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妖精社会  作者: 創作
三章_第二次巨人大戦編

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46_暴走

少年は大鳥の怪物へと変貌を遂げた。

顕現したそれの口からは唾液が滴っている。その怪物は腹が空いていたようで、眼前の山羊の獣人の死体を見るとそれを喰らい始めた。まるでハゲワシが死体を貪るように獰猛どうもうに。

しばらくして空腹が紛れたのか、はたまた味に飽きたのか、その化け物は食べ散らかした屍をそのままに内と外を隔てる結界の方へと歩き出した。

大鳥は結界に近づき、干渉した。しかし、強い水圧で展開される数多の壁に触れた途端、指数本が切れ落ちた。

「GAaGGAaa!」

突然の痛みに怪物は叫ぶ。だが、切断された指は瞬く間に新たなものが作られ、元に戻る。するとそれは水の檻から距離をとった。出ることを諦めたのだろうか。


…否


次の瞬間、翼で身を覆い、超速で結界目掛けて突進した。その化け物の身体能力は能力者のそれを…そして先の戦闘で苦戦を強いられた獣人をも圧倒する。翼に傷を負いながらも、怪物は結界に罅を入れた。もう二、三度同じことをすれば、化け物はこの王国の首都たる『天誅』に放たれてしまう。

…ズガンッ

そんな時、不意に水の牢獄の天井が大きな亀裂を伴いながら、穴を開けた。

刹那、一筋の極光が大鳥の怪物を地に串刺しにする。

「……久しぶり、ヨスガ」

緋色の目と白い髪を持つ少女がその空間に飛来した。


*  *  *


俺たちが馬を駆り天誅に向かっていた時、鼻歌を歌いながら都市へと歩く旅人を発見した。

「ふん、ふふん、ふふん」

そんな呑気な歌を口ずさんでいる。辺りが静かだからかその音はよく響いた。

非常事態の伝達は各都市で行われているはずだ。たまたま都市部から出ていて気づかなかったのだろうか。しかし、俺は足を放り出すその歩き方から異様さを感じた。

…旅人なら、あんなに非効率な歩き方をするだろうか

馬の背で俺はそんなことを考える。そこである一つの可能性に至る。杞憂だったら、それに越したことはないが…そうでなければ大惨事は必定だ。そこまで考え、目に能力を発現させる。

すると旅人の自然力は靄が掛かったように読み取ることができなかった。こういう時は前にもあった。

…まずいな

「ハク、先に天誅に行ってくれ。俺はやることができた」

「……わかった」

ハクの了承を得ると、進行方向から右手に外れその旅人の方へと向かった。その途中で顔を悟られないよう、フードを深く被る。馬を近隣の森の中に隠し、俺は能力を発動。その足で彼の方向へ駆け出した。

俺はそいつの前に立つと、腰の剣を抜く。

「う〜ん?ヤダなぁ。物騒じゃないか」

それはニヤけながらそう言う。俺は聞く耳を持たず、その人を切り裂いた。

一閃。左肩から右足に掛けて斬撃が走る。さらに俺は踏み込むと、喉元を突いた。

それにも関わらず、それは何もなかったように話し出す。

「あ〜あ。バレちゃったか。まあ、そうだろうと思ったんだけど。久しぶりだね、快斗くん」

すると眼前の人がその形を粘土のような流体へと変え、俺から距離をとった。その流体は形を人型に再形成する。その姿は初代王、三日月暮羽その人だった。

「お前を都市に行かせるわけないだろ、『影ビト』」

「う〜ん。前より擬態は上手くなったと思ったんだけどなぁ…」

それは話を聞いている様子はなく、独りごちる。人差し指を口元へと持って行き、明後日の方を向くような仕草をする。

「君も老けたねぇ。まあそうか、人は二十年も経ったら、老けるよね」

初代王の体は十八程度で成長が止まっている。それもそうだ。第三段階を超える『第四段階.妖精との融合』それがなると人は不死に至ると言われている。しかし、未だその事実は不確定なままだ。それは、この段階まで到達した魔術師は初代王と俺の師匠、榎本エミの二名しかいないからだ。

「人なら、老けるさ。だが、弱くなったとは思わない方がいいぞ」

俺は身体の自然力を激しく発散させる。俺は、影ビトや獣人という能力者より格上とされる相手と渡り合うために〈インパクト〉の精度をこの二十年で鍛え上げた。

「何だか面白い使い方をしているね。…ふん。僕は体が自然力と混ざり過ぎて使えないみたいだ。まあ、いいけど。そこ通してくれない。僕、用事あるんだよね」

「断る、と言ったら」

「ふん……。死んでもらうしかないか」

刹那、地面がわずかに揺れた。俺はその異変を察知し、目に能力を展開。それが地魔術であることを認識するとその場を飛び退く。

「地」中級魔術〈隆起〉

後方に着地するとそこには長方形の形で土が固められた柱が何本も形成されていた。

「僕がこれでだけで終わるわけないでしょ」

「地」最上級魔術〈地龍ノ頭蓋〉

影ビトがそう言うと、その盛り上がった土が変化し、龍の型を為す。それは着地した後のわずかな硬直時間を狙って放たれた。刹那、俺は掌に火弾を生成して、圧縮。迫る龍の横顔に叩きつける。するとそこを中心に砕け始め、文字通り土へ還った。

「ヒュ〜。いいね〜」

わざとらしくその異形は手を叩いた。

…調子狂うな

記録上の影ビトとの戦闘記録では次のことが書かれている。「奴のペースに呑まれるな」と。その異形はいかに切羽詰まった状況であれ、調子を崩さない。自ら、状況を判断せよ、と。

今回で三度目の戦闘になる俺もこの剽軽な異形との戦闘は苦手だった。

…こんな化け物相手に初代王の義兄はどう戦ったんだか

そんな愚痴をこぼす。しかし、都市に行かせるわけにはいかない。王族の一人でも攫われてしまえば、現状の小康は崩れ去る。

初代王の子孫は固有の能力に目覚める。

俺が知っているだけでも『遡眼(そがん)』、『烈眼』、『未来視』、『純粋自然力の直接行使』や『属性に囚われない魔術の使用』。能力から制約に至るまで様々だ。

実際、前の大戦で『烈眼:魔術の出力の大幅な上昇』をもつ王族の子供が影ビトに攫われ、その力を持って二十六年前に一度、灘勇市を陥落させている。避難に時間がかかったのも原因の一つだが、そもそもこいつの手下が来ていなければ街は滅びなかった。

「お前はここで足止めさせてもらう」

その宣言と共に、俺は影ビトとの戦闘を開始した。


影ビトとの戦闘は苛烈を極めた。次々と繰り出される最上級魔術に身体能力と剣技にモノを言わせて対応する。しかし、分が悪かった。体力の尽きない体とそれが有限な体。時間が経つごとにどんどん不利になっていく。

「ほら、ほら〜。頑張って〜」

その異形が腕を振るうとその向きに沿って魔術が放出される。火、水、風、地。何でもありだ。瞬間、高出力の火の刃が形成され、地を焦がしながら凄まじい速度で俺へと迫る。自然力を込めた剣で魔術そのものを斬り、すぐさま次の攻撃に備える。

…何がくる

精神が休まる暇などない。動作を指先に至るまで洞察する。それを何百と繰り返していた。

その時、都市の方から巨大で禍々しい自然力が突如として顕現した。

…あっちにはハクを向かわせた俺はこっちに集中しろ

そこへと飛んだ意識を瞬時に今に戻し、俺の戦場に目をやった。

そして、切り札の一つである魔剣を使用する。

魔術行使:「火、雷」魔剣〈魔術付与——

「や〜めた」

影ビトはそう宣言した。

「何?」

俺は魔剣の発動を中断。相手の出方に注視する。

「だって、僕の配下やられちゃったみたいだし。流石に魔術師五百人とじゃ分が悪い。それじゃ」

刹那、火魔術と水魔術双方を同時に行使して起こした爆発的な水蒸気、その靄に紛れて影ビトは戦場から姿を消した。念の為としばらくの間、目の能力を解放し、周囲を観察していたが、それらしい気配はつかめなかった。

俺はそこで監視をやめて、剣を鞘に収める。

…あの禍々しい自然力。嫌な予感がするな

胸中のざわめきは時が経つごとに肥大していく。馬を隠した森へと急ぎ、天誅へと駆けた。

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