待ち侘びた目覚め
急に開いた扉、マーサさんかと思ったらまさかのエイジさんで。一瞬の間の後状況を理解した私は一気に顔に血が昇る。
…わ、私まだちゃんと服着てない…!!!
「わっ、わっ…!!エイジさんちょ、と、っ待ってくださ…!!」
「………」
「…っきゃあ!?」
もたもたしながら服を抑えていた私の腕を彼が掴むと前が丸見えに。座った私を見下ろすように見つめる彼の表情がどんなものか見れない。
っえ、何でこんなことに??目を白黒にしながら回らない頭で必死に状況を理解しようとした。したけど出来ない、私一体どんな状況!?
「………傷が無い…」
「!…っ、」
冷たくて長い指がはだけた肩にソッと触れる。
ゆっくりと傷があったであろう場所をなぞるように動く指にビクリと反応してしまって恥ずかしい。
そ、そうか…!!エイジさんは森で負った傷を確かめたかったのか…!!っていやでもこれはさすがに良くないですよ…!!か、仮にも私乙女なんですが……!!!
とにかく前を隠したくて力を入れるも掴まれた腕はびくともしない。
「……これが祝福の力か」
「……?」
何故か眉間に皺を寄せて小さく「…ちっ」と舌打ちをした。
…えっ、えっ…なんで彼は舌打ちをしたのだろう…?どうして私は肌を見せて舌打ちされたのだろう…??えっ、何かダメだった…?彼のお眼鏡にかなわなかったのだろうか。
…あれ、なんか涙出そう。
「す、すみません……?」
「何故レナが謝る」
「えっ…わ、私の身体がお粗末…だったからじゃ…?」
「何を言っている」
エイジさんは少し首を傾げるとそのまま私の剥き出しになっていた肩から首までを長い指でなぞる。
「レナは全て綺麗だ」
「……へ」
テノールの低い良い声が頭の上から足先まで駆け巡った。色気の強いその声は私には刺激が強くて、もう恥ずかしくて、よくわからなくなって思考が止まってしまう。今の私は面白いくらい間抜けな顔をして固まっているに違いない。
もう何を言えばいいのか、何をすれば良いのか正解がわからなくなってしまった。
そんな私を見て彼は優しく目を細めると小さく「……はっ」と笑った。
「……首まで真っ赤だな」
「っ!」
もはや頭がショートして動けない私のかわりにはだけた服を優しく戻してくれる。
「……アステナの力だ、レナの傷跡が治っている」
「…え?」
「…あいつの力なのが気に食わないが」
アステナ様…?えっ、何でアステナ様のおかげ…??…そう言えばさっきエイジさんが祝福の力って言ってたような…?一体どう言う事だろう。…と言うか何でエイジさんそんなに嫌そうな顔を…
服をしっかりと直してホッと胸を撫で下ろしていれば彼からの視線を感じ首を傾げた。
「……」
「……?」
「……お前は何も気にしなくていい」
「…えっ…?」
「側にいるならそれでいい、何も考えるな」
真っ直ぐな瞳でこちらを見る。
…最近、エイジさんは表情が出るようになった。少しずつ感情も見えてきて笑うことも多くなったと思う…それが凄く嬉しい。だけど、時折りこうして感情のない顔で主語がなく話し出す時があって……彼の過去を考えたらやはりまだ感情を出すのは難しいのだろうか。それなら何を言いたいのか汲み取ってあげられたら良いのだけど……
「エイジさ……」
「レナ様!!!!」
「!マ、マーサさん!?」
勢いよく扉が開くと慌てて部屋に駆け込んで来たマーサさん。息を切らしていて顔色も悪い、何かあったのだろうか。急いで彼女に駆け寄り肩を支えれば私の服を掴む、まるで縋るように。
「だ、旦那様が……!!!」
「!」
_______…
寝室である重々しい扉を開けるとキングサイズのベッドではアリスちゃんが泣きながらお父さんに声をかけていた。ハッとして見れば心臓辺りでモヤモヤしていた黒い煙が上半身を覆っていて…明らかに範囲が広がってる…
「黒い煙が…」
「……煙?」
「え?は、はい…全身を包むように…エイジさんの時と同じ黒い煙がモヤモヤって…」
エイジさんが少し考える素振りを見せる。
「そいつはレナにしか見えていない。」
「!」
まさか…!こんなにハッキリとしてるのに…これ誰にも見えてないの…!?もしかして解呪が出来る人にしか見えていないのだろうか。
驚いていれば後ろの方から走ってくる足音が聞こえ振り向けばそこにはシェリルさんがいて。目が覚めたようで、フラフラした足取りでそのままアリスちゃんのお父さんへと近づいた。
「あ、あなた…!!!」
「奥様まだ起きてはなりません…!」
マーサさんがフラフラの身体を支える。そのままベッドにいたアリスちゃんをシェリルさんは抱きしめた。
「パパどうなっちゃうの…?ぐすッ」
「…大丈夫、大丈夫よアリス…きっと…パナケア様も見ていてくれてる、パパは助かるわ…」
人はいつか死ぬ…それは理解出来る、だけどそれは寿命を真っ当した時。…事故や故意に大切な人が亡くなってしまうのはどうしたって理解したくない、私も経験した気持ち。凄く辛くて悲しくて…何も出来なくなるんだ。全てが亡くなってしまったように思えて…あの絶望をこの2人には経験して欲しくない。
ベッドへと近付き2人に声をかける。
「……私は神様じゃないですが、出来る限り…全力であなた達のお父さんを助けます」
「!レナお姉さん…」
「アリスちゃん、約束…果たす時が来たよ」
ベッド横に座ると大きく深呼吸する。…今になって少し緊張してしまう、きっと大丈夫だと自身に喝を入れていればエイジさんが私の後ろに立った気配がした。
…彼は何も言わずにこうしていつも側にいてくれる。ふふ、彼がいると自然と勇気が湧いてくる気がして。
「エイジさん、どのくらいで目覚めるかわからないので少し…ご心配をおかけしますが必ず戻ってくるので」
「………3日だ。」
「え?」
「…目覚めなければ…わかってるな?」
「……!」
全て壊す、その言葉が頭を駆け巡った。…えっ、じ、冗談だよね…??いや冗談であってほしい。
エイジさんからの過激な声援(?)をいただいたわけなので私は3日で目を覚まさないといけなくなりました…。私の身体頑張って…!!
ゆっくりと深呼吸、両手を1番酷い心臓部にかざす。
「それでは…解呪を始めます」
手に力が流れるのわかった瞬間、眩い光が私の身体から発せられ辺りを包んだ。治って欲しいと祈り願えば手元に温かい感覚を感じた。
……何だろう?誰かに上にから手を握られてるような…温かくて優しい感覚。これなんか知ってる…何だっけ、……ああ…思い出した。隠し通路で出会ったあのパナケア様らしき人と会った時の感覚だ。
「……神は本当にいたんだわ…」
シェリルさんが何かを言っているはわかるのに、言葉として耳に入って来ない。身体がだんだんとふわふわしてきて力が抜けていく。
次第に自身から発せられる光がおさまると黒い煙は消えていた。
「光が…おさまった…?」
誰かがポツリと言葉をもらす。少しの静寂の後、ベッドの上から息を吐く音。眠っていた身体が動きゆっくりと目が開いた。
「…パパ…?」
「……、…アリス…か…?」
「…あ、なた…」
「……ああ、シェリル…」
アリスちゃんがわんわんと大声で泣いている声が聞こえる。シェリルさんもマーサさんも泣いているが嬉しそうな声で喜んでいる、…ああ、良かった…顔色も良くなっていてちゃんと成功したようだ。
「私は…一体……」
「マグリット、そこにいらっしゃるレナさんが治してくださったのよ…!」
___ああ、ダメだ…、目の前が霞む。
「レナお姉さん!パパ目が覚めたよ!!」
「……、」
「レナお姉さん?」
言葉を発したいのに動かない。そう思った時には身体がふらりと倒れ次にはあたたかい温もりに包まれた。遠くで、アリスちゃん達の焦ったような声が聞こえる。
「………レナ」
「……、…、」
眉を寄せて不安そうにするエイジさんの顔を見て、大丈夫だと言いたかったのに…私の意識はそこで途切れた。
次からはエイジのターンです。
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