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リーゼ村ー4

「う……!?」

「おお……!?」

 暗闇に紛れ敵を倒し遺跡を進むクレハ。雨が降っていることが功を奏した。銃声が雨音に紛れ、広い洞窟内にそれほど響かずに済んでいる。

(全員を相手になんて出来ない、早く見つけて逃げないと……)

 ここは危険な盗賊団一味のアジト、もし見つかりでもしたら、そこで終わりだ命の保証はない。

素早く移動し岩陰に身を隠す。次の銃弾を装填し、周囲の気配を探る。

(大分奥まで来たはずだけど……)

 時間が経てば経つほど発見される確率は上がる。慎重さを心掛けながらも大胆に、盗賊団のアジトとなっている遺跡を突き進む。

 周囲につるされている無数のランプのおかげで、洞窟内は暗かったが足元を見ることは出来る。暗闇に足を取られることはない。

 どうやら今の時間活動している盗賊団員は少ない様だ。団の規模のわりに遺跡内部で見かける人数が少ない。彼らの活動時間は主に夜であるため今の時間(昼間)は寝ているのだろう。一仕事終えた後の満足感を抱きながら。

 ……色々と思うところはあるが、今はさらわれた子供の保護が最優先だ。クレハは身をかがめ、銃を抱きかかえる様に構えると、物陰から物陰へ、遺跡内をどんどん進んでいく。やがて、木で作られた柵のようなものを見つける。明らかに遺跡の物ではない、後から作られた建造物だ。

 あれは……檻? クレハは木で作られた柵の奥を覗き込む。

「あっ!?」

 思わず声を上げてしまった。

 そこは岩で区切られた小さな部屋だった。入り口を木製の柵で区切られたそこは簡易的な天然の牢獄。

その牢獄の片隅に目隠しをされ、手をロープで縛られた幼い少女がいた。カギで出入りを制限されたその場所で泣きつかれたように横たわるっている。

(――居た!!)

 叫びたいのをどうにか我慢する。本当にシュヴェリアの言った通りだった。

信用はしていたが実際にこうなると――不謹慎にも少し興奮してしまったのを感じる。

「……ねぇ、君、大丈夫……?」

 小さな声で話しかける。しかし、少女は全く動きはしない。声が小さくて届かないのか、それとも眠っているのか? しかし、近づくには檻が邪魔だ。開けようとしたが、鍵がないため扉が開くことはない。

 ……仕方ながない。

 クレハは銃口を南京錠に向けると一発。

 ――ドォウン。と大きな音が響いた。ずいぶん内部まで入って来ていた所為で、雨の音は聞こえず、銃の音だけが反響してしまったのだ。

 しまった。と思うが、すでに後の祭りだ。急いで木製の檻を開け、横たわる少女の元へ駆け寄る。

「……大丈夫?」

 先ほどの銃声で目を覚ましたのだろうか、少女はクレハの声にすぐに反応を返した。それまで自分たちを取り囲んでいた者たちとは明らかに違う雰囲気にどこか戸惑っているようだった。

「助けに来たよ。もう大丈夫だからね」

 そう言いながら彼女の目隠しと、手のロープをほどく。すっかり涙で目を腫らせた少女は戸惑う様にしていたが。

「行こう、ここから逃げるよ!」

 その言葉にはしっかりと頷いた。少女の手を引くクレハ。2人は急いで牢屋を後にする。後はここから脱出するだけだ。

 ――しかし。

 ――ドォウン。

 岩陰を出た瞬間。銃声が響き、クレハは足を止める。

 クレハの物とは別の銃声だ。自然と顔が引きつる。

「そこまでだ」

 野太い男の声に、ゆっくりと視線を向ける。そこには体格のいい何人もの男がいた。一人は銃口をこちらに向け、多くがいやらしい笑みを浮かべ、こちらを見ていた。

「お前だな? うちのアジトに入り込んだ馬鹿なネズミは?」

 銃口をこちらに向ける男の後ろに立つ、一際大柄な男が口を開いた。どうやら、彼がこの盗賊団のボスのようだ。

「アジトに入り込んで5人も潰すなんて、どんないかつい野郎かと思ったら、ずいぶんきれいな顔してんじゃねぇか?」

 そのボスに続く様に、部下の男が続く、相変わらずいやらしい笑みは健在だ。

「何しに来たのかと思えば、そんなガキを助けに来たのか? お前、あの夫婦の関係者か何か?」

 少女がクレハの足にしがみついて来た。恐怖におびえ震えている。

「クックッ、なんだ、『おねぇちゃん、助けて~』てか? 母親の時もそうしてたなぁ。まあ、もう死んじまったが」

 少女の行動を見て、一人の男が下司な笑い声を上げた。たちまち男たちに笑いが伝染する。

 思わず、男たちに銃口を向けるクレハ。

「おっと、妙な真似するんじゃねぇぞ?」

 すぐさまボスの男以外の全員が銃口をこちらに向ける。

 無数の銃口に怯むクレハ。

「こっちはいつでも、お前らをハチの巣に出来るんだ。――銃を捨てな!!」

 すごむ盗賊。こうなれば一か八か……

 クレハは緊迫した状況で銃口に手をかける。だが――

(この娘まで巻き添えにするわけには……)

 足元の少女のことを気にして、引き金が引けない。クレハは苦悩した挙句――

「くっ――」

 銃を手放す。盗賊のボスは嫌らしい笑みを浮かべた。

「わかりゃあいい。聞き分けの良い奴は嫌いじゃねぇぜ?」

 するとクレハに近づき足を踏み出す。身構えるクレハ。

 ふとクレハの腕をつかみ、強引に引き上げる。

「ケッケッ、かわいがってやるからよ」

 悪寒が走るような男の笑みに、クレハは痛みを忘れて、身の危険を感じた。振り払おうとしたが――

「いや――」

「はん、女の力で何が出来るってんだ? あ?」

 男はたやすくクレハを見伏せ、クレハは背後で腕を固定されてしまった。

「……お前、あの女(子供の母親)の死体を見たんだろう?」

 耳元でささやかれ、一層の悪寒が走った。

「安心しろよ、同じようにかわいがってやるからよ!」

 そう言い側にいた少女を突き飛ばす男。

「ちょっ!!」

 突き飛ばされた少女の身を案じたクレハ。

 少女は倒れこみ、痛みで涙を見せたが――

「はん、妙な真似するとコイツが死ぬぜ?」

 すぐに他の盗賊団員が少女を捕まえ、無理やり起こすと、その頭に銃口を突き付けた。

 恐怖で泣きじゃくる少女。何から何まで、シュヴェリアの想像通りだ、最悪なまでに――

 しかし、クレハは怒っている場合でも、少女の心配をしている場合でもなかった。

「――!?」

 急に後ろで組まれていた腕を投げられ、バランスを崩し、倒れこむクレハ。

「さて、それじゃぁ……お楽しみと行こうか!!」

 ボスの男が叫び、のしかかって来た。集まった盗賊団員たちが歓声を上げる。

「ちょ、嘘、まさか……」

 ここまで来て、ようやく真実味が出た。クレハの頬を嫌な汗が流れていく。

「嘘じゃねぇよ。言っただろ? かわいがってやるって?」

 「い、いや――」クレハの静止を振り切り、上着に手をかけはぎとる盗賊のボス。クレハの下着があらわになる。男たちの間で再び歓声が上がった。

「は、なかなかの上玉じゃねぇか。こんな辺境で、こんないい女を味わえるとはなぁ……」

 感傷に浸るように、盗賊のボスは視線でクレハの下着姿を嘗め回す。

 そして下着にも手をかけようとして――

「い、いや!!」

 クレハは男の手を掴んだ。どうにかこの状況を抜け出そうと抵抗する。しかし、

「良いぜ、多少は抵抗してくれた方が、犯し甲斐があるってもんだ」

大格差があるうえ、のしかかられ、組み伏せられたこの状況では力が出ない。難なく手を払われる。

 それでもどうにか――、足をばたつかせ必死の抵抗を見せるクレハ。

「おらぁ!!」

 しかし、頬を一度力一杯ぶたれると、全身から力が抜けてしまった。

 盗賊団の男たちがいやらしい歓声を上げた。

「なんだよ、もうおしまいか? 昨日のあの女の方が、よっぽどやり甲斐があったな」

 動かなくなったクレハを見て、鼻を鳴らす盗賊団のボス。

「強く殴りすぎなんですよ。お頭は」

「それより早く始めましょうぜ?」

「早く回してくださいよ」

 部下に促されるようにクレハに手を伸ばす盗賊団ボス。クレハの下着に手がかかり、思わずとらわれている少女が目を背ける。

「よし、それじゃぁ御開帳といこうかぁ!!」

 ついにクレハの下着がはぎとられようとした。「いや……」クレハは痛みで朦朧とする中、どうにか残る思考で必死に抵抗の言葉を口にする。しかし、それは何の意味もなさず消え――

「ほら、いく――」

 盗賊団ボスの男が手を引き上げようとした。――瞬間。

「――ぜ?」

 動きを止める盗賊団ボスの男。急にぴたりと動きを止めた彼は、クレハの下着を引きはがす気配もなく、沈黙する。

「お頭?」

 ふと、部下たち疑問の声を上げ、その周辺に集まった。やがて、少しづつ、男は体制を崩し……

「やぁああ――!!」

 固く目を閉じていたクレハにのしかかるように倒れて来た。

 てっきり行為が始まったとばかり思っていたクレハだが――

「……………………?」

 それきり、ピクリとも動かない盗賊団ボス。その様子に戸惑いながらも視線を倒れて来た男の方に向ける。

「――!?」

 のしかかられたままその後頭部に視線を向けて、何故こうなったのかを理解するクレハ。

 同じように、倒れた自分たちのボスを見て、盗賊団の団員たちも何故自分たちのボスが急に動かなくなったのかを理解する。

「なっ、お、お頭!?」

 盗賊団のボスその頭には小型の剣が突き刺さっていた。

「……この……剣は――」

 クレハは思わずつぶやいた。盗賊のボスの頭に刺さる剣には見覚えがあったのだ。

 そう、この剣は――

「やれやれだな……」

 その声は戸惑いで満ちる洞窟で静かに響いた。


暗闇で音がした。コツコツと何者かが歩く音だ。その音は少しずつ近づいて来る。

 やがて、この辺りを照らしているランプにその者の姿が浮かんだ。

「!? 何もんだ!!」

 盗賊団員たちは突然現れた男の姿に驚愕し、クレハは――

「シュヴェリア……さん……」

 現れた男の姿に安堵の笑みを浮かべる。

 男はそんなクレハの姿を見ると大きくため息を吐き。

「やれやれだ。――本当に、やれやれだ!」

 集まった盗賊団員たちに怒りのこもった声を向けた。


 どうにか間に合った。それがシュヴェリアの本音ではあった。事情をはぐらかしカエリウスに尋ねた甲斐があるというものだ。それにしても流石はカエリウスだ。この程度の情報まで管理できているとは驚きに値する。

 ――とまあ、いろいろと雑念はあったのだが。

 クレハの今の姿を見れば、そんな考えは途端に吹き飛んだ。

首の皮一枚とはまさにこのことだ。いくら命が無事でも、貞操を守れないのでは心に大きな傷跡を残すことになる。それはシュヴェリアの望むところではない。

 同時にこのような状況に彼女を貶めた連中にも怒りが沸いた。

(だが、まずは――)

シュヴェリアは男たちの声を無視して一歩踏み出した。

「何もんだって聞いてるんだ!!」

 怒った男たちは銃口をこちらに向けてくる。当然無視して足を進めた。

「てめぇ!!」

 男の一人が銃口に手をかけた。銃弾を放つ。だが――

「な!?」

 銃弾はシュヴェリアに当たることなくシュヴェリアの寸前でマントに当たり、どこかへと消えた。

 シュヴェリアの羽織るマントの持つ力――物理ダメージの軽減――が発動した。

 怯む男たち。シュヴェリアは彼らを無視して、高速移動を繰り出す。その動きは、人間の目には追えない。男たちにはシュヴェリアが瞬間移動したように見えただろう。

「どうやら無事のようだな」

 クレハの元へと移動し、男の死体の下敷きとなっているクレハに話しかける。

「シュヴェリアさん……」

 頬を殴られ、意識がもうろうとしていると思われるクレハに寄り添い、覆いかぶさる死体を起こすシュヴェリア。

「シュヴェリアさん私……」

「大丈夫だ、解っている。何も言うな」

 シュヴェリアはクレハを叱ることはせず、慰めるように呟いた。その様子はいたって冷静で、頼れる剣士を演じていた。――のだが。

「!?」

 瞬間シュヴェリアは動転した。盗賊団のボスだった男の亡骸を動かした際にある問題が発生したのだ。

ボスの男はクレハの下着を握ったまま死んでいた。当然、死人が自分で手を動かすことはない。クレハの下着を掴んだ男の亡骸をシュヴェリアが強引に動かせばどうなるか……シュヴェリアの考えはそこまでいたっていなかった。

(し、しまった!!)

 露わになったクレハの胸元を見て、シュヴェリアはかつてないほどの戸惑いを見せる。

 幸い、シュヴェリアの身体が陰になり、後ろの盗賊団には見えていなさそうだが……

「シュヴェリアさん……」

 気付いていないクレハはうっとりとした表情でシュヴェリアを見てその名を口ずさんだ。クレハは先の「何も言うな」というシュヴェリアの一言に言葉を返しただけなのだが、人知れず問題を起こしてしまったシュヴェリアには、その一言が意味深に聞こえてしまう。

「ま、待て、違うんだ、これは事故のようなもので――!!」

 「責任とってくださいね」そう言われたような気になり途端に言い訳をしていた。

 慌てふためくシュヴェリア、疑問符を浮かべたままクレハは相変わらず自分の状態に気付かない。

 これはこのままやり過ごすのが一番いい!! シュヴェリアはハッとして、冷静さを取り戻すと。

「――少し休んでいるがいい。後は私が引き継ごう」

 そう平静を装い告げた。

「はい」クレハは頷くと、静かに目を閉じた。

 やれやれ。一安心したシュヴェリアは、クレハにのしかかっていた男の遺体を放り投げると、代わりに来ていたマントをクレハに掛ける。――その際、男の遺体から自分の剣とクレハの下着を回収するのを忘れない。

「お、お前、一体!!」

 シュヴェリアの特異さにあっけに取られていた盗賊団たちが声を上げるころ、シュヴェリアは立ち上がった。

「私が誰か、そんなに気になるか? 名乗るほどの名でもないが、別に名乗るのはやぶさかでもない。名乗ってやってもいいさ。……だが、無駄に名乗るのは気が引けるので、な」

顔を見合わせ、疑問を浮かべる男たちにシュヴェリアは告げる。

「フッ――今から死にゆく者に、名乗るだけ無駄だろう?」

「てめぇ!!」

 安い挑発に乗った男の銃弾をシュヴェリアは剣で弾くき、そのままそいつに返してやった。

「うっ!」

 あっけない声を上げてその場に倒れる男。ざわめく盗賊団。

「ふん、この程度の鉛玉で死ぬとはな。ずいぶんと簡単にできているのだな、人間言うのは」

 皮肉のように吐き捨てる。

「――で、次は誰が逝く?」

 シュヴェリアが問うと、男たちは戦慄した。そして一人が、

「う、動くんじゃねぇ。動けば、このガキが死ぬぞ!!」

 クレハが助けに来た幼い少女を人質にすることを思いついた。

 無駄なこと。シュヴェリアは息を吐くと、静かに手を上げ――指を鳴らす。

「な!?」

 少女の意識がおち、少女を拘束していた男が動揺を露わにした。

「泣かれても困るのでな。しばらく眠ってもらうことにした。――で、なんだった? その小娘がどうにかなると?」

 シュヴェリアが問うと、言い出した男――少女を拘束している男が戸惑いながらも「そうだ」と頷いた。

 シュヴェリアは鼻で笑う。

「別に構わんどうとでもすればいい」

「は?」

 あっけに取られる一同、面倒と思いながらシュヴェリアは続ける。

「私が助けに来たのはお前らが犯そうとしていたこの少女だけだ。そっちの小さいのがどうなろうと知ったことではない。殺すなら殺せばよかろう、犯したいなら犯せばいい。そういう趣味があればな」

 シュヴェリアははっきり言い切る。血も涙もない? 結構だ。シュヴェリアは血も涙もあるが、人ではなく悪魔、その王だ。見ず知らずの人間の少女のために流してやる血も涙もないだけ。ただ――

「もっと――」

 次の瞬間、シュヴェリアは高速移動を繰り出した。瞬く間に少女を拘束する男の眼前に進む。

「それまでお前が生きていられればな!」

「ひっ!!」と悲鳴を上げる男、その腕の両方を剣で肩からそぎ取る。

「が、ああああああああああああ!!」

 途端に悲鳴を上げた男。シュヴェリアは少女を回収すると、「うるさい!」とばかりに容赦なく男を切り捨てる。

「ふん、情けない声を上げるものだな」

 シュヴェリアは呟くと切り捨てた男を蔑むように見下した。

「ば、化け物だ」

 一人の男がつぶやいた。

 ようやく気付いたか。シュヴェリアは遅い反応に嫌気がさしたように吐き捨てると。すぐに自分との距離を取り直す盗賊たちに尋ねる。

「一応聞いておこうか? お前たちがあの商人夫婦を殺し、その子供をさらった実行犯。バネポセ近郊で名を馳せていた盗賊団で、クレハ――私の連れも同じような手口で殺そうとしたということでいいのだな?」

 返事はない。しかし、この状況の場合、それは肯定とみるべきだろう。

「そうか、理解した。では私は帰るとしよう。――お前たちを皆殺しにした後でな!!」

 一瞬、「え?」と動じた盗賊団員たちがシュヴェリアの言葉を最後まで聞き一気に戦慄した。


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