12 増員
試用試験ですので家事はお任せくださいです、
とのことで、
今日の夕食は、ヴァサコさんにお任せ。
「ふむ、美味しい」
「そうですね、美味しく出来てますよ」
うむ、確かに美味しいです。
あえて言わせてもらうとすれば、
過不足無しであることくらい、かな。
つまり、普通に美味しいっていう、
女の子はちょっとイラッとさせられるかもしれない感想。
「……当素体にはお料理名人系拡張オプションは搭載されておりませんことを謹んでお詫び申し上げますなのです」
いえいえ、この腕前なら不満を言うようなマスターをおしおきしても良いレベルですよ。
「……また口説かれたような気がするのは自惚れなのでしょうかと奥様にお聞きするのです」
「いや、フォリスさんが年がら年中無休この調子であることは、この世界でも精霊界でも常識である、と理解してもらいたい」
えーと、常識は疑うために存在するって、誰のセリフでしたっけ。
「……あまり複雑な思考回路は搭載されておりませんのでウィットに富んだ会話にはついていけない可能性が微レ存かもなのです」
充分に楽しい会話ができていると思いますよ。
はい、ルルナさんが食卓をお片付けしたくてうずうずしているようなので、この辺でお開きですね。
それでは、ヴァサコさんはシュレディーケさんとお風呂にでも。
「……奥様のわがままボディは特に念入りに手洗いしてくるようにとのアリシエラ博士の厳命を忠実に実行してくるのです」
めっちゃ応援していますよっ、ヴァサコさんっ。
ゴッツリ
痛ぇ!
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お風呂上がりで寝巻き姿のヴァサコさんもいっしょに、恒例の家族会議のお時間。
今日の議題は、ヴァサコさんへの質問会、かな。
「……当素体はサイリさん宅在住のハラショー先輩と同等の睡眠時呼吸式魔素補充法を採用しておりますのでマスターの夜のお供はまだご遠慮させていただきたいと希望するのです」
えーと、まだも何も、夜は普通に寝ちゃってくださいね。
ね、シュレディーケさんっ。
「私に振られても困る……」
「……奥様が真っ赤っかなのは湯あたりでは無いと邪推するのです」
「駄目ですよっ、ヴァサコさんっ」
「良い子と独り身乙女は立ち入り禁止な話題もあるのですっ」
「では、今日は私と一緒に寝ましょうねっ」
「……ルルナ先輩のぴちぴちバディもしっかりチェックしてくるようにとの博士のお言いつけを忠実に実行するのです」
「おやすみなさいませっ」
「……おやすみなさいです」
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ふう、ようやく落ち着いたかな。
シュレディーケさんはどう思います、ヴァサコさんのこと。
「ふむ、素直な良い娘さん、だな」
「何故かは分からんが、幸薄そうなところが気にかかるのだが」
たぶん、試作型のゴーレムだってことが、立ち位置的な不安要素なのでしょうね。
よかったらこの先も、うちでのんびり暮らしてほしいって思うのは、僕のわがままですか。
「私は賛成だ」
「ルルナさんも同じ気持ちだと思う」
「後は、ヴァサコさんとアリシエラさん次第、だな」
では、家族増員に向けて、
僕もがんばんなきゃね。
「馬鹿もの……」
……いえ、家族を増やすためにがんばるのではなく、
ゴッツリ
イテェ!