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妖精社会  作者: 創作
三章_第二次巨人大戦編

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45_二体の怪物

僕は例の如く、あの真っ黒な空間にいた。起き上がると、少し間を置いたところにぼんやりと光を感じる。すると眼前に蝋燭の灯る燭台を持ったあの「右手」が姿を現した。

『…復讐か』

「違うよ。暫くだね、大鳥」

『…復讐か』

「違うよ、僕はみんなを守るために君の力を借りにきた」

『…復讐か』

その言葉とともに右手の気配は剣呑としたものになり、僕の精神を蝕もうとしていることは容易に想像できた。

「クドイな。悪いけど、勝手に力を借りるよ」

僕はそう言って、何もないはずの虚空を掴む。そして、空間の一部を握りしめるイメージと共に空間そのものを(えぐ)り取る。真っ暗で何も見えないが、ここには大鳥に力の一部が握られている。

「借りてくよ」

その言葉と共に目を閉じ、現実へと浮上した。


*  *  *


僕はボヤけた視界で現実世界を認識する。二、三度瞬きをすると、山羊頭の獣人がこちらの眼前に接敵し、腕を振り上げるのが見えた。

その攻撃に対して、僕はそこに生えているものに意識を向け、右肩甲骨を迫り出す。すると延長された骨と筋肉に信号が送られ、目の前は深い藍色に覆われた。

ガガンッ!ガガガガ、ガンッ!

硬質なものが粗い地面を削るようなそんな音が耳をつんざく。僕は獣人の腕が振り切られる前に、盾にしていた翼に力を入れて弾き返す。そのまま足に意識を移し、後方へと飛んだ。

僕は大鳥の力を右上半身に纏っていた。右手も大鳥のそれに変化している。

…蒼葉は『穹窿きゅうりゅう』を発動させたみたいだな

視線を上に上げると、天井から魔術で作られた鎖によって玉がぶら下げられている。ちょうどあの玉が活動限界の十分、その三十秒前で破裂することになっているはずだ。それを確認すると再び戦場に目をやった。

…僕の剣はさっきまでの戦闘でもう使い物にならない

ただでさえ、『祠』へと逃げるまでの連戦でかなりの傷があった。いくら自然力で強化の効く白耀鉱石とて、皮膚が石のように硬い魔獣との連戦は酷だった。ましてや、学校支給のものだ。最高級の純度で作られたものじゃない。

僕の変容を見て、相手は警戒しているのか仕掛けてこない。それが分かると、僕は怪物化した右手に意識をやり、得意とする刃渡りを思い浮かべる。

次の瞬間、僅かな痛みと共に右手が変化を始めた。次第に痛みは大きくなり、それとともに骨や肉、神経が新しく生成され、剣の形を為す。

「…くぅ。はぁ…はぁ」

体力もかなり持っていかれるが、素手で獣人と戦えるほど肉弾戦は強くない。僕の戦闘力は剣あってのものだ。

『面白い体をしているな。まるで道化様のようだ』

『誰だよ、そいつ』

情報を引き出すべく、僕は念話に応答した。

『我らが王に誰とは…。いや旧人類は別の言い方をしていたな。…確か、影ビトだったか』

…なるほど。道化様と影ビトは同一の存在か。それに僕の「大鳥」が似ているだと

『貴様ほど、苦心せずとも容易に変貌なさる…と危ない。道化様のことを聞かれると話し過ぎてしまう』

獣人はそういうと、会話をやめて戦場を歩き始める。明らかにこちらの出方を伺っていた。

「…時間がない、速攻だ」

その呟きと共に地面を思いきり蹴り、僕は獣人へと接敵。勢いそのままに最速の突きを繰り出す。しかし、獣人は一瞬こそ気取られたもののすぐさま、その両腕を重ね、攻撃を受けた。

その時、強い衝撃が両者の間に生じる。僕の今の状態は能力発動時の機動力を遥かに上回る。

「…ググ」

吐息のようなものが獣から漏れる。力が拮抗する中、僅かに自身の方へと僕の剣を引き付けるとその反動を利用して大きく弾く。

…肉質が硬すぎる。生半可な攻撃じゃ倒せない

大鳥の力を利用しても簡単にはやらせてくれない。相手の体が力んでおらず、僕の攻撃が最大の威力で行われること。僕は致命傷を与える条件を羅列する。

空中の僅かな間で思考を完結させ、足が地についた瞬間、敵の方へと再び蹴り出す。

…相手は思考体だ。僅かにでも考える間を与えるわけにはいかない

獣人は僕が近づくや否や拳を前に突き出した。大鳥によりさらに明瞭になった視界でそれを認識し、体勢を急激に屈める。低くなった重心そのままに剣を斜めに切り上げる。さら、剣撃の勢いに従うように体を回転させ、姿勢を安定させる。そして、新たにできた傷口その最も深い箇所に突きを繰り出す。さらに一度引き抜き、より深くなった右脇腹を再度突いた。

怪物の重心が後傾する。しかし、即座に左足を出して踏みとどまり、反撃とばかりに左拳を地を這う僕に向かって振り下ろした。さらなる攻撃をと思ったが、完全に体重の乗った反撃を前に僕は剣を引き抜き、間合いをとった。

『ククッ。…なかなかやる。俺の国でもここまで強い奴はそういない』

腹から流血した状態で獣人は話し出す。既に傷口は赤い蒸気を上げて塞がり始めていた。だが、あの深傷だ。いくら獣人とはいえ、痛手になっているはずだ。

僕はそう思い、大鳥に侵食されていない左目で能力を発動。相手の自然力の総量を見る。

…よし、明らかに減っている。あとは時間の問題か

視界を滅する程にあった自然力量があの黒蛇(バジリスク)並みになっていた。とはいえ、単身でアレと戦うというのもなかなか骨が折れる。それに怪物の機動力は僕と同等だ。剣の長さがなかったら、今頃負けていたかもしれない。

 瞬時に息を整えた僕は未だ回復に時間を費やしている獣人との距離を詰め、剣を顔の横に構える。相手もそれに気づくと回復行動をやめ、右腕で防御、左手でそれを抑える。首を狙った攻撃だ。

 

僕はそう思わせた。


刹那、獣人の腹部を鋭利な刃、その集合体が貫いた。僕の右翼だ。力を入れれば、羽ごと硬質化し、武器として転用もできる。羽一本一本が尖鋭なナイフと化す。戦闘が硬直した。あまりの近さに不規則な息遣いが聞こえてくる。翼を大量の血が伝い、滴る。

その時、天井から数多の水が降り注いだ。

…残り三十秒か

なんとかなった。

そう思い大鳥の力を解こうとしたその時、翼に力強い感覚を覚えた。怪物は両腕にその膂力を集約し、翼を自身の身から引き抜こうとしている。僕は翼をさらに深く差し込み、それを阻もうとしたが、かの力は凄まじく獣人は身体を震えさせながら、脱してみせた。

刹那、地に足をつけた化け物はこちらに突貫してくる。先までの攻撃速度とは比べ物にならない。火事場の馬鹿力という奴だろうか。腹部を貫通しているはずの傷口が蠢き、修復していくのが分かる。しかし、それが決死の猛攻であることは確かだった。

…こいつは僕を倒せないけど…

問題は時間だった。戦闘の中で加速する時間感覚で、残りの三十秒という時間が分からない。それでも、凄まじい速さで繰り出される攻撃を予測し、僕には避け続けるという選択肢以外なかった。

…クソッ。一発が即死級かつ早い。一瞬の逃げ出す隙もない

徐々に後退しながら、攻撃を受ける。超越した速さの猛撃に防戦一方になっていた。この近接状態が解消されると相手は倒れる確かな確信がある。だが、相手はそれを許さない。

…時間がない。なにか、何か、ないか

その時、思考より早く体が動いた。おもむろに左手が腰に行き、ぶら下げられている剣の柄を握る。すると、逆手でそれを引き抜き眼前で順手へと持ち替える。そこで思考と体の動きが収束する。僕は翼を盾にして相手との間に差し込む。その刹那、左手のみに能力を発動。顔右横で剣を構え、痛みの走る翼を開く。

「おおっ!」

目の前に迫る左拳を左肩で反らせ、右足を敵に向かって深く踏み込異音の迸る口の中へ剣を深々と刺した。獣人は微かな唸りと共に沈黙する。剣に確かな重さが伝わる。引き抜くと、獣人だったものが膝から崩れ落ちた。怪物は地面に仰向けになる。遅れて、遺体の周りに血溜まりができる。

「終わった…」

その言葉を発した途端、全身から力が抜け、僕もまた膝から崩れる。左手に持つ剣は乾いた音を立てて地面に転がる。体力の限界はとうに超えていた。


…ドゥクン


その時、全身を嫌な鼓動が襲った。まずい…。僕はこれを知っている。その感覚を己が全ての力を持って拒むが、抵抗虚しくも右上半身以外も力に飲まれていく。

…あと二秒早ければ

そんな後悔が脳裏に浮かぶ。

『よくも私の力を勝手に使ってくれたな』

その時、僕は「燭台を持つ右手」の幻覚を見た。しかし、それはいつもより鮮明で…何らかの動物の骨を被っている頭のようなものがうっすらと見えた。

『さあ、復讐だ』

その言葉と共に視界が暗転した。

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