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村狩りー1

 シュヴェリアがクレハの救出のために、旧都バネポセ付近で名を馳せた……えーと……、何とかという盗賊団を壊滅させてから数日が経過した。

 村はすっかり平穏を取り戻し、活気も以前より出たように思える。

 近年まれにみる危機に連続して襲われたリーゼ村だったが、偶然現れた旅の剣士シュヴェリアの活躍で村は守られ、再び平穏が訪れたのだ。……と、まあそれ自体は問題ないのだが――

「お、旦那、お帰りですか?」

 村に入ると畑を耕していた男に突然そんな声をかけられ頷く、シュヴェリア。

「あ、剣士様、こんにちは。ほら、挨拶は?」

「けんし様こんにちは」

 続いてすぐ通りかけた親子に頭を下げられる。またも合図を返すシュヴェリアだが……

「けんしさまだー」「剣士様こんにちはー」「け、剣士様こんにちは、きょ、今日もす、素敵ですね!!」

 次々に飛んでくる挨拶や歓声に、次第に戸惑い、反応を返すのがだんだんと遅れていく。それもそのはず、行きかう人誰もが足を止めるどころか、シュヴェリアが視界に入っただけで、駆け寄り挨拶を返してくるのだ。どうしていいのか解らなくなるのも無理はない。

 気付けば、シュヴェリアの歩く道には人だかりが出来ていた。

「すっかり人気者ですね」

 隣を歩くクレハがにこやかに笑いかけて来た。顔を引きつらせるシュヴェリア。

「別に望んでなったわけでもないのだが……」

 限りなく本音に近い一言に、クレハの笑顔が苦笑に変わった。

 ――剣士シュヴェリア、その存在はもはやリーゼ村では知らぬものは居ない。彼は村人全てが認めるリーゼ村の『英雄』になっていた。

「シュヴェリアの旦那、用事はもうすんだのか?」

 人だかりの真ん中でクレハとそんなやり取りをしていると見覚えのある初老の男が声をかけて来た。

「ゲン殿か。ああ、無事に終わった」

 シュヴェリアが頷くとゲンは「そうい、そりゃよかった」と笑顔を作った。男らしい豪快な笑顔だった。

「あんたがいてくれないと、なんだか落ち着かなくてな」

 少し気恥ずかしそうに言うゲン。

「おや、珍しい。ゲンさんらしくない弱気な発言じゃないか」

「剣士の旦那がいないと、何かあったらどうしようって、不安でしょうがないってか?」

「確かに、剣士様がいてくれれば私も安心だけど……」

「な!? おい、お前ら俺が心配してんのは村のことだよ。なんかあったときに、俺が代わりにどうにかしないとって話だ! 別に俺自身がビビってるわけじゃねぇ!!」

 村人数人にからかわれ、ゲンは顔を真っ赤にして怒っていた。何とも平和なやり取りである。

 「ふう」と息を吐くシュヴェリア。

 もめるゲンや村人たちを見ていると、なんだか胸を撫で下ろすような息が出た。

「ふふ」

 ふと笑い声が聞こえ見てみる。クレハが口元に手を運んで笑っていた。クレンシェルと同じ、慎ましい笑い方に心臓が大きく脈打つ。

「シュヴェリアさんもすっかり村の一員ですね」

 突然そんな事を言い出したクレハ。疑問を返すと、

「だって、今、皆のやり取りを見て、ホッとしたでしょ?」

 と、答えた。てっきりゲンたちのやり取りを見て笑ったのだと思ったのだが――まさか、そんな細かい仕草を見られているとは思いもしなかった。

シュヴェリアは反論できず、気まずさを誤魔化すために頭を掻いた。

 平和になったリーゼ村。

何はともあれ、これで安心して本格的な生活実態の調査が出来るというものだ。シュヴェリアはそんなことを考えていた。だが――

「はぁ…………はぁ…………た、大変だ!!」

 一人の村人が帰ってきたことでそんな考えは吹き飛ぶことになる。

「アレグリアの村が『村狩り』に遭った!!」

 村人たちの安寧の日々と共に。




「な、なんだと――!!」

 それまでの和やかなムードが瞬く間に一転した。静まり返る一同。

「村狩りって……」

「ほ、本当なのか」

 途端に不穏な空気が立ち込める。

 シュヴェリアの前を横切り、駆けあがって来た村人の元に近寄るゲン。

 坂を駆けあがってきた――いや、そのアレグリアと言う村からここまで全力で走って来たらしい若者は息を整えるの必死でこちらに反応を返す余裕はない。誰が見てもそんなことは明らかだったことだろう。だが――

「おい!! 本当なのか、なんとか言え!!」

 その若者に対し、ゲンは掴みかかり尋ねる。慌てて止めに入るシュヴェリア。

「待て、ゲン殿! 彼は今、話せる状態ではない」

 落ち着く様に促すが――

「これが落ち着いていられるか!! おい、『村狩り』ってのは本当なのか!? 冗談や間違いじゃ済まねぇぞ!!」

 ゲンはシュヴェリアが止めるのも聞かずに、更に強く若者に迫った。

 その様子からただ事ではないことを感じながらも、どうにかゲンをなだめようとするシュヴェリア。半ばゲンともみ合になりながらも彼を止める。すると――

「ほ、本当だ。間違いねぇ。この目で見た。あれは間違いなく『村狩り』の跡だ!!」

 息を切らしている青年が膝に手を着きながらもそう話した。

「う、嘘だろ?」

「アレグリアってすぐ隣の村だろ? そこが村狩りに遭ったってことは……」

 次々に表情を曇らせていく村人たち。『村狩り』とは一体何なのか。

 シュヴェリアはそれを尋ねるためクレハの元へと駆け寄る。

「!? クレハ?」

 うつむいていたクレハに声をかける反応がない。伏せた彼女の顔を覗き込んでみると彼女は真っ青な顔で震えていた。

 驚き、どうしたのか尋ねるが、クレハはおぼつかない口調で単語を口ずさむばかり会話にならない。一体どうしたというのか。

 よく見れば周囲の物たちも絶望しきったような顔をしていた。

「くっ、どうしたというのだ、皆、しっかりしろ!!」

 シュヴェリアは声を上げるが、反応を返すものは居ない。ゲンすらもふさぎ込んでいた。

 シュヴェリアは奥歯を噛み締めた。そして、もう一度叫ぼうとしたとき――

「……無理もない。『村狩り』それはこの国の辺境に住む者にとっては死刑宣告に等しいからおぉ……」

 いつもより幾分力のない声量で、その一言は聞こえた。

「メイア殿!!」

 シュヴェリアが振り返ると、そこには見慣れた老婆が立っていた。

「ゲンさん、村長にこのことを伝えて、村の面々を集めてくれんか? 早急に話し合わねばならん、次はこの村が狙われる可能性もある」

メイアの言葉に静かに頷いたゲンはすぐに行動を開始した。

「シュヴェリア殿、一度、シュヴェリア殿の納屋に戻りましょう。そこでご質問にお答えいたします」

 シュヴェリアは頷き、メイアと共に普段寝起きに使っているボロ屋へと移動を開始した。




「さて、どこからお話ししたものか……」

 小屋に着くと、腰を下ろしたメイアは戸惑いを誤魔化すように呟いた。平静を装うとしているのが解る。動揺の原因は恐らく、先ほど出た『村狩り』という言葉だ。

 シュヴェリアは、自分たちについて来たクレハの方に視線を向ける。彼女はいまだに顔色が浮かない。

 シュヴェリアは、動揺する2人にあえて、本題からぶつけることにした。

「……メイア殿、『村狩り』とは何だ。何故、皆あれほどに恐れている?」

 シュヴェリアの言葉に沈黙を返すメイア。少し間を置いて、重い口を開いた。

「…………『村狩り』とはその名の通り、村を狩る事です。ある者たちが大規模な人数で村を襲い、略奪の限りを尽くす。奴らが荒らした後には何も残らず、村ごとなくなる。それが村狩りと呼ばれる所以です」

 メイアの言葉に眉を顰める《ひそめる》シュヴェリア。またか、と言いたい気分だった。

 無理もない、つい先日、そういった横暴な行いをする盗賊団を倒したばかりだ。数日もしないうちにまたそんな連中が現れたとなれば嫌気もさす。

(なんと治安の悪いことだ。一体この国の兵は何をしているのだ?)

 カエリウスからそのような話は聞いてはいない。治安がいいとも悪いとも――まあ、そんなことまでいちいち報告するようには言ってはいないのだが。

少なくともこの数年、この国――サダムスト帝国は繁栄傾向にある。他国を占拠し、国土を大きくしているのがその要因だろう、首都部では土地辺りの人口も増加し、作物などの生産率も向上していた。

治安の悪い中で出来ることではないはずだ。そう思っていたのだが……

「先日の盗賊共の話を聞いた時も思ったのだが、この国の政治家は何をしているのだ? そんな無法者を放置しているなど。『村狩り』などと言う名称で呼ばれているのだ。当然、しかるべき手段で国に訴えているのだろう?」

 あまりのお粗末さに、同じ指導者としてあきれ果てたシュヴェリアは、そんな愚痴交じりの問いで、メイアに尋ねた。すると、メイアは静かに首を振る。

「何?」思わずシュヴェリアはこぼした。

「国に助けを求めていない? 何故だ? 村を滅ぼして回っているような連中だぞ? 何故野放しにする必要がある」

 少し食って掛るようなような言い方になってしまった。しかし、無理もない。この状況で何故国に助けを求めないのか? 普通に聞けば愚か者の行いだ。場合によっては先日の盗賊騒ぎを沈静化させたことにも影響してくる。それはそうだろう。国に助けを求めずシュヴェリアにだけ助けを求めたとなれば、シュヴェリアとしてもあれを無償の行いでは済ませられない。例え、それがいかに大したことのない事象だったとしても。

 シュヴェリアの問いに口を紡ぐメイア。まさかの回答を予期して、シュヴェリアの中でイライラが募り始めたときだった。

「無理ですよ。無駄なんです、国に助けを求めたって……」

 クレハが震えながら声を上げた。震える声と身体。うつむく彼女は怒りと悲しみに打ちひしがれているようだった。

「どういうことだ?」シュヴェリアが尋ねる。クレハは顔を上げ、目じりに涙を浮かべ恐怖するように叫んだ。

「――だって……だって、『村狩り』をしているのが、その国なんですから!!」

「な、なんだと!?」

 あまりの回答に、シュヴェリアも言葉を失うしかなかった。


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