。
いつの間にか遥か後方にあった家がいつの間にか目の前に、気付いた時にはその中に突っ込み、全身が痛んだ。
「やれやれ……」
アレンが起こした爆煙をかき分け、その中から一人の剣士が姿を現す。
「な!?」
「馬鹿な!?」
ギメルとエインは同時に驚きの声を上げた。
煙の中から突如、勝者になったと思われたアレンが吹き飛ばされて飛んできた。これだけでも十分すぎる驚きだっただろう。だが、敗者となったはずのシュヴェリアが――
「あり得ない………………無傷だと!?」
爆煙に包まれる前と全く同じ様子で出てくれば、それは驚かない方がどうかしているだろう。
――人間の常識なら、だが。
煙から出て来たシュヴェリアはマントに着いた煤を払うと面倒そうにつぶやいた。
「全く、退屈過ぎてストレスが溜まった。おかげで力加減を間違えて家を一つ駄目にしてしまったではないか、どうしてくれる?」
シュヴェリアが問いかけると、ギメルとエインはそろって驚愕したように呆けていた。
まさかこんなに驚かれるとは思ってはいなかったシュヴェリアは周囲を見渡す。敵兵は皆同じような顔をしていた。
どうやら今殴り飛ばした男は彼らの中ではかなりの強さだったのだと知る。
(フム、あんなにあっけなく倒してしまうのはまずかったか? ……まあいいか)
シュヴェリアは剣に付いた煤を振り落とすとエインめがけてその切っ先を向ける。
「次はお前が相手をしてくれるんだったな? さっそく相手をしてもらおうか?」
シュヴェリアは先の話を盗み聞ぎ、それをそのまま言っただけなのだが――
「ぜ、全兵に次ぐ、第一体制だ!! 奴を取り囲め!!」
警戒されたシュヴェリアは、30人近い兵に囲まれてしまう。
「……先ほどと話が違うな……正々堂々、一騎打ちがお望みかと思ったのだが……」
シュヴェリアがつぶやくのもかまわず、急に焦り出した敵指揮官ギメルは30人全員に突撃命令を出す。
30人の兵が一斉にシュヴェリア目指して駆けだした。
「フン、全員一斉か。この間の魔獣よりは能があると誉めてやろう」
シュヴェリアは剣を構えると、まずは一振り、5人を軽く吹き飛ばした。続いて、近づいて来た者たちに得意の『スキル』―瞬刃によって切り伏せる。これにより10人が吹き飛んだ。
――残りは15人。
シュヴェリアは最初に使った『スキル』―紅蓮を再び発動し残ったものを全て吹き飛ばす。
この間約5~10秒だった。
「ぐおおお!!」「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴を上げて次々と吹き飛んでいく兵士たちを見てギメルは目を見開き顔を蒼白させた。
「嘘だろ、これだけの兵を、い、一瞬で……」
エインは目の前の存在の特異性に気づき、声を震わせる。
「な、なんと……!!」
「すげぇ……すげぇよ、旦那!!」
村人たちはシュヴェリアの強さに驚き歓喜の声を上げた。
「フン、5人か……思ったよりもしぶといな」
一方、シュヴェリアは切ったときの手ごたえを確認し、仕留めたものの人数を数えていた。10人は行くと思っていたのだが……思いがけない計算ミスに動きが止まる。
(まあ、もっとも、飛ばした中の5人は生きてはいるが、動けはしないだろう。時間の問題だな)
しかし、それで片付け、次へ――
先ほど、自分と戦いと言っていたエインに向かい歩き始める。
「さて、では相手をしてもらおうか?」
「!!」
すぐに臨戦態勢をとるエイン。先ほどとは違い明らかに余裕がないが……
背後を確認すると、ギメルも臨戦態勢を取っていた。
「ほう、2対1か」
どこまでもクソだな、と言い放ってやるが、向こうは引く気がなさそうだ。表情に余裕が見られない、このまま始めるしかなさそうだ。
まあいいか、そう思ったとき。
「……3対1だ」
瓦礫の中から一人の兵士が立ち上がって来た。
「もう回復してきたのか、しぶといな」と言う視線を思わず向けてしまうシュヴェリア。
「アレン、行けるのか?」
「……ああ、問題ない」
二刀流の剣士は頷くと、おぼつかない足取りで構える。
「フン」鼻を鳴らすシュヴェリア。
「いいだろう、3人まとめて相手をしてやろう」
シュヴェリアは剣を構えた。




