生きる意味(エイジside)
お礼を言えば彼女はゆっくりと目を閉じた。
腕の中で意識を無くした彼女は傷だらけで、華奢な身体を抱き上げればその軽さと細さに力加減がわからなくなる。
「っ…!色が、っ」
ぐったりとしたレナがだんだんとモノクロになっていくようでそれを止めるように必死で抱き締めた。
(…ダメだっ、死ぬな…!)
彼女を元の世界へと帰さなくてはいけない…そう分かっているのにずっと心の奥底でドロドロとした感情がその善良な心を邪魔していた。
ずっと、奥底に追いやっていたが…もう無理だった。
彼女は絶対に死なせない。
誰にも渡さない、何処にも行かせない…!
彼女が居なければ俺はまた色のない世界に戻ってしまう。
顔にかかる髪をできるだけ優しく払った。
すると彼女の口から小さく呼吸が聞こえる
「!」
汗が頬を伝い、ドクドクと音を立てる自分の心臓音を感じながら彼女の口に手を当てた。
「………すぅ……」
_____生きている、
しっかりと息をしていることに身体全身から力が抜け、ため息と共に安堵する。
生きてきて初めて、怖いと…思った。怖いと言う気持ちを知った。失うとはこんなにも怖いことなのか。
(ああ、良かった…彼女はまだ俺の手の中で生きている)
意識を無くす最後まで…俺のため、安心させるように優しく笑った彼女を見て感情が溢れだした。そして確信する。
___彼女は、俺の生きる意味だ。彼女がいないのならば生きる意味はない。
何が、かは分からないが堪らなくなって目の前で眠る彼女を優しく、肩の傷を触らないように抱きしめた。
___こんな激情を、俺は知らない。
《____人の子よ、安心なさい》
近くにフワリと感じる敵意のない神聖な気配。
レナを守るように抱き締めると気配がする方へと目を向けた。
___レナが女神様だと言っていたな
綺麗な髪を靡かせ、陽の光を背負う姿はまさに女神と言うに相応しい姿だ。
……これがレナを元の世界へと帰す事ができると言う時空の女神
___そして俺から、彼女を奪う存在。
ざわりと身体の底から嫌な何かが這い上がる。
ピリピリと自分の身体から殺気が漏れ出した。
《…大丈夫、生きていますよ。ですから気を沈めなさい、聖獣が感化されてしまいます。》
「…………」
《…解呪の力は生命エネルギーを消費します。体力を使い果たしたので2.3日は起きないでしょう。ですが心配いりません》
「……レナに触るな」
彼女に手を伸ばそうとする相手を睨み付ければ困ったように女神は笑った。
《…警戒せずとも彼女を元の世界へと帰すことは私にはもう出来ません》
「………」
《…先程も言いましたが彼女は帰ることよりも貴方を助けるため解呪の力を選びました。私が力を授ける…それは即ちこの子がこの世界の住人になったと言う事です》
「……!」
本当に、人の事ばかり…でもそのおかげでこうして彼女はここにいる。いけないと分かっていても震える程のこの感情は、__歓喜か。
《力は使い果たしました。私の力では彼女を元の世界へと帰すことは不可能です》
「私では」…その言い方が引っ掛かりピクリと身体が動く。
「……他にもレナを元の世界へ帰せる神がいると言うことか」
《…聡い子ですね。…神殿は各所にあります、私を通し他の神達もレナのことを知ったでしょう。…もしかしたらレナに力を貸してくれる神がいるかもしれません》
「…そうか」
_____ならば、俺はそれら全てを消さないといけなくなる。
それが神であっても俺からレナを取り上げるなら全て敵だ。誰だろうと絶対に渡さない。
《___純粋な愛ほど歪むものはありませんね》
「……どう言う意味だ」
女神は少し悲しげに眉をさげ首を弱く振った。
《…黒魔法を司る人の子、名は?》
「…エイジだ」
《エイジ…そなたの力はすでに人のものとは言えない領域。しかし…今後更に力を得ることがあるとすれば…その時は間違えてはなりませんよ》
呪いが解かれ、抑えられていた力が戻った感覚はある。自分の力に執着はないしそれ以上の力にだって興味もない。
しかし…その力であらゆるものからレナを守れるなら、別だ。
俺は間違いなく今よりも更に力を求めるだろう。
彼女は争いを好まない。きっとそれはこの先も変わらないだろう……しかしこの世界でそれは通用しないと言う事をこの残酷なまでに優しい彼女は知らないのだ。
黒炎の殺戮者として人の深淵を見てきた自分だからこそわかる。魔法を使える者なら尚のこと利用しようと近づく者も大勢いるだろう…
この世界は彼女が思っているより何倍も残酷だ。人間の妄念が蔓延っているのだから。
___だからこそ、俺はそんな世界からレナを守らないといけない。
彼女にはそのままでいてほしいと願う。俺のそばで、笑っていて欲しい。
そのためなら俺は…何でもする覚悟がある、それが彼女の意思に反する事だろうと。
___そうなれば彼女は悲しむだろうか
でもそれでも俺は…彼女といるためならば神ですら殺すだろう。
《大丈夫です、貴方達2人ならば》
「……、」
視線が絡めば俺の思考を見透かしたような笑みを浮かべ女神は微笑む。
レナへと視線を移せば胸の前で祈るように手を組んだ。
《少しでも手助けになるよう…心優しい彼女に、私からささやかな祝福を授けます》
フッと女神が息を吐くと光る粒子がレナを包んだ。噂には聞いていたが初めて見た。
これが____神の祝福、この世界で数える程の人間にしか与えられない特別な力。
《きっとこの力は彼女を…そしてエイジを守ってくれるでしょう》
そう囁くように言うと女神の足がサラサラと粒子化していく。
…そろそろ時間か。
「…元を辿れば女神の力かもしれない…だが、俺がこうしてここにいるのはレナが得た力のおかげだ。俺にとって…忠誠を誓えるのはレナしかいない」
この世の理り、神からの慈悲には膝をつき感謝を述べ忠誠を誓うこと。神様信仰が根強いこの世界にはそう言った儀式があるが…
俺が助けられたのはレナだ、だからこそこの女神には忠誠を誓えない。
神に対する冒涜とも取れるであろう行為だが…俺からしたら忠誠心のない誓いこそ冒涜だ。
しないのではなく、出来ない。
俺が忠誠を誓うのは、後にも先にも彼女だけ。
《…それでいいのです。それが貴方の良さですから》
「___だが…助けてくれたこと、恩にきる」
少し目を見張った女神は優しく微笑む。
《…純粋なる子らに女神アステナからの祈りを____》
最後の粒子がサラサラと風に乗ってステンドグラスへ戻って行く。
それを見届ければ、腕の中にいる彼女を優しく抱き上げここから1番近いであろう街に行くために歩き出した。
目覚めたら真っ先に伝えよう、レナが…俺の生きる意味であること。
そうすれば愚かなまでに優しい彼女はきっと…
「…どんな手を使おうと、俺は絶対にお前を手放したりしない。覚悟してくれ」
静かな寝息を立てていた彼女が少し微笑んだ気がした。
あ、あれ…なんかちょっとヤンデレみたいになっちゃった…
改稿する予感しかないですが…ご感想等あれば…




