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妖精社会  作者: 創作
二章_黒蛇編

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32/55

31_天地の差

「まずい、まずい、まずい。逃げた人を追ってこっちにあれが向かってきてる。速度も早い。四、五分後に会敵する!」

 衝撃の知らせだった。次第に破砕音も近づいてくる。

「それなら、さっさと逃げるわよ」

「無理だ。振り切れない。散り散りになっても誰か、もしくは全員死ぬ」

「…そんな」

 チヅルはその知らせにペタンと膝をつき、戦慄していた。怖いに決まっている。桁違いの化け物を前にして僕も呼吸が浅くなるのを感じた。

「作戦を立てましょう、あの蛇を倒す戦略を」

…あるのか、そんなものが。

「私なら、遠距離狙撃であれの核を射抜けるわ」

 魔獣には核という体そのものを作り出す玉がある。それがある限り魔獣は再生し続ける。しかし、それは体表から見ることはできない。クロエはそれを射抜くと宣言した。

 彼女は四つの魔球をすぐさま生成し、それを融合、形態変化させて身の丈ほどもある弓を造った。


「なら、俺は引き付けねえとな。ペトラ、やれるか!」

『任せとけ。まさかあんな化け物とやるなんてね、…死んだら呪ってやる』

「ヨスガ、お前も手伝え。接近戦なら得意だろ」

 ナオトも逡巡の間もなく、決断する。彼はいうや否や身体能力強化を発動し、体から湯気を滾らせていた。

「十八番だよ、任せて」

 正直足が恐怖で竦みそうだったが、そう言い放った。王国騎士になりたいのだ。もしここにいるのが彼らなら勇猛果敢に戦うだろう。


…仮に分が悪かったとしても、全力で。


 その考えが恐怖より僅かに強く、心の天秤は「戦闘参加」へと傾いていた。

 そうしている間に、クロエは姿を消していた。辺り一帯の森へ狙撃位置を探しに行ったのだろう。

「チヅルとユウはあいつの鼻面に攻撃してくれ。感知されちゃ敵わん。それと逃げてきた人にはそのまま町に行くように伝える。それでこの異常が伝わるはずだ」

「………」

「頑張る」

 チヅルは半分泣きながら承認した。ユウは押し黙ったままだ。

 恐怖は音を立ててやってくる。もうその巨体は間近だ。木が折れ、大地が削れ、這いずる音が大きくなる。

「ユウ!どうした!」 

 ナオトが叫ぶ。

「悪い…ナオト…足が動かないんだ」

 ユウは恐怖で顔を引き攣らせながら、そう言った。

 「ごめん……」「ごめん……」と彼は繰り返す。

「……仕方がない。ヨスガ行くぞ」

「えっ……」

「戦えない奴を連れて行ってもしょうがない」

「……わかった」

 僕はわだかまりを抱きつつ、ユウを背に戦場へと歩を進めた。

 


「そんじゃ、これ」

 ナオトは矢筒を僕の方へ投げる。中には二十本以上矢が入っている事が重さからわかる。

「それ、天誅製の矢だ。俺は弓苦手だからな。あたりはしても急所を射抜くのは難しい。だからお前に預けとく」

「でも、ナオトはどうするの」

「俺はあれだ」

 彼が指差す方を見ると蛇の背中に一本の剣が陽光を反射して輝いているのが見えた。…まさか取りに行くというのか。

「そろそろ開戦だ。気合い入れろよ」

 もうその蛇も目前に迫っている。逃げる二人組は……昨日のならず者だった。

 逃げてくる二人が通り過ぎる際にナオトが何やら耳打ちをする。事態を街に知らせることを頼んだのだろう。しかし、あの二人組がしっかりやってくれるだろうか。

 今はそれを気にしている時ではない。一抹の不安を隅に追いやり、戦闘に目を向ける。

「よし、行くぞ」

 ナオトの掛け声と同時に、蒼葉と共に大蛇との距離を一気に詰める。

 やることは二つ。一つ、魔獣の使う魔術属性を知ること。二つ、ナオトが剣を手にできるよう注意を引く事だ。

「蒼葉、防御は任せる」

『わーったよ』

 僕は接敵し、首元目掛けて矢を射った。それにより明らかに敵対する僕らに気づいた黒蛇が赤い眼光で見据える。尻尾を鳴らして威嚇する音が聞こえた。瞬間、大きな顎門が開き、鋭く切り込んできた。持ち上げていた体が地を這い、僕を捕食しようとする。

…能力は全開では使えない。視覚が役に立たなくなるのは分かっている。

…けど、事前にどう来るかが分かれば、目を瞑っていても避けれるはずだ。

 すぐさま能力を発動し、左上から来る攻撃を蛇の体と地面との僅かな隙間に飛び込むことで回避する。そして、視覚を機能させるために左肩に意識を向け、能力を切る。

…魔獣の体表は硬い。しかし、内部が剥き出しになっている場所なら。

 振り向きざまに体を捻り、怪物の目に向かって矢を放った。穿たれた矢は蛇の左目に深々と刺さり、血が迸る。

 ただ空中でさらに不自然な姿勢で射ったせいで着地に難が生じ、地を転がる。

 そこを大蛇に突かれた。僕を捉えた黒蛇が勢いよく頭を振り抜き、吹っ飛ばされた。瞬間、背中に強い衝撃を受ける。

「グッ、ガハァッ」

 蒼葉が魔術で障壁を張ってくれたものの、あの大蛇にとっては薄氷のようなものらしい。僕は自分の体の状態を確認する。骨も折れていないし、意識もある。


……ならまだ戦える


 戦場を見ると蛇はのたうち回っていた。目に刺さった矢が効いているのだろう。チヅルは火球を鼻に放っている。対象は彼女に移っているがやはり魔術だと蛇の持つ再生速度ととんとんといったところだ。

『ヨスガ!』

 蒼葉がこちらに駆けてくる。

『どうだ、大丈夫か』

「なんとか。ただ能力が十全に使えないのはしんどいね」

 ふらつく体に鞭を打ち、膝に手をかけて立ち上がる。飛ばされる時にかなりの部位を損傷したようで動くと痛みが生じた。


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