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魔法

ファングを見送れば、エイジさんとの間に沈黙が落ちる。


「……」

「……」


…何だか流れに身を任せていたけど、よくよく考えたら急に知らない世界から来た人間のゴタゴタに巻き込んでしまった上いくら聖獣に頼まれたからと行って面倒をかけてしまうのは申し訳なさすぎるのではないだろうか……?

いやっ、でも私多分白魔法?しか使えない(多分回復魔法…だよね?)平和な世界で過ごしてきた私、戦いなんて絶対に出来ない。

そんな私が何も知らないこの危険な場所を無事に抜けられるはずがないし…お願いするしかないよね…?

でも私お礼に何か出来ることある?いやない、お金も何も…何か差し出せる物……

そんなことをグルグル考えていればこちらを見ていたエイジさんと目が合う。


1人百面相をしている場所を見られていた。

は、恥ずかしい……


「っあ、その……すみません……」

「……何故謝る」

「……えっと、……巻き込んで、しまって……」


ぎこちない会話。

段々小さくなる自分の声、申し訳なさで顔が見れない。


「……この世界で、聖獣…とくにあのファングのような聖獣は讃えられる。人の前にはまず出てこない」

「…?はい…」

「……会話を出来ること等この先ないだろう。そんな聖獣からの頼み、断ることはしない。」

「っ私、何もお礼出来るようなものがなくって…そ、それでも…?」


不安げにすればエイジさんは1度目を閉じて再度私を見て頷いた。


「っあ、ありがとう、ございます…!」

「、……」


ホッとして笑顔になる。きっと今の私を傍から見れば周りに花が咲く程には喜んでいるだろう。


(……でも本当に良かった)


エイジさんはあまり表情を動かすことがなくそして無駄に喋ることもしない。最初は怖かったけど、でもきっとこの人は優しい人なんだと思う。

ましてや得をすることもないのに私に着いてきてくれるなんて、やっぱり良い人。

ありがとうございます神様仏様エイジ様……。

おかげで私は無事にこの森林を抜け出せそうだ。

何よりも、1人ではない…そのことが堪らなく嬉しくて安心した。


「今いる場所はハーノルドの最深部までは3分の2程度にあたる。時空の神殿までは4日はかかるだろう」

「4日……」


エイジさんに出会っていなかったらどうなっていたんだろう…4日もかかるなんて、私一人では到底辿りつかない。考えただけでゾッとした。


「人も寄り付かない森だ、無論何も無い。だから野宿になるだろう」


まるでいけるか、と問いかけるように見詰められる。野宿だなんてしたことはないがわがままなんて言ってられない。

今私がしないといけないこと、それは


「あの!ご迷惑かけないように頑張るので、よろしくお願いします」


エイジさんの足でまといにならないように着いていくことだ。

私は深くお辞儀をした。


ここでエイジさんと出会えたことは奇跡なんじゃないか。人も寄り付かない森だなんて……

ん?あれ、じゃあなんでエイジさんはここに……


(…いや、やめよう)


「……行くぞ」


出会って間もないのに詮索するのはよくないよね。

すでに歩きだしていた彼の後を慌てて追いかけた。








どれくらい歩いただろう。歩けど景色は変わらず森。前を進むエイジさんは顔色1つ変えずに道無き獣道を進んでいる。


「っはっ……」


頑張って追い付こうと歩くも、足場の悪い獣道。

体力もだいぶ持っていかれ息があがる。

…そういえば私体育全然ダメだったんだ…


でも弱音を言っていても仕方ない、迷惑だってかけられない。今は前を歩くエイジさんに遅れず着いて行くしかないのだ。

……そう、思っていても身体は正直なのか、段々と歩くスピードが落ちる。この世界に来て精神的にもかなりダメージを受けていてこの身体はもはやボロボロだった。


(…あ、そうだ)


私はひっそり、自分に回復魔法が効かないか試してみた。……がどうやら効果は見られない、この魔法…自分には効かないのだろうか?

霞む意識の中そんなことを考えていたからなのか、木の根っこに足を取られ躓く。転ぶことは回避できたもののヨタってしまった身体を立て直すことが出来ずに木に身体を預けズルズルと座り込んでしまった。


あ、危なかった……、ふぅと安堵の息をつくもハッとして急いで前を向く。

じゃなかったエイジさん見失っちゃう…!


「……早かったか」

「!っあ……、」


パッと上を向けば私の顔に影が落ちた。無表情で私を見下ろすエイジさんと目が合う。

び、びっくりした…全然気配を感じなかった、いつの間にこんな近くに……


「すみません…!全然大丈夫ですっ……」


申し訳ない、歩みを止めてしまった。

立ち上がる私の足は若干震えていて、本当に情けない。そんな気持ちを隠すように笑えば彼は少し考えるように辺りを見渡した。


「今日はここで休む」

「っえ」

「……足、限界だろう」

「っ…す、すみません……」


歩みを止めてしまった申し訳ない気持ちでいっぱいだが、無理して途中で倒れるよりは今しっかり休んだ方が良い。

辺りもだいぶ日が沈み暗くなりだしている、夜目の中進むのも少し怖い。

エイジさんは座っていろ、と言うと片手をゆっくりと地面に向け何かを唱えだした。


「静寂なる灯火をここに宿せ」


そう唱えれば魔法陣が地面に浮き出す。

赤色に光ると魔法陣にメラメラと炎が表れた。焚き火のように目の前で燃える綺麗な炎。今まで頭の中に思い描いていたアニメみたいな光景にちょっとテンション上がってしまう、こう言う魔法もあるんだ…!


「わっ……凄い……魔法ってこんなことも出来るんですね」


思わず口に出た言葉にエイジさんは1度こちらを見た後ゆっくりと私から少し離れた場所に座った。


「……これは魔法じゃない、魔術だ」

「えっ?」

「……この世界には2つの力が存在する。1つは魔術、もう1つは魔法だ。」

「?」


魔術と魔法って……何か違うのかな?そう言えばファングがさっき言ってたっけ。


エイジさんはゆっくりと口を開く。


「魔術には火、水、雷、風、土の属性がありそれらの魔力の流れを理解し習得する。

これを使うには詠唱を唱える必要があり……習えば誰にでも使えるものだ。」


詠唱って、今エイジさんが唱えていた言葉だろうか?なるほど、この世界では勉強をすれば魔術が使える、と……言うことかな?

学校で習う数学とかと一緒ってことだよね。方程式が解れば誰にでも出来るんだ。



「そしてもう1つ、それが生まれ持った力である魔法だ」

「生まれ持った力…?」



魔術とは何が違うのだろうか?産まれ持った力…ってことは習う訳じゃないってことだよね?

首を傾げた私に「見てろ」と言うと人気のない森に向かってエイジさんは手をかざす。

すると何も詠唱していないのに手のひらから黒い炎が勢いよく飛び出した。


「わっ!?」

「……魔法は産まれ持っている力、習う訳でもない持って産まれた力だ。この力は稀で魔術と違い桁外れな力を発揮する。そして……こんな風に無詠唱で発動出来るのが特徴だ」

「無詠唱で……」


なるほど、魔術は勉強して詠唱と言うのを唱えれば誰でも使える力だけど魔法は生まれ持った物で尚且つ無詠唱で力を発揮できるもの、産まれ持った才能?みたいな感じかな。しかも威力は魔術よりも強い…。なるほど、そんな違いがあるんだ。



ん……?無詠唱……あれ、私があの回復の力使った時って……


私はハッとしたようにエイジさんを見ればぶつかる視線。


「お前が使った回復魔法だ」

「!」



「お前の力はその中でも珍しい、再生の白魔法だ」


再生の白魔法……、それに珍しい力。

ただでさえ珍しい魔法の力なのに更にその中でも珍しいってこと…?


エイジさんは目を細めながら何かを考えるように私を見た。


「普通、あれだけ瀕死の生物を無傷に治すことは歴代のヒーラーにも無理だ。

魔術では回復に限界があるからな。

……あまり人に見せない方がいい」


見せない方がいいって……そんなに凄い力なのか…。と言うか…


(という事は泣いてたあの一連も見られちゃってたのか…恥ずかしい……)


恥ずかしさを隠すように俯く。

それにしても…私自身、そんな凄い力が自分にあるなんてまだ半信半疑。

ん?となると…エイジさんの黒魔法も珍しい力だってことだよね?


「じゃあ私は、エイジさんと同じく魔法が使えるってことなんですね」

「……」


一瞬、エイジさんの目が揺らめいた。


「……こんな、力…お前の再生魔法と同じにしちゃいけない」

「え……?」

「……俺の魔法は、破壊の黒魔法だ」

「破壊…?」


何だか物騒な単語が聞こえてきた。私がゴクリと生唾を呑めば、エイジさんはゆっくりと目の前の焚き火に手をかざす。

静かに揺らめいていた赤い炎が黒い色に変わればその炎の勢いが増す。


「わっ!……色が、」

「……」

「凄い、綺麗な黒紫色になった…」

「、」


エイジさんは少し驚いたように私を見ると直ぐにいつもの無表情に戻り炎の色を今までの赤い色に戻した。


「…黒魔法はこうして全ての属性を喰らって破壊し威力を増した黒魔法に変える。使い方を間違えれば国すら滅ぶ力だ。……綺麗、なんて物じゃない」

「……」


エイジさんを見れば自分の手をじっと見たまま動かない。その瞳が、…苦しそうに感じた気がした。もしかしたらその力のせいで嫌な思いをしたのだろうか。まだ出会ったばかりの私には知る由もない。

でも……この表情を見る限り、エイジさんはこの力があまり好きじゃないのかもしれない。

_____でも、だ。


「…私はエイジさんの魔法、夜空みたいで綺麗だと思いますよ!」

「……夜空…?」

「はい!それに、破壊してる…ではなくて、元の力を元に強くしてあげてるんじゃないでしょうか」


驚いたように動きを止めるエイジさん。


「……だから、そんな珍しい強い力を持ったエイジさんと出会えた私は凄い幸運なんです!」


死んでしまいそうなところをその力で助けられた私には綺麗な安心出来る夜空のような黒魔法でしかないのだ。こうして私のわがままにも成り行きだがついて来てくれている。


「会えたのが貴方で良かったです」


私が微笑めば、数秒目を見開いたままエイジさんは私を凝視する。

え、何か驚くこと言っただろうか…?私は戸惑いつつも首を傾げた。

すると「また……」とポツリ、口にしたエイジさん。またって…何がだろう?

その続きを待っていれば、しだいに彼の表情はいつもの無表情へと変わりゆっくりと焚き火へと視線を移した。


「……本当の俺を知ればきっと……」

「?」

「いや、なんでもない。」


エイジさんの横顔は陰っていて伺えない。

強制的に話を終わらせるようにエイジさんは自分が付けていたマントをバサリと脱いで私へと投げた。慌てたように受け取ればエイジさんは口を開く。


「明日も早い、もう寝ろ」

『っえ、あ…でもこれは…』


私がマントを使ってしまったらエイジさんが寒いのではないか?ここは森の最深部と言うだけあり結構肌寒い。


「……人の心配より自分の心配しろ。野宿にも慣れてない…お前がここで倒れたら本末転倒だ」

『!す、すみません……』


エイジさんの言ってることは最もだ、着いてきてもらってるだけでも申し訳ないのに……なるべく彼には迷惑をかけたくない。私が倒れる訳にはいかないのだ。(自分には回復魔法は効かないし)有り難くマントは借りることにするが……

巻き込んでしまったにも関わらずお世話してくれるエイジさん。やはり彼は優しい人だ。


「……」


何も出来ない情けない自分に泣きそうになりながらも木の幹に寄りかかればいそいそと寝始める。せめて体力回復して明日はしっかりついて行かなくちゃ…


そんな私をエイジさんがじっと見つめていたことも知らずに、よほど疲れていたのか、気が付けば私の意識は沈んで行った。



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