表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/46

円卓ー1

 『円卓』それは悪魔のコミュニティ――人間界で俗に言う国に当たるもの――の1つである。

 通常、コミュニティというものは一体の強大な悪魔の元に、その恩恵をあずかろうという者が集まり形成されていく。核となった悪魔――王の強さに応じて集まるものが増え、より強大になっていく。それが常である。

 完全実力社会の魔界では国のような共同体の形勢でも、その性質が色濃く出るのだ。

 『円卓』はそんな中では異質な性質を持ったコミュニティと言える。

 様々な事情でコミュニティを強大なものに出来ない王が集い、その王たちが協定を結び、議会によって寄せ集まったコミュニティを運用する。複数の中規模コミュニティが集まり、1つの大規模コミュニティとなったもの。

 シュヴェリア――いや、地上を支配する魔王アトライアスが所属するコミュニティでもある。

 当然、このコミュニティには複数の王が存在する。そのため複数の王が、1つのコミュニティを運営するために話し合う会議が必要になる。

 『円卓』、その名前の由来となった議会が存在するのだ。

 ゆえに、所属する王は、一定の周期に一度集まることを必要とされる。

 ――この円卓会議場に。

「…………」

 二―ベルン城の転送装置を抜けて、天空にそびえる会議場に到着したアトライアスは周囲を見回した。暗黒の空が大半を占める魔界だが、あの彼方に見える天空遺跡都市『ヘブンス・ファウンテン』がある周辺だけは明るく美しい。

「ここに会議場を設けるとは、な。いつも思うが、レ―ヴェン議長の発案にしてはなかなかにセンスがいい」

 久しぶりの悪魔の肉体で久々の魔界の絶景を味わうアトライアス。

 ガラにもなく大きく伸びをしながら会議場に続く野ざらしの回廊を歩く。最近はいつも背中に大きな剣を背負っていたものだから、その解放感についつい浮足立ってしまった。

 アクティムがもう少し小さくなってくれれば、シュヴェリアの時も楽が出来るのだが……、そんなことを考えながら歩いていると。

「――む?」

 回廊の階段に誰かが腰かけているのに気が付いた。

 あのシルエットは――

 アトライアスは見覚えのあるその姿に鼻を鳴らした。

「よう、久しぶりだなサボり魔」

 アトライアスを見るとその人物は立ち上がり、悪態をついた。特徴的な巻角――ヤギの頭をし、肉体はアトライアスのような人型ではあるが、獣として特徴をところどころに残している悪魔がそこにはいた。

「久しぶりだなアグゼム。元気そうで何よりだ」

 いきなりの皮肉にも不快感を示さずアトライアスは目の前の悪魔に挨拶を返した。

 魔王アグゼム、アトライアスと同じ『円卓』に所属する魔王で、『円卓』が生まれるより前から親交がある人物。アトライアスにとって友人と言える悪魔だ。

「たく、お前は相変わらず『本議会』以外は平気ですっぽかすな」

「そういうな。これでも色々忙しくてな」

 いきなりの耳の痛い話に「地上の支配者も色々大変なのだ」と思わず話を濁すアトライアスだが――

「嘘をつけ。聞いたぞ、お前今休暇中だそうじゃねぇか?」

 「何が忙しいだ」と確信を突かれてしまう。

 何故それを―― 表情を引きつらせるとアグゼムは意気揚々と話し始めた。

「ついこの間、お前の城に顔を出したんだよ。そしたらお前がいねぇもんだから、どこに行ったのかとカエリウスに聞いたら――」

「うぬ……そうだったのか。……カエリウスめ教えてくれてもいいものを……」

 小声で呻くと、アグゼムは大口を開けて笑った。

「そりゃ無理だ。俺が口止めしたからな。お前がさっきの質問になんて言い訳するか聞きたい、って言ったら快く協力してくれたぞ?」

 カエリウスめ……、再び呻くアトライアス。

 アトライアスは勤勉ではあるが、どうにも会議と言うものは苦手だった。そのため、その手のものは出来るだけ拒む傾向がある。

 すると、アトライアスの副官であり、女房役と言っても過言ではないカエリウスはその辺りのことについても直すようにあれこれ言ってくるわけだ。アトライアスは当然無視するのだが、そうなると向こうは、このように時折牙をむいて来る。

「はは、相変わらずよく出来た副官だな。うちのと変えてほしいぜ」

「……よく言う。よくできているのは認めるが、それはそれで大変なのだぞ?」

 こんなことを言っているが、小うるさいのはアグゼムだって嫌なはずだ。実際入れ替えたらどんなに困る事か……

 一瞬、本当に入れ替えてやろうかと思ったが――

(そうなるとうちにはあの「モーゼル」が来るわけか…… 駄目だ、駄目だ、あんなのに来られたら、軍が崩壊する――!)

 想像しすぐに考えを改めた。すると、旗を翻したようにカエリウスが居てくれるありがたさがどこかからこみ上げて来る。――何とも現金な話だ。

「……ん? どうした?」

「いや……」

 こんなふうにしているが、アグゼムはアグゼムで苦労を抱えているのだとなんだか同情してしまった。

 世間話もそこそこに歩き出すアグゼム。アトライアスもそれに続く。

「――で、休暇を取ってお前は何をしてるんだ」

 アグゼムはアトライアスと横に並び歩き、おそらく最も聞きたかったであろう本題に話を進める。

「何とは――?」

 質問の意味を理解しきった上であえて濁すように聞き返すアトライアス。

 アグゼムは鼻で笑った。

「とぼけやがって。

 お前が素直に休暇なんて受け入れるはずがないだろう。お前は会議に関してはサボり魔だが、基本的には仕事の虫だ。部下に心配されようが、懇願されようが、普通なら休暇など取りはしない。

 俺がそんなことを知らないと思ってるのか?」

 得意げに言葉を並べるアグゼム。アトライアスの顔色は少しずつ歪んで行った。

「カエリウスたちだって口にはしないがお前が素直に休んだことに多少は疑問を持ってるんだ。俺の中では絶大な疑問になっているに決まっているだろう。

 ――何故お前が素直に休暇を取ったのか、考えられる可能性は『休暇を取ってまでしたい何かを見つけた』それしかない」

 沈黙するしかないアトライアス。見事な推測だった。

 魔王、アグゼム。彼を簡単に誤魔化せるとは思ってはいなかったが――、まさか、休暇を取った事実だけでそこまで確信を突かれるとは……

 突き合いが長いというのも考え物だと、アトライアスの視線が彼方を舞う。

「――で、何をしている?」

 見事に確信を突いたアグゼムは、アトライアスが思い悩むのをよそに迫る。

「流石だな、アグゼム。だが残念ながら、別にお前に言うほど大したことはしていなくてな」

 すべて誤魔かすのは不可能だろうと判断したアトライアスは、何かをしているという事実は認め、その内容だけは誤魔かすことにした。

 それはそうだ。『人間の生活実態の調査』などをしているとしれれば、どんな文句を付けられるか解ったものではない。「馬鹿かお前は?」から始まり、「さっさと人間など家畜化してしまえ! 出来ないのなら俺が代わりにしてやる!」で話が終わるのは目に見えている。

「ほう、大したことはしていない、か。――城を離れてまでやっているのにか?」

 しかし、それで納得するはずのないアグゼム。彼は迫り、少しでも内容を聞き出そうとする。

「お前にとって大したことでなくても、私にとっては十分意味のある事。そういうことだってあるさ。私にとっては城を離れてまでやりたかったことだが、お前に改めて言うとなると、その必要性は皆無のくだらない事、そういうことだ」

 あながち嘘でもない言い分で、アグゼムに対応するアトライアス。

 アグゼムはその言い分を聞くと納得したように口元に手を運ぶ。

「ほう。なるほどな。で、何をしている」

 が、依然としてあきらめる気配なく、質問を続けて来た。

「……お前、話を聞いていたか?」

 明らかに不快感をあらわに問い返すアトライアス。

 アグゼムは真剣な面持ちで頷いた。

「ならば何故聞く! 私はお前に言うほどの内容ではないといったはずだぞ!!」

「確かにな、だがそれでも聞きたいから聞いているんだなんの問題がある!」

 アトライアスがやや興奮気味に返すと、アグゼムも、ややエキサイト気味に返してきた。

「私は答えてくないと言っているのだ! そのぐらい解らんか!」

「解っている。だがそれでも気になるものは仕方ないだろう!?」

 だんだんイライラが募るアトライアス。

「そんな理由でいちいち詮索するな!」

「は!! 放って置くとまたろくでもない事をしそうだから心配してやってるんだろうが!」

「なんだと、どういう意味だ?」

「そのままの意味だよ、問題児!」

 その言葉にアトライアスはムキになった。

「私をトラブルメーカー扱いするつもりか!?」

「事実だろうが、人間んてササッと家畜にしちてしまえばいいものを、お前が変な情けをかけるから未だに完全支配も出来ずにこんなことになってる!!」

「な!? 魔界からの要求はちゃんと満たしているだろう!!」

「最低限の、な!! 支配してるのになんでこっちが遠慮してやらなならん!!」

 ついにいがみ合いだすアトライアスと、アグゼム。仲がいいからこそ、こういうことになるのだが、今の2人にそういう話をすれば普通は確実に反感を買うことになったはずだ。

現に――

「大体、私は休日を取っているのだ! 何故、休日の過ごし方までわざわざお前に教えなければならない!!」

「やかましい!! 俺だって好きで、やってるんじゃないって言ってるだろうが! お前を放って置くと――」

「おやおや、相変わらず仲がいいですね。お二人は――」

「「!? なんだと!!」」

 ――突然かけられ声に2人そろって声を荒げる。しかし、

「!!」

「クレンシェル殿!?」

 そこに立っている1人の悪魔――魔王の姿に、2人は即座に姿勢を正した。

「お久しぶりですね、アトライアス公、アグゼム公」

 黒い翼と、落ち着いた司祭の装いをした、人型の悪魔。茶髪のショートヘアで、スタイルの良いその華奢な肉体と整った顔立ち、物腰から一目で女性と解る。――大人の清楚さと美貌を兼ね備える美しい女性だ。

「…………」

「こ、これは、クレンシェル殿……申し訳ない、お恥ずかしいところをお見せした」

 たちまち沈黙するアトライアスと、クールダウンし畏まるアグゼム。先ほどまでとは180度変わった2人の態度に、クレンシェルは口元に手を当てほほ笑む。

「ふふ、仲がいいのは結構ですが、喧嘩はほどほどにしてくださいね。特に、ここは円卓の会議場ですし」

 「う……」と顔を見合わせる二人。すぐに申し訳ないと謝罪をする。

「いえ、解っていただければ結構ですよ。私程度がお二人相手に偉そうに、申し訳ありません」

 腰が低い彼女は一礼してほほ笑む。「い、いえ、そんな――」アグゼムはクレンシェルの言葉を否定するように両手を振った。

 明らかに先ほどまでとは様子の違うアグゼムだが、それについてはアトライアスも触れることない。何故なら自分も似たようなものだからだ。

 気付けば、ぼんやりと、クレンシェルを眺めていたアトライアス。

「? アトライアス公いかがされました?」

 ふとクレンシェルに声をかけられ、正気に戻る。「な、なんでもない」と慌てて視線をそらし否定した。

「そうですか。それはそうと、お二人とも、そろそろ議会の始まる時間ですよ。再開を祝すのも結構ですが、議会に遅れることがないように」

 微笑みを残して歩いて行くクレンシェル。2人はその背中をぼんやりと目で追っていた。

「……相変わらずお綺麗だな、あの方は」

 ふとこぼすアグゼム。「ああ、可憐んだ」アトライアスも頷いた。

 この2人の間ではもう知れ渡ったことなのだが、この2人はお互いにクレンシェルに恋心を抱いている。お互い、一進一退を何十年も繰り返して一向に進展しない恋心を――

 すっかり、クレンシェルに魅了され癒された2人はそれまでの言い争いなどすっかり忘れてその姿が見えなくなるまでぼんやりと彼女の後ろ姿を視線で追っていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ