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6話 左々貫右左犠

「僕の考察では、1番さんと6番さんがクロなのかなって思ってるんですけど、もしお二人がクロだとしたら、あまりにもそれっぽい行動をしすぎな気もしていて……」



 僕――左々(ささぬき)右左犠(うさぎ)が、今何をしているかというと、最近はやりの人狼ゲームである。


 しかも、スマホ一台できる簡単なゲームで、現在は配信をしているわけではない。

 配信中にやった勝負があまりにも楽しかったので、こうして時間外でも遊んでいるわけだ。


 今回のゲーム、僕は騎士。

 人狼たちから狙われそうな村人を守るのが仕事なのだが、三日目の夜が訪れてもなかなか、人狼が分かりにくい。



『それじゃあ、さくっと投票する相手を絞りたいと思うんですけど……」



 ゲームの進行をしてくれている、「ほがっちゃ」の言葉にうなずきのスタンプを送っておく。


 僕の見立てでは、彼は白だと踏んでいる。

 ただの村人か、本物の占い師なのではないかな――とそう思っている。



「それじゃあ――」





 それから10分もしないうちに勝負は喫した。

 見事、僕は村人を守ることに成功し、人狼を処刑することに成功した。


 まさか、白だと思っていた「ほがっちゃ」が人狼だったなんて、と少し余韻に浸りながら、人狼ゲームを配信にどう登場させようかと思い悩む。



「人狼ゲームは流行が終わっちゃったからなあ。安易に配信に乗せても、しらけるだろうし。野良人狼とは違って、配信だと相手の声を乗せることができないからなあ……」



 普通の人なら無視する利用規約を誰よりも読み込んでいるのが配信者――Vtuberというものだ。


 何が法律に触れて、何が大丈夫なのか。

 僕は企業に所属している身なので、法務部だったり、マネージャーだったりがその都度確認はしてくれるのだが、自分が一番だ。



「人狼コラボ……もいいかもしれないけれど、そのためにわざわざ、人を集めるのもなあ。他にも流行ってるゲームはあるし、旬の話題があるっちゃあるからなあ」



 何が流行っているのか、アンテナを張っておくことは重要だ。

 少なくとも今は人狼の流行ではない。


 同期の「D!t(ディット)」とするのもいいかもしれないが、発起人・住良木(すめらぎ)(ののしり)が色々、案件を持ってこようとしているみたいなので、提案するだけになるだろう。



「人狼以外にも色んなゲームがあるしなあ……今月まだ一回もコラボしてないし、さっさとしちゃうのもアリだよな」



 いくら企業所属とはいえ、自分から動き出さなければコラボの一つもできやしない。

 正確には、お誘いのメッセージはいくらかいただいているのだが、日程調整やら、何をするやらが面倒くさくて実現には至っていない。


 加えて、左々貫右左犠としてのブランドもある。


 例えば、アイドル売りをしたいのにも関わらず、異性とのコラボをしたり、完全にバラエティに特化したりするのは良い手とは思えない。


 僕はVtuberというよりも、ストリーマーのような売り出し方をしている。

 ……というか、されている。


 一応、どんな売り出し方をしたいですか、とは聞かれたのだが、僕は真っ先に「芸人」と回答したため、却下され、マネージャーの方針が僕の方針となったのだ。



「こいつとは半年もコラボしてないし、サトルとはデビューしてから三回しかコラボしたことないのか。不仲説っておいおい。全く絡みがないわけな……ないな! まったく絡みないわ」



 同期の甘寺(かんじ)サトルと全くコラボ知らないことをファンサイト経由で自覚する。

 自分が誰とコラボしているのか、どれくらいしているのか、どんなコラボが望まれているのかを知るためには、非公式のファンサイトが何よりも素晴らしい情報源である。


 こんな風にコラボ回数と内容、次回についての言及が記録されている。



「前回のコラボは一年六か月前で、『クラッシャーハント』の実況ね。次回については、『ホラー映画を一緒見る』ううううう? なんだそれ。そんなこと言った覚えないんだけど」



 まあ、覚えてなくても無理はない。

 他の編集者からの指摘がされていないところを見るに、本当に言ったのだろう。


 視聴者との約束を無碍にするわけにはいかない。

 配信者というものは、視聴者からの信頼で飯を食っていけるのだ。


 時計を見ると夜の九時――つまり、Vtuberが配信をしているゴールデンタイムとも呼べる。


 サトルが配信していないことを確認した上で、電話をかけた。



『うぃー、突然、電話をかけてくるなんて珍しいなー。引退? 引退かー?』


「もし引退だったら、地獄みたいな空気になるぞ。今月一回もコラボしてないから、誰かとコラボしようと思ってな。そしたら、サトルと全くコラボしてないことに気づいてさ」


『あ、そうだな。確かに全然コラボしてないわー。おれ、いつでも暇だから決めちゃっていいよー。右左犠のほうが予定詰まってるでしょー?』



 サトルはVtuberでありながら、配信をしないことで有名だ。

 芸術家を自称しているため、結構な頻度で絵があがる。


 イラストのようなものではなく、美術館に飾られているようななかなかのクオリティのもので、見かけるたびに「すごいな」と驚かされる。



「それじゃあ、五日後の夜でいいか? 時間はそうだな――九時ぐらいでいいか?」


『お、いーじゃん。何するの? 何するの?」


「それがさ、前回のコラボで次回はホラー映画を視聴しますって言ってるみたいだから、映画の同時視聴にしようかなって。なんか金ローみたいでいいだろ?」


『みんなで金ロー気分ね。全然水曜日だけど』


「それはまあ、いいだろ。見たい映画のリスト送っとくから、適当に選んでくれると助かる」


『お、まかしー。んじゃ』



 あっさりと通話は切られ、僕は最近見たいと思っているホラー映画のリストを送る。

 そのあとは今月のスケジュールをどうするのか、マネージャーとのやり取りを参考に、来月の分も決めていく。


 三か月後には大きなライブを控えている。

 そこまでにできれば、登録者数を30万超えたいと思っている。


 現在、23万人。

 無理な数字ではないと期待している。


 とりあえず、やってみるしかない。

 そう思って眠りにつく。


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