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妖精社会  作者: 創作
一章_王国立中央魔術学院

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20/55

20_自我

 寮に帰る時ナオトとは途中で別れたがユウと方向が同じだった。まさかと思ったが彼は僕のルームメイトだった。

「ヨスガ、これあっちにやってくれ」

 今、僕は家具を再配置している。ユウは部屋に入るなり備え付けの家具の位置が気に食わなかったようで「場所変える」と言い始めたのだ。僕はあまりこだわりがない方でそのまま使っていた。これは両方がこだわりを持っていて双方が引かないなんてことになった時には大変そうだ。

 家具の位置替えが終わったら、今度は荷解きをし始める。そういえば四日前に寝室にかなりの量の荷物が運び込まれていた。おかげでここ数日、少しばかり圧迫感を感じながら寝ることになっている。あれにはかなり耐え難いところがある。今日中に二人がかりで終わらせた方がいいかもしれない。

 ノックをしてから寝室に入り、僕はユウに提案をする。

「もしよかったらなんだけど手伝おうか」

 薄暗い部屋の中で手を忙しなく動かしていたユウはピタリと手を止める。目線を上にした際にランタンの光を反射して目がきらりと光る。僕を視認するとすぐに目線を下げ、再び荷解きに戻った。


「頼む。見積が甘かった。僕だけだと終わりそうにない」

 彼の後方に縦積みにされた木箱の方を指さされる。一番下は一際大きい。「わかった」と返事をしてから一番上のものに腕を伸ばして手をかける。とった箱の中からものを取り出して作業始めた。

「本当にすまない。手を煩わせてしまって」

 手を動かしたままユウが話しかけてくる。

「大丈夫。それと多分だけど荷物はぎりぎり仕舞い切れると思う」

「危うく捨てる羽目になるところだった」

 先住者の言葉に安堵した様子で彼はほっと息を吐いた。

「ヨスガ、そういえばお前。魔術が使えない、みたいな話をしていたよな。もしかして、特別試験組か」

 特別試験。この試験では魔術の優劣ではなく戦力として見込みがあるかが基準になる。だから僕のような魔術能力が乏しい、それが基準値に達していない人でも戦えるのであればこの学校の普通科に入れる可能性はある。

 思い出すと脳裏に森の魔獣のことが浮かんだ。あの試験は受ける人がそもそも少ない。下手をすれば死ぬ可能性すらあるからだ。ギルドに依頼される水準の依頼をこなすことが突破の条件になる。

「…そうだな。あの試験は本当に危なかった。最終的に狼型の魔獣まで出てきて大変だったよ」

「魔獣……⁉︎…年によっては出てくることもあるか。森の中には棲家があるからな」

 ユウはその言葉に一瞬、驚いたがことの原因にすぐに気づいたようで一人で納得に至る。

 魔獣についてはあまり詳しいことがわかっていない。神出鬼没。さらに動物の形を模しているのに臓器は人間のそれに近く、四大魔術のうち一つを行使する。肝心の発生要因、原因は学者でさえ手を焼いているらしい。


「大変だった…と言うことはやり合ったのか」

 会話が途切れたまま作業をしていると、彼は話を反芻していたようで目を見開いて僕に問いかける。

「他の人がいたから、逃げるに逃げられなかったんだ」

 助けてくれ。魔獣と戦った彼の声を僕は思い出す。記憶が呼び覚まされ、重傷で受験生の血まみれの姿が目に浮かんだ。あの時、試験官を呼びにいくにしても森の奥に入り過ぎていた。試験官が魔獣の存在に気づいてからこちらに来る方が早いと予測した僕は持ち堪えることにしたのだ。


「——逃げればよかった、他人なんか置いて」


 彼は噛み締めるようにいった。

「そっちの方が安全だ。だってそうだ。相手は魔獣だ。最後ってことは課題はクリアしていたはずだ。傭兵でも下手を打てばやられる、そんな化け物と戦う必要が……ごめん。忘れてくれ」

 荷を解くのも忘れてユウの発する言葉が熱を帯びる。しかし、彼は僕の手前申し訳なさそうに口籠った。確かによくよく考えてみるとおかしいことに僕は気づいた。結局、試験官の先生や上級生がきたからよかったものの生きているのが奇跡だ。

「……でも、目の前にいる人を助けられない人が王国騎士になれるはずないよ」

ふと口からこぼれた。

「…そうか。ヨスガは自分より人を優先できる人なんだな」

——僕とは違って。

「ん?なに」

僕は聞き返した。最後の方の言葉が聞き取れなかったからだ。

「なんでもない。お前が凄いってことだよ」

そういうと彼は再び荷解きに戻る。木屑のガサガサという音が、木箱の蓋を置く音が、空間に満ちた。

 その後、事務的なやり取り以外することなく、僕らは片付けに時間を費やした。



「あっ、そうだ。日記、日記」

 僕は寝る前、思い出したようにそれを探す。小さい頃、久遠さんの真似をして書き始めたのだが、今となっては習慣化してしまっている。これをやらないとその日が終わったような気がしない。

 …そういえば、備え付けの書棚に入れたっけ

 脳で過去のワンシーンが呼び起こされる。書棚の方に目をやると赤い背表紙のそれが挿さっているのが見えた。


 *  *  *


 今日は、班を組んだ。まだどんな人かよく分かっていないから、少しずつ知っていけたらいいと思う。

 六月のトーナメントは校外からも多くの人が観に来る。騎士団へのいいアピールにもなるかもしれない。





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