ラジオ番組
僕は放送が終わってすぐにチューニングした周波が変わらないよう慎重にラジオの電源を切った。
訪れた木々のざわめき。心なしか車内の空気が澄んで少々冷える。
僕は大きく伸びをした。おかしなラジオ番組だった。面白かった⋯⋯とは思わないのに。
また聞かなきゃ。どうしてか僕はあの放送をまた聞きたくなっていたのだ。
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妙な高揚感のまま深夜のドライブから帰った僕はシャワーを浴びてベッドに倒れ込みそのまま丸二日眠り続けた。
初めての事だった。これまで深夜のドライブから朝方に帰ったとして昼まで寝ることはあっても一日どころか二日も寝てしまうなんて事はなかったのに。
けれど起きた時、僕の頭はすっきりしていたし体には力が満ちている気がした。
その日以来僕は毎週週末、あの小さな休憩所に通うようになり、決まって同じ時間にラジオ番組をつけた。
『大人になればなるほど居場所が無くなる。誰も見てくれない、誰も気付かない。生きているのに幽霊のようです』
『独りは寂しい。独りはつまらない。独りは嫌だ。だから仲間になろう!』
『ここには仲間がいる。君だけじゃないんだ!』
相変わらずの拙い喋り。内容もこれと言って面白いとも感じない。
合間にかけられる曲も常にどこかの学校の合唱だ。
そして毎回最後に来週に用意するものが発信される。
初めて聞いた時は「ガムテープ」だった。その次の週は「ライター」その次は「睡眠薬」。
今日は一体何を用意しろと言うのだろうか。
『さて、そろそろ終わりの時間です。そして来週はいよいよ最終回! 最後に用意するのは車です! 集合場所で待ってます! それではお休みなさい!』
「はあ? マジか」
予想していなかった大物の指示に流石の僕も思わず笑ってしまった。
番組を聴き始めてから僕の車の防災袋には「ガムテープ」「ライター」市販の「睡眠薬」が入った。
言われたものは全部揃ってる。悔やまれるのは僕が番組を聴き始めたのは途中からだったらしく集合場所を知らない事。
「集合場所で待ってます」と言っていたのだから最終回でラジオパーソナリティとリスナーは出会うのだろう⋯⋯羨ましい。
僕は、なんとなく会ったこともない、これからも会うことのない他のリスナーに仲間意識が芽生えていたから仲間はずれだな、なんて思ったけれど、そういえばこれまでも僕は楽しそうな輪を外側からいつも眺めるだけの存在だった。
それが癖になった僕は独りを寂しいと思わないように気持ちに蓋をしてきたのだ。
それでもラジオの放送は聴ける。外側からでも少しだけ仲間の気分を感じられる。
僕は来週が楽しみだと深夜のドライブを終えて家に帰った。
そしてまた、丸二日眠り続けたのだ。