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貴方がいなければ


「…うぅん、…あれ、わたし」

「アリスちゃん、目が覚めましたか?」

「……レナお姉さん…?」


寝惚けながら私の名前を言うアリスちゃん、どうやら体調は大丈夫そうでホッと息をつく。


「ここは……、」

「宿屋です。アリスちゃん」

「宿屋……」


段々と覚醒してきたのか私とエイジさんを交互に見た後バッとベットから飛び起きる。みるみるうちにサァァと顔が真っ青になった後、頭を下げながらごめんなさい…!と繰り返した。

もしかしたらまた見捨てられてしまうかもと思ったのだろうか。その姿が何だか痛々しくてアリスちゃんの頭を撫でる。大丈夫と優しく問い掛ければホッとしたように胸を撫で下ろした。


「アリス・スカーレット、聞きたい事がある」


一通りのやり取りを見守った後エイジさんに名前を呼ばれアリスちゃんがビクリと肩を揺らした。

いや、分かるよ…私も初対面の時はエイジさんの圧に少し萎縮しちゃう所あったから。でも彼は怒っている訳じゃないから安心してほしい、そう思い彼女の手を握った。

意図が伝わったのかアリスちゃんは一度私を見た後手を握り返してからコクリと大きく頷く。

うん、この子は本当に聡くて強くて良い子だ。


「…城内の構造、警備はどのくらい居たのか分かる範囲でいい答えられるか。」

「…う、うん…!えっと…」


ポツリポツリとアリスちゃんは思い出しながら言葉を紡いでいく。


「入ってすぐに大きな階段があって、2階の1番奥の部屋がパパが寝ている部屋。ママもその右隣の部屋にいると思う」

「あの大きさからして部屋数は50くらいか」


………50!?家なのに!?


エイジさんの言葉に1人驚いていれば2人は何てことのないように会話を続ける。

そう言えばアリスちゃんのお父さん、国の偉い人って言ってたな。


「それから…一階の奥の部屋は礼拝堂があるの。」

「…礼拝堂…?」


礼拝堂って、どうして家にそんな所が…普通は教会とかにあるはずのものだよね??


「…ここの世界では神様信仰が根強い。災害や天災から助けられて信仰する者、家系で代々信仰する者…各々が信じた神に祈りを捧げる。

そのためいつでも祈りを捧げられるよう大小あるが礼拝堂を構えている家も少なくない」


私が首を傾げていたからかそれに気付いたエイジさんが補足してくれる。この世界のことまだ全然わからないから本当にありがたい…


「アリスのお家はパナケア様を信仰してるよ!」

「そ、そうなんだ…?」

「?レナお姉さんはお祈りしないの?」

「えっ?」


しない人なんていないってママ言ってた、と純粋な眼差しで見て来るアリスちゃん。一体なんて説明すればいいんだ…そもそも私無宗教だし…!?と言うかこの世界の人間じゃない私からしたらここに来るまで神様なんて迷信のようなもので…!!

助けを求めてエイジさんを見れば彼はさも当たり前だと言うような顔でフッと笑った。


「…何を言ってる、レナは信仰される側だ」


ち、ちょっとエイジさん!?あなたが何言ってるの!?しかもなんで少しドヤ顔してるんですか!


「……はっ!もしかしてパナケア様って実はレナお姉さん…!?ママが言ってた特徴とレナお姉さんピッタリだし…!!」

「えっ!?や、ち、違うからね??」

「アリスもレナお姉さん信仰したい!!」

「アリスちゃん!?」

「ダメだ、レナは俺だけの女神だ」

「エイジさん!?」


なんてことを子供の前で!大真面目な顔して冗談言うからタチが悪い。それだと純粋なアリスちゃんが勘違いしちゃいますよ…!!

私は神様でもなければ女神でもないと言うのに…


「も、もう!冗談言ってないで話の続きをしてください…!」

「……」


何か言いたげに私を見つめるエイジさん。

うう…穴が空いてしまう……、

もうお話の続きしていいの?と首を傾げたアリスちゃんに私は悔い気味で頷いた。

……エイジさんこっち見過ぎです…!


「えっと…後は、一階の角部屋に隠し通路があってそこから裏手の道に繋がってるの、そこからマーサが逃がしてくれて」

「マーサさんってアリスちゃんのおつき侍女さんだよね?」

「うん…、でも今何処にいるかはわからない。もしかしたら地下牢のとこに閉じ込められてるかもしれない」

「地下牢…」


さすがは大豪邸だ…地下牢まであるなんて。


「……警備はどのくらいだ」

「おじさんが連れて来てた警備兵の人達は20人くらいいたと思う。うちの家にもお父さんが雇ってた騎士さんが40人くらいいたんだけど…」


その…と前置きするとアリスちゃんは俯くと手を震わせた。声も低くなって次第には泣きそうになっている。


「アリスちゃん…?大丈夫?」

「……うんっ、…あのね、1人凄く身体のデカい人がいて、大きな赤い石みたいなのを待ってたの。その人が炎の魔術を使ってたんだけど…騎士さん達はその人に…、途中で私は逃げ出したからみんながどうなったかはわからない」

「……アリスちゃん、」


なんてひどい、そんな惨状をこんなにも幼い子が見てしまったなんて…それはトラウマにもなる。震える小さな肩を私は堪らずに抱きしめた。


「…なるほど、その石は改造魔石だ。となるとアイリス軍の魔術騎士か」

「!…エイジさん知ってるんですか…?」

「……ベルク帝国が強いとされている要因はこの国家が抱える機密部隊、ツバサがあるからだ」

「ツバサ…?」

「ああ。…あのハーシュもその機密部隊の1人だ」

「!!」

「ツバサは三部隊、魔術騎士で構成されたアイリス…剣武で構成されたヒバリ、…三部隊トップに立つ最も秘匿性の高い部隊、それが魔法で構成されたカナリアだ。」


死の森で会った軍人が居た隊ってことは…エイジさんを兵器として扱っていた所ってこと…!?

えっ、見つかってしまったら連れ戻されちゃうってことなのでは…!頼れる人がエイジさんしかいなかったから協力をお願いしちゃったけどそんな危険なことさせられないよ…!

私が慌ててエイジさんを見れば彼と目が合う。


「っエイジさん、」

「大丈夫だ」

「!っ」


私が何を言うのかを分かっていたかのように遮られた。強いエイジさんの眼差しに言葉を詰まらせる。

現状、その国家機密のツバサ…って言うのが絡んでいるのがわかった以上エイジさんの力無しにあそこへ乗り込むことは不可能となってしまった訳で……チラリと隣を見ればアリスちゃんが心配そうに首を傾げる。でもこの子をほってはおけない。

私のわがままで…エイジさんが危険な目に合うかもしれないしまた国に連れて行かれてしまう可能性もある。それなのに目の前の彼は何処までも優しく笑ってくれた。大丈夫だと、安心させてくれる。何処までも頼れる人だ。


私は、そんな彼に何を返せるだろうか。


「お前さえいれば、俺は大丈夫だ」

「…!」


私の考えを見透かしたようなエイジさんはフッと笑う。


私にも___…彼の役に立てるような力があれば、いや…自分の力で何とか出来るような強さがあれば…っ

何も出来ない自分自身の手を強く握りしめた。


「___…無力なままでいい」

「え?」


ボソリとエイジさんが何か言ったが聞こえずに聞き返せば彼は目を細めて笑うだけだった。

十分な情報を聞けたからか彼は少し考えるように窓の外を見る。


「中の情報は粗方わかった。

…決行するなら今日の夜だな」


順調にヤンデレ化している件。この先の展開もだいぶヤンデレ感強くなりそうな…

そして誤字脱字、読みにくい箇所があればぜひご指摘ください……


※神の名前を変更致しました。この辺詳しくないのでちょいちょい改稿あると思います、すみません。

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