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妖精社会  作者: 創作
三章_第二次巨人大戦編

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43_祠と災厄

懐かしい夢を見た。起きる頃には頭痛はかなり軽減されていた。軽食の効果なのか、自然力も僅かに回復している。

「あら、ヨスガ起きたの」

「悪い、寝入ってしまって…」

「いいのよ、私なんて援護しかできなかったんだから。あっ、さっきチズルちゃんの部隊がここに来たの…よかったわ、生きていて」

彼女はそう言って胸を撫で下ろす。安心感からか、弛緩しかんした空気が辺りを包んだ。


「おおーい、若ぇ奴ら。交代だ、あと頼むぞ」

憲兵だろう。鎧で全身を固めたその人は柔らかい調子でそういうと拠点の中へ入っていった。

「もうひと頑張りしましょうか」

黒栄は腕を上げて胸を張り、ぐいと背中の筋肉をほぐす。僕はユウ、クロエはチズルにそれぞれ声をかけ、天幕を後にする。任されたのは祠に向かって連なる避難民の整理だった。注意事項を復唱し、聞かれたことに答え、民を安心させるそんな役割だ。

「こちらが祠へ続く道となります」

「あとどのくらい並ぶんだい」

「一時間少々かと」

「父と娘いらっしゃいませんか」

「祠入り口で身元の確認を行なっております。このままお進みください」

多いのは時間についてと身内の安否についてだった。特に身内の方は僕が避難民だったら間違いなく聞くはずだ。今できるのがたらい回しのような対応なのが口惜しかった。

その事実にぎりりと歯噛みしたその時。

ヴァン、ヴァン、ヴァン!と連続的な破砕音が耳に届いた。何事かと天幕を出ると次々と建物が倒壊している。その波は明らかにこちらへと進んでいた。そして、ここから最も近い建物が激しい爆発と共に崩れ去る。粉塵が辺りを覆い、僕は目を瞑った。

自体を把握するために能力を発動させる。その時見たのは一体と一匹だった。

——蒼葉⁉︎

能力を一度切って、『戟突(げきとつ)』を用いて最高速で彼の元へ向かう。

「どうなってる」

『あいつはやばい。俺の隊のやつ、民衆含めて全部やられた』

彼曰く、突然現れたそれはその場の人を瞬時に切り裂き殺したのだとか。彼自身は動物的勘で逃げ仰せ、戦闘中に運よくこちらにきたらしい。それを聞いた刹那。飛んでくるのが見えた。瞬時に能力を発動し、それとの間に剣を引き抜く。

捉えたその姿は異様だった。山羊のような頭、長く捩れ曲がった角、全身が毛に覆われている。しかし、その草食獣と思しき特徴を持つそれは立っていた。二足歩行に五本の指。指先こそ山羊のような特徴こそあれ、明らかに異質だった。

…これが、獣人

僕はその事実に息を呑んだ。獣の特徴を持ち、二足歩行をする生物。知能は人に近いとされ、先生でさえ殺されかけたという難敵。現に僕も剣で防ぐのが精一杯。能力で強化された視覚でさえ、攻撃を完全に捉えられていなかった。

僕は剣を支点に体を回転させ、右足に感覚を集中。『戟突(げきとつ)』を左脇ばらに打ち、小康状態を脱する。相手は左方向へとすっ飛んでいった。

「…あんな化け物相手によく一発も喰らわなかったな」

『勘だ、勘。運が良かっただけだ、お前も切り札使っちまってよかったのか』

「『獣人』だっていうのは分かっている。これで効かなかった打つ手は限られてくる」

たった二回。それだけの行動で息が上がっていた。すると瓦礫の中でかの獣人が立ち上がった。能力を全開にしたい気持ちを抑え、思考する。今、能力の全開にしたら、『戟突』は使えない。眼、眼だけだ。練習では感覚の一部のみに能力を発動されるのはできた。

…集中しろ、縁

瞬時に目を瞑り、見開く。ところどころ通常時の視覚と、能力発動時とが入り混じっていた。そんな中、獣人の反撃が始まった。瞬時に距離を詰めた化け物は腕による「突き」や「切り裂き」、足による「回し蹴り」、「踵落とし」など多様な攻撃を繰り出してくる。

それに剣で受けたり、いなしたり、体ごと避けたり半身にしたりと対応する。さらに動作一つ一つに『戟突』を行う。体の各所で能力の発動と切断が相次ぎ、もう脳が処理不良になりそうだった。

しかし、そんな切迫した状況の中、視界が明瞭になってくる。体がこの土壇場で「一部のみの能力の発動」を心得たらしい。瞭然りょうぜんとなった視界で相手の攻撃を予知し、避ける。反撃に剣を下から切り上げるが、後傾した姿勢で避けられた。そのまま相手は距離をとる。

「ジ、ガガ、ジ」

『よくやる人間もいたもんだ』

…しゃべった

『本気出してやる、覚悟しろ』

言っている言葉は分からないが、意味が頭に入ってくる。不思議な感覚だった。しかし、これ以上やられたら、今のまま反応できようはずもない。辺りを見回すが、僕以上の能力者はいない。後ろには民衆、それに大事な友達もいる。

…僕だけじゃ、どうすれば

そんな時、幼少期に抱いたあの風景が脳裏を突いた。あの城の光景だ。あの時は王国騎士になりたいんだと純粋に思った。

…でも、なんで僕は王国騎士になるんだ

この場で考えるべきは戦略。それなのに思考の奔流は止まらない。その時、黒栄や直人達、久遠さんに鉄穴のじい、逃げる最中の国民、色々な人が頭に浮かんだ。

…そうか、そうか。僕は手の届く全ての人を守れるようなそんな人になりたくて——

だから、王国騎士なんだ。傲慢ごうまんだ。我儘わがままだ。横暴だ。けれど、本能がそれを肯定する。

「…守りたい。蒼葉、僕はみんなを守りたい。だから、アレを使う。獣になる」

きっとできる。この数週間で自然力の扱いは飛躍した。

『お前がそう決めたなら、しょうがない。俺は役目をやるだけだ』

「ありがとう」

その時、獣の自然力が発散され、視界が白飛びする。

…これが『本気』か

『人間にはこれが効くって聞いたぞ』

「そうだね、人間相手だったら、効くかもね。でも、君がこれから戦うのは『獣』だよ」

僕は服の右袖から腕を引き抜き、言の葉を紡いだ。

『内なる獣を解き放つ』

刹那、意識は黒く深い場所へと埋没した。


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