リーゼ村ー3
――リーゼ村集会場
民家よりもやや広いその家に入ると、雨にも関わらず、大勢の村人がその場に詰めかけていた。
「クレハがいなくったとはどういうことだ?」
シュヴェリアは集会場に顔を出すなり尋ねる。多くの村人が視線を背けた。
「申し訳ありません、シュヴェリア殿。集会が終わり、シュヴェリア殿にもご教授願おう、ということになったのですが……」
シュヴェリアは当たり障りない言葉で、要するに「シュヴェリアに助けてもらうことにした」と言う村長にたきつける様に訪ねる。
「そんなことはどうでもいい、何故こうなったのかを聞いている!!」
「う、す、すみません。よく解らないのです。私たちも気づいたらクレハがいなくなっていて……皆で探したのですが、見つからず――」
村長はやや怯えながら、そう答えた。
シュヴェリアは舌打ちすると、すぐにその場の者たちに尋ねる。
「誰か、クレハがいなくなったことに関して心当たりのある者はいないか!?」
無言を返す村人たち、シュヴェリアの中で何か、得体のしれない嫌な予感が大きくなっていく。
「まさかとは思うけど……」
ふと、村人の一人が声を上げた。「なんだ?」すぐに尋ねるシュヴェリア。声を上げた少女はやや怯むと……
「も、もしかしたら、あの……亡くなられた、商人さんの子供を……その……」
おずおずと話す少女。瞬間、シュヴェリアの中の嫌な予感が形になった。
「まさか、助けに行ったのか? 一人で!?」
村人の一人が声を張り上げた。村人たちの間にざわめきが起る。
「馬鹿な!?」
シュヴェリアは吐き捨てた。が、それを否定しきる要素がない。むしろ、あの少女ならばやりかねないとすら思わせるものがあった。
(確かに、あの商人夫婦の遺体を確認したとき、何か普通ではないと思ったが……)
まさかそのような行動に出るとは……いや、さすがに考え過ぎか?
すると村人の一人がシュヴェリアの考えを代弁した。
「いくら何でもそれはねぇだろう? 相手はどこにいるのかも解んねぇんだぞ? 森の中には魔獣だっているんだ。この雨の中、探しても見つける前にぶっ倒れちまうよ」
その通りだ。それが解らないほど、あの少女は馬鹿ではないだろう。
「でも、もし、もう潜んでる場所を知ってたとしたら……」
すると、先ほどの少女がそう続けた。どういうことか尋ねるシュヴェリア。
「最近のクレハ、何かおかしかったんです。毎日のように狩りに向かってたし、時には弾が切れるまで戻ってこなくて……今までそんなこと一度もなかったのに……」
少女の話を聞いて、ふと思い返すシュヴェリア。そういえば、シュヴェリアがクレハに初めて会ったときも彼女は弾切れを起こしていた。あの時はさして気にも留めなかったが、よくよく考えればおかしな話だ。村の外は魔獣の住む場所、自らの生命線である銃弾の数を気にせず狩りをしていたなどと言うのは少しばかり抜けすぎている。数日共に過ごしてみて解ったが、クレハはそう言うタイプではないはずだ。
「……弾がなくなることを忘れるほど何かに、熱中していた。何に? まさか――」
すべてが繋がった気がした。確証はない。だが、あの少女の性格を考えれば、可能性は十分にある。
クレハは村周辺にある盗賊共のアジトを探していた可能性がある。奇襲を仕掛けるつもりだったのか、誰かに対処してもらうためだったのかは解らない。だが、村人の安全を考え事前に調査し、もし、見つけていたのだとすれば――今クレハがいない事にも納得がいく。
「あの馬鹿者!!」
シュヴェリアは集会場を飛び出そうとした。
「旦那、待ちな!! どこに行くつもりだ?」
その背中をゲンが止めた。シュヴェリアは振り返ると。
「決まっているクレハを連れ戻す!」
「連れ戻すったって、どこにいるのかもわからないじゃないか?」
「ならば探し出せばいいだけの話だ」
シュヴェリアが村人たちを振り切って行こうとすると、再度、ゲンに止められた。
「なんだ!?」シュヴェリアが不快を露わにすると。
「俺たちも行く、俺たちも奴らのアジトには大方の検討をつけてるんだ」
「戦いでは役に立てないけど、それくらいなら……」
他にも何人かのものが立ち上がった。
「……解った。よろしく頼む」
シュヴェリアは雨の中へと飛び出した。
降り出した雨を凌ぐように、生い茂る木々の中を抜ける。
悪天候によりその森は暗く不気味に演出されていたが、その場を進むその足に戸惑いは見られない。
――村の周辺はすでに調べ尽した。残るはここだけ、ここに彼らは必ずいる!
人目を忍ぶように茂みに隠れ進む。かつて誰かが掘った洞窟遺跡にそれはあった。
「おい、交代の時間だ」
「お、待ってました。じゃあ、後は頼むぜ?」
普段なら誰もいないその遺跡の前にいた不自然な見張り、もはや間違いはない。ここが彼らのアジト。
(……ようやく見つけた)
少女は銃を確認し、静かに奥歯を噛み締めた。
――さらわれた子供はここにいる。
確証はない。ただ、信頼する人が出した結論だ。彼女の中での信憑性はかなり高い。そして、もしそうなら、何が何でも助け出さなければならない。身勝手な殺人者の傲慢で奴隷になどさせはしない!
きっと、かつてのこの銃の持ち主、騎士だった、今は亡き父なら同じことを言ったはずだ。
少女は茂みに潜み時間が経つのを待った。そして――
「――う!?」
一撃。一瞬の隙を突いて、見張りを倒す。銃弾を装填した。
「――行こう!!」
遺跡の前に立ち意気込みを一言。少女は遺跡に足を踏み入れる。
「――クレハ。どこだ、クレハぁ!!」
叫ぶゲン。他の村人も声を上げているが返事はない。
「……チッ、ここでもなかったか!」
人の気配がないことを確認し、地図にマークをうつ。
「ここで3か所目か、ある程度めどが立っていると聞いて期待していたのだが……」
思わず愚痴をこぼすシュヴェリア。ゲンがバツの悪そうな表情で頭を掻いた。
「すまねぇ、旦那。2か所も回れば見つかると思ってたんだが……」
何とも詰めが甘い。希望的な観測を主観において話をするなど間の抜けた話だ。部下の行いなら叱り飛ばしていたところだが、善意の協力者である彼らにはそのようなことをするわけにはいかない。気付かれぬように、人知れずため息を吐いた。
(……とは言え、これ以上の時間の浪費はまずいな……)
クレハがいなくなってからもう2時間程度経つ。すでに野党どもに接触していてもおかしくない時間だ。
「…………」
シュヴェリアの脳裏に今朝見たばかりの筵を被った哀れな遺体の姿がよぎる。
「…………出来れば……使いたくはなかったのだが、な」
もはや猶予はないと判断していいだろう。シュヴェリアは最後の手段を行使することを決めた。
「ん? 剣士様はどうした?」
「あん? 旦那なら後ろに…………あれ?」
次のポイントへの移動のどさくさに紛れて、村人たちを撒く。
一人、森の中を駆けるシュヴェリア。そして――
「……カエリウスか、少し聞きたいことがある」
シュヴェリアは頭に右手を運ぶと、魔王アトライアスとして副官であるカエリウスに連絡を取った。




