最初の一歩
前回の続きです。
男はふと目を覚ます。
天と地は反対になっていた。はじめは目の錯覚かと男は思ったのだが、現実だった。
横を見ると理沙の姿はなかった。
男は息をするだけで精一杯だった。
とりあえず、シートベルトを外さなくては。
男は重力に逆らって垂れた腕に力を入れ、腰元のシートベルトを外そうと手を伸ばす。
カチャンと乾いた音がしてシートベルトが外れる。
男の体が車のルーフに落ちる。
「いってぇ・・・。理沙!」
男は車の中を見渡す。理沙の姿はない。
男はフロントガラスが跡形もなく無くなった車から匍匐で脱出した。
男はよろよろと立ち上がり、振り返って車を見る。
ひっくり返った車。かろうじて車の形は保っているが、あらゆる箇所がベコベコにへこんでいる。
とっくの昔に日は暮れており、車のライトが額から血をたらした男の顔を照らす。その顔が不安に
ゆがむ。
「理沙・・・!」
男は車の中をのぞく。やはりそこに彼女の姿はない。
「そんな」
男は車のサイドに移動し、後部座席ものぞく。もちろん理沙の姿はない。
「うそだ、そんな、はぁ」
男はあたりを見渡しながら息を弾ませる。
あたり一面暗闇に包まれた森。
男は息を吸い込み、
「理沙ーーー!!」
その森から返事は帰ってこない。
「理沙ーーーー!!どこだーーー!おーーーい!!」
男はポケットをまさぐる。
目当てのものは見当たらない。
男は地面を見渡す。
すると木の根元に男のスマホが落ちている。
男は一瞬表情が緩み、スマホのもとへ向かう。
スマホを拾い上げると、画面が蜘蛛の巣のように割れていて、電源ボタンを押しても反応がなかっ
た。
「そんな、、、」
男は天を仰ぐ。男の目元から涙がこぼれる。
「そんな、どうしよう。理沙、理沙ーーー!そんな、くそ。とりあえず、電話を、貸してもらえるところを探そう。そうだ。そう。」
男は自分に言い聞かせる。
「電話を探そう。どこかに家があるはず。行こう。」
男は足を引きずりながら、自分たちが転がり落ちた崖を見上げる。
見上げるとほぼ垂直に反り立っている石崖だ。
男は登ろうと手をかける。
しかし、動きが止まる。
「これは登れそうにないな、くそ、ほかの道を・・・。」
男は、暗い森の中を進み始めた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
続き、頑張って書きます。