2話
序列戦当日。
序列戦は専用の闘技場で行う。学園から少し距離があるから移動するのが少し面倒。
だというのに朝一から、全ての天士が闘技場に集まって自分の順番を待っている。
上位の人、もっとゆっくりしてればいいのにな〜。
序列が低い私は、早いうちに序列戦がある。
自分の一つ下の相手と戦い、勝てば私が上位の相手と戦う。
それを負けるまで続ける。
たくさん戦える!最高!…って言いたいけど、おじいちゃんの指示がある。
そのせいで上位に入ってはいけないから、今の順位を維持し続けなくちゃいけない。
あ〜あ…いいな…私ももっと強い人と戦いたい。
仕方ないから、下位の人にだけ勝ち上位の人には適当に負けた。
序列変更なし…このせいでいつまで経っても壊魔と戦えない。
退屈しのぎに他の人の序列戦を見ていた時だ。
ふと、学園の方から何かが破れるような音が聞こえた。
?なんだろう…けど、他の人の序列戦より楽しそうな予感!
退屈しのぎのつもりで学園へと向かった。
◇
学園に戻ってきて建物を見て驚いた。
上の方に煙が立っているのが見えた。
こんなことは初めて、やっぱり何かありそう!
階段を使うよりも外から登ったほうが早く着く。
そう思い、上機嫌で学園の壁を駆け上がる。
前に退屈しのぎでやったことがあったから簡単♪
煙に近づくと、壁に穴が空いていたのでそこから建物に入り原因を探す。
「ん?」
煙の中動く影が見えた。煙が邪魔だな…
懐から天剣を取り出し神力を注ぐ。光り輝く刀身が現れ、あたりを照らす。
剣を中段で構え、集中する。
「ふぅ…せいやぁ!」
剣を振るうと同時に、通路に風が吹き抜ける。
少しずつ煙が晴れていき、影の正体が明らかになっていく。
そこにいたのは、青白い肌で全身に棘を生やしたやつ。
あたしより一回り大き紫の煙を纏った魔物だ。
いや魔物にしては力を感じる。こいつ…ひょっとして壊魔?なんで天界に?
天界に何十人の天士が、外敵を寄せ付けないための結界を張っている。
だから、今まで天界に壊魔どころか、魔物すら出たことはない。
…いやそんなことはどうでもいい。だって…こんなに強そうな相手は初めてだ!
ああ!激ってくる!一体どんな技を見せてくれるんだろう!楽しみだ!
「どんな目的か知らないけど、それよりも私と戦ってもらうからね!」
「******?***…*********」
??なんて?…そういえば授業で言っていた気がする。壊魔の言語は波長の合う相手にしか伝わらないって。
けどそんなのどうでもいい!それよりも!
「なんて言ってるかわかんないけど!問答無用!」
「**!************!」
慌てる壊魔を無視して切り掛かる。
まずは小手調べと思い、威力よりも速度を意識して切る。それでも神力を纏っている為、それなりに威力はある。
にもかかわらず、私の放った3連撃は外皮に弾かれた。
「硬っ!いいよ!それならもっと本気でいくからね!」
「************!」
壊魔の右腕が迫る。
けどあたしの3連撃よりも遅い、これなら簡単に躱せる。
「おっと!そっちものその気になってくれたのね?じゃあここからだよ!」
「**!************!」
雄叫びをあげ、こちらを威嚇している。
それならこちらも別のやり方で威嚇する。天剣にさらに神力を注ぎこむ。
刀身がさらに光り輝き、虹色の光を放っている。
「さあ!まだまだやれるでしょ?もっと楽しもうよ!」
「**!…?**エ、エリシア…**エリシア!」
「?!なんで私の名前を!」
この壊魔私の名前を呼んだ?私を知ってるの?
なんで壊魔が私のことを…んーわからん。
けど、それなら戦いをしてる場合じゃないんじゃ…むー!けど戦いたい!こんな機会しばらくないよ!どうしよう。
どうしようか悩んでいると、背後から足音が聞こえる。
「侵入者発見。対処します。」「侵入者発見。対処します。」
「侵入者発見。対処します。」「侵入者発見。対処します。」
4人の天士が現れた。全員同じこと言ってるし…もっと個性とか出そうよ。
すぐさま私の前に行き、壊魔と戦い始める。
さっきのことが気になるし、止めないと!
「ちょっと待っ」
「810番。貴様は壊魔との戦闘行為は認められていない。後ほど処罰を下す。それまで自室で待機していなさい。」
「そんなことより!そこの壊魔私のこと知って」
「810番。直ちに自室へと移動しなさい。」
「ちょっ」
「810番。直ちに自室へと移動しなさい。」
だぁー!会話にならない!これだから他の天士は嫌いなの!
けどこうなると何を言っても無駄。…仕方ない自室に戻ろ…
立ち去る時、壊魔の方を見ると…
複数の天士に囲まれ、金色に光る鎖で動けないようにされていた。
あの後どうなるんだろう。なんで私のことを知っていたのか知りたかったな…
◇◇
命令通り自室で待機。
暇なので天剣の整備をしていた。よく見るとヒビが入っていて、折れかけていた。
やっぱり訓練用だと私の神力を受け止めきれない。
そう思い壁にかけてある、自分の天剣を手に取る。
これは天士長に渡された物。…私の両親の形見だそうだ。
私は天士の中でも特別な生まれ方をした。
多くの天使は天界に満ちている神力が、形を持ちそこに意思が宿って天使になる。
私は少数の方で、天使同士がお互いの神力を合わせて生まれたらしい。
この方法だと、強い天使が生まれる可能性があるけど…逆に弱くなる可能性もある。
だからか天使はこのやり方を嫌う。安定がいいそうだ。…そんなのつまらない。
可能性があるなら試してみるべきだと思う。
まあこの考えのせいであたしは異端扱いされているんだけどね。けど似たようなのはいるから0ってわけではない。
もっと私みたいな天使が増えればきっと楽しくなる。
コン、コン、コン
扉がノックされる。これをする天士は2人しかいない。今回はどっちだ?
「はーい、誰ー?」
「わたし…入って…いい?」
イオの方だった。ちなみにもう1人は天使長ことおじいちゃん。
おじいちゃんは人間がやっている行為で、いいと思ったことを取り入れる。
私やイオもそれを聞いて色々試しているうちに悪くないと思えたので真似している。
ちなみに他の天士だと普通に扉を開けてくる。
着替えてたらどうすんの?…まあ見ても平然としてるからなぁ〜あいつら。
イオを部屋の中に招き入れて話をする。
「どうしたの?そうだ序列戦はどうだった?」
「ん…10番…また負けた…」
「でも上位維持でしょ?いいな〜私もイオと戦いたかったな〜。」
「ん…私も…エリシアと戦うの…楽しい…から…」
そう言って微笑む、本当に可愛いな!
イオは天士になってからずっと10番代にいる。戦闘経験は少ないのにほとんどの天士より強い。
本人曰く、私より弱いから簡単だそうだ。まあ嬉しいこと言ってくれちゃって!照れる〜。
「エリシア…他に…用事…ある…」
「ん〜?あーもしかして処罰の件?イオが伝えるの頼まれたの?」
「ん…他の人…だったけど…頼み込んだ…」
「わざわざ私のために?ありがと。…それで処罰の内容は?」
「………………追放…だって…ぐす…」
ん?今追放って言った?
「いやいや!なんで?!ちょっと壊魔と戦っただけなのに追放?!それって結構重い刑だったよね?!」
「ん…ぐす…上から2番目…極刑の…一個下…ぐす…」
「ええ…本当にわからない…ちょっと天士長に聞いてくる!」
「あっ!待って…荷物…もった方が…いい…もう…くるから…」
「…へ?それってすぐに執行するってこと?!ちょ、ちょっと急がないと!」
すぐさま魔法袋に、部屋の物を片っ端から放り込む。
神力の本、魔術の本、聖力の本、魔物の本…他にもあるが、ほとんど戦闘に関する本ばかりだ。
家具なども全て放り込み、部屋の中が空っぽになる。追放されるのが決定しているので残していく必要がない。
天使は処罰内容が決めたら、絶対に執行される。
その前におじいちゃんに話をしたかったけど、
「天士番号810番直ちに断罪の間へ移動せよ。」
扉を開け放ちそう告げるやつが来たせいで、会いにいくことができなかった。
◇◇◇
天士に囲まれて、仕方なく付いていく。
断罪の間…入るのは初めてだ。
円形の部屋の周りに机が設置されて、中央に罪人が立つ場所がある。
そこに私は立たされる。地面には円形のガラス絵が設置されていて踏むのが申し訳なく感じた。
周りには、副天士長と上位の天士が座っていてこちらを睨んでいる。
副天士長って無駄に偉そうで嫌い。なんか企んでそうなんだよね。
あれ?おじいちゃんがいない。…また体調が悪いのかな…
「罪人810番。罪状を述べる。貴様は低序列でありながら壊魔と戦闘行為を行った。」
「はーいそうでーす。…いいじゃんそれくらい…」
「次に、壊魔と会話を行った。」
「いやしてないけど。名前呼ばれたから答えただけ。」
「最後に他の天士が壊魔と戦闘行為を行う際、それを妨害した疑いもある。」
「はあ?!いやだから名前呼ばれたから気になったんだって!」
「以上のことから今回の壊魔侵入は貴様の仕業だと判断した。よって追放処分とする。」
「聞けやーーー!だからやってないって!」
私の言葉は完全に無視され淡々と話が進んでいく。
このままだと追放される。…下界…本で読んだけど、人間や魔物が暮らす世界。
天界と違って神力が満ちていないから、天士にとってはあまりいい環境ではない。
その代わり、魔力が満ちており魔物の活動が活発になっているらしい。
天界のように平和な環境とは言えない危険な場所って本で読んだ。
…………あれ?つまり下界に行けば魔物と戦い放題なのでは?
それって追放された方が私にとっていいことしかない。ここでの生活はもう飽きた。
それよりも下界に行って知らない世界を旅して、強い相手と戦った方が絶対楽しい!
うん、いいじゃん追放!むしろご褒美じゃん!…ただこれだけは聞いておかないと…
「ねえなんで天使長が来てないの?仕事?」
「無礼な…天使長は体調を崩されておる。貴様のような罪人の相手はさせられぬ。」
「そうですね。5凶星壊魔…プルートの呪いが、未だ解呪できていませんから。」
「5凶星?何それ。」
「貴様が知る必要はない。では刑を執行する。」
副天士長が机を叩くと、私の足元が開く。
地面がなくなったはずなのに、何もないところに立っている。
「貴様から天使の証である翼を剥奪する。下界に堕ち人間となるがいい。」
「!」
それはまずい。翼がないと神力が使えない。
副天士長が何かを詠唱している。あれが終わる前に、なんとかしないと。
………今地面がないのに立てているのってまだ何かあるってことだよね?
それなら!
「はぁああああ!だりゃあ!!」
神力を足に溜めて、地面を踏み抜く。
足元で何かが割れる音がすると同時に、地面に吸い込まれ空中に投げ出された。
上で何か騒いでいたけど、落ちる音がうるさくて聞こえない。
「はっはー!じゃねー!お土産期待しててー!」
ただひたすら下界に向かって落ち続ける。
辺りは雲が覆っていて何も見えない。思えば初めて天界から出る。
さよなら天界、イオ。けど必ずまた戻ってくるから。
副天士長が言っていた壊魔。
5凶星…5体の強い壊魔ってことだと思う。その1体、プルート。こいつだけは絶対に私が倒す!
壊魔は下界にも現れるっておじいちゃんが言ってた。ならプルートもいるかもしれない。
それに他の4体も…どんな奴なんだろう、なんだかワクワクする!
これから何が待ってるんだろう!きっと強いやつがいっぱいいるはず!
けどどんなやつが相手でも、全部私が倒してやるんだから!…それでおじいちゃんの呪いは私が必ず!
これは、冤罪をかけられ天界を追われた私の物語。
物語はここから始まる。
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