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妖精社会  作者: 創作
三章_第二次巨人大戦編

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49_唯一の友

「ここまで来れば大丈夫かしら」

私は直人を引っ張ったまま仮設の校舎を出ると、森の中ほどまで入る。道中見た修練場は、瓦礫の置き場になっていた。

「急にどうしたんだよ、黒栄」

『まさか、こんな暗がりに連れ込んで…いかがわしいことを…』

両手を口の前へと持って行き、体を縮こませるような表現をするペトラ。

「ち、違うわ。ペトラ、あなたねえ…。あんまりふざけてると本当に消すわよ」

見当違いなことに一瞬気取られたが、すぐに平常心を取り戻して火の妖精を制する。

『怖い、怖い。僕、頑張ったのに。超頑張ったのに』

おそらく北部戦線でのことだろう。確かに直人の戦績は凄いものでペトラの貢献も少なからずあったはずだ。しかし、それとこれとは話が違う。

「で、黒栄。本当にどうしたんだよ」

直人は話をこちらに振ってきた。それもそうだ。勝手にここまで連れてきたのだから。

「…『死霊魔術』」

「へぇ?」

「だから、あなた『死霊魔術』使ったでしょ‼︎」

聞き返された私は柄にもなく、大声を出してしまった。一瞬、静寂が訪れる。

「なんのことやら」

彼はそう言って、はぐらかした。こっちはとうに分かっているのだ。

明らかに騎士や傭兵の帰還が早すぎた。あんなに大勢が帰ってこられるほど、北部戦線は好戦していたのか。否、記録を見せてもらったが二千対八百。しかも早々に二割の戦力を削られていた。あんな芸当は出来るわけがないのだ。

つまり誰かが敵を引き付け、これを抹殺したのだ。それができるのはこの男の持つ『死霊魔術』それ以外あり得なかった。本人が認めないのなら…と、私は実力行使に出る。直人の服をぐいと掴んだ私はそのまま上へと引っ張る。

案の定、『死霊魔術』使用後に現れる黒い亀裂が胸の中心から走っていた。

…それに前よりもひどくなっている

「あんまり、見んじゃねぇよ」

彼はそう言い、バツの悪そうに私の手をはたき落とした。

「…どういうつもり」

「仕方ねえだろ。使わなかったら、どれだけの人が死んでと思う」

会話が途切れる。森のざわめきだけが木霊する。

おそらく、『死霊魔術』で素体にしたのは敵味方双方の死体全て。それを元に最強の古代種『龍種』の器を形成し、召喚したのだ。確かにそれならば、戦場は席巻できよう。

しかし、死霊魔術の術者には筆舌し難い負担がかかる。


——寿命。


それが魔術に求められる対価だった。

「…逃げちゃえばよかったのよ」

「何…!」

彼の雰囲気が剣呑なものに変わる。しかし、私は物怖じせずに言い放った。

「逃げてしまえばよかったのよ‼︎私はそういう時の為にペンダントを渡したの」

その時、感情の高まりからか自然力を知覚する目が発動する。彼の首にかかるそれを見たが、自然力は欠片も内包されていなかった。

「⁉︎…どうして」

「ごめんな、黒栄。全部魔術に使っちまった」

彼の言い分だと、戦場の数的不利を覆すために大業な魔術を使ったらしく、そのときに私が渡したものも使ってしまったようだった。

「そうしてなければ、もっとたくさん死んでいた。俺は当主だ。責務がある。守らなきゃならない」

「…バッカみたい」

「あなたも、縁も守る、守るって。自分がボロボロになるまで戦って。死んじゃったら何も意味ないんだよ⁉︎何も残らないんだよ、いい加減にして!」

彼に掴み掛かり、激情のままに言葉を発する。裏返り、号哭、嗚咽。自分がそうなっていることすら構わずに私は嘆いた。

詭弁だった。そんなことは彼も重々承知の筈だ。それでも彼らは「守る」ことを優先したのだ。そんなことは分かっていた。それでも、言わずにはいられなかった。

…私、すごく意地悪だ

こんな事言ったって、困らせてしまうだけなのに。それでも口は止まらなかった。

「もう戦場には行かないで。日向黒栄の友達はたくさんいても、三日月黒栄の友達はあなたしかいないの…」

私はすすり泣きながらそういった。日向の姓は偽名として用いていた。学校で登録されているのもこちらの姓だ。王城を出た王族は皆、偽名と名乗るそういう決まり事だった。

行き場を失った感情は行動として現れた。私はいつの間にか直人を強く抱きしめていた。

「それは無理だ、悪いな。けど、学校にいる間は俺は本郷家の当主代理じゃないし、黒栄も三日月家の王族じゃない。ただの普通の人だ」

彼は私の肩に手を乗せて離すと言った。

「じゃあ、楽しまないとな。学院生活」

彼はそう言って、ニッと笑う。

「…うん」

納得はしていなかったが、そう返事するしかなかった。

私たちはそれぞれ立場から逃れることはできない。それでも、この学校にいる限りは普通の人でいられる。その幸福を日々噛み締めようと思った私だった。

そして、私は決意する。

…大勢を守る人を守るために私は強くなる

英雄に頼り切りな弱者にはならない。死地に一人では行かせない。彼らを支えられるくらいに強く——私はそう意志を堅めた。

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