1話
教卓で、先生がいつもの感情がない言葉で話している。
揚々のない声のせいで退屈に感じてしまう。
…そろそろ3時間経つんだけど、いつまでやるの?
「はぁ…もういい加減飽きたな〜」
「エリ…810番…座学…集中…して」
「んー?そうは言ってもさぁ…つまんないんだもん…」
「座学…大事…だから」
「えー…それよりも剣術とか、魔法の訓練の方が楽しいのに〜」
こうやって話していても、先生はただ話し続ける。
他の天士も私たちなんて眼中にない。ただ黙って授業を聞いている。
騒いだの悪いけど…なんかああいうの嫌だな〜。
ゴーン…ゴーン…ゴーン…
「やった終わりの鐘だ!ほらイオ行こ!」
「…引っ張ら…ないで…」
退屈な授業はこれで終わり!次は楽しい剣術!
イオの手を引いて広間に向かう。
彼女は私の一番の友達!小柄な容姿に、短い青髪の女の子。
でもその見た目に反してすごく強い!
ここは私達天士の学校。天界に住む天使の中から戦うことを選んだ人たちが通う場所。
何と戦うかというと、主に壊魔。たまーに魔物とかもあるけどほとんどが壊魔。
壊魔は…えーっと確か…世界を壊す…魔物?だったかな…。
なんでも放っておくと世界に穴をあけて悪さする…らしい?実際見たことないからわかんない。
下界にいる人間だと壊魔を倒すことができないから、私たちが戦って倒す。
そうすることで世界の均衡?っていうのを保ってるそうだ。
イオの手を引いてやって来たのは、訓練場。
大人数の天士が訓練できるように広く作られている。
結構広いおかげで、派手に暴れても問題ない!
「さあ!人もいないし、本気でいくよ!」
「ん…手加減…なし…」
訓練用に支給されている天剣に神力を込めると、刀身が形成されていく。
一度こめれば、神力が切れるまで刀身を維持してくれるから便利だ。
天士になって最初に教えられたっけ。これができないと天士として戦えない。
お互いに距離をとり、タイミングを測る。
私たちの模擬戦はいつも決まった合図がない、隙を見せた瞬間に切り込む。
互いに隙を探り合う…私はこの空気が好きだ。
……………。一瞬風が吹いた。
「はあああ!!」
「…っ!」
瞬間私は距離を詰めて切り込む、音を置き去りにする私の神速の一撃(自称)。
けれど刃は眼前で受け止められる。んー完全に先をとったと思ったんだけど。
今のを止めるなんてやっぱりイオはすごい!
再び距離をとって、これを繰り返す。
短い時間の中で一瞬の読み合い…すごく楽しい!
でも、この時間はいつも邪魔が入る。
「天士番号810番。訓練は指定の相手としなさい。」
「…ちぇ。はーいわかりましたよー。それじゃまたねイオ。」
「ん…」
「天士番号810番。相手を呼ぶときは決まった序列番号を使用しなさい。」
「…………はーい。」
指定の相手とする訓練は本当に退屈だ。
感情が全く入ってない相手とただ決まった型を撃ち合うだけ…つまんないな〜。
はぁ…私も早く壊魔と戦いたいな〜。
◇
午前に座学をして、午後に剣術。これの繰り返し。
ここ何年かは退屈な日が続いてる…たまに楽しいことはあるけど、それ以上に毎日が退屈。
退屈を紛らわすために剣術の訓練をしながら、同時に神術の訓練をする。
自分に向かって神術を放ってそれを撃ち落とす。最初は楽しかったけど、これももう飽きちゃった。
「エリシアまたそれをやっているのか…」
「あ!おじいちゃん!久しぶりー!」
「これ!天士長と呼べと言っておるだろう…」
「えー!誰もいないんだからいいでしょ!会えて嬉しいんだからちょっとくらい許して?」
「まったく…」
この何気にやりとりが好き。おじいちゃんはいつも天士長って呼べって言うけどさぁ…
私は気づいている。おじいちゃんって呼ぶと、嬉しそうに微笑んでいることに。ふふ。
「エリシア。わかっていると思うが3日後の序列戦では…」
「はいはい分かってるよ。手を抜けばいいんでしょ?」
序列戦、何ヶ月かに一度天士の番号を上げることができる模擬戦。
私はいつも本気で戦わせてもらえない。ずーーーっと!手抜きの試合をさせられている。
そのせいで私の序列は低い。壊魔との戦闘に参加できるのは100番ぐらいまでだ。
ちなみに序列は1000番まで、それ以下は除隊させられる。
「ねえ!私も壊魔と戦いたいんだけど!なんでいつも手抜きさせるの!」
「悪いとは思っておる。だがもう少しだけ待っておくれ…」
「その言葉前にも言われたんだけどぉー!ブーブー!」
「はぁ困ったやつじゃ?!…ごほっ!ごほっ!…ぐぅ…!」
「おじいちゃん?!大丈夫?!」
「ごほっ!ごほっ!…ああ…大丈夫じゃ…」
私はおじちゃんを支えながら背中をさする。
………おじいちゃんは最近体を壊している。
誰かが言っていたけど、特殊な壊魔と戦った時に呪いを受けたみたいだ。
解呪するにはその壊魔を倒すしかないけど…ここ最近姿を見せない…。
「ほら!ここ座って!…もう年なんだから無理しちゃだめ!」
「ふ…お前は本当に優しいな…他の天士もお前の様になれば…」
「ホントだよ!天士のほとんどが喋っても楽しくないの!なんか壁と喋ってるみたいで嫌!」
「仕方がないことじゃ…天使は感情が薄い。特に天士となったものは感情を必要と感じていないからのぅ…」
「はぁ〜そんなのつまんないと思うんだけどなぁ…」
感情がありそうな天士は10人もいない。
殆どの天士が言われたことを実行するだけの兵士。
んーそう考えると、私の方がここだと異常なんだよねぇ…
「さて…わしはもう行く。お前さんも、休みなさい。怪我をしたら序列戦に出ることすらできんぞ?」
「はいはい、分かったから。おじいちゃんは自分の心配をして。」
…序列戦かぁ…。
本気で戦えたら楽しいんだろうけどなぁ…はぁ…つまんないの…
せめて、おじいちゃんの呪いくらいは私が解いてあげられたらな…