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「っさっきから、黒炎の殺戮者とか兵器とか……なんのことですか……!」


私が睨みつければ男は驚いたように目を見開いた。


「……まさか、貴方本当に何も知らずに一緒にいたのですか?それがどう言うものなのか知らずに」

「っ……?」


エイジさんを「それ」呼ばわり……この男、人を人と思っていない…!


「それはベルク帝国が作り出した殺人兵器ですよ」

「!さ……つじん、兵器……?」

「そうです、ベルク帝国とイスカニアでの大規模戦争があったのはご存知でしょう?そこで大量の殺戮を__」

「っやめろ!!!」


聞いた事のない叫び声にも似たような悲痛な怒号。ハッとしてエイジさんを見れば刺青を押さえ苦しそうに蹲りながらも男を睨むように見ていた。まるで、男の話を私に聞かせないような……


__こんなエイジさんを私は見た事がない、


「エイジ、さん……?」

「っいい、聞くな、聞かなくて、いいっ……!ぐっ……」


焦るような、まるで願うようなその切実な声に私は戸惑う。

そんな私達のやり取りを見ていた男は片手で顔を覆うと肩を震わせて笑いだした。


「は、はは……あははは!!まさか貴方!!そのご令嬢に知られたくないと!自分のして来た残虐な行いを!!!」

「っ……は、……っ」


一体なんの話をしているの……?残虐な行いって……


「く、ふふ……良いでしょう!私が教えてさしあげます。彼はね、あの大規模戦争で女子供、敵味方関係なく殺戮をつくしベルク帝国に勝利をもたらした黒炎の殺戮者、我が国軍の最強兵器なのですよ!」

「__!」


殺戮をつくしたって……エイジ、さんが?


驚き目を見開いたまま彼を見れば視線が合わない。苦しく呻きながら俯いていた。


「__ああ、あの光景は今でも忘れられない。感情等一切ない、大量の屍の中傷1つなく返り血を浴びた"それ"を」

「人々はあの夜を恐れ"黒炎の夜"と呼び、黒い炎が上がる度に怯え絶望に満ちた表情を浮かべて死んでゆく……ふふ、ふふ……」

「ああ、至極美しい……!!まさに兵器!!」


この人は……何を笑って、いるの……?

人の死を、まるで楽しむように。理解が、できない。気持ちが悪い。


「、……今の、話は……、」

「……っ、は……」


エイジさんを見れば苦しそうに俯いたまま顔を上げない。しかし黙ったまま否定をしない、と言う事は……


(この人が言ったことは本当の、こと__)


手元を見れば強く地面をかいたのか、エイジさんの爪は何個も割れていて…尚も手を強く握り白くさせ震わせている。


「そうです……あなたはずっとベルク帝国で、いや私の元で殺戮を行うべきなのですよ……その為に私の命を削ってまで永遠に逃げられない禁忌の、奴隷魔術を授けたんですからね。」

「!奴隷魔術って__」


エイジさんの顔にある刺青のことじゃ…!?

っと言う事は全てこの人が原因…!

__なんて酷いっ……!!


「帝国から逃げ出せばジワジワと死にゆくと言うのに……無駄な足掻き。このままでは呪いに殺されますよ?だからこそ貴方は一生、死ぬまで軍に仕えればいいのです。最強の兵器として__」


「っ……エイジさんは兵器じゃない……!!」


「……っ!」

「!……何?」


私が叫ぶ様にして言えば、エイジさんが肩をピクっと反応させたのと男が苛立ったように言葉をしたのは同時だった。



「……っ私には、何があったのかとかそう言う事は詳しくわかりません…エイジさんと出会ったのだってほんの少し前ですっ、確かに彼は強い人だし人を沢山殺めたのも本当かもしれない……それを怖いと思うのも事実です……」


顔に表情がでないし無口だけど、それでも私は彼が優しい人だと知ってしまったから…!よく見なければ分からないけどちゃんと感情だってある!


「___!っな、にを……」

「でも、彼は私と同じ人間です…!感情だってちゃんとある、優しい人です!!」


私は酷い有り様になってしまったエイジさんの手に自分の手を出来るだけ優しく重ね、もう片方の手で彼の刺青に触った。するとピクっと反応をした後ゆっくりと顔をあげて目線が絡む。


「……エイジさんは、国に戻りたいのですか?」

「……っ、」


ゆるゆると振られる首、初めてみた彼の不安そうな顔は何だか母親と離れてしまった無垢な子供のようで、私は思わず泣きそうになった。


「わかりました、貴方が辛いのなら私と一緒に逃げましょう」


彼のこの表情を見てなお、感情がないなんてそんなこと言わせない。


手に神経を集中させ、彼の怪我が治るように祈れば温かな光に包まれ酷かった手の傷と黒い煙が消えてゆく。


「!!この光は__まさか……!」


男は私の白魔法を見た瞬間、今までになく驚いたように目を見開く。


確かに彼の感情は分かりづらいかもしれない、でもそれは表に出すやり方を知らないだけでちゃんと感情がある。化け物でも兵器でも、黒炎の殺戮者でもない。

__彼は不安な時に、私がちゃんとここに存在していると安心させてくれた人。


「私が出会ったエイジさんは優しくて温かな素敵な人、貴方は兵器なんかじゃないですよ」

「___っ」


ブワッと大きな風が吹き、エイジさんの綺麗な髪を靡かせる。次第に彼の金色の瞳から濁りが消え今までにない程光を宿ってキラキラとゆらめく、その瞳を大きく見開いた。

小さな声で「世界の、色が……」と何処か焦点の合わない目で呟く。すると突然自分の口元を押さえ__吐いた。


「!?エイジさん…!?」

「っゴホッ……はっ、」


急なことに驚く。今まで吐いたり等していなかったのに…呪いのせい…!?どうしようっ…!

いくら呼びかけをしてもエイジさんからの返答がない。私は決意したように拳をぎゅっと握った。

ゴホゴホと咳き込む彼の前に私は守るように1歩前にでる。


今彼は、精神的にも肉体的にもとてもじゃないけど戦える様子じゃない。

なら……私が…守らなくては……!


「国も、貴方も少しでもエイジさんの話に耳を傾けたの!?彼の気持ちを聞いたのっ……!?逃げたのはっ、……っ殺めるのが辛かったからじゃないんですか!?」


私は男を見据えて叫ぶ。

考えたくはないけど…

きっと、ここの森にいたのは……っ、誰にも知られずに…ここで、一生を終えるつもりだったのかもしれない。


「呪いで縛り付けて苦しめて……私からしたら貴方達の方がよっぽど怖くて恐ろしい存在です……!!」


はっ、はっ、と肩で息をする私に男は今言ったこと等聞いていないかのように。歪んだ笑みを向けた。


「ふ、ふふ……ご令嬢、貴方__白魔法が使えるんですね……?」

「__!、っそうだと、言ったら?」

「そうですねぇ……__欲しい」


ゾッとした笑みをこちらに向け、次の瞬間には目の前に現れる男。


___っっ早い……!!


「っっ、ファングお願いっ……!!!」

「!?何だこの光は…!」


私がポケットにある魔石に触れたその時。眩い光があがり、次の瞬間には光の壁が男を弾き返していた。翼竜の時よりも強いその力に、弾かれた勢いのまま背中から思い切り木にぶつかると男はズルズルと座り込む。


「ぐっ……こんな高密度な魔力を扱える等神の使いに、しか_……」


そのまま意識を飛ばした男。先程よりも強い力に私は唖然としながら魔石を見た。


「あ……ヒビが、」


魔石には一直線に割れたヒビが。力を使い果たしてしまったのだろうか…いままでの宝石のような輝きが消えている。


(……ありがとう、ファング)


キュッと魔石を両手で抱きしめお礼を言う。

……もう魔石の力は使えないかもしれない…

そんな不安を抱えながらも私は急いでエイジさんの元へと駆け寄った。


彼は頭を押さえフラつきながらも立ち上がる。


「っエイジさん大丈夫___」


彼の肩に触れようとした瞬間、思い切り手を引かれた。


「……え、」

「……っ、」


手を、腰と首元に入れて痛いくらいに抱き締められた。全身が苦しい。

__な、何!?

突然の事に照れるよりも驚きが勝った。

彼は私の耳元に唇を寄せる。


「__、っレナ……」

「っ!」


低く、聞こえた切なそうに焦がれるようなまるでずっと待っていたと、会いたかったと…そう言われたような自分の名前にドキンっと胸が高鳴る。


(は、初めて名前…!き、急にどうしてっ……って言うか何で抱き締められて……!?)


我に返り自分の状況にカァと顔を熱くする。吃りながらも彼の名前を呼ぶが反応はなく、かわりにキツく抱き締められるだけで。


「っ??っ?」


突然のことに目を白黒させながらも、今はこの場所を一刻も早く離れなくては……あの男がいつ目を覚ますかわからない。

私は顔を真っ赤にさせわたわたとしながらもエイジさんの背中を優しくポンポンと叩く。暫くしたら身体を離してもらえた。

身体を離すとき、私の首元に入れていた手がスリ……っと名残り惜しそうに輪郭を触る。

___ひぇっ、と声にならない声を上げた。


「〜〜〜は、早くこの場所から離れましょう……!!」


まだ少し気だるげだが歩けそうな彼の背中を押してその場を後にするのだった。

早くエイジ視点をアップしたいです。

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