理性と本能(エイジside)
天井まで届くステンドガラスを背に彼女が微笑み手を差し出した。
「さぁ、一緒に行きましょう」
__ガラスに絵描かれた羽が、まるで彼女の背から生えているようで。
人のためにと自身を顧みず、絶望の淵にいた者に手を差し出したレナは助けられた側から見れば間違いなく女神に見えただろう。
_____だが…、
「レナに触るな」
「!エ、エイジさんっ…!」
詰め寄られ困惑していたレナを奪う様に自身の手中に収める。毎度触れる度に彼女が見せるこの表情はとても気分がいい。頬を染めているこれが見たくてついつい触れてしまう。
……そうだ、こうして触れていいのは俺だけ
この表情も俺にだけ見せればいい、俺だけが知っていればいい。
誰にも触れさせない。
「レナは俺の女神だ」
「!ひぇ…あ、のっ…」
「で、ですが…私見てました…!光がレナさんの周りをまわっていたのを…!」
「!…い、いや、あれはっ…」
「違うと言っている」
「っちょ、…」
「それならレナさんはパナケア様の産まれかわりなのかもしれないわ…!」
「お、お二人とも落ち着いてください…!」
慌てたように間に割って入ったレナに尚も近付こうとするため刀に手をかけた。言って聞かないのなら仕方ない。
「えっ、?わっ…!ダメですエイジさん刀しまってください…!!」
「何故だ」
レナが女神だと言うことは否定はしないが、それは俺だけが知っていればいい。彼女は俺だけの女神なのだから。他の誰でもない。誰にだって渡しはしない。
他の誰かに奪われるのなら…消せばいい。
__ああ、視界が暗くなる。
きっと俺が誰かを手にかければレナが嫌がる。それなら彼女の視界を隠してしまえばいい、閉じ込めてしまえばいい、俺だけが知っている場所で俺だけしかいない場所に。
___そうだ、それはいい考えかもしれないな
「…はっ、」
思わず笑いが漏れる。いつだって簡単な事だ、今までだってそうしてきただろう…力を使えばいつだって俺の思う通りにいく。
考えれば考える程、刀を握る手に力がはいった。
ザワリと身体の底から何かが湧き上がり殺気が漏れ出す。視界が以前のように色を失くすと目の前の獲物を殺れと本能が騒いだ。
「…っ、」
「シ、シェリルさん…!」
俺の殺気を向けられ気を失い倒れた相手。レナが慌てて側に行こうとするが阻止するために腰に手を回し引き留めた。レナは絶対に渡さない。
「っ…エイジさん…!」
パチンッ__
暗かった視界が、モノクロの視界が彼女の声で弾け色を取り戻す。ああ…俺は今、一瞬人ではなかったのか。
「………レナ」
細くて温かい手が刀を掴んでいた俺の手を優しく握った。出会ったころは傷1つない綺麗な手をしていたはずが今は傷だらけ、それでも彼女の手はとても綺麗だと思う。人を助け傷付いた綺麗な手…俺とは真逆の真っさらな美しい手。
その手に触れられれば、彼女の言葉が俺を呼ぶなら、俺は人間であることを…理性を取り戻す。レナさえいれば人であれる。
「大丈夫だ」
「…良かった…いつものエイジさんの目に戻った…」
安心したように息をはいた彼女は慈愛に満ちた顔で微笑む。心臓が軋んで息をするのを忘れる。何故彼女は人のためにここまでの顔を出来るのか。その顔を見る度に込み上げる何か、焦燥感。
こんなこと、拷問されても何をされても体験した事がない。一体これは何なのか…自問自答した所で今の俺にわかることはないのだろうと察する。
「エイジさん、助けに来た相手を倒してしまったら本末転倒です…!シェリルさんもきっと気が動転していたんですよ」
「……」
「私は全員無事でいたいです、だからみんな生きて終わらせましょう。ね?」
彼女と一緒にいればこの焦燥感の意味が分かるのだろうか。
スルリと、自身の手を抜けて倒れた相手に駆け寄る。空を掴む自身の手に違和感を覚えた。今まではこれが普通だったと言うのに…今は彼女に触れていない方が普通ではないのだ。
この気持ちの正体はわからない、わからない事だらけだが1つだけ確信している事。
___レナに何かあれば俺は俺でなくなる。
出来るだけ危ない場所には居られない。ならば早い所此処(この国)を出なければ。
魔術騎士のアイツに吐かせたが、俺たちは危ない状況にいる。
※※
時刻は遡り__…
レナと別れてすぐに敵の気配を探りながら一階へと中央階段を降りる。そこには大きな絵画が飾ってありアリス・スカーレットが載っていた。そして…その両親である男女。
「……何の巡り合わせか…」
マグリット・スカーレット、コイツのことは元から知っていた。カナリア隊にいた頃に何度か顔を合わせた事がある。
(確か宰相をしていたな)
当時の俺は相手を顔ではなく魔術のオーラで判断していた。だが唯一このマグリットと言う男は顔で覚えていた、この男だけは俺を恐怖せず…しかし何処か申し訳なさを持った顔をしていたからだ。今となればこの男だけは俺を一度として兵器と呼んだ事はなかったように思う。…まぁそれでも俺を使い戦争を起こさせた渦中の人物である事に変わりはないが。
レナがアリス・スカーレットを連れていた時は少し驚いたが、レナを選んだ点はさすが宰相の娘と言った所か。面倒ごとである事には変わりなく、しかしレナの願いならば仕方ない…俺にレナを置いて行く選択肢は無いのだから。
それに、ヒバリ隊の魔術騎士には聞きたい事もあった。
(……あそこか)
ドア前には2人の警備兵、音もなく近寄りダウンさせる。
…殺してもいいがレナが無駄な争いは避けて欲しいと言っていたのを思い出し、気絶で止める。ドア越しに気配を探れば中に居るのは5人程……1人はベイグ・スカーレットだな。
「侵入者はまだ捕まらんのか…!!」
「…っは、す、すみません!未だ見つからずっ」
「言い訳は聞かん!!さっさと捕まえろ!」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ公爵様。俺が行っても良いんですよ?」
「…ドープ、貴様はワシの側にいろ!必ず守り抜け!!その為にツバサに高い金払ってやってるんだ!」
「……はいはい、わかってますよ…」
ドープ、それが魔術騎士の名か。聞いた事もない下っ端のようだな。
魔術を発動させると同時にさすがに気が付いたように相手からの殺気を受ける。
「!…誰だ!」
「な、何だ!?」
扉を魔術で溶かせば俺の姿に驚く。
「だ、誰だ!!お前は!」
「…貴様が侵入者か」
「ド、ドープ!!絶対に倒せ!!ワシを守るんだ!!警備兵っお前らも行け!!」
「は、はっ!」
向かってくる警備兵。足元にある自身の影を伸ばしそこから這い出た影で全員を拘束させた。ドープと言う男は流石に反応したか、ジャンプで回避すると俺の影を見て驚いた声をあげる。
「…影…!?こんな高度な魔術…」
「なっ、なんじゃコレは!!!はずさんか!!」
弱い者ほどすぐ吠えるとはまさにだな。
「……少し黙っててもらおうか」
「…っ何をっ…っぐ!むー!!むー!!!!」
「詠唱なし…だと…!?そんなバカなっ…!」
「むー!!むぐっ!!!」
影で口を塞ぐも尚騒がしいベイグ・スカーレット。黙らせるために右腕の骨を勢いよく締め折った。
「!!!!ぐぅっ…!!!!」
「次騒げば左だ」
「っ、、…!!、」
目を血走らせ床に伏せる。やっと大人しくなったか。
「…貴様、一体何者だ…」
「……お前に聞きたい事がある」
「……、聞きたい事…?」
「カナリア軍のハーシュをしっているな?」
「!何故っ、その名を…!!!」
「先日死の森にて発見されているはずだ……奴は今も生きているのか」
そう、俺が聞きたかったこと。死の森で殺したと思っていたが…レナを宿屋に預け念のため確認しに行ったら奴はなくいなくなっていた。ツバサが回収したのか…いや、死んだ奴は切り捨てるのがツバサのやり方。と言う事は…そこで確信した、奴は…ハーシュは生きている。
「…な、何故だ、…何故その方の名をっ…貴様一体っ…」
「……俺の問いに答えろ」
「っ…っ生憎だが、誰かも分からぬ者に教える事は出来ない」
……そうか、そっちがその気なら…
俺はゆっくりと刀を抜き黒炎を纏わせた。
「!!!!…っそ、その漆黒の刀……黒い炎…貴様まさか…黒炎の殺戮者か……!?」
「…無理矢理にでも吐かせる」
「っっっ!」
殺気を放てばドープは目を丸くさせ冷や汗をかきながら勢いよく一歩後ろへと下がる。そのまま力を無くしたように片膝を着いた。
「な、何故黒炎の殺戮者がここに…!!!報告書には死んだと…!!」
「……」
「…っ無理だ…!私に敵うわけがない…」
…冷静に相手の強さを測れるか。まがいなりにもツバサと言う訳だな。しかし…俺も黙って見逃す訳には行かない。
「知っていること、全て吐け」
「………っ」
「そうか…なら」
「!っ早いっ…っぐっ」
自身の手に黒魔法を発動させドープが動くよりも先に奴に近づき頭を片手で掴む。何も出来ずに相手はもがくだけ。
「…知っているか?黒魔法は物理の破壊も得意だが…精神の破壊も得意なんだ」
「!!!くっ…っ」
手の周りに黒い炎がゆらゆらと灯る。なるほど…俺の魔法はこんな色なのか。レナのおかげで自身の色を知る、これが彼女には綺麗な夜空の色に見えるのだと。
「暗黒ノ夢」
「ぐぁぁあ!!!」
しばらく叫んだ後、そのままぐったりとした相手の顔を無理矢理上げさせる。虚ろな目でこちらを見ていたがまだ意識はあるようだ。
…なるほど、このくらいの精神破壊なら耐えられるか。
「うっ…ぐっ……」
「奴は生きているのか」
「っ……」
答えないか、まぁいい。…目の泳ぎ方、心拍数から察するにハーシュは生きている。早いとここの国を出ないと面倒な事になるな……レナの存在も知られているはずだ。
きっとコイツは口を割らない、幾度となく拷問をしてきたが…このタイプは自死を選ぶ。それならコイツに用はない。
…しかし…俺が生きていると知られた以上殺すか?いや、知られたとしても別に変わらないか。
それに、レナが近くにいる場所で殺しは出来ない。もし彼女がそれを見てしまったら…
そんな事を考えていれば、冷や汗を流しながらもドープは口角を少し上げて薄く笑った。
「……っ…黒炎の殺戮者をやる前に、白魔法の女をやれ……」
「!!」
ザワッと自身から殺気が漏れ出す。先程の比じゃないことは目の前のドープがガタガタと震えている事で明らかだ。
…白魔法の女…レナの事で間違いない。
「…どう言う意味だ…その女について他に何が書いてあった」
「ひっ、ひぃ…!!」
「答えろ!!!」
相手の頭がメキメキと音を立てる。ハーシュが生きているとなればレナの情報が回るのは予測していた、しかし問題はそこじゃない。
俺ではなくレナを殺れだと?はっ…笑わせる、なら
____なら先に俺がお前を殺してやる。
「ぐああああ!!!!!!」
そのまま壁に押し付ければ勢いで部屋の壁が崩れて隣へと繋がる。どうやら礼拝堂の様でそのままそこの壁へと減り込ませた。
「エイジさん!?」
あの時、あの場にレナがいなければきっと殺していただろう。
※※
目の前で倒れたシェリル・スカーレットの無事を確認してこちらにホッとしたように笑いかける彼女はいつものように優しい笑みを俺に向けた。
…もしあの時ドープを殺していたのなら、彼女に拒まれたのだろうか…
…いや、それはあり得ない事だ。彼女はどうあがいても俺から離れられないのだから。彼女が俺から離れれば俺は死ぬ事を選ぶ、そうなれば
‘’腕輪‘’の契約でレナも死ぬ。彼女に離れると言う選択肢はない。俺たちは運命共同体__…
レナが死ねば俺も死に、俺が死ねば……
そうだ。何も知らない彼女をこの世の全てから守ってみせよう。汚いことは全て俺が請け負う、ただ幸せに俺の隣で笑ってくれればいい。
もう彼女に怖いものなどない…あるとすれば、
「エイジさん?」
___俺だけだろう。
「………どうした」
「すみません。シェリルさんを運ぶのを手伝ってくださいますか?」
私じゃ支えるので手一杯で…と言う彼女の足が震えていたため、気に食わないがこの女を運ぶ事にする。無造作に肩に担げばレナが慌てたように「ゆっくりと…!お願いします!」と言った。
正直、俺はレナ以外どうなろうが知ったことではない。誰が死のうが生きようが好きにすればいい、レナに頼まれてなければ俺は間違いなく此処にはいないだろうからな。
だがレナに懇願されたなら仕方ない、いや…レナにこいつを触れさせたくない。
「エイジさん、こっちから上に行けるんですよ!アリスちゃん達がいる部屋に繋がってるので、あっ…暗い道なので気をつけてくださいね」
神妙な面持ちのレナだが俺は夜目が効くから暗くても問題はない。
「危ないので…その、手は繋いだ方が良いでしょうか…?」
「……」
…が、それは言わないでおく。
エイジ視点でした、この後もちょいちょい彼視点入るかもしれません。
お読みいただきありがとうございます。反応頂けますと頑張れるのでどうぞ宜しくお願いします!




