村狩りー4
「ついに来たのう――」
メイアは口を強く結び身構えた。
橋を渡り、リーゼ村内に入り込んだサダムスト帝国軍の一部隊は村を突き進み、村人が集まる、村の中心にある広場でその足を止める。
乗って来た馬や馬車から降りて続々と村人の前に集まる兵たち。
総勢30人ほどの小隊規模の兵団。100人規模のリーゼ村を潰すには十分すぎる人数だろう。
敵の規模の大きさに、その場に集まった村人たちが身を萎縮させた。
「私はサダムスト帝国軍のギメルだ。この部隊の指揮官を務めている!!」
萎縮する村人をよそに、帝国の部隊の中から一人の兵が前に出た。剣を腰に携えた彼は小隊から一歩前に出ると、声高々に叫んだ。
「私は我が主、サダムスト帝国国王からの御達しを我が国のリーゼ村の住人たるお前たちに伝えに来た! 村の代表者は前に出ろ!!」
「……私がこの村の村長です」
メイアの隣に立つ、リーゼ村村長が前に出る。
「貴様がそうか」ギメルは声を落とし、目の前の村長に歩み寄った。
村人全員に緊張が走った。
メイアの傍らで、クレハが銃のベルトを握っている。まだ銃を構えないように促すメイア。ふと周囲を見渡すが、シュヴェリアの姿はなかった。
無事に出て行ったのだと安堵し、メイアは息を吐く。
「今、帝国は魔王により物資を要求され窮地に立たされている。今後は今まで以上に大量の物資が必要となるだろう。そこで、この村の税率を上げることになった。これが新たな税率だ」
ギメルより村長に書類が手渡される。書類に目を通し、村長は目を丸くした。
「な、これは……無茶です。今までの5倍だなんて、支払えるはずがありません!!」
ざわつくリーゼ村住民。ギメルは冷酷に吐き捨てる。
「国が危機に立たされているのだ。国民として、身を削るのは当たり前だろう? 魔王への支払いが出来なければ国が滅びかねんのだ」
勝手な言い分を並べるギメル。早くもゲンが我慢の限界とばかりに口を開いた。
「こっちが困ってても何もしちゃくれないくせに、何が国だ!! 自分が困ったときだけ、偉そうにしてんじゃねぇ!!」
「そうだそうだ!!」と村人たちからヤジが飛ぶ。身勝手な言い分に腹を立てていたのは皆同じだった。
「はん、何の力もないクズの分際で大した言い分だな、ええ!?」
サダムスト軍の兵の一人がそう言いい、前に出た。腰元にある刀らしき剣に手をかける。
村人全員がたじろいだ。
「待て、アレン兵長、刀を収めろ」
ギメルは先走ろうとする部下を制止すると。再び、村人に視線を向ける。
「お前たちの言い分を聞くつもりはない。これは国王陛下からの御命令だ。歯向かうなら、我々は、それ相応の対応をしなければならない」
先ほどの兵長の行動後、妙に殺気立ち始めたサダムスト軍を見てメイアは思った。彼らは初めからこちらを狩り殺すつもりでいるのだと。
全員がそうではないのだろうが、彼らは恐らく、多くがこの狩りを楽しんでいる連中なのだ。
「外道共め……」
メイアは人知れず呟いた。
「クソ共が!!」不意に声が聞こえ、一人の老人がギメルへと駆け寄る。老人はギメルの近くまで行くと手にしたクワを振り下ろし、彼を襲う。
「ふん!!」
ギメルの背後から一人の兵が剣を振り、そのクワを止めた。
「ゲンさん!」
「クソ!!」と老人が舌打ちすると同時に村長が叫んだ。
「ゲンさん何をしておるんじゃ!!」
メイアが叫ぶと、ゲンは奥歯を噛み締めて叫んだ。
「こんなクソッたれ共と話すだけ無駄だ。こいつら、はなっからこっちをやるつもりでいやがる!!」
どうやらメイアが感じたものをゲンも感じたようだった。ゲンの叫びにざわつく村人たち。
一方、サダムスト側は――
「エイン副長、助かった」
「いえ……で、どうするつもりですか? 少なくとも、あの爺さんはやる気満々のようですが?」
予想通りの展開と言わんばかりに冷静だった。
「フム、取り合えず、あの老人には死んでもらおう。反逆者は例外なく処刑するように言われているしな」
「了解」言うが早いか、エインは剣を走らせ、ゲンを狙う。
「!? いかん、ゲンさん」
メイアが叫ぶが、研ぎ澄まされたエインの剣は早く、ゲンが気付くころにはその切っ先はゲン捕らえようとしていた。
「――何!?」
ふと銃声が響き、引き下がるエイン。間一髪のところで躱したつもりが、頬に被弾し、鮮血がにじみ出た。
隙のない狙撃に、兵士たちの視線が銃声の先に視線を向ける。
「クレハ!!」
命拾いしたゲンが叫んだ。
敵に銃口を向けたクレハが、鋭い視線で睨みをきかせる。
「俺に当てただと? あの小娘……」
クレハの腕がただ者ではないと即座に見抜くエイン。
ギメルが「ほほう」と声を漏らす。
「多少は戦えるものがいるようだな。これは少しは楽しめそうだ」
本音が出たというべきか、突然そんな物騒なことを呟いた。
「隊長、どうやら向こうもやる気満々みたいだぜ? とっとと始めないか?」
アレンがクレハを見て刀を構えなおした。
「フン、どうやらそのようだな」
ギメルは呟き、村長に向き直る。
「返答は……もはや聞かなくても決まっていそうだな?」
ギメルの問いに、武器を手に持ち頷く村人一同。ギメルは鼻を鳴らした。
「どうやらお前たちは国王陛下の決定に異議があるようだ。国王に異議する者は、反旗を翻さんとするもの、例外なく皆、反逆者だ。皆の者、武器を構えろ、反逆者に容赦は要らぬ」
お決まりの身勝手な言い分で部下に抜刀を指揮する。
「――殺せ!!」
待ちかねた、と言わんばかりに剣を抜く、サダムスト兵たち。
武器や農具を持った村人に向かい駆けていく。
交戦を始めたサダムスト兵とリーゼ村の村人たち。
その指揮官の3人はと言うと――
「おい、隊長、あの小娘はどうする?」
「せっかくの大きな獲物だ。私がもらう」
おそらくこの中で一番強いと思われるクレハを取り合う、アレンとエイン。
「お前たち、久々の強者を前に興奮するのは構わんが少し落ち着け。よく見ればあの女、なかなかの上玉だ。殺すには惜しい、3人がかりで生け捕りにする」
嫌らしい笑みを浮かべるギメル。その笑いに、クレハは背筋を冷やした。
「は、そっちのお楽しみが優先か」
「……了解、確かに楽しみは後に取って置いた方がふえるというものか」
部下2人はすぐに、ギメルの指示に賛同し、同じくいやらしい視線でクレハを嘗め回した。
身の危険を感じたクレハだが、ある意味これは好都合と言える。一番強いであろう3人が自分を狙うのであれば、自分が頑張れば勝機も出てくる可能性がある。
「……負けない!!」
クレハは銃を構え、身構えた。
「行くぜ!!」
すぐにクレハに向かい切りかかるアレン。エインがそれに続く。
鋭い斬撃を銃で止め距離を取る。銃撃、しかし、すぐにエインが目前に現れ慌てて銃で攻撃を止めた。
「フン、我ら3人を相手に、女一人でまともに戦えると思っていたとはな」
「!?」
いつの間にか背後に回り込んでいたギメルに拘束されたクレハ。
「は、一丁上がりだ」
あっけなく捕まってしまう。
「ふん、本来ならばもっとちゃんと戦いたかったのだがな……」
悔しそうにいうエイン。
クレハはギメルに拘束されたままもがくが、拘束を解くことが出来なかった。
「く、は、放せ!!」
必死にもがくとギメルが首の締め付けを強くする。
「お前には貢ぎ物になってもらう、下手に傷つけると後々面倒だからな」
そういやらしい笑みを向けられた。それでももがくクレハ。
村のみんなが必死に戦っている。自分だけ、こんな無様な敗北をしている場合ではないのだ。
「ちっ、うるせぇな。静かにしろよ!!」
「うっ……」
アレンに腹部を殴られ、意識が遠のく。
「相変わらず手が早いなお前は」
エインが笑った。
「まあ、気を失ってくれた方が、楽でいい」
ギメルはそう言うと、首の締め付けを強くした。更に意識が遠のく。
「く、うう……」
皆が戦っているというのに……
クレハは意識が飛ばぬように必死にもがいた。しかし、それでも意識は遠のき、もう駄目、そう思ったときだった。
「…………下らんな」
どこかから待ち焦がれた声が聞こえた気がした。
「!? クレハ――」
敵のリーダーたちに拘束された孫の姿にメイアは悲鳴を上げる。
「死ね!!」
そのメイアに向かい剣が振り下ろされた。
「あぶねぇ!!」
ゲンがクワで兵士の剣を払い、メイアを助けた。
「何してんだ、ばあさん!!」
一歩間違えば死んでいたメイアに怒鳴るゲン。
「クレハが――」
メイアは拘束された孫を指さしゲンに訴えた。
「!? クレハ――」
ゲンもクレハの状態に気き、一瞬助けに向かわなければと考えるが。
「はぁ!!」
自身に振り下ろされた剣をみてそれどころではないと考えを改める。
「ばあさん、悪いが今はそれどころじゃねぇ、俺らは今、戦ってるんだ!!」
村人の状況は最悪だった。人数こそ多かったため、初めの衝突では死者は出なかったが、いつ誰が死んでもおかしくない状況。そして、死者が出始めれば数でも劣り始め、たちまち劣勢に陥るだろう。遠くの誰かを助けている暇などない。
奴らの好き勝手を許すつもりなどないが、そうするしかない状況だった。
――そして、その時はすぐに訪れた。
若者の何人かが負傷し、倒れる。手が空いた兵は深追いせずにすぐに他の村人に手を伸ばした。数が減れば、すぐに倒せると解っている。先に戦える数を減らしに来たのだ。
そしてある程度戦況がよくなれば……
「ばあさん、あぶねぇ!!」
メイアめがけて剣を振り下ろす兵士。メイアは全力でそれを回避したが、2度目はない。しかし、兵はすぐに剣を再びメイアに向けた。
「ばあさん!!」
ゲンも自分の身を護るの手一杯だった。
もうだめだ。メイアを含め誰もが覚悟した。だが――
「――下らんな」
その一言と共に現れた何かが全てをなぎ倒す。
「――紅蓮!」
大爆発がその場の全てを吹き飛ばした。




