リーゼ村ー5
ほぼ同時に数人の男が悲鳴を上げる。
「がっ!!」「うおっ!!」
ドシャリと鈍い音を上げて、数名の盗賊が血しぶきを上げてその場に倒れた。
いつの間にか倒れた盗賊たちの近くに立っていた剣士――シュヴェリアは剣を振り、刃についた血を払う。
「な、なんだあいつは!?」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
盗賊の一人が声を上げると、他の数名が叫びを上げて逃げ出した。
「ま、待て逃げるな!!」
その場にいたリーダー格の男が制止する。しかし、逃げ出した者たちはそんな言葉に耳を貸すはずもなく、その場から少しでも離れようと駆け続ける。しかし――
「うっ!!」
突然呻きを上げてその場に倒れた。逃げ出した者全員が、だ。
何が起こったのか? 盗賊たちは倒れた者たちの動向を見守った。だが、その誰もがその後、ピクリとも動かない。
まさか――
盗賊たちが恐る恐る振り返ってみると――
「ふん、まさかこの程度の魔法で一撃とは、な」
剣を下ろし、左手を前に掲げた剣士がそんな言葉をつぶやいた。
左手にはわずかに稲妻が宿り、取り残されたかのようにバチリと音を上げた。
「ま、魔法? ……まさか、こいつ、魔法が使えるのか!?」
驚愕する盗賊たち。明らかに顔色が悪くなる。
ふむ、魔法を使える人間はそれほど珍しくはないはずだが……
シュヴェリアは疑問を抱きながらも、しばらくは人前での魔法の使用は控えるか、と腕を下ろす。
「こ、こんなのありかよ、なんでこんなのが出てくるんだよ!? 聞いてねぇ!!」
先ほど部下の逃走を止めようとしたリーダー格の男が絶望したように嘆く。
「何故だと? ずいぶん勝手な言い分だな? お前たちは他の者よりも力があるのをいいことに、人に恨まれ、命を狙われても仕方のないことを数多くしていたのだろう? これは当然の報いと言うものではないのか?」
シュヴェリアは当然のようにそう言い、近くにいた一人を切り伏せる。
血しぶきが飛び散り、盗賊たちが恐怖に戦く。
「お前たちは少しばかりいい気になりすぎた。その代償がこれだ。甘んじて受け入れるのだな」
再び切り伏せるシュヴェリア。盗賊たちの間に一層広がる恐怖。
やがて、騒ぎに気付いた者たちが増援として現れた。シュヴェリアの恐ろしさを知らない哀れな増援部隊は、意気揚々に侵入者に銃を向けて構え――
「やめろ!!」
リーダー格の男の言葉を無視して発砲。
シュヴェリアはすべての銃弾を剣で来た方向に跳ね返し、そのほぼすべてを一瞬で絶命させる。
「ば、化け物!!」
どうにか生き残った者も、すぐにその恐怖に戦き、恐怖の中で切り伏せられた。
またすぐに増援は現れたが――
「ぐえふ――」
何人現れようと同じこと、シュヴェリアは現れた増援を片っ端から同じように切り伏せて行った。
そして、静かになると、シュヴェリアは再び、リーダー格の男の元へと歩みを進める。
生き残ったリーダー格の男と、その取り巻きは、その様子を見て「ひぃぃぃぃ」と叫びを上げた。
「お、俺たちがやってることより、もっとひどいことをしている連中はいる!! そういう連中は野放しなのに、なんで俺たちだけが――」
やがて、言い訳のようにそう叫び出したリーダー格の男。シュヴェリアは「ほう」と呟き歩みを止めた。
シュヴェリアのその行動に、リーダー格の男は希望を見出したようだったが――
「そうか、それは運がなかったな。私の目に留まったばかりに、お前たちはそいつらより先に逝くことになるようだ」
不平等な答えを容赦なく返すシュヴェリア。
リーダー格の男は横暴だと言いたそうだったが――
「とはいえ、同情の余地はないがな。お前たちはそれだけのことをしたのだ。そうだろう?
世の中は不平等なもの。お前たちがそうであったように、私もそうある、ただそれだけの話」
リーダー格の男が返す言葉を失ったのを見ると、シュヴェリアは剣を構えた。
「納得いったようで何よりだ。もっとも、それでも納得がいかないというのなら、いずれその連中も私が同じように殺すというだけだ。どちらにしてもお前たちに死の拒否権はない。少なくとも私の前ではな!」
人が作った『法』などという決めごとをシュヴェリアは守るつもりはない。シュヴェリアは魔王アトライアス、悪魔であるのだから。
己の道は己の正義で決め、その責任は自分で負うそれが魔王、アトライアスのあり方だ。
シュヴェリアは剣を振り下ろし、その場にいたすべてに死の裁きを与えた。
ガラガラ――、という音で目が覚めた。
誰かがかけてくれた毛布をどけて起き上がる。そこは馬車の荷台だった。
何故こんなところに――?
クレハは自分がここに居る経緯を思い出そうと思考を巡らせた。自分が犯される寸前だったことを思い出し身を震わせる。
「――起きたか?」
ふと声を駆けられ振り向く。そこには記憶が途切れる直前、自分を助けに来てくれた剣士の姿があった。
「――シュヴェリアさん」
呟く様に名を呼ぶと、馬車の操縦をしていたシュヴェリアは少し微笑み、手招きをする。
クレハが毛布から出て、シュヴェリアに近づくと――
「あいた!!」
いきなりシュヴェリアからゲンコツをお見舞いされ、思わず声を上げる。
「この馬鹿者が!! 一体何を考えている! 一人であんな連中のアジトに忍び込むなど――!! 死にたいのか、この愚か者が!!」
予想もしていなかったシュヴェリアの反応に、目じりに涙を浮かべ、頭を押さえ、クレハは戸惑う。
「あ、あう……すみません……」
怒鳴り散らすシュヴェリアに、クレハはただただ謝ることしか出来ない。
さんざん罵られ、罵倒され、自身がどれだけ無謀なことをしたのかをくどいほど言い聞かされた。
(そ、そんなに怒らなくても……)
助けに来たときは、『解っている、何も言うな』とクールな感じだったのに……
確かに無謀なことをしたと自分でも思うし、実際かなり危ないところまで行ったとも思うが――――いや、一歩間違えば確かに……
怒られるうち納得してしまった。
「思えば、ブラックウルフの時もそうだ!! お前は、自分の身の安全を多少なりとも考えているのか? リスク管理がまるで出来ていない! 自分は特別だ、何でもできるなどと馬鹿な勘違いをしているんではあるまいな!!」
シュヴェリアの怒号に耐えるクレハ。数分に亘り怒られた。そして――
「――全く、次同じようなことをしたら、私は助けに行かんからな!!」
「うう……は、はいぃぃ……すみません……」
今後の行動に釘まで刺されてしまった。
貶されに貶され、凹むクレハ。だったが――
「……しかし、まあ、無事でよかった。怖い思いをさせてしまってすまなかったが、間に合ってよかったと本当に思う」
振り向き際に言われたシュヴェリアのその言葉で急に感情が高揚したのを感じた。
そのまま前方に視線と注意を戻してしまったシュヴェリアの背中を見て笑みを浮かべるクレハ。
雨はすっかり上がり、夜空に星がきらめいていた。
「あの少女も救うことが出来たし、盗賊たちも一掃できた。あくまで今回はたまたまだが、その点はお前の手柄だろう……な」
少し強く言い過ぎたと思ったのか、そう付け足すシュヴェリア。
見た目は少し怖いが、この人物の心根は誰よりも優しい。クレハはすでにそれを理解している。
ふと振り返ると、クレハが助けに行った少女が馬車の荷台に積まれたいくつかの木箱の片隅ですやすやと寝息を立てていた。
「見えたぞ、リーゼ村だ」
「はい!」
「帰るとしよう」そういうシュヴェリアの視線に頷くクレハ。
雨上がりのさわやかな風がクレハの頬を撫でた。
「……帰ったら、メイア殿に厳重に注意(説教)をしてもらう様に頼んでおこう」
「え゛!?」
「フッ、覚悟しておくのだな」
「そ、そんなぁ~」




