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幻を切り裂く


「ア、アリスも連れて行って…!!」

「でも…何があるかわかりませんし危険ですから…」

「っお願い!!」


あの後、寝ていたアリスちゃんをエイジさんの防御魔法をかけた別の安全であろう宿屋に置いて行くと言う流れになっていたのだが、目を覚ました彼女は状況を把握してすぐ頑なに自身も連れて行って欲しいと懇願してきた。


「アリスいい子にする!だからっ…お願い、」


…うっ、そんな子犬のような瞳で…っ!

これから行く場所は危険の渦中で、何があるかもわからない。彼女は頭もよく自身が足手纏いになってしまう自覚もあるだろうにそれでも着いて行きたいと揺るがぬ瞳で訴えてくるのだ。

私が強ければ守ってあげられるのに、でもそんな力はない。故に連れて行くと言う事はエイジさんの負担が多くなってしまうと言う事につながる。

だけど、アリスちゃんの意思も尊重してあげたい…私が彼女の立場なら同じことを言っていただろうし…

と言うか置いて行っても1人で着いて来ちゃいそうな勢いだし…



「…お兄さんお願い…!!」

「……」

「…エイジさん…、」

「………」


私達2人の眼差しにエイジさんは短くため息を吐く。


「……レナから離れなければ守ってやれる」

「わ、わたしレナお姉さんから離れないよ!!約束守る!!」

「……ならいい。」

「…エイジさんありがとうございます…」


やっぱりエイジさんは優しい人だ。本当に彼に出会えたことは私にとって幸運でしかない…

そんなことを思っていればアリスちゃんがこそりっと私に耳打ちしてきた。


「…お兄さん、優しい人だね」

「!ふふ、そうなの。エイジさんはとても優しい人だよ」


ひっそりと2人で笑いあった。エイジさんの良さを分かってもらえて私も自分の事のように嬉しい。


「頑張ってエイジさんの負担にならないようにしようね」

「うん!」


____と、そんなことを言っていたのに。


現在時刻、深夜。


「はぁ、…はぁ」

「レナお姉さん、大丈夫?」


アリスちゃんの家に向かっていた訳だけど建物自体がデカかったからなのか意外と距離があったみたいで息も絶え絶え状態。いつまでたっても家に着かない。確かに家の前に木々は見えてたけど…こんなに距離があったとは。

横を見れば心配そうに私の顔を覗き込むアリスちゃんは元気そうで、子供の体力恐るべし…

私が1番迷惑をかけている状態で本当に穴があったら埋まりたい…。

遠い目をしながら思いだす。そうだった、私体育の成績悪かったんだと(2回目)


「大丈夫!レナお姉さんが歩けなくなったらわたしがおんぶしてあげるから!」


自身の胸をポンっとドヤ顔で叩いたアリスちゃんが可愛くてふふっと笑ってしまった。


「それじゃあアリスちゃんが疲れたら私が抱っこしますね?」

「んー、それだとレナお姉さんが疲れたら大変だから…そうだ!レナお姉さんはお兄さんにお願いすれば良いんだね!」

「えっ、いやそれは…っきゃっ!?」


突然フワリと自身の身体が浮く感覚。エイジさんは右腕に私を座らせる形で軽々と抱き上げた。事態を読み込めずに私が目を白黒させていると今度はそんな私にアリスちゃんを抱っこさせた。


「エイジさん!?」


きょとんとしたアリスちゃんとは正反対に私がワタワタと慌てだす。


「い、一体どうし___」

「……魔術だ」

「…っえ?」


エイジさんは暗闇の先をじっと見つめたままで動かない。魔術って…、なんの…?


「___…幻を見せる魔術か」

「幻…!?」

「…辿り着かないわけだ」


えっ、それってもしかして…家に辿りつかなかったのって魔術のせい!?な、なるほど…!私の体力の問題じゃなかったのか…!

あれ、でも結局私だけへばってしまったんだから体力はつけないといけない訳で…


「…レナ」

「っは、はい!?」


突然名前を呼ばれ、余計な事を考えていたからかビクリっと身体が反応してしまった。


「…走り抜けながら魔術空間を切り裂いて突破する」

「…へ、…」

「アリス・スカーレット、分かってるな」

「うん!レナお姉さんから離れない!!」

「えっ、ちょ…待ってくださ…」

「大丈夫だ」


そう言いながらエイジさんはゆっくりと刀を抜く。


「俺を離すなよ」


その言葉を最後に私は言葉を無くした。いや喋れなかった。

彼が地を蹴った瞬間、物凄いスピードで動く景色…いや、違う。これ私達が、正しくはエイジさんが速いんだ…!もはや感覚はジェットコースターに近い、と言うかそれ以上かもしれない。

こっ、こここ怖い…!!息が出来ない!!と言うかエイジさん私達2人抱えてこんな速さが出るなんてすごいっ…!!色々とツッコミたいのに風の勢いではくはくと息だけが口から漏れ出る。


「口を閉じろ、舌を噛む」

「!」


その言葉の後すぐに彼は刀を構えて黒炎を纏わせた。

私が落ちればアリスちゃんも危ない…!恥ずかしいとか言ってられないよね…!

私は咄嗟に腕の中にいるアリスちゃんごと抱き込みエイジさんの視界の邪魔にならないように首に思い切り抱きつく。それに応えるかのように私を支えていた彼の腕に力が入った。安心しろと言うように。


纏っていた黒煙の炎が眩い光を放つと雷のようなものに変わり、エイジさんはそれを振り下ろした。あまりの衝撃と眩しさにギュッと目を瞑る。


雷黒切ライコクギリ


何もない空間を切ったはずなのにバチバチと''何か''に当たる音の後、パァンと弾ける音が聞こえた。


「……もう大丈夫だ」

「…お、わった…?」


そろっと目を開ければ目の前にはずっと辿り着かなかったアリスちゃんの家がすぐ目の前に見える。私の腕の中からひょこりと顔を出した彼女は「アリスの家だ!」と嬉しそうにピョンと腕から飛び降りた。


…良かった、ついたんだ。

ホッとして私もエイジさんの腕から降りようとした……が。


「…っあ、あの…エイジ、さん?」

「ん?」

「っっ!」


顔に熱が集まるのが自分でもわかる。

なっ、何ですかその甘い顔はっ……!!至近距離でそれは不意打ちすぎる!!エイジさん貴方そんな顔が出来たんですかっ!

ひぇぇ…確かにこれまでのことを考えたら人肌恋しいのはわかるけどもっ!流石にこれは恥ずかしい、と言うかこのやり取り前もやったことある気がするし…!


「っ……ぉ、降ろして…くださぃ…」

「…俺はこのままでも良いが?」


相変わらずの大真面目な顔。エイジさん本当に、意外と冗談言うんですね!!でも貴方のその顔面で言われちゃうとこれはっ…流石に色々と!!


「よっ、良くないです!!」

「そうか」

「今は冗談言ってる場合じゃないですよ!」

「………」


納得行かないような顔でこっちを見てもダメですからね!


「レナお姉さん、お兄さんこっちだよ!」


アリスちゃんが指差す方は裏手の庭、彼女が逃げ出した抜け道から今回は中に入る手筈。どうやら外の警備は手薄のようだ。


「エイジさん行きましょうか」

「………」

「?エイジさん?」


着いてくる気配のない彼を不思議に思い振り返れば月夜の中で輝く金色の瞳と目が合った。何かを狙うようなギラギラとしたその目と。


「____…冗談じゃない」

「…え?」


ジャラリ、とあるはずのない鎖の音が自身から聞こえ急いで身体を見回すがやはり見当たらない。

え…今の、何だったんだろう…?


「…行くぞレナ」

「え?あ、は、はい…!」


それに、冗談じゃないって…一体どう言う…?

反応があると更新頑張れます。いつも本当にありがとうございます…

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