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黒炎の殺戮者

トクン…トクン……


一定に刻まれる懐かしい音が聞こえる。安心する音だな…、それになんだろう…凄い温かい……まるで揺りかごに乗っているような、

あれ、……私どうしたんだっけ。


「……ん、……」

「……起きたか?」


目を開ければ目の前には広い背中、すぐ近くでエイジさんの声が聞こえる。


……す ぐ 近 く で 声?


「……っえっ…!?」


バッと身体を起こして急いで状況を確認する。周りを見渡せば先程までいた洞窟は見当たらず…どうやら私はエイジさんにおんぶをしてもらいながら先に進んでいたようで、近くで聞こえる声に慌ててくっ付いていた背中から離れた。


「すっ、すみません…!?私寝ちゃってっ……と言うかおんぶまでっ…!」



恥ずかしいっ……と言うかエイジさんだってまだ本調子じゃないだろうに…!運ばせてしまうなんて…っ情けなさで泣きそうだ。


「自分で歩けますから…!」と言ってもエイジさんは私を降ろす気配がない。どうしたものかと考えあぐねていれば、エイジさんは少しの間の後話し出した。


「……何故、あの時俺を庇った」

「……え?」


あの時……とは、翼竜にブレスを吐かれかそうになった時のことだろうか…?なんの力のない私が飛び込んだから怒っている…!?

もしかして私がいなくても何とか出来たのかも…!


「す、すみません……!余計なことをしてしまって…!私がいなくても大丈夫でしたよね…」


しゅん……としていればエイジさんはいや…と首を振った。


「お前が居なければ死んでいた」

「っ!……、そ、う……ですか……」


___良かった……本当に、助けられたんだ…

無意識か、肩に捕まっていた手に力を入れていることに今更ながら気が付いた。


「……大丈夫だ」


そんな私に気付いてか、彼の安心させるような落ち着いた声、それを聞いて大きく息を吐くと共に込めていた手の力を解く。


「__生きていてくれて、良かったです…」


消え入りそうな声。弱々しく口から出てしまったそれに少し恥ずかしくなる。

するとピタリと、歩いている足が止まった。

どうしたのだろうと彼の顔を覗き込もうとするが俯いている為に表情はわからない。



「……あの、どうかして__」

「何故、そうまでして俺を助ける」


どうしてって…そんなの決まってる


「…エイジさんに生きていてほしかったから、もし私があの時、1人生き残っていたら死ぬまで後悔したと思います」

「……」


エイジさんの横顔を伺えば何やら考え込んでいる。

怒っているような感じではない。…一体どうしたのだろう?


「……俺は、黒魔法を使う…普通の人間じゃない。」

「……?」


普通じゃないってどう言う意味だろう…?

…魔法は生まれ持った特別な力だから、って意味?


(もしかしてだけど…)


…彼は強い。この世界の強さの基準はわからないが、神の使いであるファングがあれだけ言うのだ。それに実際戦闘を目の当たりにして思った、軽やかな身のこなしに躊躇いのない剣さばき。そこに黒魔法が加われば……素人から見ても彼は、かなり強いのだと思う。人間離れ、しているのかもしれない。誰かに、悪意を持ってそう言われたことがあるのだろうか。


__でもそれだけで普通の人間じゃない等、おかしい。


「……」


ふと自分の手を見る。そしてエイジさんの背中に触れる手から温もりを感じた。

私はぐっと自分の手を握る。


「エイジさん、少し降ろして頂けますか?」

「……、」


エイジさんは少し間を置いてから私を抱える手に力を入れた。そんな行動を不思議に思っていればゆっくり、ストンと私を降ろす。


向かい合うようにエイジさんの前に立ち彼の手を優しく取れば、ピクリと彼の身体が動いた。

私は目線を合わすように俯くエイジさんの目を覗き込む。


「エイジさんは普通の人間ですよ!だって、貴方の背中も、手も…こうして温かいじゃないですか」

「!」


私が言ったことに余程驚いたのか、目を見開き固まる。


(私またそんな驚くようなこと言ったかな……?)


私はただ、当たり前のことを言っているだけなのに。

エイジさんはしだいに俯き小さな声で何かを言っている。……?様子がおかしい。


「エイジさん……?」

「……、もし、俺が……」





「……数多くの人を殺していたとしてもか」









____バサバサ、鳥が羽ばたいた音でハッとする。

数多くの人を殺した……?エイジさんが?


目の前にいるエイジさんを見れば俯き顔が影っていて表情が見えない。

冗談……ではなさそうだ。一緒に共にした時間は少ないが彼は冗談を言うタイプではない……と思う。

エイジさんは黙ったまま、私が話し出すのを待っているようで。

私は困惑しながらも乾いた口を必死に動かそうとした。


「そ、れは……どう言う……」


意味ですかと聞こうとすれば

ピク、とエイジさんの身体が動く。


「__見つかったか」

「?あ、あの……」


忌々しそうに小さく舌打ちをしたエイジさんに首を傾げた次の瞬間


ガキィィンッ!と金属がぶつかる大きな衝撃音。そして温かな温もり。一瞬のことすぎて、気付いた時にはエイジさんの腕の中にいて。

何かから私を守るようにして刀を抜いていた。



「やっと見つけましたよ、黒炎の殺戮者」

「………」


私達を襲ってきた何者かにエイジさんは顔を歪ませると刀を思い切り振るい相手をはじき飛ばした。


(だ、誰……?)


それに、黒炎の殺戮者って…………


弾き飛ばした相手は綺麗に着地すると己の腕に付いている鋭い鉤爪のような物をペロリと舐めた。


「いい加減野垂れ死にしているかと思ったんですが……流石は化け物ですねぇ」

「……」

「呪いの気配を辿れば…まさか死の森にいるとは驚きましたよ……それに…」


チラリ、対峙する男の人は私を見るとニコリと貼り付けた笑みで笑う。物腰和らかい話し方、質の良さそうなローブ服に高貴な所作…一見優しそうに見える人なのに……

この人一体……私の怪訝そうな顔を見た男は胸に手を当て微笑む。思わず後ずさる。


「ああ、失礼。ご挨拶がまだでしたねご令嬢。初めまして私はベルク帝国が誇るカナリア軍総司令官のハーシュと申します。」


ベルク帝国の総司令官…?軍人さんがなんでここに…総司令官って偉い人、だよね?エイジさんとは顔見知りみたいだけど……っ何だろう…このハーシュとか言う人、底が知れないと言うか…笑顔が、何だか凄く怖いっ…


自然と視線を合わせないために下を向いていれば見慣れた背中と近くでフワッと香る優しい安心する匂い。

__ああ出会った時と同じ、頼もしい背中だ。


「……、エイジさん」


「………」

「……ほぅ」


彼は私を背中に隠すように前に出ると刀を構えなおした。

すると興味深げにその行動を見ていた男の人は面白いものを見付けたように目を細めてグニャリと顔を歪め、そして__笑った


(……っ!)


ゾッと背中を悪寒のようなものが駆け巡り一瞬にして身体が凍えたようにカタカタと鳴り出す。


__っな、何…?今のっ……目が合った瞬間脚がすくんで……


「……こいつは関係ない」

「……今まで誰にも興味を持たず、共にいることは無かった貴方がその娘と共にしていた…しかも庇う等初めてのこと…何故でしょうね?」

「……」

「その女性を守らないといけない何かがあるのでしょうか?」


面白いものを見るように、ねっとりとした視線を感じ全身が竦む。


ハーシュと名乗った軍人は鉤爪をカチャリとゆっくり構えると「気になりますねぇ……!!」と、叫び凄まじい速さでこちらに詰め寄ってきた。

あまりの速さに身動き1つ出来ない私とは正反対にエイジさんも目で追えないくらいの速さで相手を迎え撃った。


「…っ離れてろ…!」

「っは、はい…!!」


切羽詰まったようなエイジさんの声に、この相手が翼竜なんかよりもヤバい相手なんだと瞬時にわかった。


「ふふ、させませんよ_____」


楽しそうに笑った男はエイジさんと対峙しながらブツブツと呪文を言った後フッと息を吐いた。

すると私の足元に紫の魔法陣が出現し、黒い煙を纏った鎖が無数に飛び出てくる。そして私の靴に巻き付いた


「っな、何!?」


「!…っあの鎖は…!」


珍しく焦るエイジさんの声が聞こえる。


っ邪魔にならないように早く離れなくちゃいけないのに……!

地面に伸びた鎖のせいで足が張り付いたかのように身動きが出来ない。

__っ鎖を解かなくちゃ…!



「っくそ……!!」

「!…おっと」


私がそう思ったのと、エイジさんが刀で相手を振り払い黒魔法を放ったのは同じタイミングだった。


足に巻かれた鎖を解こうと触ろうとした瞬間、ガシッと掴まれる腕。掴まれた手を辿れば眉を寄せ息を切らせたエイジさん。


「っ……これに触るな…!」


対峙していたはずのエイジさんがいつの間にか横にいて少し痛いくらいに腕を掴まれている。

__えっ……触るなって何で…

私が唖然としていれば、エイジさんが鎖に触れる。

___ジュッ……


「!」

「……っ…やはり束縛の呪か…」

「っ…!?」


手から煙があがり、まるで何かが焼けるような匂い。彼の手を見れば鎖に触れていた片手が赤く火傷したように爛れている。


「…呪いに触れれば妨害反動を受ける、絶対に触れるな」

「!…で、でもっ…これだと私が邪魔にっ…」

「……っいいからじっとしてろ」


そう言うと私の足元にあった魔法陣に手を付き、エイジさんは「黒炎…」と呟く。

するとゴォっと黒い炎が魔法陣を包み込んだ。


「っ…」

「!エ、エイジさん手が……!」


魔法陣が段々と薄れていき鎖が外れるのと同時にエイジさんの手が赤く焼けただれていく。

__パリィンっ……と魔法陣が消えれば靴に巻き付いていた鎖が消え動けるようになった。


っどうしよう、酷い火傷…!私のせいで……!

すかさずエイジさんの手を取り白魔法をかけようとした。


「っ酷い火傷…今治し_」

「やめろ」


低い声にビクリとする。


「あいつの前では使うな」

「っ…」


エイジさんは涙目になっている私の顔を見て目を見張るとフッと息を吐いた。


「__対した怪我じゃない」


まるで気にするなと言うように、チラリと私をみると刀を構え直し軍人へと向き直る。


「……あの黒炎の殺戮者が誰かの為に怪我……?」


フラ…と頭を押さえた男は「そんなまさか?」「ダメだ、それじゃあ」とブツブツと呟く。目を見開き信じられないと言うような顔で1点を見つめて動かない。

……怖い、なんなのこの人、


「ありえません……だって貴方は化け物で兵器ですよ……?私は忘れません…あの、黒炎の夜を……」


(……黒炎の、夜……?)


一体なんのことを言って__

ふとエイジさんを見れば、先程よりも強く…手が白くなる程に力強く刀を握っていた。


「…エイジさん……?」

「……離れてろ」


「……あんな…恐ろしく美しい程の光景……大量の屍……ああ!!私は認めない、お前は人ではない我が国の最強の兵器だ……!!」


男が恍惚とした目を見開きこちらを見ると同時にエイジさんは走り出した。刃物が激しくぶつかり合う音が辺りに響く。


一体、あの人は何のことを言ってるの……?

……っエイジさんを化け物とか兵器って……

さっき、エイジさんは……自分を、人間じゃないと言っていた…その事に何か関係があるのだろうか…?


「黒炎……!!」

「っぐっ!!」


ハッとしてエイジさんの声がする方へと目線を向ければ、黒炎を纏った刀で相手に斬りかかっていた。

振り下ろされたそれを受け、男は片腕に深い切り傷を作る。しかし小さく呪文を吐いた男の足元に魔法陣が出現するとゴォと赤い炎の壁が舞う。


「!エイジさんっ……!」

「っ__、」

「っく、呪いで弱っているとは言え流石は兵器……っは、…これくらいじゃ倒れませんか」

「っはっ……、」


良かった……、一瞬炎に飲まれたエイジさんを見てヒヤリとした。エイジさんは立ち上る炎から飛び退くとフラリ、身体をよろけさせた。


「……おやおや……」

「っ…は、……はっ……」

「あの黒い煙って…!」


苦しそうに歪まれたエイジさんの顔にある刺青からあの黒い煙が出てきている。息を切らし、今にも倒れそうになっていた。


(……!あの時と同じ煙…!)


__そう言えば翼竜と対峙したあの時も黒炎を使ってた

エイジさんは緊急の時、…そうだ、ファングや翼竜…強い相手のみに黒魔法を使っていた。それ以外では刀を抜こうともしなかった。それは黒炎を……


__黒魔法を使うと痛みが出るから……?


「さすがの貴方も呪いには抗えませんか……国はこれ以上逃げるようなら貴方を処分しろと言っていますが……そんなの惜しい……!!貴方はもっと!強い兵器になれるはずです…!!私なら!貴方をもっと美しい最強の兵器に出来る……!!」


ハァハァと歪んだ笑みを浮かべ叫ぶ男に寒気を感じる。何が何だか私にはわからない、だけど……目の前の男がエイジさんに酷いことを言っていると言うのだけはわかる。


「っエイジさん…!」

「っ………はっ、」


膝をつく彼へと駆け寄り肩を支える。苦しそうに「離れろ」と私を突き放そうとするがこの刺青の煙が滲み出ている状況のエイジさんは……


(多分、しばらく動けなくなるはず…)


こんな状態の彼を置いて離れる訳にはいかない。大丈夫、落ち着け私。ファングからもらった魔石もあるんだから。


目の前の男は先程付けられた傷から血を救い舐めとると歪めた笑みを深めた。


「……どうやらご令嬢はその兵器に余計な感情を与えるようです。それだと困るんですよ……もっと最強の兵器にするためには」


「っ……エイジさんは兵器でも化け物でもありません……!!彼は優しい人です!」


キッと男を睨めば驚いた顔の後楽しそうな声で「ご令嬢まさか……」と言葉を紡いだ。



「黒炎の殺戮者(それ)がどう言う奴なのか……知らないのですか?」





戦闘シーンも苦手なので生暖かく見守っていただけたら嬉しいです。難しい……。



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