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妖精社会  作者: 創作
〇章_邂逅編
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09_流火

「ってなことがあってな」

 陸はいつもの軽い調子でことの一部始終を聞いた俺はひどく呆れた。あった時から剽軽ひょうきんなところはあったが度が過ぎているような感じがする。俺なら死を目の当たりにしてここまで普通でいられる自信がない。


「陸!また危ないことして。おかーさん生きてたらしばらく軟禁されてるよ、ほんと。」

「軟禁って。」

「ちょっとやっくんは黙ってて」

「いやーさあ。今回は俺悪くないぜ。あっちが絶対に悪い」

 口を尖らせて反発する陸の様子は母に怒られる幼な子なそれを彷彿とさせた。一見道理が通っていそうだが穴を突かれ、春菜に止めの一撃を刺される。

「そもそも陸が一人で森に行っちゃうのが悪いの。いつもは一塊で動くでしょが。どーせ『奥で獲物とってくる』とか言って一人で走ってたんでしょ」

「おっしゃる通りで」

 分が悪いようで目線を下にして手をいじっている。これではどちらが年上なのかわからないなあと思いながら事態を見守る俺だった。



「それじゃあ流火についての説明に戻すぞ。…陸が首尾よく話さないからここまで押したわけだが」

 父さんが陸の方を見やる。先ほど終わった話題に触れていく父さんの気持ちも分からなくはない。小さな嫌味だ。上手に隠せ、と暗に言っているように思う。 

 陸に対する春菜の叱責は恐ろしく、誰の介入も許さなかった。春菜にこってり搾られたお兄ちゃんは本日二度目のご機嫌斜めである。当然、本筋の話は一向に進まなかった。


「なぜ、流火が影ビトの犯行の可能性が高いのか。それはさっきの話の中に出てきた影ビトが使った炎の有様とそれ自体の言及が関係してくる。流火と影ビトの使った炎は似たような燃え方をする。あの特殊な燃え方だ。まるで獣のように周囲のものを喰らう、あの。…実は陸が影ビトと交戦した場所から火災が発生して現在進行形で拡大している。幸い、この村が燃えることはないがな」


 実はこの村は川に囲まれた土地の中心地に作られていてそこを境に火は絶つことができる。現に村南側の川の向こうはすでに火が到達しているのに川を超えて燃え広がるという事態にはなっていない。これが村に火が到達することはないという結論に至る理由らしい。


「でも、やっくんのお父さんはなんで村を作れたの?火がおかしいことなんて初めはわかんなかったよね」


 春菜の言葉を聞いた瞬間、父さんと一部の人たちが気まずそうに顔をそらした。突然訪れた沈黙に一体どうしたのだろうと俺たちは三者三様の反応をとった。

 首をかしげたり、考える像のように手を顎に当て下を向いたり、居所が悪そうにキョロキョロしたり、と。

「——俺たちは知っていたんだ。だから、この村を作ることができた」

 しじまの中、父さんはそういった。右手は拳の型をなし、ワナワナと震えている。

「でも、あれは偶然だったじゃないですか!」

 翔さんは顔を歪めて概嘆する。反響する音が収まり、再び静寂が訪れる。それと時を同じくして父さんは俺に目を向ける。


「あの日…父さんとお前が再会したあの夜、俺はすぐに会議に行ったよな」

 ああ、そうだ。カレーを食べてからすぐにどこかに行ってしまった。

「あの会議中、俺は尿意を催して天幕から出たんだよ。そん時だった。あの炎を見たのは。突然、木の一部が燃え出して、顎門の形をなして喰らい始めた。訳のわからない光景に俺はしばらく動けなかった」


「それで僕たちがあまりにも遅いので健介さんを見に行きました。炎の前で立ち尽くす健介さんをその場から引き剥がしてベースの人たちに『火事だ』と伝えに行ったんです」

 全てを父さんから話させないためだろうか、話を黙って聞いていた翔さんが覆い被さるように口を挟んだ。


「だが、あれは普通の火じゃなかった。風もないのに加速度的に拡大する。俺たちは全員助けることはできないと直感した…だから半数以上を置いて彼方に逃げるしかなかったんだ」

「あの火が水を嫌うかは賭けだったんですけど、流石の流火も水は天敵だったみたいで…なんとかなりました」


 父さんから静かに吐き捨てられた言葉に俺達は何も言えなかった。誰だってその状況なら逃げ出すはずだ。でも、自分たちだけで逃げた方が生存戦略的には正しいはずなのにギリギリまでそれをしなかった。確かに見捨てられた人もいたのだろう。救われなかった人も。

 けれど、この状況で生きている俺たちには糾弾する資格はない。同じように人を切り捨ててきたからだ。それをしていいのは見捨てられ、死んでいった人たちだけだろう。

 十二の班のうちここに辿り着いたのは俺たちだけだ。多分、全滅した班もあるはずだ。俺たちだって陸が罠を張っていなかったら……。


「頭領、感傷に浸ってる時間はないぜ。弥彦たちには話さないといけないことがまだあるだろ?

 例えば、ここがいつ流火に見舞われてもおかしくないこと、とかな」


 鬱々とした雰囲気になっていた場を陸の声が切り裂いた。それをきっかけに俺は現実に引き戻される。今は終わったことを思惟している場合ではない。未来が確約されていない以上常に次の手を考えなくてはならない。

「すみません、陸さん。あと任せてもいいですか。僕は健介さんと席を外します」

 父さんを連れて扉から出る際に陸に何やら耳打ちをしていくのが見えた。それに対して陸は片手で了承の意を翔さんに伝えていた。多分、父さんを気にしてのことだろう。普段はしっかりとしているけれど、一度感傷に浸ると元の調子に戻るまでかなりの時間がかかる。

 バタリと扉が閉まるのを視認すると陸が会議を再開させた。

「さっきこのことだけどな。まじで今生きてるのはたまたまだ。たまたま」

 陸が調子を上げて話し出す。

「でも、流火ってここには入ってこれないんでしょ」

「確かに川を挟んで燃え移ることはないな。けど、上からは別だ」

「直撃したら、防ぎようがないってことか」

「そ。そうゆうことだ」

 陸が俺の方を指して頷いた。しかし、これに関しては対策の仕様がない。流火は鎮火することができず、森を喰らう勢いで燃え盛る。天に祈る他ない。

「ま、幸い四方の川に囲まれてる土地は広いからな。もしどっかが燃え始めても少しは保つし、すぐに移動できるように訓練も積んでる」

 それではいずれ死んでしまうじゃないかと内心に諦めを感じるもそれを口にすることは憚られた。

「南には火が到達していますが、他三方向はまだ退路として使えます。このエリアを捨てて逃げることも視野に入れていますから、当面は大丈夫だと思いますよ」

健介さんは通りかかった知り合いに預けてきました、と言い、翔さんが扉を開けて入ってくる。

 あくまで当面か…。安全が欲しいというのは贅沢なんだろうな。

「他のベースの人が多少避難してきているとはいえ、狩りとか、採集とか、村の維持とか仕事は色々積もっていますので明日からはそれをお願いします。今日は解散です。」


 パンッパンッと手を鳴らして会議の終了を翔さんは宣言する。かなり密な会議を終え、空を見ると太陽は真上から少し下がったくらいになっていた。多分、二時か三時ってところだろう。

 都市の頃よりは随分と時間感覚にルーズになったなぁ、なんてことを思いつつ階段を降り、父さんの家を後にする。

「おい、弥彦」

 とりあえず借間に帰ろうと考えていると後ろから肩を掴まれた。

「久しぶりに俺と遊ばねえか、弥彦」


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