女神アステナ
「こ、こは……」
意識朦朧としている彼を支えながらやってきた場所。
少し開けたそこには石造りの神殿らしき物があった。長年使われていないのだろうか、屋根や壁は無いに等しい。ツタがそこら中に生えている。
もしかして…ここが目指していた神殿…?
私は神殿の奥までぐったりしているエイジさんを運ぶと、柱に持たれかけさせた。辛うじて意識を保っているみたいだが浅い息を繰り返している。
「エイジさん、少しここで休みましょう」
「……は、っ…」
刺青にそっと触れると魔法をかけた。しかしもはや効き目はないようで治る気配がない。
辛そうに薄く目を開けたエイジさんと目が合う。
「…水がないか探してきますから、少し待っていてくださいね」
「…、く……な、」
「エイジさん…?」
「……、っ…、」
私が立ち上がろうとした瞬間にギュッと、強く掴まれた腕。掠れた声で必死に紡ごうとしているが聞き取れない。しかし腕の強さがまるで縋るように、行くなと、そう言っているようで…
掴まれたエイジさんの手に自分の手を重ねる。
出来るだけ優しく、彼に応えた。
「大丈夫です、傍にいますよ。」
「……、は、っは……」
その言葉に安心したのか、ゆっくりと目を閉じた。
うん、息もちゃんとしている。
良かった……私は一息つくと彼の刺青を触る。嫌な予感が頭を駆け巡りあの軍人が言ってた言葉が浮かんでは消えていく。
「…っ考えても仕方ない」
ブンブンと考えることを辞めるように頭を振る。とりあえず誰か助けを呼ばなくちゃ…ちゃんとした所で休まないと…
「それにしても…」
不思議な場所だ。
ここだけ時間が止まっているような、そんな感覚を覚える。周りに何があるのだろうとキョロキョロ見渡せば所々割れている立派な大きなステンドグラス。女性が描かれている…?割れていてよく見えないけど…何だか吸い込まれそうなそれをじっと見つめた。
割れた場所から光が漏れているそれは何とも幻想的だ。
「……綺麗、」
《……異界の子よ》
「!」
頭に響くような綺麗な声、同じような感覚を私は知ってる。これはファングとの会話の時と同じ感覚だ。神通力、と言ったか。
響く声がすればステンドグラスがキラキラと光だし、粒子のような物が降り注げば私の前で人型になった。
その出来事に驚き目を見開くも、目の前に現れた髪の長い綺麗な女性、さながら女神のようなその容姿に見とれてしまう。
《…私は時空の神殿、時空を司る女神アステナ》
「!」
本当に女神様だった!
っと言うかやっぱりここは目指していた場所だったんだ。無我夢中で歩いていたけど、どうやらいつの間にかたどり着いていたよう。
驚く私に女神様は微笑む。
《…ずっと貴方を見ていました。まずは私の大切な聖獣を助けてくれてありがとう。そして巻き込んでしまってごめんなさい》
「い、いえ…!」
女神様に頭を下げられテンパってしまう。
私もみなさんにご迷惑かけてしまって…
っと言葉に詰まりながらも手と首をブンブンと振れば女神様は慈悲の塊、と言うような笑みを浮かべる。
《心優しき異界の子、レナ。貴方がここへ来た理由も全てわかっています》
「!」
そうだ…私を元の世界に戻してもらうためにここまで来た。沢山のことがあった、大変なことばかりでこの何日間が凄く長く感じる
やっと帰れるのだ、元の世界に。
「……、」
未だに強く掴まれた私の腕。苦しそうに眉を寄せ閉じられた瞳、しかし緩まることのない彼の手に優しく自分の手を重ねた。
良くみればあちこちボロボロで傷だらけ、私をここまで連れてきてくれたそんな優しい彼を置いて…帰ることになるのだ。
《黒魔法の彼が気がかりなのですね?》
「……」
彼はきっと、ずっと辛く苦しい思いをしてきた。それは私には想像も出来ないようなことで……
笑うこともなく、泣くことすら許されなかっただろう。感情を出せることなく今まで耐えてきたんだ。
この掴まれた腕は、彼が自分の意思を初めて見せてくれるようになったという事。
これからはもっと、沢山したいことをして自由になってほしい……
私は…彼に幸せになってほしい。
《……呪ですか、それもかなり強い呪いですね…残念ながら彼はもう長くないでしょう。持って3日…》
「!」
やっぱりっ……あの人が言っていた同じ運命を辿るとは呪いで死んでしまうという事…!
「……っ、ど、どうにか治すことは出来ませんか…!?」
《……神である私はこの世界に生きる人の子に干渉してはいけないのです》
「っ……、」
《ですが、この世界の人ではないレナになら……呪いを治す力を授けることが出来ます》
「!」
呪いを治す力……!?そっか…私はこの世界の住人じゃない。神様も私になら力を与えられる…!
エイジさんの呪いを治すことが出来るっ…!
「っしたらっー」
《ただし、この力を与えれば貴方を元の世界に返すことは出来ません》
「!」
女神様は手を胸の前で組むと悲しそうに眉を下げる。
《私からこの力を授けると言う事…それは貴方がこの世界の者になるという事です、私の力では帰すことは出来なくなるでしょう。故に叶えられる願いは1つ》
どちらかを、選べという事___……
それなら答えは決まっている
「私に、呪いを治す力をください」




