01 フィールドワーク
『リヴァイス 74 連休狩人と賑やかな無勇伝』の続きで、
『(清貧)狩人』フォリスのお話しです。
お楽しみいただければ幸いです。
最近、毎日が楽しい、フォリスです。
平穏で穏やかな暮らしを、
幸せと感じるか、退屈と感じるかは、人それぞれ。
僕は今、とても幸せです。
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今日のお仕事は、狩人では無く、森の案内人。
この魔灸の森の自然を楽しみたいという人が時々訪れるので、
ガイドとして同行するのです。
で、魔灸の森の案内人。
「空気が美味しいのですね」
お気に召していただいたようで何よりです。
その右側にある背が低い木は、触るとかぶれますのでご注意を。
「ありがとうございます、フォリスさん」
いえいえ、急がず焦らず、森を楽しみながら進みましょう。
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今日、案内しているお嬢さんは、
フェリシルスさん。
アルセリア王都在住の学生さんで、
自然生物学を学んでいるそうです。
平たくいうと、魔物・動物・植物・地理・気象などが様々に影響し合う状況を総合的な見地から研究する、
つまり、自然の営みと生き物の暮らしの連鎖的な繋がりを学ぶ学問だとか。
まあ、僕には難しいことは皆目分かりませんが、
自然が大好きな方だということは一目瞭然ですので、
大変に好印象なのです。
少しだけ歳上なのですが、とても素直で聡明なところも、
大変に好感が持てるのです。
「天候、崩れそうですね」
凄いですね、風と雲で気付いたのかな。
もう少し進むと洞穴がありますので、
雨宿りには間に合うはずです。
ふたり、少しだけ歩みを早めて、洞穴を目指します。
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ちょうど洞穴に着いた頃に本降りの雨。
普段の僕なら雨など気にせずに雨具で進むのですが、
今日は森の案内人なのです。
フェリシルスさんが濡れ濡れにならなくて何より。
「虫すらも暮らしていない空の洞穴……」
「こういう洞穴は、生き物の溜まり場だと思っていたのですが」
入り口を塞ぐように植わっている細い木々、
この森の生き物はあの木の匂いが大嫌いなんです。
森の狩人としては、こういう避難場所を知っておくのは重要なことなのですよ。
「あれって……ウラミズキの幼木ですよね」
「忌避効果なんてありましたかしら」
不思議ですよね。
例えば、あの木を僕の家の庭に植えかえても、魔物避けにはならないのです。
この森の、ほんの一部の場所のウラミズキだけが、あの効能を持つのです。
「まさに自然生物学の研究対象ですね」
はい、この機会に存分にどうぞ。
「……とても興味深い事象、でも残念ですが後輩に委ねましょう」
?
「フィールドワークは、今回が最後ですので」
学者さん、辞めちゃうんですか。
フェリシルスさん、ほんの少し、困り顔。