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妖精社会  作者: 創作
三章_第二次巨人大戦編

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48_天誅の英雄


『英雄ヨスガ、学生の身で単独撃破!各地に激震走る‼︎』


寮の医務室で僕は療養していた。すでに『都市襲来』からは一週間が経過し、都市は元通りとは行かないものの人が住める最低限の設備が再建されていた。

ベッドの横にある丸机には誰が置いたかわからない五月八日の朝刊がある。

あのあと、僕は完全に大鳥化した影響で、服がズタボロの状態で獣人の屍と共に発見された。

しかし、その事を知らない大衆は「命を賭して戦った」と好意的に解釈してくれている。

辺りに一帯が緑で満ちていたことは疑問視されたが、それよりも獣人を単独で撃破したということが大きく映り、今では有耶無耶になっていた。

「縁、元気しているか」

医務室にユウとアオバが現れる。最近は着替えやら荷物やら怪我人の僕に気を遣ってか、色々やってくれていた。

「あ、優。もう来てたの」

するとその言葉と共に千鶴と黒栄も顔を出す。僕がここから動けないので、今はこの場所が溜まり場になっている。

寮はあるものの、校舎は都市の中心に近かったため、かなりの修繕が必要で授業はなく、大戦直前のように自主学習となっていた。「単位を落としたらまずい」ということで優が僕の教材をここに運び込み、四日前に意識が戻ってからは勉強も行なっている。

各都市の被害は甚大で、暫くは名門と呼ばれる学校は休校を余儀なくされた。

「ヨスガ、体調は大丈夫?」

「さっき、ユウにも聞かれたよ。大丈夫。毎日聞かなくてもいいって」

実際、目を覚ました時から意識ははっきりしている。記憶こそ大鳥に呑まれる前までしか残っていないが、それはいつものことだった。

ダンッダンッダンダンダンダン!

その時、ただならぬ様子の足音が響いた。その音は医務室で急停止する。

「久しぶりぃ、みんな」 

『久しぶりぃ!』

ナオトとペトラだった。確かに最近見ていなかった。そういえば、都市に魔獣が押し寄せてきて、寮の広間に集まった時も姿がなかったように思う。

幸い、元気そうで体に傷一つ見当たらない。外出していて寮に戻れず、装備を街中の鍛冶屋、道具屋から借りて戦った生徒も多くいたと聞く、彼もその一人だったのだろう。

「おっ、班員全員集合か。仲良いなお前ら」

「……お邪魔します」

すると間もなく、カイト先生とハク先輩が現れた。掃討戦の時に活躍したらしく、二人とも新聞の功労者の欄に名を連ねていた。先生は事後処理があったのか、眠たそうである。

いや、眠そうにしているのはいつものことか。

「ちょっと、ヨスガとアオバに話があるんだ。みんな外出ててくれるか」

「んじゃ、また後で」

『また後で!』

「じゃあな」

「後で」

「…バイバイ」

各自、文句を連ねて医務室を出て行った。チズルの胸元に手をやり、わずかにそれを振る仕草に何故か、ドキリとして視線を逸らす。

みんなが部屋を出ると辺りは急に静かになったように感じた。

「ハク、一応『結界』頼めるか」

「……了解」

「無垢」中級魔術〈断震ノ箱庭〉

するとハク先輩は片膝立ちになり、右手を地面と接地させる。瞬間、自然力による薄い塗膜が部屋の壁に沿って展開された。

「……できた」

先生班員が使っていた丸椅子を引き寄せるとそのまま座った。ハク先輩はアオバを見るや、とっ捕まえてもみくちゃにしている。初めは抵抗していたアオバだったが、次第に面倒くさくなったのかされるがままになっている。先輩は満足そうに蒼葉を抱き抱えていた。

「前からアオバのこと触りたがってたからな…大丈夫か、アオバ」

『びっくりしたが、大丈夫だ。こんなに満足そうにされちゃ敵わねぇよ』

「悪いな。それとサンキュー、ハク。これからするのは大鳥絡みのことだから一応な」

「先生が、なんでそれを…」

僕は驚愕のあまり目を見開き、息を呑んだ。そのままの状態で硬直してしまう。

「それはだな…」

そう言って、先生はズボンのポケットに手を突っ込むと四つ折りになった紙を取り出す。差し出されたそれには師匠の字が書いてあった。


 栗野縁へ

 私の信頼できる友に君のことを託した。

 もちろん、大鳥の真相に関しても包み隠さず話している。

 在学中、天誅を拠点にする際はそいつを頼るといい。

 なんかあったら、今度俺にあった時に言え。

 快斗が適当なことやったら特にな…。

 神山美琴より〈代筆、ラードガー〉


「そうですか」

僕は文を読み終えると、身を縮こませるほどの緊張が解れていくのが分かった。

…大鳥の話か。確かに聞かれたらまずい事ではある

僕は平常に戻った思考でそう考える。大鳥の話は色々な町に波及している。デマではあるが怪奇的なそれは当時、人々の関心を攫った。今では「悪いことをしたら、大鳥さまがやってくる」という一種の御伽噺として語られている。

「それで、縁。お前、どこまで覚えてる」

「獣人を倒した直後まで、ですね。そういえば大鳥化する直前、あの『右手』の顔をボンヤリとですが、見ました」 

「なるほど…」

先生は難しい顔をすると、上着の右ポケットから紙と鉛筆を取り出した。

「今回はどれくらい大鳥を使った」

「十分と少しです、正確なところは…。結局、大鳥化してしまったわけですし」

「ま、だろうな。そうそう、ハクに礼を言っておけ。お前を元に戻してくれたのは彼女だ」

そうだったのか、と僕は思い、先輩の方を向いて会釈する。暴走状態に至ったのは、完全に僕の管理責任だった。

「……気にしなくていい。それが仕事だから」

先輩は蒼葉の腹をまさぐりながらそう答える。

聞くところによると、カイト先生の友人の魔術師が僕を監視させるためにハク先輩を送り込んだとのことだった。もしかしたら、あの入寮日のことは偶然ではなかったのかもしれない。

「それでだ、ヨスガ」

先生は必要な情報を得たのか、メモを折りたたんで、再びポケットにしまう。

「お前の大鳥の使い方に関してだ。今回の件で確信した。縁は大まかに大鳥を制御できている。これからはより精密な制御をやっていこうと思ってな」

「というと…」

判然としない僕は聞き返した。

「今のヨスガの大鳥の使い方は、言わば『水いっぱいのバケツをそのままひっくり返している』ようなもんだ。それを『別の容器に注ぐようなイメージ』で調節できるようにしていく」

「そんなことできるんですか」

要は力加減を覚えろということだ。しかし、力を使うときに使う文言は「内なる獣を解き放つ」の一つのみ。それを発すと大鳥化が勝手に始まる。何をどうやって制御しようというのか。

僕は怪訝な目で先生を見つめる。

「お前だからできるんだよ。能力者だろ、ヨスガは」

そういえば、師匠も言っていた「お前のその能力はいずれ役に立つ」と。まさかこの時のために能力者としての実力も鍛えられていたのか。

「大鳥化の進行を自然力の流動によって、制御する。これが次の段階だ」

先生は体力が戻ったら始めるつもりであることを僕に伝えると、先輩と一緒に部屋を出て行こうとする。その時、先生は思い出したように僕にいった。

「そうそう。お前たちの新装備とかお金やら懐中時計やら…バジリスクの時のやつだな。今朝、納品されたから目を通しておけよ」

「わかりました」

新装備と聞いて、ちょっとワクワクする僕がいた。


扉を開けると、廊下で談笑している彼らの姿が目に入った。

「アレ、クロエとナオトは?」

しかし、二人の姿がなかった。

「あー、何故かは分からないけど、クロエがナオト連れて行った」

「多分、直人は今頃クロエちゃんに叱られてるんじゃないかなぁ…。クロエちゃん怒ってたし。よくあることだからすぐ帰ってくると思うよ」

『なら、そこ寒いだろ。医務室で待ってたらいいんじゃねぇか』

「そうだな」

「そうだね」

アオバの声に二人はそう反応し、みんなで彼らを待つことになった。

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