やるべきこと
「アリスお嬢様、そちらの方々は…?」
ひとしきりお互いの無事が確認出来たのかマーサさんは立ち上がると不安そうにアリスちゃんに問いかけた。その言葉にパァっと顔を明るくするとテチテチとこちらにやってくる。
「あのねマーサ!レナお姉さんとエイジお兄さんがアリスをここまで連れて来てくれたんだよ!2人がアリスを助けてくれたの!!」
「!まぁ…なんと」
マーサさんはそのまま深々とお辞儀をすると震える声で何度もお礼を口にした。
「レナ様、エイジ様、どれだけお礼を申し上げても足りません…本当にお嬢様を助けて頂きありがとうございます」
「あ、えっと…私は何もしてなくてっ…彼が、あ、こちらのエイジさんがここまで連れて来てくれて…」
「…レナがいなければ俺はここに来ていない」
「えっ!?で、でも私達エイジさんがいなければ絶対ここまで辿り着けてないですし…!」
そんな小さな押し問答?をしていればマーサさんはふふっと小さく肩をゆらして「お2人は仲がよろしいのですね」と笑った。
「アリスとマーサくらい仲がいいよね!」
「ふふ、そうですねお嬢様」
楽しそうに笑い合う2人を見て、今は自身のことを考えるよりも今この時を考えなくちゃ。理由はどうであれ私が助けると決めたんだから。この2人の笑顔を壊したくない。
「…マーサさん、まだ確証はありませんが…アリスちゃんのお父さんを治せるかもしれません」
「!」
「私達はそのためにここに来ました、これからアリスちゃんのご両親の所へ向かいます…なので一緒に来てくれますか?」
不安そうな彼女に、エイジさんがいるので百人力ですよ!とそう笑顔で言えば泣きそうな顔をキュッと引き締めコクリと頷く。横からアリスちゃんがマーサさんの手をキュッと握った。
「大丈夫だよマーサ、エイジお兄さん凄く強いの。それにアリスもいるからね」
「!…はい、頼りにしておりますお嬢様」
アリスちゃんもきっと不安だろうにマーサさんのために強くあろうとしている。本当に強い子だ。きっとアリスちゃんがいればマーサさんは大丈夫。
「話はまとまったか」
「っあ、は、はい…!」
「……行くぞ」
「えっ、わっ…エイジさん危ないです…!」
私の返事を聞くや否やエイジさんは自宅の扉を開けるかの如く普通に扉を開け外に出る。
ち、ちょっとエイジさんさすがにノールックは…!!外の様子を伺ってから開けないと危ないですよ!!私がアワアワと慌てて追いかければ彼は涼しい顔をして視線を横に送った。
「問題ない」
「…!?」
彼の視線の先を辿れば警備兵の山が出来ていた。皆んな気絶しているのか折り重なるようにして山になっている。えっちょっと何どう言うこと……?!
困惑と驚きで目を丸くしていればその山の前にエイジさんの魔獣である黒狼が座っていた。
「ここら辺の警備兵は黒狼が全てやった」
「ワンッ」
誇らしそうに鳴いた黒狼を彼はゆっくりと撫でる。満足そうに尻尾を振る黒狼が可愛い…!やっていることは可愛いくないけど…!よくよく見たら黒い影が紐のように身体に巻きついていて身動きを封じてる。凄い、影って色んな使い方あるんだ……驚くように黒狼を見ていればバチリと目が合う。綺麗な金色だ、エイジさんと一緒の澄んだ綺麗な色…何故か私の足元までゆっくりと歩み寄ってきたため少し緊張してドキドキしていればクンクンと私の匂いを嗅いだ。そして足元に擦り寄ってくる。ふわふわの毛がくすぐったい、甘える様にクゥンと鳴いたその姿に身悶えた。
何この子見た目凄く凛々しいのに可愛い…!!
「何だかレナお姉さんに凄く懐いてるね」
「…魔獣は契約主以外にはあまり懐かないと聞きましたが…凄くレナ様に懐いておられますね」
「な、何故でしょうか…?」
恐る恐る頭を撫でればふわふわの柔らかい毛が気持ちいい。あまりの警戒心の無さに首を傾げていればエイジさんがさも当たり前の様に「俺の魔獣だからだ」と言うもんだから一瞬の間の後でその意味を理解した。またさらりと…!!
「黒狼」
そんな私を他所にエイジさんが名前を呼びかけると黒狼はスッと彼の前へお座りした。
「…ツバサの魔術騎士は居たか」
「ワンッ」
「……やはりな、なら下の階にいるのがそうか。気配を隠しきれていない」
ツバサって例のエイジさんがいた機密部隊の…
「…エイジお兄さん、その、…叔父さんはここにいるの…?」
アリスちゃんが震える声で聞いた。
そうだよね…彼女が1番怖がっていた人物、今回の首謀者な訳で…一体どんな凶悪な人か…
「…ああ、いるが…相当な臆病者だな。」
………。
えっ…?と私が面食らっていればアリスちゃんも同じだったのか少しの間の後首を傾げる。
「お、臆病者??叔父さんが…?」
「……ああ。外の警備を全て室内…ほぼ自身の周りだけに回し、更に魔術騎士を自身の側から離れないようにさせている。行動は大胆だが自身の保身に走る後先考えない小物だ」
まさに目が点になるとは今のアリスちゃんの事だろう。それはそうか、1番怖いと思っていた相手が臆病者で小物だと言われたのだから…しかもそれをエイジさんが言うと嘘に聞こえないしむしろ本当にそうなのだと思う、彼は良くも悪くも正直だから。と言うかエイジさんが強すぎるのだ。
「で、でもあの大きい魔術を使ってた人もいるよ??」
「レナがいる限り俺は負けない」
私の名前が出てドキリとした。…うん。大丈夫、彼は約束を守ってくれる人…だから負けたりしない。
実際助けてもらったアリスちゃんはちゃんと知ってるもんね、彼が本当に強いと言う事を。
アリスちゃんの返事を聞かずエイジさんは黒狼へと目線を向けた。
「お前はレナの側を離れず守れ。必ずだ。俺はこのまま下の階に行く。」
「ワン!」
「っ、エイジさん…!」
言ってからハッと気がついた。そのまま行ってしまいそうな彼に思わず声をかけてしまった。
「どうした」
ほら、エイジさんが私の言葉を待ってるのに…!何を言うかなんて考えてなくて、彼なら大丈夫だと頭ではわかっているのに…咄嗟に声が出てしまった。心配…と思うのは信じていないようで失礼だと思うけど、それでも心配なものは心配…!!
こんなにも待たせた挙句私の口から出た言葉は控えめな「気をつけて」だった。
エイジさんが目を細めふっと笑う。
「……俺を心配するのはレナくらいだな」
「?」
ボソリと言った彼の言葉が聞こえず聞き返そうとした私に近付いて、そして優しく耳打ちする。
「お前がいれば俺が負ける事はない。
……良い子で待ってろ」
「!っ」
去り際に確信めいた笑みで薄く笑う彼が見えて揶揄われているのがわかった。何かを言いたくても言葉にならず、彼からの送られた熱に耳を押さえた頃には頼もしい背中は遥か先にいた。
な、何と言うイケメンボイス…!!相変わらず破壊力が凄い…。
「レナお姉さん大丈夫?」
「…うん、大丈夫」
…きっとエイジさんは私の気持ちを汲んでわざとそうしてくれたのかな。…ふふ、お陰で不安だった気持ちが少し無くなった。
「さぁ、私達も行こう!アリスちゃんのご両親の無事を確認しに」
私の言葉に2人とも大きく頷く。それを見た黒狼が先人を切るように歩きだした。
_______
「…あそこの角部屋がアリスちゃんのお父さんの部屋…?」
「…うん」
こそり、バレないように皆んなで身を隠しつつ目標である部屋を覗いて見てみれば警備兵が2人立っていた。
「警備兵いるね」
「旦那様と奥様…無事だと良いのですが…」
「もしかしたら中に警備兵がいるかもしれません、2人とも気を引き締めて…もし何かあれば私が___…」
言いかけた時ドサリっと音がして慌ててそちらへ目を向けると黒狼が警備兵2人をダウンさせていた。
「ワンっ」
「わぁ!クロウ凄い!あっという間だった!」
「正直今何がおこったのか見えませんでした。さすが黒狼様」
「ワン」
2人に褒められ得意そうにした後私の元へやってきた黒狼は褒めてっと言うように上目遣いに見てきた。控えめに揺れる尻尾。
……か、可愛いすぎるこの子…!!!
労わりと感謝を込めて撫でてあげれば満足したのか気絶した警備兵をあの謎の黒いもので意気揚々と拘束していた。
とっても可愛いけどしっかりと最後まで気を抜かない所はエイジさんに似たのだろうか…
「黒狼、中に警備兵はいませんか?」
「ワンッ」
スンっと匂いを確かめた後にフルフルと首を振る。良かった、中にはいないみたい。エイジさんの言っていた通り見張りもここには警備兵は少ないようだ。
ホッと息を吐けばその様子を見ていたアリスちゃんが我慢出来ないと言うようにタタッと駆け出し扉を開けた。
「アリスちゃん!?」
マーサさんが後ろでお嬢様!っと呼び止めるも聞こえていないのかアリスちゃんはそのまま豪華な内装の部屋を抜けて寝室らしき所へ真っ直ぐと向かった。
「パパ…!!!」
大きなキングサイズのベッドには1人の男性が。
この人がアリスちゃんのお父さん…。彼女が持っていたペンダントと同じ男の人、ただ顔色が悪い。
大粒の涙を流しながらアリスちゃんがお父さんに抱きつき、隣に来たマーサさんが「ああ…旦那様…顔色が…」と狼狽えた。
…顔色も悪く呼吸も浅い。呪いの進行が進んでいるのだろうか…。よく見てみれば眠る彼の心臓に当たる部分からいつか見たあの黒いモヤが見える。
…一緒だ、あの時の苦しんでいるエイジさんと、
まるであの時のエイジさんを見ているようで辛い。
「アリスちゃん、大丈夫だよ」
「!レナお姉さん…?」
私が解呪を使ってしまうと動けなくなってしまうから今はまだ使えない。でもエイジさんと同じ症状ならば…一時的になってしまうが楽にする事は出来るはず…!
眠るアリスちゃんのお父さんのモヤ部分に手をかざし治るようにと祈れば温かな光が部屋を包んだ。
「…!この光は…!?」
「…レナお姉さんの魔法…!」
光が収まるとさっきまでの顔色の悪さはなくなり呼吸も規則正しく戻っている。
良かった、とりあえず今はこれで我慢してもらおう。
「パパ顔色良くなった…ありがとうレナお姉さん」
「…大丈夫です、全てが終わったらしっかりと治しますからね」
アリスちゃんとのやり取りを見ていたマーサさんは「…無詠唱…」と驚き目を見開いていた。
そうだった、治すとは言っていたけどマーサさんは私が魔法を使えることは知らないんだった…でも今は説明よりもアリスちゃんのお父さんとお母さんの安全を確かめなくちゃ。
「……アリスちゃんのお母さんは…?」
そうだ…アリスちゃんのお母さんがいない…!てっきりこの部屋に一緒にいると…!!
「…ママの部屋!!」
駆け出したアリスちゃんを私達は慌てて追いかけ隣の部屋へ行き扉を開けた。しかし人の気配がない。
「レナ様、奥様の姿が見当たりません…!」
奥の部屋まで見に行ったらマーサさんが慌てたように戻ってきた。静かな部屋を見ながらアリスちゃんが「ママ…」と涙を流す。
「大丈夫です、必ず見つけるから…!」
「っレナお姉さん…」
「ワンっ」
突然黒狼が吠えはじめたためそちらに視線を向ければ部屋の隅を黒狼がすんすんっと匂いを嗅いだ後またワンっと吠える。
何もないのに…何か訴えているようで、何故吠えてるんだろう…?そう思っていればアリスちゃんがハッとしたように隅にある壁の一部を触った。カコンと音がしてゆっくりと扉が現れる。
「!隠し扉…!?」
「これ、隠れんぼしてた時に見つけたの。この先は確か礼拝堂だった!!」
「礼拝堂…?…そこから外に出られる場所はありますか?」
「うんん、ないよ」
確か礼拝堂って一階の1番奥って言ってたよね?逃げ場はない礼拝堂に何故…?
「もしかしたら…日課である祈りを捧げに礼拝堂へ向かわれたのかもしれません」
「…祈り?」
「…旦那様が体調を崩されてからずっと祈りを捧げておられるのです。毎日藁にもすがる思いで何時間も祈りを捧げておりました、治りますようにと…」
そんな危険を犯してまで……そう言いそうになって口を継ぐんだ。そうだ、私の世界とは違う…アリスちゃんのお母さんは本気なのだ。この世界には神がいて実際に私も会って目にしている、大切な人がそんな奇跡的にも助かる可能性があるのなら私だってそうするだろう。もし私も自分の母を助けられる可能性があると知ったら毎日縋るように祈っていたに違いない。
「アリスのお家が信仰してる神様、パナケア様って言ってたでしょ?」
そう言えば…よく分からなくて聞き流してしまったけど…
「パナケア様はね、癒しの女神様って言われてるんだよ。万病を治すっていわれてるの」
「!」
「ママが言ってた、きっとパナケア様がパパを助けてくれるよって…そのためにママがお祈り沢山するよって」
…間違いなく、アリスちゃんのお母さんはこの先の礼拝堂にいる。でも一階にはエイジさんが……何処で戦っているかわからないしもしかしたら鉢合わせてしまうかもしれない。危険かもしれないけど…
「ママを助けに行かなくちゃ…!」
「お嬢様!下は危険です…!」
今にも行こうとしているアリスちゃんをマーサさんが引き留める。そんな2人を私は制した。
「私が1人で行きます」
「!」
驚き目を見開くマーサさんが顔を青くした。
「黒狼、お願いがあります。私はこの先の礼拝堂へと向かいます…その間アリスちゃんとマーサさんをお願いできますか?」
「!」
「警備兵がまた来ないとも限りません、何かあった時アリスちゃん達をしっかりと守れるのは黒狼だけです。」
ブンブンと首を横に振りドアの前に立ちはだかった。彼はきっと私を守れと言ったエイジさんの言い付けを守っているのだろう。
「…私のお願いを聞いてくれないならもう撫でてあげません」
「!!」
ガーンっと効果音が聞こえた気がした。いつも凛々しい黒狼が初めて狼狽えている。
ごめんなさい黒狼、でも私はアリスちゃんとの約束を果たさなければいけないの。そのためにここまで来たのだから
「…ふふ、大丈夫です。彼女のお母さんを連れ帰ってすぐ戻ってきますから…黒狼、私を信じて」
「………、」
クゥーンと耳を垂らして扉の前から移動した黒狼にありがとう、と言いながらフサフサの頭を撫でた。
「そ、そんなレナ様危険です…!」
「…マーサさん、このままみんなで行く方が危険です」
何かあった時に私はこの2人を守れない。それにもしアリスちゃんのお母さんが怪我をしていたりした場合すぐにでも治療が出来る。きっとこれが最善のはずだ。
一連の流れを見ていたアリスちゃんが不安そうに私の手を握った。
そんな彼女の目線に合わせ小さな肩に手を置く。
「アリスちゃん、貴女のお母さんは必ず私が見つけて来ます。だからその間アリスちゃんはお父さんとマーサさんを守ってあげてください」
「!アリスが2人を…?」
「はい、黒狼と一緒にです!…アリスちゃんはとても強い子です、泣かずに待っていること…約束出来ますか?」
一瞬の間の後、彼女はくっと目に力をいれて深く強く頷いた。
無事に終わらせてみんなに…アリスちゃんに笑ってほしい。そのために今私が出来ることをする。
「黒狼、みんなをお願いしますね」
心配そうな黒狼に笑いかけ撫でてやると少しだけ尻尾が上がった。
扉を開ければ薄暗い道が続く、奥は真っ暗で先が見えない。マーサさんが慌てて棚上にあったランタンを付けて手渡してくれた。さすが…こんな状況でも仕事が出来る侍女さんだ。これで先も見えるし大丈夫。
一歩踏み出すと背後から聞こえる声援。
「……ワンッ!」
「どうかお気をつけて」
「レナお姉さん、待ってるよ…!」
待っていてね。
恋愛全振りで書きたいところなのでここら辺はささっと終わらせたい。




