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2/17

良い人

「……ベルク帝国から遥か北にある聖獣が住まう森、危険区域……ハーノルドだ」



__ああ、ここは私が居た世界ではない。


だってそんな名前聞いた事ない。

これは今流行りの異世界、と言うやつかもしれない。


えっ、私がいた世界じゃないのなら私はこれからどうなる…?住む場所もお金も何もない。

知り合いもいない、何も無い私はこれからどうしたら良いのだろう。

考えれば考える程沸々と不安が襲う。


そんな1人百面相する私を男性はなおも無言で見つめてくる。何と言えばいいのか分からなく困惑する私の口は乾ききっていた。



「……っ、ぇ……と……、」

「……」


上手く言葉にできない私。きっと普通ならば怪しさ満点の私を無視だって出来るはず、それなのにじっと見詰めてくる男性はもしかしたら……私の答えを待ってくれているのだろうか……?

(フードで見えないけど多分)無表情、無口で怖い気もするけど……この黒い生物も甘えるように擦り寄っているし………良い人…?

何かで聞いた事がある、動物に好かれる人に悪い人はいないって。

それに、何より怪しまれながらでもせっかく声をかけてくれたんだ、例え悪い人だとしても…今の私が頼れるのはこの人しかいない。

とにかく、何か、何か言わなければ!


「っ私、気が付いたらここにいまして…その、何も、えと……わからなくて……」


頑張って言葉にするも徐々に尻込みして行く言葉。

急に何もわからない、なんてこんなことを言ったら余計変な人になるのに!

でも何と言ったらいいのか…生憎と嘘をつくのが苦手な性格である私は適当な言い訳を言えず言葉に詰まりながら俯く。

男性は1拍置いてからゆっくりと口を動かすと周りの木々が優しく揺れて風が吹いた。


「……そうか」


そのたった一言、しかし何故かその言葉に柔らかさみたいなのを感じて。

…やっぱり、悪い人じゃない気がする。



男性は座り込む私の前までゆっくりと近づくと立ったまま私を見下ろす。

あ、逆光で見にくいけど、右側の頬あたりに黒い刺青がある……なんだろう、龍みたいな…あまり見えないけど。

何となく…今…目が合っている気がした。


「……っ私、麗奈と言います…!貴方のお名前を聞いてもいいですか……っ?」


「………エイジだ」


明らかに怪しいだろう私だが警戒……はされていない……?

肩に入っていた力と緊張が少し解れる。

どうやらこの人はエイジさんと言うらしい…

良かった、名前教えてくれた…。

私はホッと胸を撫で下ろして少し落ち着けたからか、自然に笑えた。

1人で心細かったから誰か居てくれるのは嬉しい。


「…貴方はエイジさん」


「!__...」


息を飲む音が聞こえ私は首を傾げた。

え、……どうしたのかな?

様子を伺うもやはり彼は変わらずに無口だ。


(でも……本当に良かった。)


この世界での初めての名前を知る相手。思わず名前を呼んで確認してしまった。それはそうか…不安だったから、知っている人がいないこの世界に。

……だから、嬉しい。今は1人じゃないと不安に押し潰されそうな心が救われた気がした。


私の嬉しい気持ちを感じ取ったのか、黒い生物は座り込む私の膝に足を乗せ嬉しそうに様子を伺っている。クリクリした目が可愛い。恐る恐る頭を撫でてやれば、私の手にも甘えるように擦り寄って来た。か、可愛い……!


「なんで……」

「え?」


私達のやりとりを見ていた男性は私の目線に合わせしゃがむと、今まで無機質だった雰囲気があった彼に初めて、それ以外の何かを感じとる。それは少し戸惑いを感じているような雰囲気。しゃがむと同時にフードがはらりと落ち彼の顔をしっかりと見る事ができた。

そして、目が合う。


「あ……」

「なんで、お前には色がある」


色?色とはなんの事だろうか…?

戸惑った男性の声。見えた顔はとても綺麗な顔立ちをしていた為に私は少し驚いてしまった。

フードが取れたと同時にハラりと散らばった綺麗な襟足の長い金髪、白い肌。薄い金色のような瞳はハイライトがなく少し…例えが悪いかもしれないが濁って見えた。でも、それでも綺麗な瞳である事は間違いない。

顔にある紫かかった黒い刺青が白い肌に良く栄えている。

一瞬、時が止まったような気がした。


急に現れた美形さんに驚きつつ、言われた質問に頭を捻る。色があるって何の事だろう?

悩んでいれば男性はピクリと身体を反応させ視線を私の後方へと睨むように向けた。ピリッとした空気に一気に緊張する。

え、な、何…?


「……」

「?…あ、あの…どうかなされましたか?」


男性が向ける目線の先を辿り見ればガサガサと草が揺れ、黒い塊が出てくる。


「っ、な、に……」

「動くな」

「っ、」


草を掻き分けて出てきた黒い物体、いや生物。それは私の身長をゆうに超えたデカさで。

ひゅっと息を飲む。え……なに……?

低く唸るその巨大生物に頭の中で警報が鳴り響いた。足元でミュー!と何かを伝えるように鳴いていた小さな黒い生物を守るように抱き寄せる。この子だけでもと逃がそうと動きそうになった私に男性は素早く手で動くなと制した。男性のその声は起伏がないのに緊張感のある声で、身体を固くすれば巨大生物がゆっくりとこちらへ向かってきた。


(な、何なのあれっ……)


四足歩行の黒いトラのようなフォルム、首元にはフワフワの毛がありギョロりと動く赤黒い大きな瞳、額には瞳と同じ赤のルビーのような石が埋め込まれている。何よりもかなりの大きさ。

……あれ?何だかこの生物見た事あるような……?


そんなことを思っていればトラのような生物は低い体制を取って更に唸り出す。

っあれ、これって完全に狙われてる……?

男性が腰にある刀のような物に手をかけた時、黒い生物は私達に向かって走り出した。鋭い牙と爪がスローモーションで私に飛びかかってくる。

……あ、私死ぬかも……


ガキィィンッ


激しい金属音、目の前には背中。

エイジさんは腰に付けていた刀でいつの間にか私を守るように黒い生物を受け止めている。


「……静まれ聖獣ファング」


その問い掛けにも耳を傾けずガルルル…っと更に威嚇をする黒い生物に、エイジさんは「……仕方ない」と小さく呟くと刀で生物を振り払い距離を空けた。


「……黒炎」


「!」


(!エイジさんの刀に黒い炎が…!)


黒炎と小さく呟いた瞬間、エイジさんが構えていた刀にボウッっと黒い炎が渦を巻くように出てくる。キラキラと紫がかった炎は夜空のように綺麗に見えた。


そんなことを思っていれば、対等していた黒い生物が唸りながらまた襲いかかってくる。


「っあ、危なっ……」

「……蜉蝣(カゲロウ)


ユラユラと揺れ動く炎を纏う刀をエイジさんは1振り、振り下ろした。

黒い炎が相手を包み込んで身動きを取れなくさせると彼はゆっくりと黒い生物に近づき敵意がない事を示すため片膝をつく。



「……静まれ聖獣、危害は加えない」


黒い生物は次第に唸り声を鎮めていくと、体にまとわりついていた炎も弱まっていく。

黒い生物は戦闘態勢をやめ、大人しく座った。すると身体にまとわりついていた炎が消え、生物はゆっくりと頭を垂れた。


「……」


エイジさんは一息付くと静かに刀を腰に戻した。


そんな1連の流れを見ていた私はポカンとする。

一体何がどうなったんだ……訳が分からずただことの様子を見守るしか出来なかった。

とりあえず……和解した、のかな……?


不安に思っていれば腕の中にいた小さな黒い生物が声を上げみじろぎだす。


「ミュー!!」

「…ど、どうしたの?」

「ミュー!!ミュー!!」


何かを必死で私に伝えようとしているのか、私と黒い生物を交互に見ながら鳴き続ける。

よくよく見ればこの子とあのトラのような生物、見た目が似ている。と言うか身体の大きさ以外は一緒だ。もしかして……


「……貴方の、親…?」

「ミュー!!」


まるで私の問い掛けにそうだ、と答えるようにこちらを見て小さく鳴き、私の膝を降りて親の元へと駆け出したその子は辿りつくや否や鼻先をくっ付け甘えるように擦り寄った。目で何かを訴えるように親の瞳を見つめている。

しばらくの沈黙の後、私達に向き直ると頭を深く垂れた。


「……もう大丈夫だ」

「えっ?」


エイジさんはゆっくり立ち上がった。釣られるように私も立ち上がれば親子は私達に視線を合わせる。何だか急なことに頭がついて行かなくて困惑してしまう。後めちゃくちゃ足が震えている。立ち上がったはいいものの、カクンッと震えた足が耐えきれずによろけた。


「っわ……」

「……」


腕を掴み、倒れそうになった私を支えてくれるエイジさん。フードが無くなり顔が見えるようになったが表情があまり動いておらず(あと綺麗な顔だからかちょっと圧を感じる)少し萎縮してしまったが、どうやらこれがデフォルトらしい。

しかし、無表情ながらもじっと見つめてくるその顔は大丈夫かと聞いているように思えて小さくお礼をする。


「……あ、ありがとうございます……?」

「……いや、いい」


あ、合ってたみたい。やっぱり心配してくれてたんだ…

この人、口数は決して多くはないけど…でもこうして助けてくれて、心配もしてくれた。

__傷付けてこの生物を止めることだって出来ただろうに…。目の前で触れ合っている親子を見れば傷ひとつ無い。

彼は力ずくじゃなく無傷で止めてくれた。


(……うん。やっぱり、この人悪い人じゃない。)


そんなことを思っていれば頭の中にキンッと透き通った音がして、次には誰かの声が聞こえる。


《_すまない、息子の命の恩人を殺めてしまう所だった。感謝する黒魔法を司る者よ》


「!っえ…何?この声、どこから…」

「……神通力だ」

「じ、神通力っ……?」

「……ファングは神の使いだ。聖獣だけが使える」


エイジさんの視線を辿れば前にいる黒い生物___ファングは頷いた。

す、凄い……じゃあこの声はあの生物から??

この世界はこんなことが出来る生物がいるの?と言うか神の使いって、そんな凄い生物だったんだ……


神通力って…魔法みたいなものかな?

さっき、ファングがエイジさんに黒魔法を司るって言っていたし…


となるとこの世界には魔法と言う御伽話のようなものが存在しているのか…

だとすると、私のあの回復能力も魔法かもしれない。


ファングは私に頭を垂れてすまなさそうに目線をやる。

きっと大事な子供に危害を加えられるかもしれないって思ったんだよね…?知らない人間が自分の子供を抱いてたらそりゃあ怖いだろうし…


《息子を助けた人の子よ、申し訳ない。そして、礼を言おう》

「っだ、大丈夫です……!」


神の使い、そんな生物との会話だなんて……!

緊張からか、上擦った声になってしまって恥ずかしい。


《息子からの記憶を詠ませてもらった。…その身を投げ息子を助けてくれたこと、本当に感謝する。異界渡りの子よ》


異界渡り。……やはり、私は異世界に飛ばされてしまったようだ。わかっていたとは言え実際に言われてしまうと少なからずショックだ。


「!…異界渡り……だと」

「え?」


驚いた声を上げたエイジさんは少し目を見張った。

魔法を使える世界なら普通の事なのだと思ったけど、別世界から来る……なんてのはやっぱり珍しいことらしい。彼が驚く表情をしているのが何よりの証拠だ。


いや……普通は驚くよね…、私も驚いたし……。

これが正しい反応だ。


エイジさんは1度何かを考えるように目を伏せた後じっとこちらを見つめる。金色の瞳と目が合った。

濁っているのに何処か神秘さがあるその不思議な瞳に、魅入ってしまう。


ファングの誤解は解けたが彼が居なければ私は今ここにいないかもしれなかった訳で、彼は命の恩人なのだ。


「え、えっと…何も分からなくて困っていたので…助けて下さってありがとうございます」


精一杯の感謝を込めて、微笑めばその綺麗な金色の瞳を見開く。

……?ただのお礼になんで驚いてるんだろう。そう思っていればファングのすまなさそうな声が聞こえ、急いでそちらに意識を向けた。


《時空の歪みは我々聖獣には命に関わる危険なことなのだ。…そなたの白魔法が無ければ息子は死んでいただろう》


「っい、いえ!助けられたようで…良かったです…?」


ファングは更に頭を深々と垂れた。


(やっぱり、白魔法ってことはさっきの傷が治ったのは魔法だったんだ)


なんでこの世界の住人じゃないのに魔法が使えたんだろう…?


《強い力を持つ我々聖獣はよく、時空の歪みに巻き込まれることがあるのだ。

その時空の歪みに巻き込まれた息子を助けた時に、こちらとそなたの世界の時空間が歪んだか……そなたをこちらの世界へと連れてきてしまったようだ》


ファングの言葉に隣にいたエイジさんがこちらを見る気配を感じる。思わず彼を見れば目線がぶつかった。

何を言えばいいのかわからず、困ったように笑えばエイジさんは少し眉を寄せる。


エイジさん巻き込んじゃって申し訳ない……

気まづさを誤魔化すようにファングに向き直った。



「……、私は、元の世界に帰ることは出来るのでしょうか……?」

《……》


沈黙したファングを見て、私は悟った。

ああ…もしかしたら、私は戻れないのかもしれないと。


《……流石の聖獣である我らでも時空間を操ることはできない。故に、私では元いた世界には帰せぬ…》

「そう……ですか」

《私には無理だが……このハーノルドの最奥に位置する時空の神殿と言う場所がある。そこに行けばあるいは……》

「時空の神殿、……」


なるほど……ならその時空の神殿に行けば元の世界に帰れるのかもしれないのか。

良かった、まだ帰れる方法がある。


《ただ、確証は出来ない。神が力を貸してくださるかは神にしかわからぬ》

「……、」


元の世界に帰れない…

確かにショックだ。誰も私を知る人がいない世界。

ひとりぼっちで心細いのは確か…

でも元の世界でも親族の1人も居なかった私にはどこの世界でもそんなに変わらない。それに__


《……すまない》

「!ぇ、あっ、」


黙ってしまった私がショックを受けたと思ったのかファングは悲しそうに頭を垂れてしまった。

し、しまった……!そんな責めるつもりは毛頭なかったと言うのに…!


「っあ、あの、私が勝手にしたことですから…だから気にしないでください…!」

《!》


驚き目を見開くファング。

隣りにいたエイジさんからも少し、驚いた気配を感じた。

私はハッとして慌てるように続けて言葉を繋げた。


「あ、えと、…生きてさえいれば、何とかなりますから…!!まだ帰る方法だってあるかもしれませんし…だからその、大丈夫です」


そうだ、私のお母さんも生前よく言っていた。生きてさえいれば何とかなるよって。

……だから大丈夫。

それに、その時空の神殿とやらに行けば帰る方法はあるかもしれない。もしそこもダメなら探せばいいのだ、だって私はこうして生きているのだから。


__それに、だ。

私は自分の両手を胸の前でキュッと握る。

前を見れば嬉しそうに子供ファングが親に擦り寄っている。それを見れば助けられて良かったと言う気持ちの方が上回る。


「私でも、こうして役に立てたのなら…嬉しい」


いつの間にか口に出していたそれ。無意識に口から出ていたその言葉に、みんなの視線が集まる。


「っあ、えっと……だから、気にしないでください」


集まる視線に気恥しさを感じ少し誤魔化しながら笑う。だって、誰かを助けることが出来たのなら純粋に嬉しいじゃないか。

そんな私にファングが目を細めた。


《………その無垢な心、だからそなたには白魔法が使えるのだな》


自分が魔法を使ったなんて全然自覚がない。魔法って、こう…呪文を言ったり魔法陣が出たり……みたいなのだと思っていたから。気付いたら使ってた、みたいな感じだったし…


《そなたの名を、聞いても良いか。》

「あ、はい!麗奈と、言います」


《…レナよ、我らが種族ファングの額の魔石にはその物の願いを叶える力がある。そなたを元の世界に帰すことは出来ぬが、ある程度のことなら願いを聞き入れるであろう。力になれるかもしれぬ》


そう言うと母親は私の前まで来るとゆっくりと額を差し出した。


《手を》

「は、はいっ…」


母親の額に両手を近付ければ、スゥと魔石が額から私の手へと移ってくる。


《それをそなたに授けよう。必ず、そなたの役に立つ。息子を助けてくれた礼だ》


手の平で輝く綺麗なルビーのような魔石。ファングの額はポッカリと穴が空いており少し痛々しい。これ、本当に貰ってしまっていいのだろうか……

おろおろと迷っていれば、ファングがフッと笑う。


《大丈夫だ、また時が経てば我の額には新たな魔石が産まれる。気にする事はない》


でもこれってシンボル的な……大事な物じゃ……?手の中にある魔石を見ながらウンウン唸っていればエイジさんが静かに口を開く。


「……ファングの魔石には高密度の魔力が込められていると聞く。この森を抜けるなら身を守る物は必需品だ。受け取っておけ」

「!……あ、あの……ありがとうございますっ……」


エイジさんの後押しもあり私は少し緊張しながらも両手で魔石を大切に抱き締めた。

ファングは優しく微笑みもう一度、頭を垂れた。

そして私の隣りにいたエイジさんへと目線を向ける。



《…黒魔法を司る人の子よ、危うく恩人である者を亡きものにする所だった改めて感謝する。》

「……」


エイジさんはその言葉にゆっくりと頷いた。


《……そなたその刺青…、》

「……」

《……禁忌の…奴隷魔術か》



(……どれい、魔術…?あれ?魔法じゃなくて魔術?)


ファングは目を細め、まるで品定めするようにエイジさんを見ている。

エイジさんは少し俯くと顔にある刺青を触った。

……ど、どうしたんだろ…?ただならぬ雰囲気に首を傾げた。


《人の世はいつまでも変わらぬな…悲しきことよ》

「……」

《魔法と言うものはいつの世も争いを産む。自分が望んでいなくとも》


ファングの言葉にエイジさんは俯く。手元を見れば手を強く握っていることに気が付いた。


__よく、わからないけど…俯くエイジさんが無表情なのに何だかとっても辛そうに見えて、私まで釣られて俯いてしまった。

どれいって、奴隷のことだろうか……?


この世界のことは全然わからないけど…エイジさんは大変な思いをしてきたのかなと、少し思った。

この不思議な力、魔法…は使い方を間違えれば確かに怖い力かもしれない。

私は自分の手を見る。


(元の世界には魔法なんてなかったし、でもあれば凄く便利なのは間違いなくて…ただ、そんな力は人を変えてしまうんだろうな…)


ここは、本当に別世界なんだ。魔法や聖獣、御伽話のようなものが沢山あって…エイジさんの使ったあの黒い綺麗な炎も…。

凄い、改めて考えたら怖いけど…何ともファンタジーな力だ。


私がそんなことを考えているとファングがエイジさんにゆっくりと近づいた。スンっと鼻を動かすと何かを感じ取ったファングの目が細められる。

__どうしたんだろうと2人を見てれば、見つめ合ったまま動かない。ファングは今までよりも少し低めの声で静かに呟いた。


《……そうか、そなた色が見えぬか》

「!……、」

《名は》

「……、エイジだ」


今までにない程エイジさんの目が見開かれた。

すぐに無表情へと戻ったが。

そういえば出会った時も色が…みたいな事を言っていた気がするけど…一体なんの事だろう。


《聖獣である我にも色が宿らぬか》

「……」


エイジさんはゆっくりと目を閉じた。そしてそっと私に振り返る。


「……?」


な、なんでこんなに見られてるんだろう……?エイジさんは真顔でじっと私を見詰めてきた。

あまりにも真剣な眼差しに見詰められるから何だか恥ずかしくなってきた。

耐え切れなくなった私は首を傾げつつ、恥ずかしさを誤魔化すようにへらりと笑う。

そんな様子を見ていたファングはフッと優しく笑うとエイジさんに頭を下げた。



《……私は神との契約により人の子にあまり干渉することが出来ぬ。……故にレナと共に行けぬのだ。

しかしこの森林には凶暴な猛獣もいるだろう。エイジよ、どうかレナを守り時空の神殿へ送り届けてやってほしい。》

「……、」

《……きっと、お前の為にもなるだろう》

「……分かった」


ファングは再度私と、そしてエイジさんを見た後に頭を垂れた。


《……純粋なる人の子らよ、幸あらん事を》


そう言うとファングは子供の首根っこを掴んで持ち上げると元来た道を戻って行く。

チラリ、咥えられていた子供と目が合った。私が小さく手をふれば頭の中に《またね》と少し甲高い声が聞こえる。

今のはもしかして子ファングの声…?


私はその2匹の姿が見えなくなるまで手を降った。


ルビーから魔石に変更しました。

ちょこちょこ編集してしまいすみませんがよろしくお願いいたします。

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