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妖精社会  作者: 創作
三章_第二次巨人大戦編

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《追憶編》断片二.荒神の夜

——星銀歴四百一年、十一月二十三日

その日は朝から薄暗い雲が空全体を覆っていて、雨が降りそうなくらいだった。僕はいつものように早朝の狩りを終え、学校に行った。いつも通り、人知れず書庫へ行き、教室で授業を受けた。

異変があったのは帰宅後だった。いつもいる外の小屋に蒼葉の姿がなかった。こういうことは偶にある。「腹が減った」とかで勝手に森に踏み入って、草食動物を狩ってくるのだ。

だから、いつものように待つ事にした。一時間もすれば帰ってくるだろう、そう思って。

しかし、それだけの時間が経っても一向に帰ってこなかった。心配になった僕は、狩人の装備を身に纏い、森に足を踏み入れた。

散策し始めて、十五分もしないうちに彼は見つかった。かなり森の浅いところにいた。

だが、見つけたのは彼だけではなかった。遠野晴弘君とその取り巻きたちの姿がそこにあった。蒼葉は彼らが集う中心でぐったりとしている。

一目散に近づき、彼を抱える。体は傷だらけで、毛には血が飛び散っていた。

「蒼葉、おい。蒼葉!」

その言葉に返事はない。これをやった犯人は明白だった。遠野くん達(かれら)だ。殴られたり、蹴られたりしても何も反応しない僕に何をすれば嫌がらせになるのか、それを考えた結果だろう。

息はあるが、無惨な姿になった蒼葉。そして、その周りにいる悪漢。その存在が僕に信じられないほどの激昂に至らせた。

「…ねえ、晴弘はるひろくん。やっていいことと悪い事があるよ」

僕は抱き抱えていた蒼葉を一度ゆっくりと地に置くと、怒気を滲ませた声が喉元から響く。

「やっと、その気になりやがった。そんなに強がってもお前には何にもできねーぞ」

その言葉を皮切りに嘲笑ちょうしょうが辺り一帯を包む。

刹那、激情のままに拳を握り、遠野くんとの間にあった目算六メートルの距離を瞬時に詰める。勢いそのままに彼の顔面に振り抜いた。予想以上の衝撃が拳に込められていたようで、彼は地面に叩きつけられたのちに体ごと数度跳ね、沈黙した。

僕は不思議に思って、右の拳を見やる。すると淡い緑の光が右手から発せられていた。

…これが魔術?

そんな疑問を抱いたその時。後方からの攻撃を感知する。取り巻きのうちの誰かだろう。僕は位置を反転し、彼の後ろをとった。そのまま脇腹に蹴りを食らわせる。蹴られた相手は木の幹に強打し、そのまま動かなくなる。

…あと三人

僕は辺りを見回したがすでに敵の姿はなかった。逃げたのだろう。蒼葉を弓弦に見せるために彼の元へと向かった。

しかし、次の瞬間強い熱源が僕の体を襲った。

ッッツ!

その圧倒的な熱量に咄嗟とっさに右手で防御したものの皮の防具はすぐに焦げ落ち、僕の肌はじりりと焼け、飛び火した炎が身を焦がす。物理的な攻撃とは比べにならないほどの痛みが体を覆う。

「…アッァアッ」

全身がヒリヒリと痛み、呻き声しかでない。

「調子に乗るからだ。雑魚のくせに盾突きやがって。こんな奴は徹底的にやらねえとなぁ‼︎」

そう言って彼は地に伏した僕に右手を掲げ、魔術を発動させる。彼の周囲に現れた三つの火の魔弾は変異し、その姿を槍とした。

「火」中級魔術〈炎の杭〉

…さっきのもこれか。クソッ!なんでこんなやつに限って優秀なんだ

僕は理不尽な現実を吐き捨てる。刹那、その杭は僕の体に放たれ、右太もも、左脇腹、左手前腕に突き刺さる。

「ぐあぁぁぁぁぁ‼︎かはっ、かはっ」

悶絶を通り越した形容し難い痛みが各所に生じる。汚いのは火魔術であるため、一瞬で穴の空いた部分も止血されてしまうことだ。死にようがない。彼はずる賢いからきっとそれも分かってやっている。そんなどうでもいい分析の末、僕は意識が失われるその瞬間を知覚した。

…こんなクソ野郎にも負けるのか。あいつだけ、あいつだけは…。


絶対にぶっ潰す!


とてつもない力が眼輪筋に宿り、目が見開かれた。しかし、そこで僕の意識は途絶えた。


*  *  *


次に目を覚ましたのは白く際限のない不思議な空間だった。脳を劈くような激痛も消え、体の各所にあった火傷や穴などの外傷もなくなっていた。

瞬間、空間そのものが明滅し、白から黒へと様相を変える。

真っ暗になったその場所で、火を灯した燭台を持つ右手が現れた。

『其方、力を欲するか』

暗闇は言う。僕はそれにこう返した。

「あいつをぶっ倒すだけの力が欲しい。蒼葉を、僕の家族をあんなにした奴を僕は許さない」

怨嗟に塗れた私欲を僕はぶち撒けた。

『復讐か。よろしい。…私も、大好物だぁ!』

ふと蝋燭の火が消え、辺りは完全な漆黒に包まれる。不気味で狂った声が空間そのものを支配している、そんな感覚に襲われる。

その時、『地』がなくなり、僕は深く、暗く、真っ黒いどこかへと落ちていった。


*  *  *


なんだよ、アレェ!

俺は恐怖に支配されて、本能的にそれから逃げていた。

俺が縁を完全にやっつけたその時、黒い瘴気があいつから漏れ出た。それは不意にあいつの体を浮かすと、それに纏いつき、化け物へと変貌した。俺は見た。口角が異常なほど釣り上がり、肩甲骨から漆黒の翼が生え、全体が羽に覆われていて怪物になるあいつを。

それは俺の眼前に素早くと動くと気味の悪い口を近づけ、ニヒルな笑みを浮かべた。

俺は怖気を感じ、反対の方向に〈身体能力強化〉の魔術を発動。そして、今に至る。

命の危険が迫っているからか、いつもより数段早く動けていた。そのおかげで化け物よりわずかに速い速度で逃げる事ができている。

…あんなの手に終えるわけがない、村の兵舎に向かうしかないか

俺はそう考え、それがある方へと舵を切った。

…にしても、あんな化け物抱えていたのか、あいつ。関わると碌な事がなさそうだ。

今度、関わりたくないリストに「栗野縁」の名を刻む俺だった。


*  *  *


「なんなんだよ…コレ」

俺は眼前の光景に呆然としていた。兵舎の前には傷と血に塗れた衛兵が伏している。

村の兵舎には敢えて無断侵入した。少しでも触るとけたたましい音でなる警戒線、それを思い切り踏みしめる。わざわざ夜番の衛兵に事情を説明している暇なんてなかった。

しかし、集まった総勢三十人にも渡る衛兵は瞬く間に無力化された。

魔術は効かない。受けた傷はすぐに治癒する。出鱈目に力を振るっただけでこの有様だった。

それは口から多量の唾液を滴らせてこちらに歩いてくる。俺はその圧倒的な力に尻込みする。なんとか逃げようと腕を動かすが、衛兵の撒き散らした血で手が滑る。足音が鼓膜で反響する。

「GAAAaaaaa‼︎」

その叫び声と共に鉤爪のようになった腕が勢いよく振り落とされ、俺は目を背けた。衛兵と同じく切り裂かれる——そのはずだった。

ガギンッ!

刹那、響いたのは剣戟音だった。瞼を開くと長身の男が剣で拮抗するのが見えた。

「……少年、逃げ、ろ」

俺はその言葉に従うようにその場から離れ、なるべく遠くへと逃げた。振り向かなかった。もしかしたら、追ってきているかもしれない。その可能性が俺を突き動かしていた。


*  *  *


『いやー、東の森に用があっただけなんだけどね〜。まさか、こんな化け物に出会うとは。見た感じ、人だね。これは骨が折れるぞ〜』

半魔獣化。歴戦の猛者でもなかなか見れない代物だ。

「……どうする、美琴」

『助けるに決まってんだろ、ラードガー。コレ多分、器だぞ。こんなところで見つけられたなんてラッキーだ』

「……美琴の決定に従おう」

そう言って、ラードガーは拮抗きっこうしていた剣を振り抜き、後方へと飛ぶ。

『殺すつもりで行って大丈夫だ。あの瘴気しょうきが尽きれば人に戻る。長期戦は覚悟しろよ』

俺は彼にそう指示する。本当は明日の早朝の馬車でこの村に着くはずだった。しかし、気味の悪い自然力が大気に混じっていたのが気になり、より濃い方向へと進んでここに至ったのだった。

実は、もっと早く戦闘に参加することは可能だったのだが、辺りに倒れている衛兵の応急処置にも手を回していたので、少年がやられる間際での乱入となった。

翼に覆われた化け物は様子をうかがっているが、こちらを敵視しているのは明白だ。執拗しつように狙われていた少年を逃したのだ。獲物を取られたと思っていても不思議ではない。

『こっちから仕掛けるぞ』

「…ああ」

そういうとラードガーは能力を発動し、異形に突貫した。しかし、それは当然のように阻まれた。突き刺そうとした剣は化け物に右手に握られて止まっていた。そこでさらに剣自体に自然力を流し、鋭さ、強度を上乗せする。強引の攻撃を押し込むと抑えきれなくなった手が外れ、それの胸を深々と突いた。すぐさま、引き抜くと後退する。

化け物からはかなりの血が流失したが、その傷口もすぐに閉じる。

『基本、攻撃と離脱の繰り返し。時々魔術を使って陽動しろ。効きはしないが、目は引ける』

「…わかった」

戦闘は明け方まで続いた。ラードガーは相当体力を消耗したようで、剣を支えに立っているのがやっとという感じだった。足元にはうつ伏せのままボロボロの服を着た少年が眠っている。

…彼の何が内に眠る禁断の扉を開いたのか

頭に疑問が浮かんだが、それよりもやることがあった。

『ラードガー、倒れている衛兵を治療するぞ』

「…わかって、いる」

彼は大きく息を吐くと剣を鞘にしまい、のそのそと衛兵らのところに向かった。


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