1話
二十一世紀初頭。
日本はまんがやアニメに類されるサブカルチャーの発展によって、世界から注目を浴びるようになっていた。
新たなるサブカルチャーに「Vtuber」なるものが誕生した。
そして時は経ち、Vtuberの数は一万人を超えると言われる現在、八百万の付喪神には「Vtuberの付喪神」がいた。
「はぁあ……つかれたあ……今日もタテセンの話長すぎるってんだよ、まじで。なんであんな長く話せるのかねー。おー、新しい味出たのかー。何々、スペシャルミックスマンゴートロピカル南極味? 南極に味って概念持ってくんなよ。冷たいってのは分かったから……ってすまん」
「ううんー、大丈夫だよー。シュウくんは相変わらず、話すのが好きだねー。わたしなんて、そんなに話のネタないからうらやましいなー……って、シュウくん、もしもしシュウくん!」
「え、何? ちゃんと聞いてるよ?」
「前見て、前見てー!」
車でも来るのか。
そう思って、モモの指摘通り携帯から前を見て、車からよけようとしようとして、フリーズした。
ウチん家の前で女の子がぶっ倒れてる。
「これって、やべー状況だよな!? 警察とか救急車とか呼んだ方がいいのかな?」
「絶対、そういう状況だよね。よし、連絡を――」
「……しの…………」
「しの……、もしかして、今死のうとしてるって言った!? 大変じゃない。こんなちっちゃな子が死にたいだなんて、そんな、イジメられてるの? 大丈夫? 辛いことあったのかな? 話聞くから、起き上がれるかな?」
「わたし…………じゃになってく…………い」
「え、えええええええ!? 私の神社になってください!? 神社になってほしい、ってどういうこと、ねえ、シュウくんも慌ててないで、はやく、私と一緒にって、うわあああああああっ!」
そうだった。モモは予測不可能な事態にとてつもなく弱いんだった。
アドリブなんて絶対にできたもんじゃないし、授業中にクラスの誰かが倒れたりしたらそれを見て失神してしまう、それが鬼崎モモという人間なのだ。
「はーい、モモ、深呼吸ね。何か話せるみたいだし、モモが静かにならないと聞こえないからねー。はーい、深呼吸。吸ってー、吐いて―」
「わたしの信者になってくれ! そうじゃなきゃ、わし、死んじゃう!」
「死んじゃってなんだよ。しかも、元気になったし! 大丈夫か? 頭でも打ったんだじゃないか!?」
「君が信者になってくれないとわしはここから一歩も動けない。お願いだ、このVtuberの神様の信者になっておくれ!」