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妖精社会  作者: 創作
三章_第二次巨人大戦編

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41/55

39_旋炎

 戦況は、想定したより悪かった。計画では先制の大規模魔術で「敵の四割は先制で落とせる」とのことだったが、実際は二割に留まった。敵陣に放たれた魔術は一部、巨人の利用する『法術:巨人の扱う魔術』によって相殺された。

 確かに法術を扱う巨人は昔から存在を確認されていたが、絶対数が少なかった。しかし、今回はその個体数が圧倒的に多い。大規模魔術を行使した後の隙に火、水、雷…多様な法術が行使され、自陣は早々に前衛のうち二割を失っていた。

 かくいう俺たち『第二十三小隊』も先から前方から放たれる法術の数々への対応に追われていた。

「ちっ、クソっ‼︎」

 横で金沢が毒付く。俺たちは何度も攻撃を防御し、前進を試みたが度重なる法術の追撃によって足を止められてしまっていた。その間に狼、ピューマなどの俊敏な中型魔獣が接敵し、継続的な防御に加えてそれらの対応にも追われる。

…これじゃ、拉致が空かねえ

 俺はこの状況に歯噛みする。このままじゃ戦況は悪くなる一方だろう。

…なら、リスク承知で突っ込む

 俺は防御を捨て、敵陣に向かって突貫することにした。〈身体能力強化/《真》〉によって増強された体の動きは能力者のそれに匹敵する。防御への意識を捨てたことで加速化した感覚。その情報処理に集中することが可能になる。目まぐるしく動かし致命傷になる攻撃を優先的に対応し、最短距離で敵陣へと迫る。

 軍団に接敵し、一太刀で魔獣を屠りながら、さらに奥へ。周囲を完全に敵に取り囲まれた、その刹那。俺は自身にできる最高範囲の魔術を発動する。

「行くぞぉぉ、ペトラ‼︎」

 俺は敵陣の中で咆哮を上げ、同時に大剣の切先を下に向け、柄を腰に構える。付与された灼熱が波打ち、剣を延長上に伸長する。瞬時にして熱気が周囲に立ち込める。俺はその剣を増強された身体で力任せに横薙ぎした。

 魔術行使:「火」魔剣/《灼熱付与〈旋炎〉》

 俺を中心に半径十四メートルが焦土と化す。大量の肉が焦げ、焼失した強烈な匂いが鼻をついた。

 身体能力強化/《真》に加え、この大規模魔術。反動もバカにならない。身体能力強化を《真》から《レベル3》に切り替え、呼吸を一つ置く。

 瞬間、頭上を影が覆った。身の危険から時間感覚が拡張される。その方へ目をやると、大きく顎門を開いた狼の魔獣が。体を動かそうとするも上手く身動きできない。脳からの信号伝達が遅すぎる。身体能力強化のグレードダウンに感覚が馴染んでいなかった。

 …しまった。

 俺は棒立ちのまま「死」を覚悟した。反射的に両手を眼前に掲げ、身を守ろうとし、俺は目を瞑った。

 しかし、訪れるはずのそれはいくら経っても訪れず、代わりにドサリという重量感のある音が耳に届く。

「相変わらず、無茶ばかりですな」

 目を開けると、細剣を血振りする爺の姿が目に映った。

「だが、これで一気に視界が開けた。…よくやった直人」

 曲刀を肩に担いだ金沢がそういう。

「直人様、悪いがここで休んでいる暇はなさそうだ」

 爺の弟の霧平きりひらが首を傾げるその方向を見ると、続々と敵がこちらに敵が集まってくるのが見えた。

「直人は一度、後方に撤退して《治癒》魔術かけてもらえ。俺たちはこのまま敵を殲滅する。いけるよな、師匠」

「減らず口は相変わらずだな、良成よ。坊っちゃま、あとはこのじいにお任せを」

 爺は戦場にも関わらず、微笑む。すると敵の方へ向き直った。

「任せる」

 俺はそう言って一度、自陣へと引いた。


*  *  *


 …いやー、派手にやってんな

 俺は左翼で起こった自然力の爆発的膨張に目を向けた。今いるのは右翼だが、その膨大な自然力の発散はここまで感じ取れた。戦場から消えた自然力の数から一度で百五十近くの敵を屠ったことがわかる。

 …この然力。直人か。さすが、次期当主。俺もう教えることほぼないかも

 あれで一年なんだから恐ろしい。担任の先生は怖いよ、ほんと。俺は能力者であるがあそこまで強大な魔術を一人で放てる程、秀でているわけではない。

「生徒がアレじゃあねえ……。先生も頑張りますか」

 再び戦場に意識を向けるとグリズリーの魔獣が二体、眼前に迫っていた。瞬時に『目』のみ能力を発動させ、然力の流れから攻撃の軌道を予知する。

 …一方は踏み込むからの引っ掻き、もう一方は噛みつきか

 最小限の足運びで避けた後、『然力の流れと純粋な運動がぴたりと一致した時に発生する衝撃は、単に能力を発動している時の運動能力を凌駕する』それを発揮し、右足を踏み込む。勢いそのままに右手でさらにそれを発動し、握られた片手剣切り上げ、首を刎ねる。魔獣は死なない限り、再生能力を有する。一撃で屠るのがセオリーだった。

 そういえば、これの正式名称決めてなかったな…そうだ、『インパクト』にしよう。そんなことを考えながら、魔獣の死体の横を通り過ぎる。

…あーあ、普段だったら、この肉持って帰るのになあ

 魔獣の肉は美味しいと評判だ。こんな有事でなければ、持って帰って調理するところだ。

「ウオオーーーーーン」

 声の方を向くと複数の狼が見える。仲間を呼ばれたようだ。その場にいた六匹を一撃で仕留め、後にやってきた奴らも同じようにする。そして、俺は戦場の自然力を観測した。


…やっぱりだ。おかしい。二十六年前、『第一次巨人大戦』の時はいた奴らがいない。


 これほど大きな戦場で指揮官たる『獣人』を見ないことはない。実際、哨戒時には存在が確認されている。俺は言いようも無い不安感に駆られた。 

 考え込んでいると不意に地面に黒が落ちる。見上げるとその巨体が眼前を支配した。

…巨人か

 手を掲げたそれはコンマの差もなく、火の法術を俺に向かって発動した。刹那、踏み込みの動作と共に能力を全開放し、手に握られた『白耀鉱石』の剣に然力を流し込む。すると同時に白い燐光が発散する。そして、俺は法術によって作られた火球ごと手のひらを切り裂いた。

 魔術も法術も自然力を元にして生まれるもの。本質的には同位だ。元から巨人の方が自然力の扱いに長けており、俺たちはその使い方を分析して魔術を開発してきた歴史がある。故にこのような荒技が効く。

 斜めに振り切った剣にさらに自然力を込めると、リンリンと音が鳴り始める。鉱石に込められる最大値であることを示す共鳴音だ。刹那、剣を返して、込められた自然力を開放。剣身から溢れる自然力と共に巨人を消失させた。

…それに全体的に手応えがない。なんだ、この胸騒ぎは。

 戦場は直人の一撃を起点に好転していた。それなのに何か、引っかかる。ものすごく大事なことを忘れている気が…。


 バジリスクの報告書。槍と斧の紋章。会敵は金森別荘。まさか、まさか。法術はすでに——

 

 思考が収束するのを同時に、戦場に最悪の早馬による伝令が齎された。

「伝令、でんれーい‼︎王国主要都市が同時多発的に巨人襲来!手の空いているものは早馬で至急帰還せよ!繰り返す。現在、手の空いているものは至急帰還よ!」


 法術は『転移』すら可能にしたのか、あり得ない。だが、そうしたら。あんな森の浅瀬に上位魔獣(バジリスク)がいたことにも合点がいく。終戦後、あいつらは北からしか攻めてこなかった。超人『影ビト』による五十年に渡る周到に仕掛けられたブラフ。

思い込まされていたのだ、俺たちは。


——「巨人たちは北部戦線からしか攻めてこない」と


…まずい。今、王国の主要戦力は全てここにある

「邪魔だ」

 後方へと戻る俺を遮った魔獣を力の限り切り伏せる。

「……先生」

後ろにふつと気配が現れる。

「ハクか」

特有の自然力性からそう断定する。

「……ママが快斗連れて、天誅に戻れって」

「アレは」

「……用意してる、こっちにきて」

 俺とハクは能力を発揮、全速力で指定の場へと向かい、馬を駆け『天誅』を目指した。


*  *  *


「いいのか、直人」

「仕方ないだろ」

決意を問う金沢にそう返す。

「これしかないんだ」

俺は敵勢力の都市襲来を聞いたとき、拠点にいた。そして、その場で指揮を執っている森山に言った。「俺たち以外の残存勢力を撤退させろ」と。森山の俺のあの力について事前に現当主(じじい)から聞いていたんだろう。「…すまない」と一言だけ告げ、早馬を走らせた。

「今から俺は動けなくなる。体を頼む」

それにじい達が頷く。

…ペトラ

『…言っても聞かないだろ、君は』

相棒に心の中で謝って俺は言葉を紡いだ。

「太古の時代に滅びし災厄の獣よ。戦場の全ての死せるものを糧に今一度顕現せよ。来い、『黄金に囚われし者(アンノウン=フェオ)』!」

俺は詠唱を終えると共に意識を失った。

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