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妖精社会  作者: 創作
二章_黒蛇編

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33_メテオライト

 僕は戦闘に復帰し、蛇の標的になるように立ち回っていた。先ほどのようの失態を犯さないよう能力は発動したままにしている。蛇を遠くから観察してわかったのだが、攻撃をする時に体内の自然力がそれに応じた動き方をするのだ。

 その予兆さえ知覚できれば避けるのは容易い…とまではいかないが、可能だった。昨日、クロエの狩りの仕方を聞いていたから出来たことだった。


…矢による物理的な攻撃は逐次、再生する魔獣の体にも有効だ。ナオトが作った傷口に突き刺さるとかなりの痛手を負わせることができる。

『左上。お前から見たら右側面、頭の後ろだ!』

 蒼葉の指示に従って然力を流し込む事で強化した矢を曲射する。黒蛇の体組織が多少は硬くても突き刺さるはずだ。それに蒼葉の指示はナオトの作った傷口であることを踏まえると相当なダメージが期待できる。


…頭から尻尾までの伝導。標準をこちらに合わせた尻尾の突き刺し攻撃か。

 思考に到達する頃にはすでに目前に尾は迫る。僕は最小限の足運びで攻撃を避ける。姿勢を安定させるのと時を同じくして、地面から破砕音が届く。

 その後も蒼葉の指示で矢を放ち、攻撃がきたら避ける。それをただひたすら繰り返す。

 しかし、懸念すべき点もあった。蛇は一向に魔術を使ってこない。魔獣で使えない個体など聞いたことがない。

 すると視覚が異常を捉えた。明らかに先までの物理攻撃とは違う。自然力が体内から外に放出されている。

「みんな、離れろ‼︎」

 僕は警告を発し、地面を蹴った。蒼葉も足場を作りながら、空中へと退避する。蒼葉が作った足場に飛び乗る。そこから見る光景に僕は目を疑った。

 蛇の周りに瞬く間にいくつもの巨大な青白い炎の玉が生成され、その玉から数えられないほどの熱線が放射されて地面が高温で黒く染まり、裂かれていく。すぐに視界は土埃に覆われてしまい、他の三人がどうしたかまでは分からなかった。


「アオバ…」

『ボーっとしてんな。引きつけるぞ』

 そうだ。今は目の前の惨状に立ち尽くす訳にはいかない。防御に成功しろ、退避したにしろ、大蛇の目をこちらに引いておけば、復帰しやすくなる。


 …さっきは彼らがやってくれた。今度は僕の番ってことか。


 すぐに能力を再起動する。全開状態だと持ってあと一、二分だろう。

「SHAAAAAA――――‼︎」

 威嚇する音が耳に響く。地上に到達する際に蛇と目が合った。確実にこちらを見据えている。

 地面に足が着くかといったところで、大きな顎門が僕を襲った。なんとか毒牙を足がかりにして攻撃を躱す。やっと地に足がつき大きく息を吐いた。

 しかし束の間、今度は直径が僕の身の丈ほどもある火球が降ってくる。どうやら他は眼中にないらしい。辛くも木を背にして攻撃を免れる。木は半焼していた。

 相手の攻撃が変化したことにより、蒼葉には魔術の対処、僕は弓による物理攻撃という役割を振り分けた。先ほどのように蒼葉からの射撃指示はない。撃つときは能力を切り、自分でポイントを視認しなくてはならない。考える間もないほど蛇の猛攻は続く。先ほどと一転して不利な立ち回りを強制させられた。

 蛇は体を鞭のようにしならせた。もう何度目か分からない攻撃を回避したその時。


『クロエの魔術が発動したよ!』


 ペトラの声が脳内に響いた。

「動きを止めろ‼︎」

 瞬間、ナオトが叫びながら、空から降ってきた。手に持つ剣が蛇の頭を貫通し、地面とそれを縫い付ける。

 血だらけの彼はさらに命を下す。絶叫に近い声だった。

 「ここしかない!こいつの体を縫い付けろ!」

 その間も刺さった剣を引き抜こうと黒蛇は上からの圧力に反発する。しかし、ナオトはそれをさせまいと体が発火するほどの『身体能力強化』を行い、より深く剣を刺す。

 僕はその機に潰していない方の右目を潰す。

 さらにジタバタする大蛇に炎と水の杭が襲い、体が固定される。チヅルとユウだ。

 刹那、蛇の後頭部にクロエから放たれた矢が深々と刺さった。核と矢がせめぎ合い、高く鋭い音が響き渡る。蛇も衝撃から体がくの字に曲がり、矢を中心に地面にめり込む。

 しかし、それまでだった。

 矢は命中した。核にも刺さった。けれど、核そのものを破砕するにはいたらなかった。

 蛇は息を吹き返し、その膂力りょりょくを持って自身に刺さった杭を地面から引き抜いた。その時に発生した衝撃波によってナオトは吹き飛ばされ、僕も蒼葉も虚をつかれて体当たりをモロに受けた。

 蒼葉が瞬時に魔術を発動しており、背中に生成された水によって勢いが相殺され一難を切り抜ける。


 能力を発動して仲間の自然力の量を見るが、もう魔術に回せるほどの量は残っていなかった。ナオトに至っては先の外傷もある。おそらくあの閃光で負傷したのだろう。それを確かめると僕は能力を解除した。

 幸い、蛇も体の再生に時間を費やしているのか、すぐには襲ってこなかった。相当消耗しているらしく能力発動状態でも視覚は正常に機能していた。

「蒼葉、お前。後どれくらいならできる」

『水球二つ。いいトコ、あいつの魔術を一回防げるかどうかってところだな』

 僕も持って後、数十秒。単身で渡り合える時間はもう僅かしかない。その時、蛇の後ろに刺さったクロエの矢が目に入った。瞬間、一つの策が頭を駆け抜けた。

「一つだけ、一つだけある」

『どうしたヨスガ』 

「いってる暇はない。蒼葉、一発は防げるんだな?」

『多分な』

…なんだ、ここに来て確定情報じゃないのか

 しかし、僕も似たようなものだ。今から打つのは博打だ。それもゼロに近いほどの可能性。

「やるぞ!」

 僕は友への指示と自身への鼓舞を内包した言葉を叫び、再び能力を解放する。蛇も僕らの動きを見るや、回復行動をやめ周囲に火球を作り応戦する。初めは避けられていた火球も近づくにつれて精度が良くなり、かわすことが難しくなる。

 その時、不思議な感覚が体を包んだ。いつもより明瞭な視界でコンマの差もなく体が動く。けれど、それに疑問を持つ間などない。調子がいいならそれに越したことはない。

 地面を踏み締めて跳び上がり、とぐろを巻く大蛇の頭まで達する。瞬間、蛇の顎が大きく開いた。明らかな魔術の気配。

…一度ならどうにかできるんだろ。

 間近で大きくなる火球の脅威に息を呑みながらも、意識を防御に回さないようにする。

ジュッ‼︎

 地上から水の杭が飛び、火球を阻止する。杭はそのまま口内から外に突き出した。

 僕は頭に着地して能力を切り、後頭部に向かう。

…先生はどうやっていた。あの時見た動きを思い出せ、模倣しろ。


 『然力の流れと純粋な運動がぴたりと一致した時に発生する衝撃は、単に能力を発動している時の運動能力を凌駕する』


…あの突き刺さった矢に外部から大きな力が加われば、硬い核も貫けるはずだ。

 僕は矢のところで急旋回、左足を軸に反転して右足を振り上げる。そして、矢と足の甲が接地する間際に能力を発動して…足を振り抜いた。

ガギンッ

 核の破砕音が耳に響き、蛇はその勢いのままに地に臥した。そこまで見届けるのと同時に自身が落下していることを自覚する。しかし背中で感じたのは硬い地面ではなく、柔らかいものだった。

『詰めが甘ぇんだよ』

 蒼葉の声がする。どうやら彼が僕をうまいことして捉えたようだ。途端に視界が明滅し、極度の眠気が込み上げてくる。

「…命の…恩人に…は…礼をしないと…ね」

『んだよ。珍しいな…んじゃ、朝寝坊は控えてくれ…ってもう寝てやがる』

 この日、僕は学校のある王都『天誅』に帰るまで目を覚ますことはなかった。


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