4話
「zzzzz……ん…まぶし………眩しい?………やっば!遅刻!イオなんで起こして…って。」
いつもの訓練の時間に遅れたかと思い、飛び起き扉に向かおうとした時に思い出した。
そうだった。下界に降りて、パルジオ君の家に泊まらせてもらったんだった。
いつもなら日が昇る前に、座学が始まるから焦った…。まあ出ても寝てることが多いから変わらないんだけどね。
「んー!久々によく寝た感じがするぅー!ってあれ?」
パルジオ君の姿がない。調理場にもいないし、どこにいるんだろ。
もう一眠りしてもいいけど…せっかく下界に降りたんだし、下界の朝を楽しませてもらおっかな♪
それにお腹も減ったし、また昨日のシチューを作ってもらわないと!
扉を開き外へ出る。
日が昇ってまだ時間が経ってないからか、空気が冷たくて風が吹くたびに気持ちがいい。
空は青く、雲ひとつない晴れ日和。うん、絶好の冒険日和だ。
パルジオ君を探すために村の中を歩き始める。
さて、パルジオ君はどこかな〜。
探索を初めてすぐ、杖をついたお婆さんに話しかけられた。
「おや?見ない顔だねぇ…どなたのお客さんだい?」
「どうもー!エリシアって言います!えっと、パルジオ君の…お客?になるのかな…多分それ!」
「それは珍しい、パルジオにこんな美人の知り合いがおったとはのお…ワシはポプラじゃ。お嬢ちゃんはどこから来たんだい?」
「えっと空の上にある天界からなんだけど…ここからじゃあ見えないな〜…」
「ほっほっほっ面白いお嬢さんじゃ。空の上とは、まるで天の使い様のようじゃのう。」
「?違うよ、私は天士。天の使い様じゃないよ〜。ってそうだった、パルジオ君知らない?」
「ん?パルジオならいつもの見回りじゃろう。しばらく待っておれば戻って来るじゃろう。」
見回りについて聞いてみると、どうも毎朝村の周辺に魔物がいないか見回っているそうだ。
以前村に魔物が現れてからの日課らしい。しかも、自主的にやっているそうで…偉い!立派じゃん、パルジオ君!
けどそれだと、いう戻ってくるかわからない…どうしよ。……お腹減った……
「お嬢ちゃんお腹減ったのかい?よかったら、食べに来るかい?残り物でよかったらじゃが…」
「!いいの!行く行く!わー!ありがとー!おばあちゃん!」
「ほっほっほ元気な嬢ちゃんじゃな。では着いて来るんじゃ。」
「はーい!あっ運んであげるよ!さっ背中に乗って!」
「これはありがたい。最近体の調子が悪くてのお…散歩もままならんのお…」
「いいのいいの。ご飯もらうんだから、これくらいお安いご用だよ!」
おばあちゃんを背負い、歩き出す。移動中もおばあちゃんと話が弾んで楽しかった。
天界じゃまともに会話できる人が少なかったから、これも下界に来たおかげだ。
けど、楽しんでばかりはいられない。おじいちゃんの呪いを解くためにも、プルートを探さないと。
……でも今はご飯が楽しみだからこっちを優先してもいいよね?
ご飯が楽しみすぎて、思わず飛行しそうになったのは内緒。
◇◇◇◆
おばあちゃんの家でご飯をごちそうになり、幸せな気分。
残り物なんて言ってたけど、ものすごく美味しかった。煮物っていう野菜に味を付けた料理…野菜それぞれ味や食感が違ってて食べてて面白かったし美味しいかった!
それとパンっていう柔らかくて、噛むとほわぁっと甘みが広がるのもすごく美味しかった!ジャムっていうベトッてしてるのを付けたら、味がまた変わってもう色々すごかったよ…おばあちゃんはきっと料理の天才だと思う。
けどあんまりパクパク食べてたせいか、追加で作らせちゃったのは少し申し訳なかったなぁ…いいって言ってくれたけど…その代わりに回復魔法をかけてあげたら、すごく喜んでくれたのはよかった。
そうこうしてるうちに日も完全に昇っていたので、一度パルジオ君の家に戻ることにした。
帰り際おばあちゃんに挨拶したら、
「またいつでも遊びにいらっしゃい。今度はもっと腕によりをかけて料理を作ってあげるわ。」
「本当!絶対また遊びにくるから!それじゃ!」
パルジオ君の家に向かって走り出す。飛んだ方が早いけど、この村そこまで広くないから必要ないかな。
それにこうやって移動したほうが色々見れてすごく楽しいからちょうどいい。
それにしても、下界の人はみんな優しいな〜。ほんと天界の奴らも見習ってほしいよ!
そのほうが楽しくなるのに…なんでみんな感情が薄いのかな。
まともに会話できるのなんて、おじいちゃんとイオ、それとクオンぐらいだと思う。他にもいるとは思うけど、関わりないんだよね。
仕方ない、天界に戻ったら私が料理を振る舞ってあげよう。そうすればみんな、喜んでくれるよね!
後でパルジオ君に料理教えてもらわないと!
「あれ、エリシアさん?おはようございます。出掛けてたんですね、すみません黙って外出してしまって…」
「パルジオ君おはよー!気にしないでいいよー。ん?なんか目の下クマ出来てない?寝不足?」
「ふぇ?!い、いやーそのー…あっそうだどこか出掛けてたんですか?!」
「あっそうだ!さっきポプラおばあちゃんにご馳走になってたの!すごかったよーおばあちゃんの料理。なんかこう…えっと……色々すごかったよ!うん!」
「あはは…そうですか。ポプラさんは料理上手ですからね、僕もご馳走になったことありますけど美味しかったな。」
「うん、そうだよね!あっでもパルジオ君が作ったシチューも美味しかったよ?また食べたい!」
」
「えへへ…ありがとうございます。今日は角ウサギが取れたので、お肉多めにできますよ?お昼にまた作りますね。」
「本当?!やったー!わーいわーい!」
「…エリシアさん。えっと…お願いしたいことがあるんですけど…」
「いいよ!」
「えっとですね…ってえ?!まだ言ってませんよ?!」
「パルジオ君にはお世話になってるから、どんと!任せてよ!」
「ありがとうございます。でですね、お願いなんですが…僕に魔術を教えてほしいんです!」
どうしよ、私誰かに教えてことないんだけど。安請け合いしたのは失敗だったかな…
でもパルジオ君にはお世話になったし、できるかわからないけどやってみようかな。
確か持ってきた荷物の中に、魔力に関しての本があったはずだしなんとかなるよね!
「ま、まままかせてー!私が、えと…おし、教えてみせるからね!?」
「………本当に大丈夫ですか?」
「で、できらあ!!」
「それじゃあお願いします!エリシアさん!いえ、師匠!」
ししょう…シショウ…師匠…その言葉が頭で反芻する。
いい響だ…エリシア師匠。…にょほほほ〜うん!なんかできそうな気がしてきたぞー!
そうと決まったらやるぞー!ちょっと広めの場所に移動だ!
身体強化の魔術を発動して駆け出す。砂煙を上げながら風を切り裂き走り出す。
「はっはー!この師匠に任せなさい!さあ行くよー!着いて来なさーい!」
「あっ待ってくださいって足速!?どこに行くんですかー!!」
「はっはっはっはー!全部師匠に任せなさーい!」
「ま、待ってくださーーーーーい!!!」
後ろからパルジオ君の声が聞こえたけど、師匠である私は止められない!
これも訓練なのだー!しっかり着いてきなさーい!
はっはっはー!
◇◇◆◆
開けた場所…あたしが最初に落ちてきた草原に来た。
ここなら思う存分ぶっ放せる。まあそこまで大きな魔術を使うことはないと思うけど。
「さてパルジオ君!君が使える魔法を!…って、大丈夫?」
「ちょ…ちょっと…休ま…ゲホ!ゲホ!…ぜぇ…はぁ…」
「んーそれなら…【癒やせ!】」
「…おお、すごい。楽になりました。」
「これで大丈夫だね。さて気を取り直して、パルジオ君はどんな魔術が使えるの?やってみせて!」
「…わかりました。」
そう言ってパルジオ君が杖を構え、詠唱を始める。
彼が見せてくれた魔術は2つ。
風を起こす魔術【ウインド】と、風で切り裂く魔術【ウインドカッター】だ。
両方とも初級の魔術でそこまで難しくない。
「僕はこの2つしか使えません。その、教えてくれた人がこの2つしか教えてくれなかったので。」
「そうなの?それじゃあ私が教えてあげるよ!」
「はい!よろしくお願いします!」
とりあえず他の初級魔術をいくつかと、後は身体強化とか…治癒魔術も知りたいって言ってたっけ。
どれも発動するだけなら難しくない。
ただ実戦で使えるようにするなら、あることを教えておかないと。
「教える前に聞きたいんだけど、パルジオ君は無詠唱はできないの?」
「試したことはあるんですけど…暴発してからは詠唱しか使ってないですね。ちょっと怖くて…」
「短縮詠唱も?あたしはよくこっちを使うけど。」
「なんです、それ?」
術の発動には手順がある。
まずは必要な力、今回だと魔力を練る。これがないと発動しない。
次に詠唱。発動したい術をイメージすると、発動に必要な詠唱がわかる。
なのでまずは術のイメージがないと詠唱が浮かばない。
詠唱分に沿って詠唱と唱えると術が発動する。これが一般的な発動方法。
この方法なら決まった術を決まった威力で発動できる。…ただ長い。
パルジオ君が他の魔術を知らないのは、イメージ先が周りに無かったからなのかもしれない。
次に詠唱を短縮したのが短縮詠唱術。
見えている詠唱分をあえて端折ることで、詠唱を短くする方法。
端折った部分は正確なイメージで魔力を込めることで補える。
ただイメージが上手くいかないと、発動に失敗することがあるから注意。
最後に無詠唱。
これは発動する術を最初から最後まで全て自分のイメージで発動する方法。
この方法だと魔力さえこめればすぐに術が発動する。
正直戦闘中に長い詠唱なんてやってられないから、私はこれか短縮を使っている。
それに無詠唱なら術を自由に変えらるから、とんでもない術を作れる。…たまに爆発して怒られたけど。
「って感じなんだけど、分かった?」
「はい、ありがとうございます。せめて短縮詠唱ぐらいはできるようになります。」
「うん、頑張って!それじゃあ適当な魔術を教えるね。んーどれにしよっかな〜。」
術の教法を見ながらできそうな術をいくつかみる。
…とりあえず一通りやらせてみればいっか。
そこからパルジオ君にはひたすら魔術を撃ってもらった。
私なりに頑張って教えているつもりなんだけど、パルジオ君は渋い顔をしていた。
教えるのって思ったより難しい。天界で教えてくれていた先生ってすごかったんだ。今更ながら分かった。
途中から私が持っている教本を見ながら自主練を始めていたので、暇になった私はそれを横から見ているだけだった。
…あれ?これ私いらなくない?
◇◆◆◆
少し日が落ちてきた頃、私達は村へと戻る。
パルジオ君は今日1日で風の初級はほぼマスターしていた。…私ほとんど何もしてない。
ま、まあ教法は私のだし、実質教えたようなものだよね?
「今日はありがとうございました。おかげで色々な魔術を知れました。」
「それはよかったよ。覚えも早いし、パルジオ君結構すごいと思うよ?」
「そう…ですか?それなら嬉しいな…はは。」
「パルジオ君はどうして魔術を覚えようと思ったの?強くなりたいとか?」
そう聞くとパルジオ君が立ち止まる。
もしかして聴いたらまずいことだったかな。
そう思っていると、
「…昔僕に魔術を教えてくれた旅の人がいるんです。その人が使う魔術は凄くて、いつか僕もあんなふうになりたいくて魔術を教えてもらったんです。」
「へー!でもなんでもっと教わらなかったの?せめて初級ぐらい全部教わってもよかったのに。」
「亡くなったんです。村を襲った魔物に殺されて。」
「そうなんだ…えっとどんな魔物だったの?」
「大きな熊の魔物です。この辺りにはいない魔物なのですが、どこかから迷い込んだみたいで。…その人は傷を負いながら、魔物の片腕を切り落として追い払ってくれて、村では英雄となっています。」
「そっか…じゃあその人みたいになりたいんだね?」
「はい。いずれ僕は魔術学校に入ってそれで世界一の魔術師になりたいんです!なりたいんですけど…」
「?何か問題あるの?」
「…この村若い人が少ないから、出ていくのが心配で。周りに森しかないこんな辺境に人なんて滅多に来ないので、人口も増えないですし。」
「そうなんだー。でもなんとかなるよ!大丈夫!森が邪魔なら私が退けてあげるし!」
「そんなこと…できそうな気がするのが怖いですね。ありがとうございます、エリシアさん。」
話終わると再び村へと歩き出す。
んーなんとかしてあげたいけど、どうしよう。
村のみんなに魔術を教えればいいのかな?それとさっき追い払ったって言ってたけど、それってまだその魔物は生きてるってことだよね?
それなら、私がその魔物を狩ってあげればいいじゃん!
よーし、明日早速探してみよう!…でもその前にお腹減った〜。
風魔術初級
ウインド 風で相手を押す術
ウインドカッター 風で相手を切る術
ウインドランス 風で相手を貫く術アローよりも射程が短いが貫通力がある
ウインドアロー 風で相手を貫く術ランスより貫通力が低いが射程が長い