契約という名の
何故こんな状況になっているのか、説明しようと口を開こうとした時ポテンっとアリスちゃんが尻餅をついた。驚くと同時にそのまま倒れたアリスちゃんを軽々と支えるエイジさん。
「アリスちゃん?!」
「…………寝ている」
抱えられた彼女の顔を覗けばスヤスヤと寝ていてホッと息をついた。
…良かった、何処か怪我でもしてしまったのかと思った…。きっとエイジさんが来てくれて安心したのかな。
「アリスちゃんもしっかりと寝かせてあげたいですし、お話の続きは宿屋でも構いませんか?」
「…わかった」
アリスちゃんを小脇に抱えるともう片方の手で私の腰を引き寄せた。
「っわっ、」
「しっかり捕まってろ」
「な、何をっ…」
私が言葉を紡ぐ前に視界が真っ黒になる。
自分達以外は全てなくなったような…何処にいるのかわからなくなり、平衡感覚すらもなくなった少し恐怖を感じてエイジさんにきつく抱き付いた。ぎゅっと目を瞑れば優しい彼の声が聞こえる
「もう大丈夫だ」
「……あ、あれ……?」
目を開ければそこは宿屋で。
さっきまで橋の上にいたはずなのにと首を傾げた。
「な、なんで宿屋に、」
「俺の黒魔法の力だ。影を使った転移魔法だ」
影を伝い移動した、と短く説明された。
え、転移魔法って…凄くない…??行きたい場所に行けちゃうって事だよね?少し怖かったけど慣れちゃえばかなり便利だ。
「……黒印を付けた場所以外は出来ない。闇魔法の類いは相手の精神に干渉するため誰かとの移動には余程の事がなければ使わないが…」
「えっ…」
「意識がない者にはあまり干渉しないから大丈夫だ」
アリスちゃんのことだろうか、それを聞いてホッとしていればチラリと私を見たエイジさんは目を細めた。
「…白魔法のおかげか、意識があってもレナにはあまり干渉しないようだ。」
「?」
何故か嬉しそうに微笑んだ彼に首を傾げていれば足元がキラキラと光っていることに気が付いた。魔法陣?が床に刻まれている。こんなのあったけ…?
「レナを1人残していたからな、何かあったらすぐに戻れるように刻んでおいた」
「えっ」
…私を1人でここに残していたのは余程の事だったの……?そ、そんなに私信用ないの…?
そう思いながら隣を見上げれば彼に縋り付くように抱きしめていたことに気付いた。しかもめちゃくちゃしっかりがみついてた…!
「っわ、!ぁ、す、すみませっ…」
「………」
「っあ、あの…?」
離れようとしても腰に回された手が頑丈すぎて身動きできない。ピタリと密着した身体、彼の引き締まった身体を服の上からも感じ取ってしまい恥ずかしさが増してしまった。
……さすが、とても良い身体をしている…っじゃなくて!
中々離してくれない彼の顔を恐る恐る見上げればバチリっと目が合った。吸い込まれそうな綺麗な金色の瞳が揺らめく。
「俺はずっとこのままでも構わない」
_____ひぇ。
「いっ、今すぐに!!アリスちゃんを寝かせましょう…!!」
「………。」
なっ、なんて破壊力!!良い声で、美形な彼に間近でそんな事を言われて普通でいられる訳がなく。彼を急いでベッドへと引っ張った。何か言いたそうな顔をしていたがそれどころではない。
き、危険だ…、人肌恋しいイケメンって危険だ。色気でやられてしまう。
少しの間の後、エイジさんは名残惜しそうに私を離すと小脇に抱えたアリスちゃんをベッドへと運び寝かせた。
「あ、ありがとうございます…」
「……それで、何があった」
「…その、実は…」
__________
事の経由を話せば彼は少し考えた後窓際に預けていた背を離して窓の外へと目をやった。
「……これだけ血眼で探しているのを見れば、もはや生死は問わなくなったか」
「!…もう追ってがっ…」
彼に釣られて窓の外へ目をやれば下では追って達が声を荒げてアリスちゃんを探している。
「部屋に防壁魔術はかけてあるが見つかるのも時間の問題だ」
あんな屈強そうな人達に追われ私でさえ怖いのだ、こんな思いをアリスちゃん1人で背負っているなんて…なんとしてでも助けてあげたい。
「…私は、先程話したようにアリスちゃんのお父さんの呪いを…解けるのであれば解きたいと思っています」
でもそれにはエイジさんの協力がなければ非常に危険だと言う事は明らかだ。私1人では…アリスちゃんを、ましてや自分すら守る事は出来ない。わがままを言ってしまっているのはわかっている…それでも。彼が力を貸してくれるのなら
「エイジさん、あなたの力を貸してくださいませんか」
彼は私の問いに目を伏せると私の頬へと手を遣わせる。その手は酷く優しくて驚いた。
「……俺の呪いを解いた後、暫く目を覚まさなかった。」
「え、」
「生きた心地がしなかった、もしお前が目を覚まさなかったらと」
「!」
きっと誰よりも強いであろうエイジさん、しかし今目の前にいる彼のその声は消え入りそうなくらい弱々しい声で。何だか胸がギュッとなった。
「っだ、大丈夫です!今はこんなにもピンピンしてますし…」
「次はどうなるかわからない」
被せるように、真剣な声で言われて息が詰まった。
「俺は、もしお前に何かあれば……全てを潰す」
「…っ」
それは、アリスちゃん含めたその周りの事なのか…もしくはこの世界のことなのか。
彼は……私を女神だと言っていた。命の恩人だからそう思ってくれているのだろうが些か私に対しての恩がデカすぎる気がする。確かに命を救ったかもしれないがそれは私の完全なるエゴで…
でもそんなことは関係ないと彼は言っていた。私に何かあれば彼はまた出会った時のように…いやむしろそれよりも酷い状況になってしまうかもしれないと言う事だ。
だけどそれでも。見捨てるなんて出来ない。
「……わがままなのはわかっています…でもお願いです。アリスちゃんを救ってあげたいんです、私に出来ることなら何でもしますっ…!言う事もちゃんと聞きます、だから…っ…だから…手を貸してくれませんかっ…」
自分の力をどのくらい使えるのか、何処が限界なのか…自分自身わかっていない。だからこそエイジさんが言っていることはわかる、知らないで使う事は危険。でも…もしかしたら助けられるかもしれないのに、何もしないなんて私には出来ない。いやしたくないのだ、これはただの自己満足。これも自分が後悔したくないだけのエゴ。
「……俺が協力しないと言ったら?」
「…っその時は…1人でも行きます…!」
鋭い眼差しで彼に睨まれる。まるで出会った時のような冷たい瞳、蛇に睨まれた蛙とはこの事だろう。それでも、私は本気なんだと信じてもらえるように負けじとまっすぐ彼を見つめる。
数秒間の見つめ合いの末エイジさんはハァ…と少し長めのため息を吐いた。
「……わかった、協力しよう」
「!…っほ、本当ですかっ…!?」
「ただし条件がある」
「…条件、ですか…?」
一体なんだろう?私に出来ることならなんだってするが出来ないことを言われてしまってはエイジさんの協力は諦める他無くなる。
「……今から契約を結ぶ」
「契約、…ですか?一体なんの……」
「………時期に分かる」
私の問いにエイジさんはそれしか答えなかった。そのまま金色の腕輪がついてる方を持ち上げると金色に光るそれを長い指でソッとなぞる。そしてこちらを見つめた。
まるでいいかと言っているかのように。
…何の契約かはわからないけどエイジさんのことは信じているし疑う余地もない。
私はゆっくりと頷くと彼は目を細めた、まるで良い子だと言っているようなその顔にうっと息がつまる。イケメンは何してもイケメンなのだ。
エイジさんは目を閉じると聞きなれない言語で呪文のような物を唱え出した。
「わっ…!っ……!?」
腕輪が一瞬黒い炎で輝く。その瞬間心臓がドクリと音を立てた。何故か吹き出る冷や汗。例えるなら誰かに心臓を掴まれているような気分だ。声が出ない、口から短い息だけが漏れる。
「……っは、ぁ……」
あれ、この感じ私知ってる…?
いつだったか、死の森で翼竜と目が合った時の感じ。ああそうだ__…あの時の、まるで命を握られた時のような…
「____…成功したか」
「はっ、っ…?」
「……レナ」
「……は、っ…ふ、」
「俺たちはもう運命共同体だ」
「…、、?」
声の出せない私の頭を撫でると何故か嬉しそうに彼は笑う。
わからないことだらけの私の髪の毛を一房取り、エイジさんは膝をつくとベッドに腰掛けた私に目線を合わせた。
「大丈夫だ。息をあわせろ」
「…は、……、」
まるであの時のように、彼の金色の瞳を見つめれば自然と落ち着いてくる。エイジさんの呼吸に合わせて息を吸えばだんだんと荒かった呼吸が正常なリズムへと戻った。
「…、ぁ、息が…出来る、」
ホッと息を吐くと彼はそんな私を見ながら少し間を置いて言葉を発した。
「………怖かったか」
「……、えっと…」
怖い…?いや、翼竜の時と感覚は確かに似ている、だけど…あの時のような足が震える恐怖感はない。命を握られていると、そう思うのにあの時のような絶望的な恐怖ではなく、もっと別の何かだ、…この感覚は一体何なのだろう…?
考えてもわからない私は思ったことを正直に話した。
「…いえ、…その、怖いと言う感情はありません」
「!」
「えっと、私も何と言えば良いのか…良くわからなくて……」
でも翼竜に睨まれた時の方が断然怖いです。
そうヘラリと笑った私の言葉を聞いたエイジさんは一瞬驚いたように目を見開くと次には顔をおさえて「はっ」と笑いだす。
「っ…、そうかっ…」
「あ、あの…?」
あれ?何か眼孔も開いてるし凄い笑ってるしどうしちゃったんだエイジさん。え、私多分何も面白いこと言ってないよね…!?
「……そうだな。もう大丈夫だ、お前がこれから先恐れるものはもう何もない。あるとすれば____…」
「……?エイジさん?」
「………いや、何でもない」
あるとすれば何なのだろう…気になるけど何だか彼の表情が少し狂気を含んだような顔で笑っているから、聞ける雰囲気ではなかった。
久しぶりの更新すぎて…
自身の文才の無さに更新やめようか悩みましたが数少ない見てくださる貴方が喜んでくれますように。




