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妖精社会  作者: 創作
二章_黒蛇編

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27_貢族の気迫

「着いたぞ、一人五銅貨だ」

 馬車が止まり、御者はぶっきらぼうな口調で言う。時計を見ると昼過ぎだった。

 ここから別荘までは歩くことになる。それにこの村で必要なものを調達しなければならない。縄、矢、携帯用の固形食料…矢がいいとこ二、三本。手持ちが七本……合計で十もあれば、どうにかなるだろう。手持ちが三十銅貨だったため先を考えると不安になった。


 町にある三店の雑貨屋を周り、その中の最安値で見繕ってわら縄が十銅貨、携帯用固形食が五銅貨、矢二本が十銅貨。財布の中身は空っぽになってしまった。

 だが、これでも天誅で買うよりは安いのだ。確かに品質には差がある。しかし、買えないのだから多少は我慢するのが肝要だろう。

 魔術が使えれば、矢など買わなくて済むのだが……それも今に始まったことじゃない。

「買い物も終わったことだし、行くか」

 ナオトは手持ちの矢が何十本とあるのにさらに買い足していた。彼は魔術は使えるものの炎の矢を森に放ったら火事になる危険性がある。それを危惧するなら、通常の矢を使うはずだ。それに余剰があるに越したことはない。

 チヅルは罠猟を得意とするようで縄を二束、手に入れていた。

 町を抜けると間もなく整備の行き届いていない道になる。大きな石がいくつも地中から顔を出していて、雑草ものびのびとしたものに変わる。

 しばらく都市にいたからか少々歩きづらく感じた。

「見えてきたな」

 ユウが自分の眼鏡の位置を調節する。普段掛けている位置だと焦点が合わないのだろう。

 僕も遅れて金森家の別荘を森の外れに発見する。頑丈な石造りの二階建てで少し離れたところにこれも石造りの小屋があり、家のまわりは柵で囲まれていた。 

 柵の側面にはルーン文字がびっしりと書かれている。動物が侵入することはまずできないだろう。余程、強力な魔獣でもない限りこの結界は破られることはない。

「鍵とかはないんだ、意外と不用心なのかな」

 柵の一角が開くようになっている。そこから家の敷地に入ることができるようになっていた。

「普通に考えてみろ。金森家に泥棒しようなんて肝の据わった輩は中々いないだろ」

「それもそうだ」

 貢族に盗みを働こうなどという埒外な人が絶対にいないとは言えないが、少数派だろう。王に認められた家にそのようなことをしようものなら、一般の罰とは比にならない。それに護衛に返り討ちにされ、痛手を被ることもある。ナオトの言っていることは最もだった。

「予想していたよりも広い…」

「こんなものじゃない?金森家だって貢族の端くれよ」

 家の中に入って規模に驚くユウにクロエはさも当たり前のような態度をとる。

ナオトもそうだが、この二人は貢族の中でもかなり高位の家柄の出身なのではないか。今後の関係に影響が出そうで聞くに聞けないが気にはなった。


 金森家の別荘は大小の箱を繋げたような作りをしていた。一階部分は小さい方が玄関口で大きい方が大広間になっており奥に部屋が二つある。真ん中の通路にある階段を登ると左手に小部屋が六つ、右手は少し進むと一枚の扉だけが見えた。扉を開けるとバルコニーになっている。金属製の柵が周りに張られていて、周りの景色が一望できた。

 …と言っても森と遠くの町くらいしか見るものはないのだが。



「ここが俺らの居城(きょじょう)だぜい、兄貴!」

「二日だけだがこれはいい。ウサギは適当に倒して、此処にある食糧で贅のかぎりを尽くそうではないか、弟よ!」

 別荘に入って三十分が経とうという時、僕らの耳に玄関扉を開く大きな音と興奮した声が響いた。

 …人の家に入って贅たくをしようと考えるのは少々欲がすぎるのではないだろうか。

「騒々しいけれど、一応挨拶はしておいた方がよさそうね」

 僕らはクロエの言葉に顔を見合わせた。ナオトに至っては「明らかに面倒臭そうな奴らにわざわざ会いたくねえな」と即座に述べた。

 それでも「一応行く」が過半数を占めたために結局、彼はついてくることになった。

「こんにちは」

 階下へと続く階段の半ばに差し掛かった時、クロエが話し始めた。

 いつもの率直な物言いからはほど遠く、喉の何処からその声を出しているのか分からないほど麗しい声が空間に伝わる。手を顎のあたり据えて、首をわずかに傾けており、靴の踵は意図的に鳴らしているのか、カツカツといった音が反響する。不思議なことに大仰過ぎる仕草は板についていた。


「「「出たお嬢様モード」」」


 今の圧倒的な存在感を放つクロエの状態を知っているらしい三人から全く同じ言葉が紡がれた。相手には聞こえないくらいの音量で。

「ど、どうして人がいるのだ、兄貴」

「し、知らん。それもこの雰囲気。……只者ではないぞ、弟よ」

 そのならず者の風貌をする男たちは、身構えていた。兄に関しては腰の曲刀に右手を添えている。

「あら、この依頼は複数枚存在するのよ。用紙の裏を見てみなさい、数字が書いてあるでしょう」

 後からきた彼らはそのことに気づいていなかったようで背袋からそれを引っ張り出して確認している。

「ほ、ほんとだ、兄貴」

「そうだな、弟よ、確かに『1』と書いてある」

 完全に会話の主導権はクロエに握っている。しかし、そのならず者の風貌をした兄弟はそれを前にして言ってのけた。

「そちらの番号はなんだ!」

「…『2』よ」

「なら、私たちが優先だ。部屋は私たちから決めさせてもらう」

 彼らはその一言で会話を打ち切りにして内見に行ってしまった。無茶苦茶な理由だが、いやそれゆえに理性的な彼女を黙らせることに成功したのだ。

「嘘だろ。あれに太刀打ちできるのは大の大人でもそう居ないぞ…」

 ナオトは唖然として声を漏らす。余程の衝撃なのか、他の二人も呆気に取られている。


『ってか、そもそも。会話の主導権握って何がしたかったんだ、クロエ』

 鳴りを潜めていたアオバが沈黙を破った。

「依頼を生業としている人の中にはカーストがあるの。一度でも、新参者が年長者に下ってしまうと他の依頼でも関係が継続するのよ。」

 僕らは依頼を受けられる最年少の十五だ。制服の胸元に縫い付けられている徽章きしょうを見れば一目瞭然、すぐに露見してしまう。だから、最初の印象をうまく刷り込むことが重要になるわけだ。

『まあ、どうでもいいけどよ。俺たち朝から何も食べてないだろ。そろそろ兎、狩りに行かねえか』

 …ああ、これは空腹で機嫌が悪くなっている。鼻のあたりに皺がより、歯が剥き出しになるのを誤魔化してはいるが間違いない。

「そう言われるとなんだかお腹が空いたように感じるな」

「依頼の件もあるし、早く行かないと日が暮れるかも」

 ユウとチヅルがそれに同調する。確かにあと四時間くらいしか狩りを行えない。

「そうね。お金を頂く以上時間を無駄にするのはあまりいいとは云えないわ。行きましょうか」

 荷物は部屋に置くことはせず、そのまま持っていくことになった。行く前に先ほどの二人に声をかけたのだが、盛り上がっていて全く相手にされず部屋割りすら決めることができなかったのだった。


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