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妖精社会  作者: 創作
三章_第二次巨人大戦編

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《追憶編》断片三.目覚め

目を覚ますと、僕は自分のベッドにいた。起き上がるとずきりと頭から痛みを感じる。

…えーっと。確か、蒼葉を探しに森に行って。怪我をしているあいつを見つけて。晴弘くんたちと殴り合いになって。その後、あの真っ暗闇の中で燭台を持った腕に出会って…。

どうしてもそこから先の記憶が途絶えていた。

『起きたか』

「蒼葉…」

彼は傷も治癒し元気そうだった。正直、見つけた時の状態は良くなかったので地を普段通りに闊歩する彼を見て、安堵した。

『縁、ちょっと待ってろ。人を呼んでく——』

『おう、やっと起きたか少年、いや縁くんだったか』

「よすがーーー」

ドタバタと階段を上がってきた久遠にぎゅうとキツく抱きしめられた。

「大丈夫?しんどくない?熱はない」

「久遠、仕事は…」

「それどころじゃないよ。縁、三日も寝込んでたんだよ。保護者としては心配だったの。休みも多めにもらったから。何かあったらってね」

久遠はそう言うと抱擁を解いた。

「縁、あの日のことについてはそこにふわふわしてる美琴さんと…。今入ってきた、この人。ラードガーさんから話があるらしいから、私は席を外すね」

久遠はそう言って部屋を出ていった。

『やあ〜少年、元気になってなりよりだ』

空中を浮遊する妖精はおじさん臭くそう言った。意思のある妖精…初めて見た。宿主のラードガーという人物も相当な手練れであることが感じられる。

「…それで、話ってなんですか」

僕は話を切り出した。三日も眠っていたと久遠が言っていた。傷をつけた覚えのない肩甲骨あたりから痛みがすることも気になる。

『まあ、ちょいとびっくりすると思うが…』

その言葉を皮切りに僕はこの三日間あったことを聞いた。


*  *  *


『まあ、そういうことだ』

僕は呆気に取られていた。自分が翼を持った化け物になって、兵舎を襲っただって?それに話によれば、衛兵は皆重傷で魔術による治癒がなかったら、死んでいたかもしれないらしい。

その時。黒白のぼやけた視界が脳裏を突いた。かなり高い視界から晴弘くんを見下ろしていて、辺りに黒い水溜まりがある。次の瞬間、それは彼に容赦無くその右腕を振り落としていた。

「…何となく、思い出しました」

『そうか…それで、あの姿になる前、少年は何かに会わなかったか』

「…そんな気がします」

一本の蝋燭、燭台とそれをもつ右手をボンヤリと照らす不気味な光景が想起される。しかし、その後何があったかは記憶に靄がかかったように思い出せない。

僕、大鳥の怪物をラードガーさん達が一晩かけて倒した後、あったのは以上のことだった。

化け物は森の中から現れたことから森の祟りと畏怖され、村人は「荒神、『大鳥さま』」と呼び、祟りがおさまるよう祭壇で祀った。依代たる僕は「現人神」と認識されているという。今朝も家の前に山ほどのお供物が置いてあったそうだ。

『まあ、人は未知の存在を恐れる性質がある。そんなに気にするな』

美琴さんがそういうと、ラードガーさんが右手を僕の肩へと乗せ、頷いた。彼は言葉数が少ないが、そのぬくもりで僕の心の中にある不安を退けてくれる。

『君の持つその力は器とそう揶揄されるものだ。力を一度が覚醒すると、いつ暴走してもおかしくない状態になる。今の君は不安定だ。特に感情の起伏に反応しやすいから気をつけろ』

「…美琴、修行」

『そーだ、忘れてた。俺たちはしばらくこの村にいることにしたんだ。正確には君が力の状態が安定するまで。明日から制御の訓練を始めるから、よろしくな』


*  *  *


「GUAAAaaaaaaaaa‼︎」

『ラードガー‼︎』

すると男が生成した数十の水の魔弾が怪物に向かって行き、それを包む大きな球体を形成する。空気のないその空間に置かれた化け物はしばらくすると人の形を取った。男はそれを確認すると水の檻を解き、少年をゆっくりと地面に置く。

「うっ、うぅ…」

『起きろー、少年』

顔面に思い切り水をかけられた僕は意識を覚醒させた。

「また駄目だった…」 

僕は水浸しのまま呟いた。この一週間、繰り返しだ。当然、学校には行けるはずもない。

『そんなすぐにできたら、苦労しねぇさ。気長に行こうぜ』

美琴さんは「しばらく休憩」と言って家の中に戻って行った。

彼には僕を鍛えるお礼として、この家に住んでもらっている。長期滞在となると宿代もバカにならない。家には空き部屋がいくつもあり、彼はその一室を使っていた。

…午後は能力使用の訓練か

僕は地面に寝たまま、そんなことを考える。疲労からしばらくは起き上がれる感じがしない。怒りに任せて晴弘くんを殴った時に僕の身に宿った力は魔術によるものではなく、自然力に

よって身体能力を増強したものだと言うことが先日分かった。。正直、残念だったが、これは珍

しい能力らしく「大鳥」の制御に役に立つと美琴さんは言っていた。

「僕の体、どうなっちゃうんだろ」

「大鳥」に「能力の開花」。一度に起こった変化に僕はなかなか馴染めないでいた。


*  *  *


『内なる獣を解き放つ』

口上と共に、瞬時に肩甲骨から骨が延長され、筋肉がそれを包み翼が生える。

あれから二年。小学校も卒業というその時期に僕は大鳥を身体に抑え込み、能力の一部を引き出せるようになった。しかし、時限付きだ。たったの三十秒。それが大鳥の力を使える今の限界だった。それが終わると大鳥に理性を侵食され、瞬く間にあの化け物に変貌してしまう。

それを知っている僕はすぐに大鳥から人に戻る。

『いーじゃん。上手くなった。まさか能力の引き出しまでいけるとは思わなかったぞ。見た感じ、大鳥の抑止も安定しているし…、合格だ』

空中にぷかぷかと浮いている美琴さんが嬉しそうに笑う。少しでも大鳥化の兆候があれば、いつものように止める手筈になっていた。

「よしっ!」

僕は拳を握りしめる。心底嬉しかった。大鳥の抑止が出来るようになったのはつい半年前だ。それまでは兆しすら現れなかった。大鳥になってはラードガーさんに拘束される、その繰り返し。すでに試行回数は万を優に超えているだろう。心は折れそうな時も、訓練が辛くて辞めたい時もあった。本当にここまで頑張った自分を褒めてやりたかった。


「それじゃ、師匠。行きますよ」

「…こい」

大鳥の試験に合格した僕は、師匠と戦闘を始めた。手には樫の木で作られた木剣が握られている。僕が師匠からもらったこの木剣は特別製で僕の自然力を流し込むと硬度の強化、自然力の発散が起こり、朧げな紫の粒子が発散する。余程のことがない限りは折れないらしい。

「っせい!」

十二式抜刀術:第一式〈神威〉

僕は威力に重きを置く斬撃を放つ。しかし、身を打つことはできず、師匠の剣に阻まれる。

「…いい、感触だ。縁、それで終わりか」

僕は拮抗していた剣を相手側に押し込み、返ってくる反動と共に後退する。僕は最もしっくりときている剣身を下に向けた脇構えの形を取り、一刀一足の間合いで静止した。

森の枝葉が風に煽られる音、両者の呼吸音だけが空間を支配する。極限の集中から生まれた緊迫感で呼吸が早りそうになるのを必死に抑える。

…まだ、まだだ

しじまの間が流れる。ひたすら相手の動きを注視していた。僅かにでも動けば、運動によって起こる自然力の流れを感知。その後の動きを予知し、反撃を仕掛ける、とそう決める。

両者の目に一枚の葉がひらひらと落ちてくるのが映る。それが地に触れたその刹那。

師匠も僕も全く同じその時に動き出した。師匠は瞬時に僕との間を詰めると、真っ向から剣を振り下ろす。単純だが、洗練されたそれに僕は間一髪、木剣を切り上げて対応する。上からの攻撃を下で受けては押し負けてしまう。僕は剣の腹に切先を滑らせて、剣撃をいなす。そして、そのまま背後へと周り、その背中を目掛けて袈裟斬りを打ち込む。

…入った‼︎

僕は半ば確信していた。しかし、それは起こらなかった。師匠が僕の攻撃を予測し、体だけをずらして、振り下ろされる軌道から脱したのだ。そして、僕は自身が先ほどやったのと同じように背後に回り込まれ、肩めがけて木剣が打ち据えられた。

肩に走る鋭い痛みと共に勝負は決した。完敗だった。

「…やっぱり、師匠には敵いませんね」

僕は地面に足を放り出す。僅かな時間。だが、呼吸は仕合前と比べて明らかに荒れていた。

「…だが、いい線は行っている。このまま修練を続ければ、いい腕になる」

「…ありが…とう…ございます」

息切れの中、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。呼吸を繰り返して息を整えていく。

『じゃあ、縁。お別れだ。課題だった大鳥の抑止はここになった。俺らは明日、ここを立つ』

「唐突ですね」

『前から決めていたことだ。こう見えても忙しくてな。東の森の調査、こっちが本業だ』

僕が学校に行っている時は村の書庫にある記録を読み漁り、時には夜が更けてから外に出かけたりしていると久遠から聞いていた。それも仕事の内だったのだろう。

『後をどうするかは縁次第だ』

あと?後とは何か。僕は疑問を抱いた。大鳥の抑止が終わったのだから、これまでの生活に戻るのだろうとそう思っていた。

それが伝わったのか、美琴さんは腕を胸の前に組んで話し始めた。

『なあ、縁。お前、とりあえず中学は彫刻学科に行くんだろ』

「はい」

僕は、近隣の村の子どものほとんどが集まる隣町『和泉町』にある公立中学の彫刻科に進学することが決まっていた。本格的に魔術の授業が始まる中学の普通科には魔術の不得手なものは通えない。通いたいという気持ちはあったが、現実は非情だった。

『その後だよ。本当は普通科に通いたいんだろ』

「それはそうですけど…」

僕は言葉を濁し、視線を美琴さんから外して俯いた。無理なものは無理だろう。

『あるんだよ、一校だけ。お前でも通える普通科の学校』

その甘美に響きに僕は顔を上げた。もし本当にあるならば、一度は…。

「…美琴、持ってきた」

すると師匠が美琴さんの後方から現れた。そういえば、先ほどから姿が見えなかった。彼は手に握られている紙を僕に差し出した。それは『王国立中央魔術学院』のパンフレットだった。

『ここの入学方法は二つある。筆記試験は必須だが、その後は『魔術検査』と『実地試験』に分かれる』

「…実地試験?」

『即戦力の水準に達した人だけが合格になる試験だ。内容は時間内で特定の目的地までの到達。魔術の甲乙は関係ない。できれば、合格だ』

「じゃあ…、その試験さえ通れば僕でも普通科に入れる」

『まあ確かに、舞台となる森は危険度が高い。上級の冒険者でも尻込みするぐらいだ。今の実力じゃ到底無理だが、三年間やれば十分に可能性はあると思うぞ』

僕は話を聞きながら、パンフレットを見回した。すると、卒業生の実績に目が止まる。

「王国騎士への推薦…」

その人は学校推薦で、この王国最高職業の一つ『王国騎士』についていた。

『なりたいのか、騎士に』

僕はこくりと頷いた。王国騎士は大金を稼げると有名だ。栄光も相まって、小学生男子が一度は必ず夢に見る職業だった。実際、僕も小学一年で抱いた夢はこの『王国騎士』だった。

『推薦枠取りたいんだったら、相当強くなきゃダメだぞ。年に四回ある交流祭で常にベスト8には入るぐらいの実力が必要だ。ま、よく考えるんだな』

 

*  *  *

 

『なあ、縁決まったか』

出立の朝、師匠が荷物を馬車に積むのを手伝っていると美琴さんに声をかけられる。

「正直、なんとも。あの時は衝動でなりたいと思いましたが、一晩明けると…、よく分からなくなりました。別に彫刻師として立派になれば、お金持ちにはなれますし」

『う〜ん。お前あれだな。何だかんだ、理性的なやつだな』

「日常的に神様扱いされてたら、村がいかに狂気に満ちているかが分かります。それを見ていると返って、頭が冷めて…昔より色々なことが見えるようになりました」

僕は荷物を馬車の後方に送りながらそう答える。神と崇められるようになった日から村人の対応はそれまでと様変わりした。僕を見る村人は避けるか、合掌するか。それが村の方針だった。触らぬ神に祟りなし、だ。

村内で直接関わる人なんて久遠、露天商、鉄穴の爺だけだ。弓弦ちゃんともなかなか会えなくなった。僕と会っているのがバレたら親に絶縁されてしまうという。

学校には行っていたものの先生から出席を取られることもなく、勝手に書庫に入り、授業を聞くだけだった。いつの間にか卒業していた。卒業証書は家の郵便受けに先日入っていた。

『まあ、そんなに気にするなよ。同職組合(ギルド)と組んで、噂はこの村以外ではデマ。あの村の人は狂っている、ってことになっているんだ。中学は普通に友達もできるさ』

それは美琴さんと師匠がやってくれたことだった。そんな大仰な情報操作に同職組合(ギルド)を巻き込めるくらいの立場の人。師匠達は上級の冒険者か、傭兵か…そんな思考が頭をよぎる。

「……はい」

『吹っ切れてない感じだな。…これは俺の考え方だから適当に聞いとけよ』

美琴さんは自身の頭の後部をさすりながら、話した。

『縁、人って死ぬ時は死ぬんだ。戦場か病気か事故かそれ以外でもあるだろうな。だから、後悔が残らない死に方を考えなくちゃならない。なあ、お前はどうやって死にたい?』

僕は不意に死に様を問われ、慄いた。しかし、逡巡の間に脳裏に王城から町を見下ろし、悦に浸る僕の姿が浮かんだ。王城なんて一度も見たことはない。しかし、そこがその場所であることは感覚的にわかっていた。…やっぱり僕は王国騎士に

『おーい。縁、おーい』

僕は美琴さんの方を向いた。

『どうかしたか。今のお前、ぽけっとしてたぞ。…でも、何か見えたみたいだな』

「…はい」

その後、昼頃に師匠たちは荷造りを終えて、この村を出立した。


師匠が発った後、僕はこの学校に入るための努力を惜しまなかった。確かに彫刻師として大成して、金銭を手に入れることはできる。けど、あの景色が僕にそれを許さなかった。

学校の行き帰りで能力の鍛錬をやる。帰ると狩りに行き、大鳥の制御、剣技の上達、勉強をする。そうする内に三年の月日が経ち、僕は王国立中央魔術学院に入学した。


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