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豊かな表情

「んっ…あれ、わ、たし……」


眩しさを我慢して目を開けばそこには見慣れない天井。あれ、私どうしたんだっけ…


「……ここは…、」


軋む身体を起こすと全身が痛い。痛みに耐えながら周りを見渡すとこじんまりした部屋。

……凄い、よく海外の物語とかに出てくる木造の部屋だ…


ボーっとしていた頭が段々と覚醒してきた。

私なんでこんな所にいるんだろう。

確か森にいて…女神様に会ってエイジさんの呪いを解く力を貰って…それで………って


「……っそうだ私っ…!!」


ここは部屋…?と言う事は何処かの町にいるのだろうか。

まさか彼が運んでくれた……?あの後一体どうしたんだっけっ…ダメだ全然記憶がない…!

今はとにかくエイジさんを探さなきゃ、身体は大丈夫なのかあの後一体どうなったのか会って確かめないとっ…!


ベットから起き上がればふらつく足元。

っ全然力が入らない…震えて子鹿のようになっているが無理矢理動かせばゆっくりとだけど前に進めた。


(頑張って私の足…!!)


喝を入れれば何とかドア前まで着き、私がドアノブを触れようとすれば触る前にガチャリと扉が開く。


「……っわ…?」

「_____…」


突然の会いたかった人物の登場にビックリしたのか身体がふらついた。倒れそうになった私の腰に手を回し身体を支えてくれる。


「……っ、エ、イジさん…?」

「………レナ」


優しく紡がれた私の名前。

綺麗な曇りない金色が真っ直ぐ私を見つめ揺らめいて、その瞳に顔色の悪そうな私が映った。


__あ、顔に刺青がない


「良かった……」


思わず、無意識のうちに彼の刺青があった場所に手を伸ばした。跡形もないそこは綺麗な白い肌で。心の底から安堵して泣きそうになってしまった。

少し触れた瞬間、エイジさんはピクっと反応する。ハッとした私は急いで手を引っ込めた。


「す、すみません勝手に触ってしまって…っえ!きゃっ!?」


そのまま無言で私を抱き上げるとあの時と同じ、お姫様抱っこされる。


__ってまたこれ!?


「あっ、あの…!」

「…まだ寝てないとダメだ」

「も、もう大丈夫ですから…!」

「ダメだ」


デジャブだ…。私が横になると言わないとどうやら降ろしてくれないらしい。

きっと私の顔は真っ赤になってるはず…うぅ、これ本当に恥ずかしい…見られないように両手で顔を覆った。


「……わかりました…!横になります!!それと1人で歩けるので降ろしてくださぃ…」

「……」


エイジさんはそのまま無言で歩みを進める(降ろしてくれないらしい)と私をベットに座らせてくれた。


(な、何だろう…?なんか、)


先程からやけに大切なものを触るかのような手つき、……と言うか何か全てがくすぐったいくらいに優しくて、心做しかエイジさんの雰囲気もこう、柔らかいというか…

そんなことを考えていればいつの間にか隣りに腰掛けた彼と目が合う。


「……」

「っあ、あの…」


しまった、あまりに綺麗で見過ぎちゃった。

出会った頃よりも綺麗なガラスのような目、整った顔立ちが更に美しくなった気がする。誤魔化すように取り繕いへらりと笑うも彼は無言で私を見つめてくる。


(ち、近いっ…!)


……何でこんな近いの…

と、とりあえずあの後どうなったとか、ここは何処なのかとか何だか聞きたいことが沢山ありすぎて…何から聞けばいいのか。


「…その、お身体は痛みませんか…?」

「……ああ、痛みはない」

「…もう、呪は大丈夫ですか?」

「、ああ、なくなった」

「…お怪我は、ないですか?」

「…、ああ」


____良かった、もう大丈夫なようだ。


彼をもう一度見上げて意を決して聞いた。

1番聴きたかったこと。



「もう、_____あの森で死のうだなんて、思いませんか?」

「!」


本当は、聞くのが怖い。


でも…正直1番、気になっていた。

彼は死ぬつもりであの森にいたはずで、例え呪いが消えたからと言って彼が受けた心の傷は消えない…深く、刻まれている。

全てに絶望していただろう、兵器だと言われ物のように扱われて…

あの時の辛そうなエイジさんを思い出せば私まで辛くなる、…泣いて、しまいそうになる。


そんな私の感情が顔に出ていたのか、彼はゆっくりと目を細めると優しい手つきで私の目尻を指の腹で撫でた。

もしかしたら涙が滲んでいたのかな。優しい手つきに安心が勝ったのか手から伝わる…生きていると言う温かい温もりに私は目を閉じた。良かったと心底思った。

泣かない強い彼、そのかわりと言わんばかりに私はここ数日泣いてばかりかもしれない。


「……もう、思わない。絶対に」


誓うような、強い眼差し。

生きると、彼が言ったように感じて…


__ああ、良かった。私のしたことは無駄じゃなかった。


とそう思った。


「他にお身体に異常はありませんか?」

「……ああ、むしろ抑えられていた力が戻った。_今なら大陸半分くらいは消せる」


サラリととんでもないことを口にしたエイジさんに一瞬の間の後私の顔からサァァと血の気が引いた。


え???


い、いやっ……そっ、そうだよね!?あれだけ酷いことをされたなら復讐も考えてしまうよね……!?!?いや、いやいやでもそれはあまりしてほしくないと言うか…!今後エイジさんには明るい未来が待っているんだし…!


「……ふっ、冗談だ」

「……へ?」


百面相をしている私を見て少し肩を震わせ笑ったエイジさんはどうやら私をからかったみたいで。

思わず私は目を見開いた。


___彼が笑っている。


あの無表情だったエイジさんが、可笑しそうに肩を震わせて笑っている。

呆気に取られ目の前の衝撃的な光景に固まってしまった。そうか、意識を失う前に彼が笑う夢を見ていたと思ってたけど…現実だったのか、そうか。



彼はここまで本当に大変だっただろう、そんな簡単な言葉では現せられない…想像を絶する人生だったはずだ。

それこそ冗談ではなく復讐も…世界を憎んでもおかしくないはずなのに、それでも彼はこの世界で生きると言ってくれた。

人に、優しく出来るのだ。

笑って、くれたのだ。



___ああ、どうしよう、何だか泣いてしまいそうだ。


「___どうした?」


その彼の声色はどこまでも優しく響いていて、まるで私の考えていることがわかっているかのように。私を気遣うように細められた目に、我慢の限界だった。込み上げた物が私の目からハラハラとこぼれ落ちる。


「……す、すみませっ……」

「……お前はどこまでも人のために泣くんだな」

「っ、…ちがっ…」


いや、私は本当は、怖かったんだ。

完全なる私のエゴによって彼を生かしてしまったこと。

もし「何故死なせてくれなかった」と言われたら…そう考えただけでどうしようもなく怖くて。でも、それでも私は…目の前で笑ってくれるエイジさんがいてくれて、生きることを受け入れてくれて、笑ってくれて…

_____心底安心したのだ。


「…レナに泣かれると、どうしたらいいかわからない」


戸惑い混じりな声。私の髪の毛をサラリと触るとそのまま耳にかけられる。


「……レナ」

「っ……」


あまりにも、彼が丁寧に…優しく低い声で私の名前を呼ぶから。

ぐちゃぐちゃの顔が真っ赤なリンゴのようになっているだろうな…もう情緒がっ…

は、恥ずかしい…。


彼のスキンシップが激しくなっているような気がするが、もしかしたら人と関わりあいが少なかったからその反動なのかもしれない。


(だ、だとしたら恥ずかしいけど我慢しなくちゃっ…!人の温もりを沢山感じてほしい)


と言うか今更だがエイジさんも冗談言うんだな…内容が内容なだけにとてもじゃないが笑えないけど。


でも、冗談を言えるくらいに…笑えるくらい大丈夫になったのだとしたら本当に安心した。








_______



「……あの、それでここは一体どこなのでしょうか?」

「…ハーノルドを北に進んだ先にある、ルノーと言う町だ。」

「ここまでエイジさんが運んでくださったんですか?」


あの後安心した私は暫く泣き続けたが隣で黙って着いててくれたエイジさん。泣き止めばホッとしたような顔をした彼に少し笑ってしまった。

ここまで来た経由を聞けばやはり彼が私を運んでくれたそうで、彼は何か思い出したかのように少し眉を寄せてる。え?何でそんなに嫌そうな顔を……


「…あの後気を失ったレナを休める為にこの町まで来た。あれから5日たっている」

「い、5日!?」

「……女神はすぐ目を覚ますと言っていたが…もう1日目覚めが遅ければ危うく女神の神殿を消す所だった」

「!?」


エイジさんの目がすっごい据わってる…!

色々な表情をするようになったのは本当に喜ばしいことだけど、まさかエイジさん本当はすごい冗談言う人だったのだろうか?

またからかわれているのかもしれない。


「……じ、冗談……ですよね?」

「……」


え、なんで顔逸らすんですか……!?

まさか本当に神殿を壊す気だったの!?


「だ、ダメですよ!エイジさんがこうしてここにいられるのも女神様のおかげですし…!」

「……」

「……?」


更に不愉快そうに眉を寄せた彼に私は首を傾げた。そんな私の手を握ると少し痛いくらいの力が込められる

グイッと引っ張られエイジさんとの距離が再び近くなった。ひぇ!美形が……!!


「……俺がここにいるのはレナのおかげだ」

「へ……」

「女神のおかげじゃない」


ムスッとしたような顔でじっと見つめられる。あ、この表情…凄く幼い…、何だか可愛い…じゃなかった…!えとっ、いや……確かに私が力を授かったけど、女神様がいなければ解呪の力はもらえなかった訳だし……


「俺が生きているのはお前のおかげだ」

「え?」

「…呪いが解かれたのも、俺がこうして生きようと思えたのも全部レナがいたからだ」


真剣なその金色の眼差しに息が詰まる。


「…わ、私は、…ただ自分がしたいことをしただけで…」


何だか彼の中で私の評価が高すぎる気がする…!


「お前がどう言う理由で俺を助けたとしても、俺が今生きる意味はレナがいるからだ」

「…っ!」

「俺にとっての女神はお前だ」


エイジさんの中で私が神ような存在になっている…!?なぜそんなことにっ…!いやでも私は普通の人だし!いや、白魔法は使えるかもしれないけど…!異世界人だけども…!

あ、あれ?もしかして私って普通の人じゃ無い…!?


「エ、エイジさん少し落ち着いてください…!」

「…俺は落ち着いてる」


落ち着いていたらそんなとんでもない思考にならないですエイジさん…!

どうしたらそんな誤解が解けるだろうか!


__いや、もしかしたらエイジさんもまだ少し混乱しているのかもしれない。


「だ、大丈夫ですからねエイジさん!もう貴方を苦しめるものはないですからゆっくり深呼吸しましょう…!」

「………」


そして大きく息を吸って吐いた。

いや、私が深呼吸するのかって思ったけど幾分か落ち着いた自分に、私も混乱していたのかと冷静になった頭で考えていた。

隣を見ればそんな私に何か言いたげな顔をするエイジさん。首を傾げるもいや、なんでもない。と彼は首を小さく振った。そして掴んでいた私の手を名残惜しそうに離しため息をついて頭を抱えていた。

何でため息ついたんだろう…?


「女神の話だと、解呪の力は生エネルギーそのものを使うらしい。魔力や魔術じゃない分体力をかなり持っていかれてる」

「生エネルギー…そっか、だからこんなに身体が動かないんですね」

「そもそも禁忌の呪いである類を人間が解くなんて聞いたこともないからな。他にも影響があるかもしれない」

「…エイジさんも治ったばかりなのに、すみません…ご迷惑おかけして」

「……人の心配よりも先に自分だ、今はゆっくり休め」

「…はい、ありがとうございます」


私がベッドへ横になったのを確認するとみるからにホッとしたような表情を浮かべた。

なんだか…、エイジさん本当に表情が出るようになってる。

今までずっと辛い思いをしてきた彼はこれからは自分の好きなように生きていけるんだ。


…本当に良かった。こうした彼を見れただけでも私がしたことは無駄ではなかったと思える。

だがしかし、やっと自由になれたのだから早く体調を戻して動けるようにならなければ…彼は優しいからいつまでもこうして私に気を遣って自由に出来ないだろう。

彼はこの後呪いにも蝕まれず色付いた世界を謳歌するのだろうか、見たもの全部がきっと新鮮で子供もようにはしゃいで喜ぶのかな。

いや、エイジさんがはしゃぐのは想像出来ないかもしれない…ふふ、心の中できっと人知れず喜ぶのだろう。


そっか、ここでエイジさんとはお別れなんだ。悲しいような…でもエイジさんが自由になれたのは嬉しいからやっぱり嬉しいの方が大きいや。



私は…どうしよう


体調が良くなった後、何も考えていなかったけど…とりあえずお金を稼がないといけないし住む場所も…

元気になったらまずは働ける場所を探さなくちゃ。その後は長閑な場所で暮らすのもありかもしれない。

なんだろう、色々考えてたら頭ボーッとしてきちゃった。エイジさんの言った通り、身体が休息を求めているみたい


「…早く、動けるようになりますね…」

「…ああ」

「…そうしたらエイジさんは、自由に、…好きな場所に、行けますから…」

「!」


だめだ、瞼が下がって…


「……1人でどこかに行くのか」

「…、?」

「俺を置いて」


あれ、エイジさんが何か言ってる気がするーー


私の意思とは反対に重い瞼が完全に閉じた私の意識はそこでシャットアウトした。



「___絶対に、俺はレナを離さない」


彼がそんなことを言っていたなんて知らずに

寝ていた私が起きたのはそれから更に1日後だった。


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